しっぽや(No.198~224)
「白パン!」
角を曲がると、ちょうど皆野も対面の別の角から姿を現した。
俺と白パンの想念が届いていたのだろう、真っ青になっている。
「白パンさん!」
俺達が見つめる道にはゴミ回収場があり、資源ゴミの置き場には新聞紙や段ボールがヒモで括られて置いてあった。
ズボラな人が置いたのだろうか、潰されていない段ボール箱まで放置されている。
その箱の中に黒い物体が見えた。
駆け寄ると、やはりそれは白パンだった。
背中側だけが見えているので、普通に黒猫に見える。
「そんな…白パン…」
まだ気配は消えていない、まだ生きてるはずだ。
震える手でその身体に触ると暖かく、腹は緩やかに上下していて、ブーブーとやかましい寝息が聞こえ…
「爆睡してるだけじゃねーか!」
俺の叫びで緊張の糸が切れた皆野が、その場にへたり込んでいた。
気配は同じだから間違いないとは思うけれど、俺は一応その猫の前足と後ろ足を持ち上げてみる。
「白パン模様に脇毛、間違いないな」
俺にいじくられても白パンは爆睡していた。
「疲れていたのでしょうね、外と家の中では緊張も運動量も違いますから」
皆野が優しく白パンを撫でている。
年の割に艶やかなその毛皮は、愛されている証のようであった。
「チカ達のとこに戻ろう」
抱き上げても白パンは起きなかったが、それでも揺らさないよう気を使って、俺と皆野は愛しい人間達の元に向かっていった。
チカとトノは、分かれた場所から移動せず俺達を待っていてくれた。
チカに『企業秘密』とは言っておいたが、その言葉を信じてちゃんと待っていてくれたことが嬉しかった。
飼い主の居る場所に帰れる喜びが胸に溢れてくる。
「チカ、捕獲成功」
俺は胸に抱く白パンを誇らかに示した。
チカはとても驚いた顔になったが、直ぐに笑顔を向けてくれる。
「ありがとう、流石プロだね
宣言通りサクッと見つけてくれた
明戸は本当に凄い人だ」
チカの賛辞が胸に心地よく響いていた。
「皆野、ありがとう」
皆野もトノに誉められている。
俺達の喜びの気持ちは混ざり合い、より強い幸福感に繋がっていった。
「彼なりに思うところがあって脱走してしまったので、あまり怒らないでやってください
家族や家に不満があったわけではありませんから
むしろ、白パンさんは貴方達のことをとても大事に思っています」
皆野がトノに当たり障りのないよう説明していた。
俺が白パンや老猫の無意識の海での願いに気が付いた事を、皆野も察しているからだ。
「とんだお騒がせ事件だったな」
チカが苦笑して俺が抱いている白パンの頭を優しく撫でる。
「でも、おかげで俺はチカに出会えた、白パンには感謝してるよ」
俺が視線を向けると白パンは薄目を開けて、後ろ足をぐいぐい伸ばしてきた。
『ちかニ抱ッコサセロ』
フンッと偉そうに鼻息を吐き出し、俺の手の中から逃れようとする。
「チカに抱っこして欲しいって」
ここは白パンに花を持たせようと、俺は苦笑してその身体をチカに渡す。
チカは壊れ物を扱うような慎重な手つきで受け取って
「お帰り、白パン」
優しく声をかけ頬摺りしていた。
「ニャーン」
白パンは爺さん猫とは思えない甲高い可愛い声で泣き返し、俺をチラリと見てニヤリと笑う。
あからさまに『自分の方が愛されている』と俺に見せつけてきた。
『はいはい、まだ白パンには適わないよ』
俺は心の内で肩をすくめる。
「無事で良かったよ、白パン」
近寄ってきたトノにも同じように泣き返す白パンに、俺も皆野も苦笑するしかないのであった。
チカの家に向かう帰り道
『ワシノオ陰ダ、次ニ来ル時ハ「生あとらんてぃっくさーもん」ト「生ほんまぐろノ中とろ」ヲ持ッテコイ
ソレト「養殖ぶり」、天然ハ脂ガノッテナクテイカン
風味ガ飛バナイヨウ小分ケヲノ鰹節モナ』
白パンがそう命令してきた。
『また、家に行っても良いってこと?』
『マアナ』
先輩のお許しの元なら、俺と皆野はまたチカとトノに会えそうだ。
「チカ、白パンの様子を見に、また家に行っても良い?」
「もちろんだよ、今度は青戸屋に行こうか」
俺達の会話を聞いて
「トノ、私も一緒に伺ってもよろしいですか?」
「もちろん、俺達はファミレスに行ってみる?」
皆野も約束を取り付けていた。
「と言うか、俺達4人で出かけたら、店の人とかビックリしそうだ」
楽しそうなチカに
「お揃いの服を着れば、さらに混乱させられるな」
トノも笑顔で言葉を返す。
「チカにまた『トノ』って呼んでもらえて、嬉しいよ」
トノの言葉にチカは少しバツの悪そうな顔をするが
「誕生日違ってても1時間しか差がないしさ
トノはトノだよ、俺達一緒の存在みたいなもんじゃん」
「うん」
仲良く話す双子に挟まれて、白パンは満足げに高くノドを鳴らしている。
もちろん、猫だったら俺と皆野も負けないくらいノドを鳴らしていたと思うのであった。
case of SIROPAN after report
俺と皆野が再びチカの家に行く日、荒木と日野も一緒に付いて来ていた。
「せっかくのデートなのに邪魔してごめん
でも俺も無事な白パン見てみたくてさ」
荒木はそう謝っていたが、荒木の存在が俺とチカを結びつけてくれたのだ。
感謝こそすれ、邪魔だと思うことはない。
「白パンね、新しい学校に行き始めたチカが、不思議な気配をまとって帰ってくるのに気が付いて俺達の存在に気が付いたらしい
ほんの微かな残り香みたいなものだけど、人でも獣でもない何かが居る
自分が死んだ後にそれが居れば、チカとトノが仲良くしてくれるかも、泣き暮らさず済むかもって思ったんだって
チカとトノ、成長するにしたがって、だんだん余所余所しくなってた事、白パン気にしてたみたい
自分が居なくなったら家族がバラバラになるんじゃないかって悩んでた」
「白パンさんが感じていたのは、荒木を守る白久の気配だと思います
自分が姿を消してみたら、その気配を引き寄せられるのではないかと試してみたとか
賢い方です、私達まんまと引き寄せられました」
俺達の説明に1番驚いていたのは荒木だった。
「それって、俺が吹かせた新しい風って事なの?
お屋敷でミイちゃんにそんなこと言われたっけ、古き双璧がどうとか」
不思議そうな荒木に
「そのことだと思うぜ、双子は化生してから長いんだろ?
2人とも捜索能力高いし、共に優れ優劣を付けられない二つのものとしての双璧って喩えは双子にピッタリだと思う」
日野が説明していた。
「俺は皆野の方が優れてると思ってた」
「私は明戸の方が優れていると思っていました」
ビックリする俺達を見て
「隣の芝生は青い、ってやつだ」
荒木はクスクス笑っていた。
「荒木は学友だから家に行くのは良いとして、俺まで便乗しちゃってごめんな
その飼い主になってもらいたい人たちって、あの大滝兄弟なんだろ?」
日野が興奮気味に話しかけてくる。
「日野、近戸のこと知ってんの?
何気に有名人なのかな、イケメンだし
それとも予備校の模試の結果、上位の常連?
どうせ自分には関係ないと思って、俺、あんまりチェックしてなかったんだよね」
荒木の言葉に、日野は頭を抱えていた。
「この辺の高校の、トップランナーだよ
陸上やってりゃ必ず『大滝兄弟』の名前は耳にするぜ
2人とも実業団とか入ってずっと走り続けると思ってたのに、今は走るの止めちゃったのか、もったいない」
ため息を付く日野に
「近戸、バイトで忙しそうだし走ってるヒマ無いんじゃない?」
荒木が声をかける。
日野は荒木の言葉でガックリと肩を落としていた。
「日野だってクッキーとか、後輩にファンがいるじゃん
近戸と何が違うの?」
まだ納得のいかない荒木に言われ
「校内で早い奴は沢山居るよ、でも、公式で記録を残せるとなると一握りなんだ
俺は大会殆ど出られなかったから、公式記録がないの
ベストの体調とメンタルで大会に出られるのは、運と実力兼ね備えたスターだけ」
日野はきっぱりと断言していた。
「まだ飼ってもらうってとこまで話は進んでないんだろ?
飼い主同志になったら突っ込んで色々聞かせて欲しいけど、今日はミーハーなファンとして振る舞うよ
でも、何か出来ることがあったら言って、俺と黒谷は葛藤とか無かったから手伝えるかビミョーだけどさ」
「いや、日野も来てくれてちょうど良かったよ
な、皆野?」
「これで白パンさんに示すことが出来ますね」
日野の言葉に俺と皆野は訳あり顔で答え、人間たちは顔に『?』を浮かべるのであった。
チカとトノを目にして日野はテンション高く2人を誉め称え、会えた感動を露わにしている。
他の飼い主に尊敬の目を向けられるチカとトノに、俺も皆野も満足感を覚えていた。
荒木は白パンにベッタリで『長生きしろよ』とか『いつも勝負下着でセクシーだね』とか、猫飼いのプロらしく誉め千切っていた。
白パンは満更でもない様子で、荒木に前足や後ろ足を持ち上げられても大人しくしている。
『白パンさん、ご所望の物は冷蔵庫に入れてありますから少しずつ食べてくださいね
1匹で全部食べないで、トノに分けてもらってください』
『食い過ぎて体調崩したら、俺達のせいになっちゃうんだからな』
俺達2人に釘を差されても、白パンは気にした風もなく身繕いをしていた。
『前にチカとトノのこと「ちび達」とか言ってたろ』
俺は気になっていたことを白パンに問いかけた。
『人間ハ成長ガ遅イカラナ、2人トモマダ赤子ダ、ワシノ庇護下ニオル』
彼はまだ優雅に身繕いしている。
『2人とも、既に体の大きな大人ですよ
誰の庇護も必要ありません』
皆野が窘(たしな)めるように言ってもどこ吹く風だった。
『よく見ろ、チビってのはあの2人みたいなことを言うんだ
あの2人に比べれば、チカもトノも大きいだろ』
白パンは飼い主2人と荒木と日野を見比べて
『?アレ?確カニ育ッテイルナ?とのモちかモ、モウ大人???』
混乱しながらも白パンがそれを自覚する。
飼い猫の座を争う際の難敵である白パンが子離れしてくれそうな気配に、俺と皆野は荒木と日野に心から感謝するのであった。
角を曲がると、ちょうど皆野も対面の別の角から姿を現した。
俺と白パンの想念が届いていたのだろう、真っ青になっている。
「白パンさん!」
俺達が見つめる道にはゴミ回収場があり、資源ゴミの置き場には新聞紙や段ボールがヒモで括られて置いてあった。
ズボラな人が置いたのだろうか、潰されていない段ボール箱まで放置されている。
その箱の中に黒い物体が見えた。
駆け寄ると、やはりそれは白パンだった。
背中側だけが見えているので、普通に黒猫に見える。
「そんな…白パン…」
まだ気配は消えていない、まだ生きてるはずだ。
震える手でその身体に触ると暖かく、腹は緩やかに上下していて、ブーブーとやかましい寝息が聞こえ…
「爆睡してるだけじゃねーか!」
俺の叫びで緊張の糸が切れた皆野が、その場にへたり込んでいた。
気配は同じだから間違いないとは思うけれど、俺は一応その猫の前足と後ろ足を持ち上げてみる。
「白パン模様に脇毛、間違いないな」
俺にいじくられても白パンは爆睡していた。
「疲れていたのでしょうね、外と家の中では緊張も運動量も違いますから」
皆野が優しく白パンを撫でている。
年の割に艶やかなその毛皮は、愛されている証のようであった。
「チカ達のとこに戻ろう」
抱き上げても白パンは起きなかったが、それでも揺らさないよう気を使って、俺と皆野は愛しい人間達の元に向かっていった。
チカとトノは、分かれた場所から移動せず俺達を待っていてくれた。
チカに『企業秘密』とは言っておいたが、その言葉を信じてちゃんと待っていてくれたことが嬉しかった。
飼い主の居る場所に帰れる喜びが胸に溢れてくる。
「チカ、捕獲成功」
俺は胸に抱く白パンを誇らかに示した。
チカはとても驚いた顔になったが、直ぐに笑顔を向けてくれる。
「ありがとう、流石プロだね
宣言通りサクッと見つけてくれた
明戸は本当に凄い人だ」
チカの賛辞が胸に心地よく響いていた。
「皆野、ありがとう」
皆野もトノに誉められている。
俺達の喜びの気持ちは混ざり合い、より強い幸福感に繋がっていった。
「彼なりに思うところがあって脱走してしまったので、あまり怒らないでやってください
家族や家に不満があったわけではありませんから
むしろ、白パンさんは貴方達のことをとても大事に思っています」
皆野がトノに当たり障りのないよう説明していた。
俺が白パンや老猫の無意識の海での願いに気が付いた事を、皆野も察しているからだ。
「とんだお騒がせ事件だったな」
チカが苦笑して俺が抱いている白パンの頭を優しく撫でる。
「でも、おかげで俺はチカに出会えた、白パンには感謝してるよ」
俺が視線を向けると白パンは薄目を開けて、後ろ足をぐいぐい伸ばしてきた。
『ちかニ抱ッコサセロ』
フンッと偉そうに鼻息を吐き出し、俺の手の中から逃れようとする。
「チカに抱っこして欲しいって」
ここは白パンに花を持たせようと、俺は苦笑してその身体をチカに渡す。
チカは壊れ物を扱うような慎重な手つきで受け取って
「お帰り、白パン」
優しく声をかけ頬摺りしていた。
「ニャーン」
白パンは爺さん猫とは思えない甲高い可愛い声で泣き返し、俺をチラリと見てニヤリと笑う。
あからさまに『自分の方が愛されている』と俺に見せつけてきた。
『はいはい、まだ白パンには適わないよ』
俺は心の内で肩をすくめる。
「無事で良かったよ、白パン」
近寄ってきたトノにも同じように泣き返す白パンに、俺も皆野も苦笑するしかないのであった。
チカの家に向かう帰り道
『ワシノオ陰ダ、次ニ来ル時ハ「生あとらんてぃっくさーもん」ト「生ほんまぐろノ中とろ」ヲ持ッテコイ
ソレト「養殖ぶり」、天然ハ脂ガノッテナクテイカン
風味ガ飛バナイヨウ小分ケヲノ鰹節モナ』
白パンがそう命令してきた。
『また、家に行っても良いってこと?』
『マアナ』
先輩のお許しの元なら、俺と皆野はまたチカとトノに会えそうだ。
「チカ、白パンの様子を見に、また家に行っても良い?」
「もちろんだよ、今度は青戸屋に行こうか」
俺達の会話を聞いて
「トノ、私も一緒に伺ってもよろしいですか?」
「もちろん、俺達はファミレスに行ってみる?」
皆野も約束を取り付けていた。
「と言うか、俺達4人で出かけたら、店の人とかビックリしそうだ」
楽しそうなチカに
「お揃いの服を着れば、さらに混乱させられるな」
トノも笑顔で言葉を返す。
「チカにまた『トノ』って呼んでもらえて、嬉しいよ」
トノの言葉にチカは少しバツの悪そうな顔をするが
「誕生日違ってても1時間しか差がないしさ
トノはトノだよ、俺達一緒の存在みたいなもんじゃん」
「うん」
仲良く話す双子に挟まれて、白パンは満足げに高くノドを鳴らしている。
もちろん、猫だったら俺と皆野も負けないくらいノドを鳴らしていたと思うのであった。
case of SIROPAN after report
俺と皆野が再びチカの家に行く日、荒木と日野も一緒に付いて来ていた。
「せっかくのデートなのに邪魔してごめん
でも俺も無事な白パン見てみたくてさ」
荒木はそう謝っていたが、荒木の存在が俺とチカを結びつけてくれたのだ。
感謝こそすれ、邪魔だと思うことはない。
「白パンね、新しい学校に行き始めたチカが、不思議な気配をまとって帰ってくるのに気が付いて俺達の存在に気が付いたらしい
ほんの微かな残り香みたいなものだけど、人でも獣でもない何かが居る
自分が死んだ後にそれが居れば、チカとトノが仲良くしてくれるかも、泣き暮らさず済むかもって思ったんだって
チカとトノ、成長するにしたがって、だんだん余所余所しくなってた事、白パン気にしてたみたい
自分が居なくなったら家族がバラバラになるんじゃないかって悩んでた」
「白パンさんが感じていたのは、荒木を守る白久の気配だと思います
自分が姿を消してみたら、その気配を引き寄せられるのではないかと試してみたとか
賢い方です、私達まんまと引き寄せられました」
俺達の説明に1番驚いていたのは荒木だった。
「それって、俺が吹かせた新しい風って事なの?
お屋敷でミイちゃんにそんなこと言われたっけ、古き双璧がどうとか」
不思議そうな荒木に
「そのことだと思うぜ、双子は化生してから長いんだろ?
2人とも捜索能力高いし、共に優れ優劣を付けられない二つのものとしての双璧って喩えは双子にピッタリだと思う」
日野が説明していた。
「俺は皆野の方が優れてると思ってた」
「私は明戸の方が優れていると思っていました」
ビックリする俺達を見て
「隣の芝生は青い、ってやつだ」
荒木はクスクス笑っていた。
「荒木は学友だから家に行くのは良いとして、俺まで便乗しちゃってごめんな
その飼い主になってもらいたい人たちって、あの大滝兄弟なんだろ?」
日野が興奮気味に話しかけてくる。
「日野、近戸のこと知ってんの?
何気に有名人なのかな、イケメンだし
それとも予備校の模試の結果、上位の常連?
どうせ自分には関係ないと思って、俺、あんまりチェックしてなかったんだよね」
荒木の言葉に、日野は頭を抱えていた。
「この辺の高校の、トップランナーだよ
陸上やってりゃ必ず『大滝兄弟』の名前は耳にするぜ
2人とも実業団とか入ってずっと走り続けると思ってたのに、今は走るの止めちゃったのか、もったいない」
ため息を付く日野に
「近戸、バイトで忙しそうだし走ってるヒマ無いんじゃない?」
荒木が声をかける。
日野は荒木の言葉でガックリと肩を落としていた。
「日野だってクッキーとか、後輩にファンがいるじゃん
近戸と何が違うの?」
まだ納得のいかない荒木に言われ
「校内で早い奴は沢山居るよ、でも、公式で記録を残せるとなると一握りなんだ
俺は大会殆ど出られなかったから、公式記録がないの
ベストの体調とメンタルで大会に出られるのは、運と実力兼ね備えたスターだけ」
日野はきっぱりと断言していた。
「まだ飼ってもらうってとこまで話は進んでないんだろ?
飼い主同志になったら突っ込んで色々聞かせて欲しいけど、今日はミーハーなファンとして振る舞うよ
でも、何か出来ることがあったら言って、俺と黒谷は葛藤とか無かったから手伝えるかビミョーだけどさ」
「いや、日野も来てくれてちょうど良かったよ
な、皆野?」
「これで白パンさんに示すことが出来ますね」
日野の言葉に俺と皆野は訳あり顔で答え、人間たちは顔に『?』を浮かべるのであった。
チカとトノを目にして日野はテンション高く2人を誉め称え、会えた感動を露わにしている。
他の飼い主に尊敬の目を向けられるチカとトノに、俺も皆野も満足感を覚えていた。
荒木は白パンにベッタリで『長生きしろよ』とか『いつも勝負下着でセクシーだね』とか、猫飼いのプロらしく誉め千切っていた。
白パンは満更でもない様子で、荒木に前足や後ろ足を持ち上げられても大人しくしている。
『白パンさん、ご所望の物は冷蔵庫に入れてありますから少しずつ食べてくださいね
1匹で全部食べないで、トノに分けてもらってください』
『食い過ぎて体調崩したら、俺達のせいになっちゃうんだからな』
俺達2人に釘を差されても、白パンは気にした風もなく身繕いをしていた。
『前にチカとトノのこと「ちび達」とか言ってたろ』
俺は気になっていたことを白パンに問いかけた。
『人間ハ成長ガ遅イカラナ、2人トモマダ赤子ダ、ワシノ庇護下ニオル』
彼はまだ優雅に身繕いしている。
『2人とも、既に体の大きな大人ですよ
誰の庇護も必要ありません』
皆野が窘(たしな)めるように言ってもどこ吹く風だった。
『よく見ろ、チビってのはあの2人みたいなことを言うんだ
あの2人に比べれば、チカもトノも大きいだろ』
白パンは飼い主2人と荒木と日野を見比べて
『?アレ?確カニ育ッテイルナ?とのモちかモ、モウ大人???』
混乱しながらも白パンがそれを自覚する。
飼い猫の座を争う際の難敵である白パンが子離れしてくれそうな気配に、俺と皆野は荒木と日野に心から感謝するのであった。