しっぽや(No.198~224)
side<CHIKATO>
物心ついたときから、俺はずっと猫と一緒に暮らしていた。
その猫は黒猫なのに股間と前足の付け根に白い毛が生えている。
本当なら白黒猫になるのだろうが、黒猫飼いの間ではそれはエンジェルヘアーと呼ばれ神様からの贈り物とされていた。
そんな柄のため名前は白パンツ、通称白パン。
往年は体重6、5kgあった白パンも今はお爺ちゃんになり、4kgまで落ちてしまったので2回りは小さくなってしまった。
けれども態度がデカいため、あまり変わらないように見える。
ベッドやソファーで思いっきり伸びていると、人間が端によって座らないといけない状態だ。
未だにジャラシで遊ぶし、毛艶も良く食欲も旺盛で『年寄り猫』と言う感じはしなかった。
この猫は、ずっとずっと俺と一緒に居てくれると思っていた。
その白パンが脱走した。
家が国道に近く車の往来が激しい道が多いので完全室内飼いにしていたため、近隣の土地勘どころか家の外観も車の危険も知らない猫なので、家族はパニック状態になっていた。
「ただいまー」
大学に入学して初めてのGW、俺はバイトに明け暮れていた。
その日も朝からバイトで、帰宅したのは夜10時近かった。
「チカ!」
血相を変えたアニキが俺を出迎える。
「白パンが網戸破って脱走した」
それが意味をなした言葉として脳味噌に届くまで数秒かかった。
「何で?今まで網戸破った事なんて1度もないじゃん
庭に鳥や他の猫が来てたときだって、網戸の前で唸るだけだったし
誰か一緒に居なかったの?」
俺の言葉は少し非難めいたものになってしまう。
「父さんと母さんは買い物に行ってて、俺は部屋で仮眠してたんだ
今日のバイト、深夜帯だから
ガタガタ何かが鳴ってるな、とは思ってたんだけど
起きてリビング行ったら、網戸が破れてて白パンが居なくなってた…」
うなだれるアニキに
「誰かのベッドの中に居るってオチじゃないの?
前にあったじゃん、居なくなったと思って大騒ぎして家中探したら、ソファーに置いてあったアニキのジャケットの下から出てきたこと
あいつ、人間が自分を捜してるの隠れて見てるの好きだからなー」
何でもないことのように言おうとしたが、俺の語尾は震えていた。
「帰ってきた父さんと母さんと一緒に、家の中は散々探したけど見つからないんだ
網戸の破れ目に白パンの毛が付いてたから、あそこを潜(くぐ)って出て行ったとしか思えないよ
遠くには行ってないだろうと家の回りを探しまくって、隣近所の家の人にも声かけといた
でもまだ『見かけた』って連絡してくれた人はいないんだ」
アニキの暗い顔が現実を感じさせ、自分でも驚くほどの喪失感に襲われた。
「俺も、ちょっとその辺見てくる」
慌ててドアに向き直る俺に
「うん、でも夕飯食べてからにしときなよ
俺はもう、バイトに行かなきゃいけない時間なんだ
バイト先でも皆に聞いてみて、店長に迷い猫のポスター店に貼らせてもらえるか確認するよ
コンビニは近所の人が利用するし、効果高いと思うから」
アニキはそう言って、入れ違う形で表に出て行った。
俺は慌ただしく夕飯をかきこんだ。
食事しながら両親からも状況を聞き
「ごちそうさま」
食器を流しに置くと、すぐに白パンの捜索に向かった。
「白パン、パンツー、シロシロー」
夜間に大声を上げるには恥ずかしすぎる名前なので、俺は小声で囁いて呼びかけた。
闇夜にパンツ部分の白毛が見えないかと辺りを見回すも、猫が居るかどうかの判別も付かなかった。
2時間ほど探し回ったが発見できず、次の日も朝からバイトのため暗澹(あんたん)たる気持ちで家に帰る。
家に帰っても出迎えてくれる猫はおらず、翌朝は、いつもならご飯をねだりにくる猫が来ない。
それだけで、俺はもの凄い喪失感に襲われていた。
白パンを発見できないままGWが終わり、大学に行かなければいけない日が来てしまった。
ネットで検索してみたが、ペット探偵なるものは何だか胡散臭くて頼む気になれなかった。
遠くへは行っていないはずだと当たりを付けて、近隣の店にポスターを貼らせてもらいカリカリを携帯して家族で探し回る作戦にかけていた。
昼休みの時間、久しぶりに会う友達が食堂でGWをどう満喫したか報告しあっていた。
俺と違って、皆はエンジョイしていたようだ。
大学に入学してから出来た友達で付き合いの日数は短いが、お土産のお菓子を色々くれた。
皆、良い奴らなのだ。
『相談、してみようかな』
自分一人で考えていたため煮詰まっていた俺は、悩みを打ち明けたくなっていた。
同じ完全室内飼いをしている猫飼いの荒木なら違う視点からのアドバイスをくれるんじゃないかと、帰りに一緒に駅まで行くことにした。
荒木が俺の状況を聞いて、バイト先のペット探偵を派遣してくれることになった。
友達のバイト先からなら変な人は来ないだろう、そう思うと現金なものでプロの『ペット探偵』と言う肩書きが頼もしく感じられるのだった。
荒木と一緒に家に来てくれたペット探偵なる人物を見て、俺は心の内で盛大に驚いていた。
『凄いキレイな人!え?モデルとかじゃないよね』
すらりとしてしなやかな肢体、整った顔立ち。
中央で分けたストレートの黒髪の下から、健康的で好奇心旺盛な感じの輝く瞳が見えている。
その目が俺のことをじっと見つめてくるので、何だか照れくさい気持ちになっていた。
白いシャツ、黒いスーツ、ネクタイの色が青いのは珍しい気もしたが、彼には青色が似合っていた。
髪型と服の色味のせいだろうか、ちょっとトムキャット的なハチワレ猫を連想させる。
名前は『影森 明戸』(かげもり あけと)と言うそうだ。
俺の『近戸』(ちかと)という、名前としては珍しい字が使われているところがお揃いで、そんなささやかなことが何だか嬉しかった。
そのことに明戸も喜んでいるように見え、彼に対する好感度が上がっていく。
きちんとしている明戸を見て、ペット探偵を胡散臭く感じていた自分の視野の狭さが恥ずかしく感じられた。
家の前で自己紹介をすませ、明戸は白パンの捜索に出ることになった。
荒木が明戸と一緒に行くようだ。
未練がましく荒木と去っていく明戸を見つめる俺に
「私も手伝いたいので、庭に車を置かせてもらっていいですか」
車を運転してきたオカッパで優しそうな人が声をかけてきた。
名前は『石原 成』(いしわら なり)
しっぽやの所員ではないが、臨時の手伝い(主に運転手)をしているらしい。
ナリも猫を完全室内飼いしているので今回のことの重大さをわかってくれて、不思議な雰囲気の人だけど信頼できる感じだった。
荒木もそうだし、しっぽやと言うペット探偵会社は任せても安心なところだと、1人でキリキリしていた俺は気持ちが楽になった。
ナリと一緒に暫く近所を探していると、荒木から電話が入る。
『もう発見できたのか、明戸って本当に優秀なんだ
荒木が推すだけあるな』
そう思って電話に出たが、まだ発見できていない報告だった。
『プロが難航している』という状況に、荒木の家の猫の最後を思い出してしまう。
また気分が落ち込んできたが、荒木に皆で一緒にランチを食べて情報交換しないかと提案され、すぐに気持ちが浮上していった。
また明戸と話しが出来る、そのことが何だか嬉しかったのだ。
ファミレスの前で落ち合って店に入る。
明戸は俺の隣に座り、俺が頼むメニューと同じものを頼んでいた。
スープにご飯を入れて食べる話しをしたら、同じようにして食べている。
『人が食べてるもの食べたがるって、猫みたい』
そう感じると、俺より年上であろう明戸が可愛らしく感じられた。
それに、気のせいか俺を見る明戸の目は潤みがちで、頬が赤く染まっているのだ。
『さっきドリバのコーナーで俺のことを「格好良い」とか言ってくれてたけど…
いやいや、白パンの捜索で歩き回って火照(ほて)ってるだけだって
今日もけっこう暑いのに、スーツで歩き回らせて悪かったな
明日、また出直してもらった方が良いかも』
明戸の体調を心配しているのか、明日も明戸に会いたいだけなのか自分でも自分の気持ちが分からなくなってきた。
『いやいや、早く白パンみつけないとヤバいだろ、もう高齢なんだから
俺が浮かれてたせいで最悪な事態になることだけは避けたい』
そんな俺の決意を感じ取ったように、明戸はこの後も1人で捜索をすると言ってくれた。
荒木も手伝いたいと言ってくれたが、家の猫のためにこれ以上講義をサボらせるのは気が引けたので、バイクで学校まで送っていくことにした。
ナリはこの後、他の仕事が入っているから、結果的に明戸と2人で捜索することになった。
プロと一緒に猫を探せる安心感が欲しいのか、まだ明戸と一緒に居たいから彼だけを引き留めてしまったのか自分の感情が自分でも掴みきれなかった。
荒木もナリも俺と明戸が2人で行動することを明るい顔で快諾してくれたのが、心を見透かされたようで照れくさい気持ちになるのだった。
荒木を送って家に帰ると、明戸も丁度門を曲がって戻ってくるところだった。
『白パンは若い頃、俺が学校から帰ってくると玄関先まで出迎えてくれたっけ
それで2階から泣きながら階段降りてくると、可愛い感じでスタッカート入るんだよな』
俺はそんなことを思い出し、また白パンの年齢をヒシヒシと感じていた。
猫捜索の専門家、なんて聞いていたせいだろうか明戸といると白パンとの日々を思い出すことが多かった。
俺たちはその後、近所を再度探し回るも全く痕跡は発見できない。
「やっぱり、向こうも歩き回って移動してるんだね
最近じゃ、家のベッドかソファーで寝てる時間が多かったから、こんなにアクティブに行動してると思わなかったよ」
ため息と共に吐き出した言葉で
「俺のせいかも…きっと、近戸と俺が一緒にいるの気にくわないんだ」
明戸が申し訳無さそうな顔で謝ってきた。
「いや、そんなことないよ、プロが側に居てくれるから俺的には凄く心強いし」
流石に『2人で歩くの楽しいから』と言うセリフは心の内に飲み込んだ。
物心ついたときから、俺はずっと猫と一緒に暮らしていた。
その猫は黒猫なのに股間と前足の付け根に白い毛が生えている。
本当なら白黒猫になるのだろうが、黒猫飼いの間ではそれはエンジェルヘアーと呼ばれ神様からの贈り物とされていた。
そんな柄のため名前は白パンツ、通称白パン。
往年は体重6、5kgあった白パンも今はお爺ちゃんになり、4kgまで落ちてしまったので2回りは小さくなってしまった。
けれども態度がデカいため、あまり変わらないように見える。
ベッドやソファーで思いっきり伸びていると、人間が端によって座らないといけない状態だ。
未だにジャラシで遊ぶし、毛艶も良く食欲も旺盛で『年寄り猫』と言う感じはしなかった。
この猫は、ずっとずっと俺と一緒に居てくれると思っていた。
その白パンが脱走した。
家が国道に近く車の往来が激しい道が多いので完全室内飼いにしていたため、近隣の土地勘どころか家の外観も車の危険も知らない猫なので、家族はパニック状態になっていた。
「ただいまー」
大学に入学して初めてのGW、俺はバイトに明け暮れていた。
その日も朝からバイトで、帰宅したのは夜10時近かった。
「チカ!」
血相を変えたアニキが俺を出迎える。
「白パンが網戸破って脱走した」
それが意味をなした言葉として脳味噌に届くまで数秒かかった。
「何で?今まで網戸破った事なんて1度もないじゃん
庭に鳥や他の猫が来てたときだって、網戸の前で唸るだけだったし
誰か一緒に居なかったの?」
俺の言葉は少し非難めいたものになってしまう。
「父さんと母さんは買い物に行ってて、俺は部屋で仮眠してたんだ
今日のバイト、深夜帯だから
ガタガタ何かが鳴ってるな、とは思ってたんだけど
起きてリビング行ったら、網戸が破れてて白パンが居なくなってた…」
うなだれるアニキに
「誰かのベッドの中に居るってオチじゃないの?
前にあったじゃん、居なくなったと思って大騒ぎして家中探したら、ソファーに置いてあったアニキのジャケットの下から出てきたこと
あいつ、人間が自分を捜してるの隠れて見てるの好きだからなー」
何でもないことのように言おうとしたが、俺の語尾は震えていた。
「帰ってきた父さんと母さんと一緒に、家の中は散々探したけど見つからないんだ
網戸の破れ目に白パンの毛が付いてたから、あそこを潜(くぐ)って出て行ったとしか思えないよ
遠くには行ってないだろうと家の回りを探しまくって、隣近所の家の人にも声かけといた
でもまだ『見かけた』って連絡してくれた人はいないんだ」
アニキの暗い顔が現実を感じさせ、自分でも驚くほどの喪失感に襲われた。
「俺も、ちょっとその辺見てくる」
慌ててドアに向き直る俺に
「うん、でも夕飯食べてからにしときなよ
俺はもう、バイトに行かなきゃいけない時間なんだ
バイト先でも皆に聞いてみて、店長に迷い猫のポスター店に貼らせてもらえるか確認するよ
コンビニは近所の人が利用するし、効果高いと思うから」
アニキはそう言って、入れ違う形で表に出て行った。
俺は慌ただしく夕飯をかきこんだ。
食事しながら両親からも状況を聞き
「ごちそうさま」
食器を流しに置くと、すぐに白パンの捜索に向かった。
「白パン、パンツー、シロシロー」
夜間に大声を上げるには恥ずかしすぎる名前なので、俺は小声で囁いて呼びかけた。
闇夜にパンツ部分の白毛が見えないかと辺りを見回すも、猫が居るかどうかの判別も付かなかった。
2時間ほど探し回ったが発見できず、次の日も朝からバイトのため暗澹(あんたん)たる気持ちで家に帰る。
家に帰っても出迎えてくれる猫はおらず、翌朝は、いつもならご飯をねだりにくる猫が来ない。
それだけで、俺はもの凄い喪失感に襲われていた。
白パンを発見できないままGWが終わり、大学に行かなければいけない日が来てしまった。
ネットで検索してみたが、ペット探偵なるものは何だか胡散臭くて頼む気になれなかった。
遠くへは行っていないはずだと当たりを付けて、近隣の店にポスターを貼らせてもらいカリカリを携帯して家族で探し回る作戦にかけていた。
昼休みの時間、久しぶりに会う友達が食堂でGWをどう満喫したか報告しあっていた。
俺と違って、皆はエンジョイしていたようだ。
大学に入学してから出来た友達で付き合いの日数は短いが、お土産のお菓子を色々くれた。
皆、良い奴らなのだ。
『相談、してみようかな』
自分一人で考えていたため煮詰まっていた俺は、悩みを打ち明けたくなっていた。
同じ完全室内飼いをしている猫飼いの荒木なら違う視点からのアドバイスをくれるんじゃないかと、帰りに一緒に駅まで行くことにした。
荒木が俺の状況を聞いて、バイト先のペット探偵を派遣してくれることになった。
友達のバイト先からなら変な人は来ないだろう、そう思うと現金なものでプロの『ペット探偵』と言う肩書きが頼もしく感じられるのだった。
荒木と一緒に家に来てくれたペット探偵なる人物を見て、俺は心の内で盛大に驚いていた。
『凄いキレイな人!え?モデルとかじゃないよね』
すらりとしてしなやかな肢体、整った顔立ち。
中央で分けたストレートの黒髪の下から、健康的で好奇心旺盛な感じの輝く瞳が見えている。
その目が俺のことをじっと見つめてくるので、何だか照れくさい気持ちになっていた。
白いシャツ、黒いスーツ、ネクタイの色が青いのは珍しい気もしたが、彼には青色が似合っていた。
髪型と服の色味のせいだろうか、ちょっとトムキャット的なハチワレ猫を連想させる。
名前は『影森 明戸』(かげもり あけと)と言うそうだ。
俺の『近戸』(ちかと)という、名前としては珍しい字が使われているところがお揃いで、そんなささやかなことが何だか嬉しかった。
そのことに明戸も喜んでいるように見え、彼に対する好感度が上がっていく。
きちんとしている明戸を見て、ペット探偵を胡散臭く感じていた自分の視野の狭さが恥ずかしく感じられた。
家の前で自己紹介をすませ、明戸は白パンの捜索に出ることになった。
荒木が明戸と一緒に行くようだ。
未練がましく荒木と去っていく明戸を見つめる俺に
「私も手伝いたいので、庭に車を置かせてもらっていいですか」
車を運転してきたオカッパで優しそうな人が声をかけてきた。
名前は『石原 成』(いしわら なり)
しっぽやの所員ではないが、臨時の手伝い(主に運転手)をしているらしい。
ナリも猫を完全室内飼いしているので今回のことの重大さをわかってくれて、不思議な雰囲気の人だけど信頼できる感じだった。
荒木もそうだし、しっぽやと言うペット探偵会社は任せても安心なところだと、1人でキリキリしていた俺は気持ちが楽になった。
ナリと一緒に暫く近所を探していると、荒木から電話が入る。
『もう発見できたのか、明戸って本当に優秀なんだ
荒木が推すだけあるな』
そう思って電話に出たが、まだ発見できていない報告だった。
『プロが難航している』という状況に、荒木の家の猫の最後を思い出してしまう。
また気分が落ち込んできたが、荒木に皆で一緒にランチを食べて情報交換しないかと提案され、すぐに気持ちが浮上していった。
また明戸と話しが出来る、そのことが何だか嬉しかったのだ。
ファミレスの前で落ち合って店に入る。
明戸は俺の隣に座り、俺が頼むメニューと同じものを頼んでいた。
スープにご飯を入れて食べる話しをしたら、同じようにして食べている。
『人が食べてるもの食べたがるって、猫みたい』
そう感じると、俺より年上であろう明戸が可愛らしく感じられた。
それに、気のせいか俺を見る明戸の目は潤みがちで、頬が赤く染まっているのだ。
『さっきドリバのコーナーで俺のことを「格好良い」とか言ってくれてたけど…
いやいや、白パンの捜索で歩き回って火照(ほて)ってるだけだって
今日もけっこう暑いのに、スーツで歩き回らせて悪かったな
明日、また出直してもらった方が良いかも』
明戸の体調を心配しているのか、明日も明戸に会いたいだけなのか自分でも自分の気持ちが分からなくなってきた。
『いやいや、早く白パンみつけないとヤバいだろ、もう高齢なんだから
俺が浮かれてたせいで最悪な事態になることだけは避けたい』
そんな俺の決意を感じ取ったように、明戸はこの後も1人で捜索をすると言ってくれた。
荒木も手伝いたいと言ってくれたが、家の猫のためにこれ以上講義をサボらせるのは気が引けたので、バイクで学校まで送っていくことにした。
ナリはこの後、他の仕事が入っているから、結果的に明戸と2人で捜索することになった。
プロと一緒に猫を探せる安心感が欲しいのか、まだ明戸と一緒に居たいから彼だけを引き留めてしまったのか自分の感情が自分でも掴みきれなかった。
荒木もナリも俺と明戸が2人で行動することを明るい顔で快諾してくれたのが、心を見透かされたようで照れくさい気持ちになるのだった。
荒木を送って家に帰ると、明戸も丁度門を曲がって戻ってくるところだった。
『白パンは若い頃、俺が学校から帰ってくると玄関先まで出迎えてくれたっけ
それで2階から泣きながら階段降りてくると、可愛い感じでスタッカート入るんだよな』
俺はそんなことを思い出し、また白パンの年齢をヒシヒシと感じていた。
猫捜索の専門家、なんて聞いていたせいだろうか明戸といると白パンとの日々を思い出すことが多かった。
俺たちはその後、近所を再度探し回るも全く痕跡は発見できない。
「やっぱり、向こうも歩き回って移動してるんだね
最近じゃ、家のベッドかソファーで寝てる時間が多かったから、こんなにアクティブに行動してると思わなかったよ」
ため息と共に吐き出した言葉で
「俺のせいかも…きっと、近戸と俺が一緒にいるの気にくわないんだ」
明戸が申し訳無さそうな顔で謝ってきた。
「いや、そんなことないよ、プロが側に居てくれるから俺的には凄く心強いし」
流石に『2人で歩くの楽しいから』と言うセリフは心の内に飲み込んだ。