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しっぽや(No.174~197)

俺達は飼い主に狼犬を無事に保護したことを電話で先に伝え、送り届けるため連れだってゾロゾロと歩いていた。
道行く人がチラチラ視線を送ってくる。
特に俺が注目されている気がした。

『全部俺の飼い犬だと思われてんだろうな
 狼犬2匹、ジャーマンシェパード、甲斐犬、柴犬連れた奴見かけたら、俺もガン見すると思う』
客観的に見ればボディーガードを連れた御曹司と言うより、犬に対して中二病をこじらせた痛い奴、だろう。
「公衆の面前で日野に触っていただくなど、とんでもない無作法者だ」
皆に諭され渋々ながら一緒に歩いている黒谷は、まだ納得がいかない様子でブツブツ文句を言っていた。
流石の狼犬も大きな犬種の強面化生に囲まれ、ノーリードでも大人しく歩いている。
時折耳が動くのは、黒谷の様子を伺っているようだった。


今更だが、俺は飼い主から借りていた狼犬の資料に目を通してみた。
「この犬、名前はアレキサンダーだって
 狼犬の名前って横文字で格好いいよね」
うっかり誉めてしまったことで、また黒谷の表情が険しくなる。
俺は慌てて話題を変えることにした。

「狼の血は75%だ、ってことは波久礼よりは犬に近いのか」
「そうですね、私は98%狼ですから
 三峰様にはその2%の犬の血があったからこそ、大事な人と巡り会えたのだとよく言われます
 君も犬の血があるからこそ人の側にいられることを自覚し、飼い主を困らせないよう勤めなさい」
アレキサンダーは軽く尻尾を振って、波久礼の言葉に応えていた。

「あっ!」
資料を見ていた俺は、思わず大声を上げてしまう。
「大丈夫ですか日野、舐められたところが痛むのですか?」
黒谷がすぐさま反応する。
「血統をたどると、アレキサンダーの犬の血ってシベリアン・ハスキーになってる
 そう言えばハスキーやマラミュート、シェパードなんかが狼犬の交配に使われるんだよね
 それで空はこいつのことブラザーとか呼んでたのか
 意志疎通もバッチリみたいだったし」
俺の言葉を聞いたとたん、波久礼がもの凄く嫌そうな顔でアレキサンダーを凝視した。
ほかの者もビミョーな顔で波久礼とアレキサンダーを見比べている。
黒谷ですら先ほどの怒りを忘れたように、同情的な視線を波久礼に向けていた。


「えーっと、今日はゲンさんのとこにでも泊まって、明日は帰る前に猫カフェ行って猫成分補充したらどう?
 ミイちゃんへの土産は、俺が買いに行ってくるからゆっくりしていきなよ」
「そうですね、ナリのところのバーマン兄妹も波久礼に会いたがってるとふかやが言ってました」
「荒木の家の猫のダイエット相談にのって欲しいってシロが言ってたっけ
 キャットタワーを組み立てたけど、上の段を使わないんだって」
「夕飯は、うちにカレー食いに来るか?今朝作っておいたから、味が馴染んで最高の状態になってるぜ
 桜ちゃんの好物だけど、特別に振る舞うよ」
何とか波久礼の気を紛らわせようと、皆で色々話しかけるが

「私の2%の犬の血は、まさか…、まさか……?」

当の本人は茫然自失のまま力なく呟き続けるのであった。
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