しっぽや(No.174~197)
side<ARAKI>
しっぽや事務所でのバイトの時間。
今日は犬の依頼が少ないのだが、犬の所員の姿も少なかった。
新しい試みを試してみている最中だったからだ。
先日、ふかやとナリが和泉さんのお母さんの保護犬活動を手伝ったことを切っ掛けにして、そちらの手伝いを依頼されたのだ。
劣悪な環境から救い出す、とは言え、そこで暮らしていた犬達にとって急に見知らぬ人間に見知らぬ場所に連れて行かれるのは相当なストレスだろう。
化生に間に入ってもらい説得してから移動すれば、少しはマシなのではないか、と言い出した和泉さんのアイデアを試してみているのだ。
他の犬と関係を築くのが上手い空と、ふかやが現場に行っていた。
事務所では俺と日野、黒谷と白久が『今後のしっぽやの展望』について議論している最中だ。
議論、と言うかお茶を飲みながらのいつもの歓談じみている気はするけれど、一応業務についての話し合いを意識していた。
「今回の保護、スムーズにいくと良いよな
ふかやはフレンドリーな犬種だし、空は物怖じしない性格なのが幸いしそうだしさ
俺達が免許取って足になれば、今後は移動も楽になるよ
新たな業務を増やすのも良いと思うんだ
特殊能力なくても現場を手伝えるの、嬉しいもんな」
日野が力説し、俺もブンブン首を振ってしまった。
後方支援も良いけれど、白久と共に仕事をしたいと言う思いがあったからだ。
「僕達としても、再び得た飼い主を愛することが出来て、大事にしていただけることが出来る、と保護された犬達に伝えたいです
一代一主の僕が言うのも何ですが、自分を必要としてくれる人間と、きっとまた巡り会える」
黒谷はそう言って愛おしそうに日野を見る。
「ペットの捜索以外にも、今は色々な形で人と獣の仲を取り持つことが出来るのですね
私達だけでは考えも及ばないことでした
荒木に飼っていただき新たな生活を学べばこそ、得られた知識
荒木は新しい風をもたらしてくれる自慢の飼い主です」
白久に熱い視線を向けられ、俺は恥ずかしくも嬉しい気持ちになっていた。
「ゲンさんにもそんなことを言われたけど、今回のは和泉さんが戻ってきてくれたことによって吹いた風だと思うよ
里親詐欺とかもあるし、保護した犬達の行く先を決めるのって責任重大じゃん
和泉さんのお母さんって凄く有名なデザイナーだから、その人経由で新しい里親になってくれた人はきちんとした人なんじゃないかな
今回の依頼では、出来る部分を皆で補って活動できたら良いな、って思った」
俺の言葉に皆はそろって頷いてくれた。
「変則的な依頼だったから最初は戸惑ったけどさ
当面は知り合い限定で、やれそうなこと色々やってみたいよな
さて、お茶のお代わり煎れてこようっと」
ソファーから立ち上がった日野が皆の湯飲みを集め出す。
「俺も手伝うよ」
そう言って立ち上がったタイミングで、振動音が聞こえてきた。
「荒木の物のようです」
マナーモードにしてあるのに、白久は直ぐに気が付いてくれる。
「電話?こっちは大丈夫だから出れば?
自動車学校からの連絡だったら俺にも教えて」
日野の言葉に甘え、俺はPCデスクに置いたスマホを慌てて手に持った。
画面に表示された着信の相手は、カズ先生の孫の弘一君だった。
『わざわざ電話?』訝しく思いながら画面をスワイプし
「もしもし?ラキに何かあった?」
一番ありそうな可能性を問いかけた。
『あの、荒木先輩ですか?ラキの事じゃないんですが、今って、お時間大丈夫ですか?』
緊張したような声が返ってくる。
「しっぽやでバイト中だから長話は出来ないけど、平気だよ」
そう答えると
『今、事務所なんですね、ちょうど良かった
しっぽやって捜索じゃない依頼を受け付けて貰えるのかなって思ったもので
あの、ペットシッター的な事って頼めますか?』
「個人的な知り合いのペットを預かることは可能かな」
以前、長瀞さんがタケぽんの猫を預かっていたことを思い出してそう答えた。
ラキは白久と知り合いで躾も完璧なため、何も問題は無さそうだ
「何日くらいラキを預かれば良い?白久の部屋で預かるよ
白久の仕事中は、事務所に居てもらえば良いし
あ、フードとペットシーツは持参してね」
自分の名前が話題に出ているため、白久は全神経を集中して俺に注目している。
『いえ、ラキじゃないんです
出張で犬の世話を頼みたくて、俺も一緒に行くから手伝って欲しいと言うか
あの、ラキを譲ってくれたブリーダーさんと爺ちゃん仲良くて、今でも交流あるんです
夫婦2人でやってるからあんまり頭数いないんですけど、旦那さんがぎっくり腰になっちゃったらしく
奥さん1人で面倒を見るのは大変だからしっぽやの人に手伝ってもらえないかって、爺ちゃんが言い出して
そこの息子さんが明後日から応援に来てくれるから、明日だけでも頼めないかと思ったんです』
弘一君の話は、まさに新たな風のような依頼であった。
依頼内容を復唱し、それを聞いている黒谷の態度を見ながら、俺は自分で弘一君の依頼を受けることにした。
『実際に秋田犬を飼ってる弘一君も一緒だし、犬の世話の手伝いなら出来る!』
タケぽんとは違う形だけどしっぽや実務を手伝えそうで、俺は燃えていた。
「あの…、私もご一緒してもよろしいでしょうか
料金は荒木の分だけ貰うことにして、私は無給で良いので」
白久がオドオドと問いかけてくる。
「そのブリーダーなるところには、子犬が8匹もいるとか
荒木が年若いもの達の方が魅力的だと気が付いてしまうかも
あのもの達は、ただ歩いているだけ、座っているだけ、眠っているだけで人間を虜に出来るのです」
白久の必死な言葉に
「シロ!分かる、痛いほどよく分かる!
僕も以前、偶然にも捜索の途中で甲斐犬の子を見たとき、同じ危機感を抱いたよ
1匹でもあの破壊力、それが8匹もいるなんて恐ろしい…
行きたまえシロ!君の方が荒木の役に立つところを見せるんだ」
黒谷はそう答え、2人はガッシリと手を握り合っていた。
「子犬より、成犬の方が役に立つことを立証してきます!」
「頼んだぞ!子犬は真っ直ぐに歩くことすら覚束(おぼつか)ない頼りない存在だと思い知らしめてきたまえ
ああ、しかしそこがまた、人間の庇護欲をそそるのだ」
自分達だってそんな稚(いとけな)い子犬時代があっただろうに、白久と黒谷は子犬に対して対抗心を燃やしていた。
妙な方向にテンションが高まって小芝居を続ける飼い犬を見ながら、俺と日野は逆に冷静になっていく。
「特殊能力無くても出来そうな仕事、知り合い限定で引き受けるのは有りだね
そうすれば、俺と日野もしっぽやで戦力になるじゃん」
「多角経営してかないと、依頼が来なかったときとか1件で時間がかかりすぎたときとか厳しいもんな
かといって、所員全員が子守に駆り出されたら肝心の捜索が出来ない
様子を見ながらバランスとって受け付けよう
HPには載せないで、知り合い限定サービス的な扱いでやってみるか」
「だな、ただ俺と日野がある程度、大学生活に慣れてからじゃないと厳しいか
最初はどれだけバイトに時間とれるか、わかんないし」
「とにかく、ブリーダーの所に手伝いに行ったら『やること、かかる時間、難易度』そんなことを教えてくれ
漠然としすぎてて、料金設定すら出来ないから」
「了解」
俺達だけで新業務について話をまとめていった。
白久と黒谷はと言うと、空からの中間報告の電話を受けて我に返っていた。
『ゴミ屋敷から犬の保護完了だぜ
現場に子犬も居るんだけど、こいつら俺のこと兄弟だと思ってんの
ほら、俺って小さくて可愛い愛玩犬じゃん?
一番のチビにするみたいに踏みつけてくるし、舐めてきて…やめろ、そこ、マジくすぐったい
髪、引っぱんなって』
受話器から空のゲラゲラ笑う声が響いている。
「子犬より破壊力のある奴が居たな…」
「精神年齢が近いので、空は子犬の保護には役立ちますね
警戒心を解いてくれます」
黒谷は電話をふかやに代わらせて、現場の状況を確認し指示を出していた。
俺と白久は翌日の仕事に向け、打ち合わせを始める。
「タケぽんみたいには手伝えないけど、2人で仕事できるの嬉しい
頑張ろうね」
「はい、荒木のお役に立てるよう頑張ります」
「まずはブリーダーさんの役に立たなきゃ、だよ
とりあえず、いつものスーツじゃなく汚れても良い服で行こう」
「何を選べばよいでしょうか、このような時は白ではない方が良いのですよね」
話し込む俺達を横目に
「黒谷と一緒に出来る実務の依頼、何か来ないかなー」
日野はソファーに座ってため息を吐いてみせるのであった。
翌日の朝。
カズ先生が事務所まで迎えに来てくれることになっていたため、俺と白久は大野原不動産の前で車の到着を待っていた。
白久が持っているバッグにコンビニで買い込んだ飲み物、スマホや財布、着替えを入れ準備万端であった。
すぐにカズ先生の車が俺達の側に停車した。
「2人とも、おはよう
変則的なこと依頼しちゃってすまなかったね、受けてもらえて助かったよ
ドア開けて、後ろに乗って」
カズ先生が窓越しに話しかけてきた。
「おはようございます、お役に立てるよう頑張ります!」
俺も挨拶を返しドアを開けると先に白久を乗せて、自分も乗り込んだ。
「おはようございます」
助手席から弘一君が挨拶してくる。
暫く会わなかったせいか、少し大人びて感じた。
「おはよ、今年3年だよね、来年は受験だ
もう学校決めたの?」
俺が聞くと
「荒木先輩の高校行きたいけど、家からだとちょっと遠くて迷ってます」
そんな答えが返ってくる。
「うん、まだやりたいこと決まってなければ、通学しやすいって言うのも大きいよ
うちを受けるなら今年2年の奴を紹介するから、色々聞いてみな」
俺はちょっと先輩風を吹かしてみせた。
「荒木先輩のアドバイスも欲しいです」
後輩から頼られるシチュエーションに、満更でもない気持ちになるのだった。
しっぽや事務所でのバイトの時間。
今日は犬の依頼が少ないのだが、犬の所員の姿も少なかった。
新しい試みを試してみている最中だったからだ。
先日、ふかやとナリが和泉さんのお母さんの保護犬活動を手伝ったことを切っ掛けにして、そちらの手伝いを依頼されたのだ。
劣悪な環境から救い出す、とは言え、そこで暮らしていた犬達にとって急に見知らぬ人間に見知らぬ場所に連れて行かれるのは相当なストレスだろう。
化生に間に入ってもらい説得してから移動すれば、少しはマシなのではないか、と言い出した和泉さんのアイデアを試してみているのだ。
他の犬と関係を築くのが上手い空と、ふかやが現場に行っていた。
事務所では俺と日野、黒谷と白久が『今後のしっぽやの展望』について議論している最中だ。
議論、と言うかお茶を飲みながらのいつもの歓談じみている気はするけれど、一応業務についての話し合いを意識していた。
「今回の保護、スムーズにいくと良いよな
ふかやはフレンドリーな犬種だし、空は物怖じしない性格なのが幸いしそうだしさ
俺達が免許取って足になれば、今後は移動も楽になるよ
新たな業務を増やすのも良いと思うんだ
特殊能力なくても現場を手伝えるの、嬉しいもんな」
日野が力説し、俺もブンブン首を振ってしまった。
後方支援も良いけれど、白久と共に仕事をしたいと言う思いがあったからだ。
「僕達としても、再び得た飼い主を愛することが出来て、大事にしていただけることが出来る、と保護された犬達に伝えたいです
一代一主の僕が言うのも何ですが、自分を必要としてくれる人間と、きっとまた巡り会える」
黒谷はそう言って愛おしそうに日野を見る。
「ペットの捜索以外にも、今は色々な形で人と獣の仲を取り持つことが出来るのですね
私達だけでは考えも及ばないことでした
荒木に飼っていただき新たな生活を学べばこそ、得られた知識
荒木は新しい風をもたらしてくれる自慢の飼い主です」
白久に熱い視線を向けられ、俺は恥ずかしくも嬉しい気持ちになっていた。
「ゲンさんにもそんなことを言われたけど、今回のは和泉さんが戻ってきてくれたことによって吹いた風だと思うよ
里親詐欺とかもあるし、保護した犬達の行く先を決めるのって責任重大じゃん
和泉さんのお母さんって凄く有名なデザイナーだから、その人経由で新しい里親になってくれた人はきちんとした人なんじゃないかな
今回の依頼では、出来る部分を皆で補って活動できたら良いな、って思った」
俺の言葉に皆はそろって頷いてくれた。
「変則的な依頼だったから最初は戸惑ったけどさ
当面は知り合い限定で、やれそうなこと色々やってみたいよな
さて、お茶のお代わり煎れてこようっと」
ソファーから立ち上がった日野が皆の湯飲みを集め出す。
「俺も手伝うよ」
そう言って立ち上がったタイミングで、振動音が聞こえてきた。
「荒木の物のようです」
マナーモードにしてあるのに、白久は直ぐに気が付いてくれる。
「電話?こっちは大丈夫だから出れば?
自動車学校からの連絡だったら俺にも教えて」
日野の言葉に甘え、俺はPCデスクに置いたスマホを慌てて手に持った。
画面に表示された着信の相手は、カズ先生の孫の弘一君だった。
『わざわざ電話?』訝しく思いながら画面をスワイプし
「もしもし?ラキに何かあった?」
一番ありそうな可能性を問いかけた。
『あの、荒木先輩ですか?ラキの事じゃないんですが、今って、お時間大丈夫ですか?』
緊張したような声が返ってくる。
「しっぽやでバイト中だから長話は出来ないけど、平気だよ」
そう答えると
『今、事務所なんですね、ちょうど良かった
しっぽやって捜索じゃない依頼を受け付けて貰えるのかなって思ったもので
あの、ペットシッター的な事って頼めますか?』
「個人的な知り合いのペットを預かることは可能かな」
以前、長瀞さんがタケぽんの猫を預かっていたことを思い出してそう答えた。
ラキは白久と知り合いで躾も完璧なため、何も問題は無さそうだ
「何日くらいラキを預かれば良い?白久の部屋で預かるよ
白久の仕事中は、事務所に居てもらえば良いし
あ、フードとペットシーツは持参してね」
自分の名前が話題に出ているため、白久は全神経を集中して俺に注目している。
『いえ、ラキじゃないんです
出張で犬の世話を頼みたくて、俺も一緒に行くから手伝って欲しいと言うか
あの、ラキを譲ってくれたブリーダーさんと爺ちゃん仲良くて、今でも交流あるんです
夫婦2人でやってるからあんまり頭数いないんですけど、旦那さんがぎっくり腰になっちゃったらしく
奥さん1人で面倒を見るのは大変だからしっぽやの人に手伝ってもらえないかって、爺ちゃんが言い出して
そこの息子さんが明後日から応援に来てくれるから、明日だけでも頼めないかと思ったんです』
弘一君の話は、まさに新たな風のような依頼であった。
依頼内容を復唱し、それを聞いている黒谷の態度を見ながら、俺は自分で弘一君の依頼を受けることにした。
『実際に秋田犬を飼ってる弘一君も一緒だし、犬の世話の手伝いなら出来る!』
タケぽんとは違う形だけどしっぽや実務を手伝えそうで、俺は燃えていた。
「あの…、私もご一緒してもよろしいでしょうか
料金は荒木の分だけ貰うことにして、私は無給で良いので」
白久がオドオドと問いかけてくる。
「そのブリーダーなるところには、子犬が8匹もいるとか
荒木が年若いもの達の方が魅力的だと気が付いてしまうかも
あのもの達は、ただ歩いているだけ、座っているだけ、眠っているだけで人間を虜に出来るのです」
白久の必死な言葉に
「シロ!分かる、痛いほどよく分かる!
僕も以前、偶然にも捜索の途中で甲斐犬の子を見たとき、同じ危機感を抱いたよ
1匹でもあの破壊力、それが8匹もいるなんて恐ろしい…
行きたまえシロ!君の方が荒木の役に立つところを見せるんだ」
黒谷はそう答え、2人はガッシリと手を握り合っていた。
「子犬より、成犬の方が役に立つことを立証してきます!」
「頼んだぞ!子犬は真っ直ぐに歩くことすら覚束(おぼつか)ない頼りない存在だと思い知らしめてきたまえ
ああ、しかしそこがまた、人間の庇護欲をそそるのだ」
自分達だってそんな稚(いとけな)い子犬時代があっただろうに、白久と黒谷は子犬に対して対抗心を燃やしていた。
妙な方向にテンションが高まって小芝居を続ける飼い犬を見ながら、俺と日野は逆に冷静になっていく。
「特殊能力無くても出来そうな仕事、知り合い限定で引き受けるのは有りだね
そうすれば、俺と日野もしっぽやで戦力になるじゃん」
「多角経営してかないと、依頼が来なかったときとか1件で時間がかかりすぎたときとか厳しいもんな
かといって、所員全員が子守に駆り出されたら肝心の捜索が出来ない
様子を見ながらバランスとって受け付けよう
HPには載せないで、知り合い限定サービス的な扱いでやってみるか」
「だな、ただ俺と日野がある程度、大学生活に慣れてからじゃないと厳しいか
最初はどれだけバイトに時間とれるか、わかんないし」
「とにかく、ブリーダーの所に手伝いに行ったら『やること、かかる時間、難易度』そんなことを教えてくれ
漠然としすぎてて、料金設定すら出来ないから」
「了解」
俺達だけで新業務について話をまとめていった。
白久と黒谷はと言うと、空からの中間報告の電話を受けて我に返っていた。
『ゴミ屋敷から犬の保護完了だぜ
現場に子犬も居るんだけど、こいつら俺のこと兄弟だと思ってんの
ほら、俺って小さくて可愛い愛玩犬じゃん?
一番のチビにするみたいに踏みつけてくるし、舐めてきて…やめろ、そこ、マジくすぐったい
髪、引っぱんなって』
受話器から空のゲラゲラ笑う声が響いている。
「子犬より破壊力のある奴が居たな…」
「精神年齢が近いので、空は子犬の保護には役立ちますね
警戒心を解いてくれます」
黒谷は電話をふかやに代わらせて、現場の状況を確認し指示を出していた。
俺と白久は翌日の仕事に向け、打ち合わせを始める。
「タケぽんみたいには手伝えないけど、2人で仕事できるの嬉しい
頑張ろうね」
「はい、荒木のお役に立てるよう頑張ります」
「まずはブリーダーさんの役に立たなきゃ、だよ
とりあえず、いつものスーツじゃなく汚れても良い服で行こう」
「何を選べばよいでしょうか、このような時は白ではない方が良いのですよね」
話し込む俺達を横目に
「黒谷と一緒に出来る実務の依頼、何か来ないかなー」
日野はソファーに座ってため息を吐いてみせるのであった。
翌日の朝。
カズ先生が事務所まで迎えに来てくれることになっていたため、俺と白久は大野原不動産の前で車の到着を待っていた。
白久が持っているバッグにコンビニで買い込んだ飲み物、スマホや財布、着替えを入れ準備万端であった。
すぐにカズ先生の車が俺達の側に停車した。
「2人とも、おはよう
変則的なこと依頼しちゃってすまなかったね、受けてもらえて助かったよ
ドア開けて、後ろに乗って」
カズ先生が窓越しに話しかけてきた。
「おはようございます、お役に立てるよう頑張ります!」
俺も挨拶を返しドアを開けると先に白久を乗せて、自分も乗り込んだ。
「おはようございます」
助手席から弘一君が挨拶してくる。
暫く会わなかったせいか、少し大人びて感じた。
「おはよ、今年3年だよね、来年は受験だ
もう学校決めたの?」
俺が聞くと
「荒木先輩の高校行きたいけど、家からだとちょっと遠くて迷ってます」
そんな答えが返ってくる。
「うん、まだやりたいこと決まってなければ、通学しやすいって言うのも大きいよ
うちを受けるなら今年2年の奴を紹介するから、色々聞いてみな」
俺はちょっと先輩風を吹かしてみせた。
「荒木先輩のアドバイスも欲しいです」
後輩から頼られるシチュエーションに、満更でもない気持ちになるのだった。