しっぽや(No.198~224)
皆野の双子の兄弟の明戸は1日早くチカと出会って行動を共にしていたので、2人の仲は俺と皆野より親密そうだった。
しかし皆野は『私達、あの2人が体験してしまったことを新たに体験出来るんです、お得な気がしますよね』そう言うと頬を赤らめて微笑んでいた。
他の者を羨んだり他の者と自分を比べてイジケたりするよりも
『自分達にとって何が楽しいのか、何が大切なのか』
そんなことの方に重きを置いているようで、皆野のその前向きな姿勢は見習うべきものであった。
自分の弱さも俺の弱さも受け入れる優しくて強い皆野に、俺はどんどん惹かれていった。
「皆野は自分と明戸を比べて悩んだりしないの?」
そう聞く俺に
「今回のことでさんざん悩んで、自分の醜さを思い知りました
でも話してみたら、それは明戸も同じだという事が分かったんです
そして私達は魂の片割れ同士で、お互いが居ないとダメなんだ、とも
相手と比べてみて劣るところがあっても、きっと優れている部分もある
出来ることが違うからこそ、私達は2人なら何でも出来る
トノとチカが居たから私達はそれに気がつけました」
皆野は優しい眼差しで俺を見て微笑んだ。
「もし明戸がいなかったら、チカが1人ぼっちになってしまったかも
私がチカからトノを奪ってしまうから
チカのために明戸は存在し、トノの為に私が存在する
私達が2人居るのは、お互いが1人にならないためなのかもしれないですね」
皆野は悪戯っぽそうに笑っている。
『チカから俺を奪う』という彼の俺に対する執着が、ゾクゾクするような喜びとなって体中を駆け回っていく。
「じゃあ、チカが居なかったら明戸が1人ぼっちになってたのかな」
少し意地悪な事を聞くと
「どうなのでしょう、チカが居たからこそ今の明戸があります
もしチカが居なければ、違う人を選んでいたかもしれない
自分の心でありながら、私達にはどうすることも出来ない感情があるんです
一度それを自覚してしまったら、それを知らなかった頃には戻れない
トノが居てくれなければ私の存在意義が失われてしまう、今や貴方の存在がこの身体で生きる私の意味なんです
でも私の全てを受け入れて欲しいのに、怖くてそれが出来ない
私は矛盾している存在ですね」
彼は不思議なことを言って、寂しそうに微笑んだ。
『皆野と明戸には、何か秘密があるのではないのか』
俺とチカはそのことに気が付いていたが、2人が説明してくれるまで詮索するのは止めておこうと言うことで話はまとまっていた。
今はお互いの絆を深めることを優先したかったのだ。
ただ俺とチカ、どちらかが先に秘密を打ち明けられ片方への口止めをされたらその後の対処はどうしたものか、と言うことが悩みの種ではあった。
彼らが同じタイミングで俺達に話してくれることを祈るしかなかった。
俺達は2人きりで会わず、いつも4人で行動を共にしていた。
それでもわずかな時間2人っきりになれるタイミングがあって、抱き合ってキスをしたりする。
オママゴトみたいな交際だと思うが、その秘密の時間は何よりも楽しいものだった。
仕事の休みに融通が利くからと、いつも皆野と明戸がこちらに来てくれる。
特別手当が出たと言ってランチを奢ってくれた。
貰うことばかりで申し訳ない気持ちもあったが
『トノのために何か出来るのが嬉しいのです、今までそんな相手が居なかったから
迷惑でなければ奢らせてください』
ハニカんだ笑顔の皆野に言われると、それ以上何も言えなかった。
『4人で双子っぽいコーディネートが出来る服を買いに行こう』
当初、俺とチカはそんなデートプランを立てていた。
しかし皆野と明戸がよく着ている服に気が付いて、躊躇してしまう。
「明戸が着てるの、ISAMA IZUMIのお揃いシリーズじゃないか?
こないだテレビで見た服と似てたんだ」
「ブランド物?」
チカにそう言われて次に皆野に会ったときチラリと見たら、服には『II』(ダブルアイ)のタグが付いていた。
ファミリー向けブランドだから高くはないが安くもないので、一式揃えるとかなりの金額になってしまうだろう。
バイト学生の身には気軽に買える物ではなかった。
「社会人と学生の差だな
明戸があまりにも可愛いから気にしたこと無かったけど、あの2人って俺達よりけっこー年上なのかもな」
苦笑するチカに俺も苦笑で応えるしかなく、2人揃ってため息を吐くのであった。
「皆野って、よくダブルアイの服着てるけどISAMA IZUMI好きなの?」
いつものダブルデートの最中に、さり気なく聞いてみると
「トノ、和泉のこと知ってるんですか?」
皆野はとても驚いた顔になった。
「知ったのは最近なんだ、ファミリー向けからハード系まで手広くやってるみたいだね」
「明戸もお揃いでよく着てるよね」
俺達の会話を聞いていたチカもその話題にのってきた。
皆野と明戸の答えによって、今後俺達が立てるデートプランに支障が出るかもしれない。
俺もチカも固唾を飲んで答えを待っていた。
「私達の着ている服は殆ど貰い物なんです
自分達だけではどのような服を選べば良いのか、判断が付かなくて
小物とか着る組み合わせとか、全部考えてもらってるんです」
皆野は恥ずかしそうに答えた。
「双子コーデってのしてもらってるんだけど、これって変かな
この着方、人間っぽくない?」
明戸が焦ったようにチカに詰め寄っていた。
俺とチカは顔を見合わせる。
ダブルアイの服を頻繁にプレゼントするような人が彼らの身近にいると言う現実が、2人を遠い存在に感じさせた。
「皆野は、その服をくれた人のこと好きなの?」
皆野はあれだけ俺のことを好きだと言ってくれているのに、何故そんなことを聞いてしまうのか。
嫉妬しているような、子どもじみた聞き方をしてしまった自分に嫌気がさしてくる。
「お世話になっている古くからの知り合いです
私達に好意的なので、好きな人間と言って差し障りはないかと
この服は不要品だけどよかったら、と言って譲ってくれたのです
袖に汚れが付いているから売れないらしいんですよ
明戸が着ている物はタグの位置が曲がってるからダメだとか」
「安売りはしたくないから廃棄しようか、なんて勿体ないこと言うしさ
和泉、いつか勿体ないお化けに食われるよ
『あうとれっと』とか言うのに出して、売ればいいのに
そうすれば買ってくれる人の幅が広がるじゃん
『商売は損して元とれ』ってあのお方、っと、知り合いが言ってたし
あ、でも、不要品着てるのって変?」
彼らの弁解じみた言葉を、俺もチカも目を丸くして聞いていた。
それは、イサマイズミ本人から貰ったとしか思えない言葉だったからだ。
「和泉、最近双子の対コーデにハマってるみたいなんだ
きっとチカとトノのコーデもしてみたがるかも
いつも貰ってばっかだから、たまにはお金出して和泉の服を買おうか」
「良いですね、久那も喜ぶでしょうし
私達では服のことはわからないので、久那に電話して相談してみましょう」
皆野はスマホを取り出すと、何度かタップして耳に当てていた。
「あ、いや、その、皆野?」
俺もチカも何が起こっているのか展開に付いていけなかった。
「チカには何色が似合うかな」
幸せそうな明戸に寄り添われているチカも俺と同じくらい狼狽し
「えっと、俺、どうすれば良い?」
助けを求めるような視線を送ってきたが、どう答えて良いかわからないのだった。
「あ、久那?この前は洋服をありがとうございました
いつも貰ってばかりなので、たまには買わせていただこうかと
いえ、私達のではなく、その…、大事な方達の分をです
その方達も双子なんです
どちらも本当に格好良くて、でも、トノの方が少しだけ格好良さが上なんですよ」
皆野は赤面するような事を平気で口走っていた。
「えー、格好良さが上なのはチカの方だよ」
頬を膨らませている明戸に、チカが照れたような苦笑を向けていた。
「2人の写真?生憎カメラは持ってきてないんです
え?このスマホで撮れるんですか?現像するにはどうすれば?
送る?スマホをそちら宛に郵送すれば良いんですね
メール二テンプ?
すいません、業界用語ではなく日本語で説明してください
代わる?トノに代われば良いんですか?」
皆野はそう言うとオズオズとスマホを差し出してきた。
「久那が、トノに説明した方が早そうだと言うので代わっていただけませんか」
「俺?」
何が何だか分からないが皆野が困っているなら助けてあげたいと思い、俺は思いきって差し出されたスマホを受け取った。
『もしもし、イサマイズミのマネージャーの久那と申します
以前は双子と一緒にしっぽやで働いておりました
突然のことで、驚いたでしょう
兄弟猫はスイッチが入ると急に揃ってアクティブに動き出す、今回のことはそんな感じだと思ってください』
その喩えは、何だかしっくりくるものに思われた。
『双子があなた方の服を希望していますので、お手数ですがそのスマホでお二人の顔と全身が分かる写真を撮って、登録されているアドレスまで送ってください
服の方はこちらで見繕います』
断るのも申し訳ない気がして、俺は言われたとおりチカと一緒の写真を皆野に撮ってもらい送信した。
すると、直ぐに皆野のスマホに着信があった。
表示されている名前は『石間 和泉』
イサマイズミ本人からの電話のようで俺は慌ててスマホを皆野に渡した。
「今ので写真は届きましたか?え、またトノに代わるんですか?」
首を捻りながら皆野がスマホを差し出してくる。
『初めまして、石間和泉と申します
双子とは古くからの知り合い、と言ったところです
双子にヤマシい感情は全くないのでご心配なく』
彼は俺の心配をズバリとついてきてドキリとした。
『突然なんですが、あなた方4人に単発でモデルをお願いしたいんです
写真を拝見して、ちょっと面白い企画を思いついちゃって
撮影場所が郊外なので移動費や宿泊費はこちらで出します
ご兄弟で都合のよい日程がありましたら、後ほど皆野にお教えください
それでは、取り急ぎ失礼しました』
一方的にしゃべってイズミ先生は通話を終了してしまった。
「何だって?」
興味と困惑が入り交じった表情でチカが聞いてくる。
皆野と明戸も俺に注目していた。
「何か、俺達にモデルやって欲しいって」
今聞いていたことが信じられず、狐につままれたような気持ちで答える俺の顔を、3人は目を見開いて凝視してくるのであった。
しかし皆野は『私達、あの2人が体験してしまったことを新たに体験出来るんです、お得な気がしますよね』そう言うと頬を赤らめて微笑んでいた。
他の者を羨んだり他の者と自分を比べてイジケたりするよりも
『自分達にとって何が楽しいのか、何が大切なのか』
そんなことの方に重きを置いているようで、皆野のその前向きな姿勢は見習うべきものであった。
自分の弱さも俺の弱さも受け入れる優しくて強い皆野に、俺はどんどん惹かれていった。
「皆野は自分と明戸を比べて悩んだりしないの?」
そう聞く俺に
「今回のことでさんざん悩んで、自分の醜さを思い知りました
でも話してみたら、それは明戸も同じだという事が分かったんです
そして私達は魂の片割れ同士で、お互いが居ないとダメなんだ、とも
相手と比べてみて劣るところがあっても、きっと優れている部分もある
出来ることが違うからこそ、私達は2人なら何でも出来る
トノとチカが居たから私達はそれに気がつけました」
皆野は優しい眼差しで俺を見て微笑んだ。
「もし明戸がいなかったら、チカが1人ぼっちになってしまったかも
私がチカからトノを奪ってしまうから
チカのために明戸は存在し、トノの為に私が存在する
私達が2人居るのは、お互いが1人にならないためなのかもしれないですね」
皆野は悪戯っぽそうに笑っている。
『チカから俺を奪う』という彼の俺に対する執着が、ゾクゾクするような喜びとなって体中を駆け回っていく。
「じゃあ、チカが居なかったら明戸が1人ぼっちになってたのかな」
少し意地悪な事を聞くと
「どうなのでしょう、チカが居たからこそ今の明戸があります
もしチカが居なければ、違う人を選んでいたかもしれない
自分の心でありながら、私達にはどうすることも出来ない感情があるんです
一度それを自覚してしまったら、それを知らなかった頃には戻れない
トノが居てくれなければ私の存在意義が失われてしまう、今や貴方の存在がこの身体で生きる私の意味なんです
でも私の全てを受け入れて欲しいのに、怖くてそれが出来ない
私は矛盾している存在ですね」
彼は不思議なことを言って、寂しそうに微笑んだ。
『皆野と明戸には、何か秘密があるのではないのか』
俺とチカはそのことに気が付いていたが、2人が説明してくれるまで詮索するのは止めておこうと言うことで話はまとまっていた。
今はお互いの絆を深めることを優先したかったのだ。
ただ俺とチカ、どちらかが先に秘密を打ち明けられ片方への口止めをされたらその後の対処はどうしたものか、と言うことが悩みの種ではあった。
彼らが同じタイミングで俺達に話してくれることを祈るしかなかった。
俺達は2人きりで会わず、いつも4人で行動を共にしていた。
それでもわずかな時間2人っきりになれるタイミングがあって、抱き合ってキスをしたりする。
オママゴトみたいな交際だと思うが、その秘密の時間は何よりも楽しいものだった。
仕事の休みに融通が利くからと、いつも皆野と明戸がこちらに来てくれる。
特別手当が出たと言ってランチを奢ってくれた。
貰うことばかりで申し訳ない気持ちもあったが
『トノのために何か出来るのが嬉しいのです、今までそんな相手が居なかったから
迷惑でなければ奢らせてください』
ハニカんだ笑顔の皆野に言われると、それ以上何も言えなかった。
『4人で双子っぽいコーディネートが出来る服を買いに行こう』
当初、俺とチカはそんなデートプランを立てていた。
しかし皆野と明戸がよく着ている服に気が付いて、躊躇してしまう。
「明戸が着てるの、ISAMA IZUMIのお揃いシリーズじゃないか?
こないだテレビで見た服と似てたんだ」
「ブランド物?」
チカにそう言われて次に皆野に会ったときチラリと見たら、服には『II』(ダブルアイ)のタグが付いていた。
ファミリー向けブランドだから高くはないが安くもないので、一式揃えるとかなりの金額になってしまうだろう。
バイト学生の身には気軽に買える物ではなかった。
「社会人と学生の差だな
明戸があまりにも可愛いから気にしたこと無かったけど、あの2人って俺達よりけっこー年上なのかもな」
苦笑するチカに俺も苦笑で応えるしかなく、2人揃ってため息を吐くのであった。
「皆野って、よくダブルアイの服着てるけどISAMA IZUMI好きなの?」
いつものダブルデートの最中に、さり気なく聞いてみると
「トノ、和泉のこと知ってるんですか?」
皆野はとても驚いた顔になった。
「知ったのは最近なんだ、ファミリー向けからハード系まで手広くやってるみたいだね」
「明戸もお揃いでよく着てるよね」
俺達の会話を聞いていたチカもその話題にのってきた。
皆野と明戸の答えによって、今後俺達が立てるデートプランに支障が出るかもしれない。
俺もチカも固唾を飲んで答えを待っていた。
「私達の着ている服は殆ど貰い物なんです
自分達だけではどのような服を選べば良いのか、判断が付かなくて
小物とか着る組み合わせとか、全部考えてもらってるんです」
皆野は恥ずかしそうに答えた。
「双子コーデってのしてもらってるんだけど、これって変かな
この着方、人間っぽくない?」
明戸が焦ったようにチカに詰め寄っていた。
俺とチカは顔を見合わせる。
ダブルアイの服を頻繁にプレゼントするような人が彼らの身近にいると言う現実が、2人を遠い存在に感じさせた。
「皆野は、その服をくれた人のこと好きなの?」
皆野はあれだけ俺のことを好きだと言ってくれているのに、何故そんなことを聞いてしまうのか。
嫉妬しているような、子どもじみた聞き方をしてしまった自分に嫌気がさしてくる。
「お世話になっている古くからの知り合いです
私達に好意的なので、好きな人間と言って差し障りはないかと
この服は不要品だけどよかったら、と言って譲ってくれたのです
袖に汚れが付いているから売れないらしいんですよ
明戸が着ている物はタグの位置が曲がってるからダメだとか」
「安売りはしたくないから廃棄しようか、なんて勿体ないこと言うしさ
和泉、いつか勿体ないお化けに食われるよ
『あうとれっと』とか言うのに出して、売ればいいのに
そうすれば買ってくれる人の幅が広がるじゃん
『商売は損して元とれ』ってあのお方、っと、知り合いが言ってたし
あ、でも、不要品着てるのって変?」
彼らの弁解じみた言葉を、俺もチカも目を丸くして聞いていた。
それは、イサマイズミ本人から貰ったとしか思えない言葉だったからだ。
「和泉、最近双子の対コーデにハマってるみたいなんだ
きっとチカとトノのコーデもしてみたがるかも
いつも貰ってばっかだから、たまにはお金出して和泉の服を買おうか」
「良いですね、久那も喜ぶでしょうし
私達では服のことはわからないので、久那に電話して相談してみましょう」
皆野はスマホを取り出すと、何度かタップして耳に当てていた。
「あ、いや、その、皆野?」
俺もチカも何が起こっているのか展開に付いていけなかった。
「チカには何色が似合うかな」
幸せそうな明戸に寄り添われているチカも俺と同じくらい狼狽し
「えっと、俺、どうすれば良い?」
助けを求めるような視線を送ってきたが、どう答えて良いかわからないのだった。
「あ、久那?この前は洋服をありがとうございました
いつも貰ってばかりなので、たまには買わせていただこうかと
いえ、私達のではなく、その…、大事な方達の分をです
その方達も双子なんです
どちらも本当に格好良くて、でも、トノの方が少しだけ格好良さが上なんですよ」
皆野は赤面するような事を平気で口走っていた。
「えー、格好良さが上なのはチカの方だよ」
頬を膨らませている明戸に、チカが照れたような苦笑を向けていた。
「2人の写真?生憎カメラは持ってきてないんです
え?このスマホで撮れるんですか?現像するにはどうすれば?
送る?スマホをそちら宛に郵送すれば良いんですね
メール二テンプ?
すいません、業界用語ではなく日本語で説明してください
代わる?トノに代われば良いんですか?」
皆野はそう言うとオズオズとスマホを差し出してきた。
「久那が、トノに説明した方が早そうだと言うので代わっていただけませんか」
「俺?」
何が何だか分からないが皆野が困っているなら助けてあげたいと思い、俺は思いきって差し出されたスマホを受け取った。
『もしもし、イサマイズミのマネージャーの久那と申します
以前は双子と一緒にしっぽやで働いておりました
突然のことで、驚いたでしょう
兄弟猫はスイッチが入ると急に揃ってアクティブに動き出す、今回のことはそんな感じだと思ってください』
その喩えは、何だかしっくりくるものに思われた。
『双子があなた方の服を希望していますので、お手数ですがそのスマホでお二人の顔と全身が分かる写真を撮って、登録されているアドレスまで送ってください
服の方はこちらで見繕います』
断るのも申し訳ない気がして、俺は言われたとおりチカと一緒の写真を皆野に撮ってもらい送信した。
すると、直ぐに皆野のスマホに着信があった。
表示されている名前は『石間 和泉』
イサマイズミ本人からの電話のようで俺は慌ててスマホを皆野に渡した。
「今ので写真は届きましたか?え、またトノに代わるんですか?」
首を捻りながら皆野がスマホを差し出してくる。
『初めまして、石間和泉と申します
双子とは古くからの知り合い、と言ったところです
双子にヤマシい感情は全くないのでご心配なく』
彼は俺の心配をズバリとついてきてドキリとした。
『突然なんですが、あなた方4人に単発でモデルをお願いしたいんです
写真を拝見して、ちょっと面白い企画を思いついちゃって
撮影場所が郊外なので移動費や宿泊費はこちらで出します
ご兄弟で都合のよい日程がありましたら、後ほど皆野にお教えください
それでは、取り急ぎ失礼しました』
一方的にしゃべってイズミ先生は通話を終了してしまった。
「何だって?」
興味と困惑が入り交じった表情でチカが聞いてくる。
皆野と明戸も俺に注目していた。
「何か、俺達にモデルやって欲しいって」
今聞いていたことが信じられず、狐につままれたような気持ちで答える俺の顔を、3人は目を見開いて凝視してくるのであった。