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しっぽや(No.174~197)

side<IZUMI>

ルームライトだけが灯る寝室、ベッドの上で久那が俺に濃厚なキスをしてくれる。
その情熱に煽られ、身体が急激に熱を持っていった。
「和泉…愛してる」
舌と共に愛の言葉が口腔に滑り込んでくる。
「久那、愛してる…、んん…」
漏れそうになる喘ぎを押さえ、俺も久那に囁き返す。
「和泉…」
久那がそっと体重をかけてきて俺をベッドに押し倒しすと、上から彼の長い髪が頬をくすぐった。

シャツのボタンを外され胸元を大きく開かれる。
俺が自らシャツを脱いで久那の前に剥き身の上半身を晒すと、彼の唇が首筋から喉、鎖骨、肩、胸へと移動していく。
唇と舌で刺激しながら俺の身体を貪る感触は、その後に身体を滑っていくなめらかな髪の感触とセットになっている。
胸の突起を口に含まれ転がすように刺激されて
「ふっ、あっ、久…那…」
俺はその動きを助けるように彼の頭に手を添えて、強く撫で回した。
柔らかい髪の感触が心地よかった。

「くっ、和泉…はっ…」
その行為に久那が激しく反応するのは、元が犬であったせいだろう。
ベルトを外され下着ごとズボンを脱がされると、久那の手が敏感な部分を包んでくる。
そのまま緩やかに上下にシゴかれて、俺の腰はその動きをさらに楽しむため自然と動き始めた。
「久那、久那、早くきて」
哀願の響きを帯びた俺の言葉に
「俺も早く一つになりたいよ」
上気した顔の久那が答え、そっと唇を併せてくれる。
頬に触れた髪は、興奮の汗で少し湿っていた。

そのまま久那に貫かれ、荒々しく揺さぶられる。
お互いの存在以外感じられなくなる歓喜の時間、俺達はただ相手と共に上りつめることだけを目指し気持ちを高ぶらせていった。
彼の手の動きが速まっていき、貫かれながら触れられている強い刺激で直ぐに限界に達してしまう。
俺が想いを放つと久那も動きを止め、俺の中に熱い想いを注ぎ込んでくれた。
想いが溢れても、それが枯れることはない。
愛しい半身と唇を合わせ先ほどの行為の余韻に浸りながら、俺達は抱き合っていた。


「今夜でこの髪とも暫くお別れだ」
俺は腕を伸ばして彼の長い髪に触れる。
久那と共に過ごした夜は、この髪に抱かれて眠るようなものだった。
「切らない方が良い?和泉が嫌ならこのままでいいよ
 俺は毛が短くなるってどんな感じか想像付かないし、和泉の望む姿でいるから」
彼は髪を撫でる俺の腕に口付けをし、愛おしそうに頬をすり寄せた。
「久那の髪を切って欲しいってカズハにお願いしたのは俺だよ
 抱かれる時は久那の髪が触れてくるのが気持ちいいけど、モデルの時は新鮮な久那を見るのが気持ちいいと思うんだ
 多分、冬には同じくらいの長さに生え揃うって言ってたし、惜しくはないよ
 最初に短くし過ぎると生え方が不自然に見えるかもしれないから、いきなり俺みたいなショートボブはお勧めできない、って忠告された」
苦笑して伝えたら
「和泉と同じ髪型、してみたかったんだけどなー」
少しむくれた顔をされてしまった。

「セミロングか、ナリより長い感じのロングになれば、って伝えたよ
 俺としては白に変わるグラデーションを残しておきたいしね
 それに思いっきりバッサリやるのは、カズハが久那の毛質に慣れてからの方が良い気もしてさ
 いきなり失敗されたら悲惨だもの」
「ゲンみたいな頭になったら、モデルが出来なくなる?
 モデル出来ないと和泉の役に立たない?」
心配そうな顔になる久那に
「そのために新しいデザインを考えるのも良いかな、とも思うけどね
 スキンヘッド、黒シリーズなら普通にいけそうだし」
俺は舌を出して答えた。
「帽子だけで何とかしようとすると浮くけど、全身コーデだったらありじゃないかって
 こんなことならゲンのコーデを、もっと真剣に考えてあげるべきだったな」
「和泉に新しくコーデして貰えるなら、スキンヘッドも悪くないかな」
俺達は顔を見合わせて笑いあった。

「カズハへのお礼、先渡しの松阪牛があるけどそれだけじゃ悪いし、色々買っていってカット終わったら空の部屋で夕飯にしよう
 化生の飼い主と飲める機会は貴重だからさ、何かと理由を付けて向こうに行きたくて
 カズハ、あんまりお酒強くないんだよね
 甘いフルーツワインなら飲んでくれるかな」
「黒谷情報では、空には大きいハムが受けが良いらしいよ
 明日は早めに仕事を切り上げて買い物してから影森マンションだね
 飼い主とのお買い物デート、俺も出来るんだ」
白久や黒谷に自慢されてうらやましかったのだろう、久那が満面の笑みで俺を抱きしめた。
「いつもはスタッフにお使い頼んじゃうもんな」
苦笑する俺に
「和泉は忙しいからね」
久那はそっと唇を合わせてきた。
彼の唇の感触で、静まった欲望に再び火がついていく。

「もう1回、久那の髪の感触を味わって良い?」
優しく髪を撫でて囁くと
「何度でも」
久那が頬を上気させて答える。

俺達は再び情熱に身を任せるべく、ベッドに沈み込んでいくのだった。




久那の髪に別れを惜しんだ翌日、俺達は計画通りに仕事を早めに切り上げデパートで色々買い込んで影森マンションに向かっていった。
歩いて移動するのは時間がかかっても、久那と一緒だと苦にならない。
それにスケジュールに押され車で移動するより、贅沢に時間を使っている気がした。

「最近の俺達、しっぽやへの配達業者みたいだ
 久しぶりに化生の飼い主が側にいる状況で浮かれてるっぽい」
思わず笑ってしまった俺に
「和泉が他の飼い主と上手く付き合えてるからだよ
 皆と仲良くできることは、集団の中では重要なことだ」
久那は真面目な顔な顔で答える。
「デザイナー業界では変わり者の俺も、化生の飼い主の中では普通だもんな
 気負わなくて良い場所があるのは、俺にとって大きな支えになるよ
 久那のこと真に自慢できる相手が居るのが1番大きいかな?
 久那がイメチェンしたらしっぽやに顔出しに行って、皆を驚かせよう」
「また、モデルとしての俺の価値が上がるね」
俺達は空の部屋にたどり着くまで、取りとめのない楽しい会話を続けていた。


ピンポーン

久那の気配で空には俺達が来たことは分かっているだろうが、礼儀としてチャイムを鳴らす。
直ぐにドアが開き空とカズハが俺達を迎え入れてくれた。

「今日はよろしくね、これお礼の第2弾
 カット終わったら宴会しよう!ここを宴会場代わりにしちゃって悪いけど
 フルーツワイン買ってきたんだ、これならカズハもいけるんじゃない?」
俺は買ってきたものを差し出した。
「わざわざありがとうございます
 ご期待に添えるカットが出来れば良いんですが」
モジモジしているカズハを安心させるため
「大丈夫、失敗したら空にうちの力仕事やらせて責任とらせるから」
俺はそう言ってウインクする。
「カズハの役に立てるんだ、嬉しいな、空?」
「マジ?俺、何でもやるよ
 愛玩犬だからモデルだって出来ると思うんだ」
飼い主の役に立てそうだとウキウキしている空に
「撮影機材全部運ばせたら、カメラマンの皆が楽できて良いね
 壊されなければ、だけど…」
久那が苦笑して呟いていた。

「空には、今日も仕事をして欲しいんだ」
俺は持ってきた袋の中身を取り出した。
「じゃじゃーん、丸ハム~」
両手に掲げ青いロボット猫のように言ってみる。
「おー!!2本もある」
空の瞳が輝いた。
「これを、カズハの仕事が終わるまでに調理しておくこと
 飼い主の好みに合わせるか、自分の好みに合わせるかは自由
 どうだ?できるか?」
2本のハムを受け取って
「やる!頑張る!2本一気に使って良いの?」
空は飼い主と俺の顔を交互に見比べている。
俺が頷くと
「空、2本分お願い
 和泉さん、ありがとうございます」
カズハは律儀に頭を下げた。
「こっちのツマミや飲み物は冷蔵庫に入れておいて
 今日の宴会幹事は、空にお任せだ
 テーブルの上を空のセンスで満たしておいてくれよ」
俺に言われ空は荷物を持つと、意気揚々とキッチンに消えていった。

「よし、これで空に余計な手出しをされる心配はなくなった」
「黒谷のハム情報、役に立ったね」
頷きあう俺と久那を見て、カズハは直ぐに察したようだ。
「責任重大だなー」
苦笑するカズハに
「カズハのセンスなら大丈夫、犬を磨き上げることには長(た)けてるもの
 店に置いてあったカット見本帳のカズハが担当した犬、決まってたよ」
俺は安心させるよう太鼓判を押した。


リビングは空が宴会の準備をしているので、カットはカズハの自室になる予定の部屋ですることにした。
まだ引っ越してきてないらしいが、本棚やテーブル、デスクが揃っている。
「ナリの引っ越しを手伝ったときに、少しずつ運んでおく方が楽だなって思って今から荷物を移動させてるんです
 最近はこっちに泊まることも多いし」
照れた顔で説明するカズハは、初々しい感じで微笑ましい。
『久那は荷物をアパートに置いてきたし、引っ越しなんて大仰なことはしなかったっけ
 久那が持ってきた物は俺が買ってあげた服だけだったな』
つい、自分と久那が同棲し始めた頃を思い出してしまった。

「じゃあ、久那、この椅子に座って」
カズハの指示で下に新聞紙が敷かれている椅子に久那が座る。
「流石にこれがないと服が毛だらけになるからね
 姉が両親の髪をカットをするときに使ってたの、貰っといて良かった」
カズハは久那の首にカット用のクロスを掛け
「写真が載ってる雑誌、見せてもらって良いですか」
そう俺に話しかけてきた。
俺は鞄からファッション誌を3冊取り出して、付箋が付いているページを示していく。
事前に電話して髪型候補を伝えてあるが、やはり写真を見せた方が分かりやすいだろう。
カズハは熱心に写真を見つめ、自分の中でイメージを作っている。
それは自分の中の感覚を形にしたいと思う、俺と同じクリエイターの顔だった。
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