しっぽや(No.198~224)
side<MINANO>
それは軽い思いつきだった。
トノが私の着ている服のことを聞いてきたので和泉の話をしているうちに
『私とトノの服をコーディネートしてもらったり、私達4人を対コーデしてもらえたら面白いかも』
ふと、そう思ったのだ。
私達4人がランチを食べにお店に入ると、店員さんや他のお客さんが驚いた顔になることがあった。
もし同じ服を着ていたらもっと驚かれるんじゃないかと、私達はよく語り合っていた。
和泉のところであればサイズの違う同じ服が沢山あるだろう。
お店デートでトノと選ぶのも楽しそうだったけど、トノが望むような物を私が選べるか不安だったので、初めては服のプロに任せた方が無難なのではないかとの思いもあった。
無理なくトノとお揃いの服を着て町を歩けるかもしれない。
それを考えるだけで、胸が躍るようだった。
しかし久那に電話をかけて相談しようとしたら、私達4人がモデルになるという思ってもみなかった展開に発展していった。
何だかよくわからない流れだけれど、トノはもっと訳が分からないようでチカと一緒にオロオロしていた。
「トノ、今の電話の相手って本物のイサマイズミだったの?」
「や、俺、彼の声とか知らないからそう言われると…」
「モデルってどんな服着て、いつやるんだ?」
「話し的には、こっちの都合に合わせる感じの流れだったけど
詳しいこと言わずに切られちゃったから、全く分からない
移動費と宿泊費を出すって言ってたし、泊まりになりそうなんだ」
「と、泊まり?俺達4人でってこと?明戸と一緒に泊まるの?」
チカが明戸を見て真っ赤になっていた。
トノも私を見て同じ様な顔になっている。
「トノ、折り返しかけて、そこだけはきっちり確認してくれ」
「無理だよ、何か周りがザワザワしてたし急いでたみたいだから、出先からかけてたっぽい」
トノとチカが困っている様子なので
「和泉が強引ですみません
お2人は学生だしバイトがあって忙しいって、断りましょうか?」
私はオズオズと聞いてみた。
「いや、せっかくの機会だしやってみたいとは思うよ
ただ、その、泊まりがけって、どうかなと言うか
皆野と泊まるの緊張するし、俺、どうしたらいいのかなとか…」
ゴニョゴニョ呟いているトノの背中をチカがバシッと叩き
「トノ、きっと民宿みたいなとこで4人で雑魚寝だって
俺まで緊張するからやめろよ
それよりも日程早く決めないと向こうに迷惑なんじゃないか?
バイトのシフトどう?週末に連休もらえそう?
俺は前の週に6勤でもして、拝み倒して入れてもらおうと思ってるけど」
真剣な顔で話しかけている。
「そうだな、俺もその手でいくか
この週だと間に合わないから、次の週とか
モデルの企画がどんなものかわからないが、早い方がよさそうではあったな」
「だよな、撮影場所や宿泊施設の予約もあるだろうし
じゃあ明日にでも、確認とって決めちゃうか」
私と明戸にはよくわからない話であったが、トノとチカが次々と段取りを決めていってくれた。
そんな2人を
「チカって頼りになるよな」
「トノも同じです」
私と明戸はうっとりとしながら見つめるのであった。
翌日のしっぽや控え室。
私達はかいつまんで事の成り行きを皆に報告していた。
「電車での旅、良いものです
流れゆく景色を眺め荒木と一緒にお弁当を食べ、心地よい電車の振動に身を任せながら飼い主の体温を感じて2人でウトウトする
GWの旅は移動時から最高でした」
当時を思い出したのか、白久がうっとりしながら呟いていた。
『お弁当』
移動の際には私も明戸もトノとチカに頼りっぱなしになってしまうけれど、お弁当を作っていくことは出来る。
とは言え、そのような場に何を持って行けば良いのかわからなかった。
明戸も私と同じ考えのようで、少し困った顔で見つめてくる。
そんな私達を見かねたのか、控え室で早めのお昼を食べていた黒谷が
「大滝兄弟は陸上やってたから、お米系が良いと思うよ
日野はランニングのお供にオニギリを作ると、とても喜んでくれるんだ
電車で食べるとなると、また勝手が違うかな
新郷が釣りに行くときお弁当作ってるから、彼にも聞いてみると良いんじゃない
今から聞きに行ってみなよ」
そう提案してくれた。
私達はその言葉に甘え、上階の芝桜会計事務所に向かう。
まだ仕事中であったのに新郷と桜さんは私達に飼って欲しい人間が現れたことを知ると大層喜んで、電車での旅について色々と助言してくれた。
「車だと時間を気にしなくてすむけど、電車移動ならではのまったり感も良いもんだぜ
桜ちゃんにもたれかかって寝る、なんて日頃出来ないからさ」
「この前は2人して寝入ってしまい、危うく乗り過ごすところだったな」
「あの日は大漁で、さすがに疲れてたからなー
すんでのところでアナウンスに気がついて、聴覚鋭い犬の面目躍如って感じだったっけ」
微笑みあって思い出を話す2人を、私も明戸も羨ましく見つめるのであった。
待ち遠しく迎えた日は晴天で、少し暑いくらいであった。
私と明戸は白い半袖シャツに黒いベストとパンツ、猫だったときの柄を意識したような服を着ていた。
ネクタイはしていないので、ウラにもらった緑と青の石が付いているチョーカーを首に巻いている。
着替えやタオル類の他、お弁当やお菓子、車内は空調が効いていて寒いかもしれないので温かいお茶も用意してきた。
待ち合わせの駅で大荷物を持った私達を見たトノとチカは、ビックリした顔をしていた。
「何か持ってこないといけない物ってあったっけ?
どうせ1泊だしと思って、着替えとタオルくらいしか持ってこなかった
イズミ先生から連絡来たの?」
慌てたようにトノに聞かれ
「いえ、せっかくなのでお弁当を作ってきたんです
お口に合うと良いのですが
お菓子やお茶もありますよ
食べてしまえばカサがが減って、帰りには軽くなります」
私はそう答えた。
「皆野の手作り?凄い楽しみだよ!」
トノが感激したように答えてくれたので、私は嬉しくなって明戸と顔を見合わせる。
明戸も嬉しそうに笑っていた。
「俺も、手伝ったんだよ
皆野ほど料理上手じゃないけど、チカのために頑張った」
「ありがとう明戸、嬉しいよ
俺も食べるのが楽しみだ」
チカは明戸の頭をグリグリ撫で回している。
チカは明戸のことをよく触っているが、トノは時々そっと触れてくることの方が多かった。
『トノは真面目な堅物だから超奥手だってチカが言ってた
でも勢いがつけば大胆になるから、皆野は心配しなくても良いってさ』
明戸が教えてくれた言葉を証明するように、トノが躊躇いがちに手を伸ばしてきていつもより強い感じで頭を撫でてくれる。
その手の力強さが嬉しくて、私の不安は少しだけ軽くなった。
今夜、私と明戸は『自分が人外の存在である』と打ち明ける決心をしていたのだ。
『君たちのことだから、同じタイミングで記憶の転写をしたいって思ってるんじゃない?
学生相手にそのタイミングを作り出す場を用意するのは難しいだろうから、ここは金持ちの俺が一肌脱ぐよ
長いこと飼い主が居ない状態の君たちを見ているしかなかったから、これくらいは手伝わせて
君たちの選んだ人間だ、きっと気持ちに応えてくれる
とは言え、モデルの仕事はきっちりこなしてもらうからね
久那の指示にちゃんと従ってよ
後、ちょっと力仕事も頼んじゃうけど
他の参加者の手前、君たちだけ公(おおやけ)に特別扱い出来なくてさ
宿泊も、観光がてら自費でするって設定にしてあるから』
和泉が私達に何を頼むつもりなのかわからないけれど、今回の申し出はとてもありがたいものであった。
やってきた電車に乗って移動する。
途中の駅で2回乗り換えると、後はこのまま2時間半ほど乗っていれば目的地に到着だ。
いつも乗る電車とは座席の向きが違い、私達は4人で向かい合わせに座り楽しくしゃべっていた。
「今日は朝が早かったので、少し早めのランチにしましょう」
私が2つの大きなアルミホイルの包みを手渡すと、トノはビックリした顔になる。
「はい、チカのは俺が作ったんだ」
明戸もチカに同じ物を渡していた。
ホイルを開けたトノが
「おにぎり!具が色々入ってるね
これって爆弾おにぎりってやつだ、美味しそう」
満面の笑みを見せる。
「旅のお供におにぎり、やっぱこれだよな」
チカもニコニコしていた。
私も明戸も、黒谷と新郷から受けた助言に感謝する。
飼い主がいる者達の言葉は頼りになるものであった。
「チカ、2個で足りる?日野は5個は食べるって黒谷が言ってたよ」
「日野って、この前荒木と一緒に来た人?いや、これ5個は無理だろ
普通の大きさのを、ってことじゃない?」
「日野に普通のオニギリを作るときは、5合炊いて全部握るとも言ってましたね
今回4人分で5合は少なかったでしょうか」
「ランナーは見かけより食べる人が多いけど、それは話し盛りすぎなんじゃないか?
わ、卵焼き美味しい、塩加減絶妙!皆野、料理上手いね」
「この唐揚げも生姜効いてて美味い!塩焼き鳥も入ってる
明戸が作ったの?どれも凄く美味しいよ」
「豚の角煮も出てきた、凄い豪勢な感じ
爆弾おにぎりって楽しいな」
トノもチカも夢中で食べてくれて、見ているだけで幸せで胸がいっぱいになる。
明戸も同じ気持ちなのだろう、幸せに満ちた顔で愛おしそうにチカのことを見つめていた。
おにぎりに野菜を入れられなかったので、キュウリを一夜漬けにして持ってきていた。
トノもチカも豪快に丸かじりしている。
私達も真似してカジってみると、いつもとは違った美味しさが感じられる。
『過主と同じ物を食べられるって、幸せだね』
感に堪えない明戸の想念が胸に響いてきた。
私も全く同じ思いで、毎日こうやって4人で食卓を囲めたらと思わずにはいられないのだった。
それは軽い思いつきだった。
トノが私の着ている服のことを聞いてきたので和泉の話をしているうちに
『私とトノの服をコーディネートしてもらったり、私達4人を対コーデしてもらえたら面白いかも』
ふと、そう思ったのだ。
私達4人がランチを食べにお店に入ると、店員さんや他のお客さんが驚いた顔になることがあった。
もし同じ服を着ていたらもっと驚かれるんじゃないかと、私達はよく語り合っていた。
和泉のところであればサイズの違う同じ服が沢山あるだろう。
お店デートでトノと選ぶのも楽しそうだったけど、トノが望むような物を私が選べるか不安だったので、初めては服のプロに任せた方が無難なのではないかとの思いもあった。
無理なくトノとお揃いの服を着て町を歩けるかもしれない。
それを考えるだけで、胸が躍るようだった。
しかし久那に電話をかけて相談しようとしたら、私達4人がモデルになるという思ってもみなかった展開に発展していった。
何だかよくわからない流れだけれど、トノはもっと訳が分からないようでチカと一緒にオロオロしていた。
「トノ、今の電話の相手って本物のイサマイズミだったの?」
「や、俺、彼の声とか知らないからそう言われると…」
「モデルってどんな服着て、いつやるんだ?」
「話し的には、こっちの都合に合わせる感じの流れだったけど
詳しいこと言わずに切られちゃったから、全く分からない
移動費と宿泊費を出すって言ってたし、泊まりになりそうなんだ」
「と、泊まり?俺達4人でってこと?明戸と一緒に泊まるの?」
チカが明戸を見て真っ赤になっていた。
トノも私を見て同じ様な顔になっている。
「トノ、折り返しかけて、そこだけはきっちり確認してくれ」
「無理だよ、何か周りがザワザワしてたし急いでたみたいだから、出先からかけてたっぽい」
トノとチカが困っている様子なので
「和泉が強引ですみません
お2人は学生だしバイトがあって忙しいって、断りましょうか?」
私はオズオズと聞いてみた。
「いや、せっかくの機会だしやってみたいとは思うよ
ただ、その、泊まりがけって、どうかなと言うか
皆野と泊まるの緊張するし、俺、どうしたらいいのかなとか…」
ゴニョゴニョ呟いているトノの背中をチカがバシッと叩き
「トノ、きっと民宿みたいなとこで4人で雑魚寝だって
俺まで緊張するからやめろよ
それよりも日程早く決めないと向こうに迷惑なんじゃないか?
バイトのシフトどう?週末に連休もらえそう?
俺は前の週に6勤でもして、拝み倒して入れてもらおうと思ってるけど」
真剣な顔で話しかけている。
「そうだな、俺もその手でいくか
この週だと間に合わないから、次の週とか
モデルの企画がどんなものかわからないが、早い方がよさそうではあったな」
「だよな、撮影場所や宿泊施設の予約もあるだろうし
じゃあ明日にでも、確認とって決めちゃうか」
私と明戸にはよくわからない話であったが、トノとチカが次々と段取りを決めていってくれた。
そんな2人を
「チカって頼りになるよな」
「トノも同じです」
私と明戸はうっとりとしながら見つめるのであった。
翌日のしっぽや控え室。
私達はかいつまんで事の成り行きを皆に報告していた。
「電車での旅、良いものです
流れゆく景色を眺め荒木と一緒にお弁当を食べ、心地よい電車の振動に身を任せながら飼い主の体温を感じて2人でウトウトする
GWの旅は移動時から最高でした」
当時を思い出したのか、白久がうっとりしながら呟いていた。
『お弁当』
移動の際には私も明戸もトノとチカに頼りっぱなしになってしまうけれど、お弁当を作っていくことは出来る。
とは言え、そのような場に何を持って行けば良いのかわからなかった。
明戸も私と同じ考えのようで、少し困った顔で見つめてくる。
そんな私達を見かねたのか、控え室で早めのお昼を食べていた黒谷が
「大滝兄弟は陸上やってたから、お米系が良いと思うよ
日野はランニングのお供にオニギリを作ると、とても喜んでくれるんだ
電車で食べるとなると、また勝手が違うかな
新郷が釣りに行くときお弁当作ってるから、彼にも聞いてみると良いんじゃない
今から聞きに行ってみなよ」
そう提案してくれた。
私達はその言葉に甘え、上階の芝桜会計事務所に向かう。
まだ仕事中であったのに新郷と桜さんは私達に飼って欲しい人間が現れたことを知ると大層喜んで、電車での旅について色々と助言してくれた。
「車だと時間を気にしなくてすむけど、電車移動ならではのまったり感も良いもんだぜ
桜ちゃんにもたれかかって寝る、なんて日頃出来ないからさ」
「この前は2人して寝入ってしまい、危うく乗り過ごすところだったな」
「あの日は大漁で、さすがに疲れてたからなー
すんでのところでアナウンスに気がついて、聴覚鋭い犬の面目躍如って感じだったっけ」
微笑みあって思い出を話す2人を、私も明戸も羨ましく見つめるのであった。
待ち遠しく迎えた日は晴天で、少し暑いくらいであった。
私と明戸は白い半袖シャツに黒いベストとパンツ、猫だったときの柄を意識したような服を着ていた。
ネクタイはしていないので、ウラにもらった緑と青の石が付いているチョーカーを首に巻いている。
着替えやタオル類の他、お弁当やお菓子、車内は空調が効いていて寒いかもしれないので温かいお茶も用意してきた。
待ち合わせの駅で大荷物を持った私達を見たトノとチカは、ビックリした顔をしていた。
「何か持ってこないといけない物ってあったっけ?
どうせ1泊だしと思って、着替えとタオルくらいしか持ってこなかった
イズミ先生から連絡来たの?」
慌てたようにトノに聞かれ
「いえ、せっかくなのでお弁当を作ってきたんです
お口に合うと良いのですが
お菓子やお茶もありますよ
食べてしまえばカサがが減って、帰りには軽くなります」
私はそう答えた。
「皆野の手作り?凄い楽しみだよ!」
トノが感激したように答えてくれたので、私は嬉しくなって明戸と顔を見合わせる。
明戸も嬉しそうに笑っていた。
「俺も、手伝ったんだよ
皆野ほど料理上手じゃないけど、チカのために頑張った」
「ありがとう明戸、嬉しいよ
俺も食べるのが楽しみだ」
チカは明戸の頭をグリグリ撫で回している。
チカは明戸のことをよく触っているが、トノは時々そっと触れてくることの方が多かった。
『トノは真面目な堅物だから超奥手だってチカが言ってた
でも勢いがつけば大胆になるから、皆野は心配しなくても良いってさ』
明戸が教えてくれた言葉を証明するように、トノが躊躇いがちに手を伸ばしてきていつもより強い感じで頭を撫でてくれる。
その手の力強さが嬉しくて、私の不安は少しだけ軽くなった。
今夜、私と明戸は『自分が人外の存在である』と打ち明ける決心をしていたのだ。
『君たちのことだから、同じタイミングで記憶の転写をしたいって思ってるんじゃない?
学生相手にそのタイミングを作り出す場を用意するのは難しいだろうから、ここは金持ちの俺が一肌脱ぐよ
長いこと飼い主が居ない状態の君たちを見ているしかなかったから、これくらいは手伝わせて
君たちの選んだ人間だ、きっと気持ちに応えてくれる
とは言え、モデルの仕事はきっちりこなしてもらうからね
久那の指示にちゃんと従ってよ
後、ちょっと力仕事も頼んじゃうけど
他の参加者の手前、君たちだけ公(おおやけ)に特別扱い出来なくてさ
宿泊も、観光がてら自費でするって設定にしてあるから』
和泉が私達に何を頼むつもりなのかわからないけれど、今回の申し出はとてもありがたいものであった。
やってきた電車に乗って移動する。
途中の駅で2回乗り換えると、後はこのまま2時間半ほど乗っていれば目的地に到着だ。
いつも乗る電車とは座席の向きが違い、私達は4人で向かい合わせに座り楽しくしゃべっていた。
「今日は朝が早かったので、少し早めのランチにしましょう」
私が2つの大きなアルミホイルの包みを手渡すと、トノはビックリした顔になる。
「はい、チカのは俺が作ったんだ」
明戸もチカに同じ物を渡していた。
ホイルを開けたトノが
「おにぎり!具が色々入ってるね
これって爆弾おにぎりってやつだ、美味しそう」
満面の笑みを見せる。
「旅のお供におにぎり、やっぱこれだよな」
チカもニコニコしていた。
私も明戸も、黒谷と新郷から受けた助言に感謝する。
飼い主がいる者達の言葉は頼りになるものであった。
「チカ、2個で足りる?日野は5個は食べるって黒谷が言ってたよ」
「日野って、この前荒木と一緒に来た人?いや、これ5個は無理だろ
普通の大きさのを、ってことじゃない?」
「日野に普通のオニギリを作るときは、5合炊いて全部握るとも言ってましたね
今回4人分で5合は少なかったでしょうか」
「ランナーは見かけより食べる人が多いけど、それは話し盛りすぎなんじゃないか?
わ、卵焼き美味しい、塩加減絶妙!皆野、料理上手いね」
「この唐揚げも生姜効いてて美味い!塩焼き鳥も入ってる
明戸が作ったの?どれも凄く美味しいよ」
「豚の角煮も出てきた、凄い豪勢な感じ
爆弾おにぎりって楽しいな」
トノもチカも夢中で食べてくれて、見ているだけで幸せで胸がいっぱいになる。
明戸も同じ気持ちなのだろう、幸せに満ちた顔で愛おしそうにチカのことを見つめていた。
おにぎりに野菜を入れられなかったので、キュウリを一夜漬けにして持ってきていた。
トノもチカも豪快に丸かじりしている。
私達も真似してカジってみると、いつもとは違った美味しさが感じられる。
『過主と同じ物を食べられるって、幸せだね』
感に堪えない明戸の想念が胸に響いてきた。
私も全く同じ思いで、毎日こうやって4人で食卓を囲めたらと思わずにはいられないのだった。