しっぽや(No.174~197)
side<NARI>
「はい、ナビがあるし大丈夫ですよ、…はい、…はい、分かりました
それでは木曜の朝に出勤して荷物を積んだら配達してきます」
スマホでの通話を終えた私は、ファミレスの扉の側から店内に戻っていった。
席ではふかやがソワソワしながら待っていてくれる。
戻った私を見て顔を輝かせる様は、本当に可愛らしかった。
「お店から電話だったんでしょ?忙しくなったのかな
帰った方が良い?
残念だけど、僕、ちゃんと『待て』出来るから、ナリが仕事終わるまで待ってるよ」
健気な愛犬の申し出に
「大丈夫、配達の仕事を頼まれただけだから
次の木曜日に、ちょっと遠出の配達依頼が入ったんだ
市内以外の配達って初めてだけど、1日かけて良いって言ってくれてるし余裕だと思う
良いお得意さんが出来たみたい
今日は予定通り海を見に行けるよ」
私は安心させるように答えた。
「やったー!」
ふかやは顔を輝かせた。
今日は仕事の休みを利用して、海までタンデムしようと前から楽しみにしていたのだ。
海で泳ぐにはまだまだ早いけど、飼い犬と一緒に海岸を散歩するなんて、考えるだけで楽しいシチュエーションだった。
まだ海の家や売店はやっていないことを見越して先に食事をしようと、ファミレスに入ったのだ。
「このお店、近所には無いけど和食メインで美味しいね
連れてきてくれてありがとう」
「季節メニューのホタルイカの天ぷらって珍しいよね、白エビの掻き揚げも
海鮮丼も豪勢だし、これから海に行くぞって気分が高まるよ」
私たちは海の幸に舌鼓を打っていた。
「そうそう、配達を頼んでくれたお客さんって、イサマ イズミなんだって
モッチーが好きな黒い服を手がけてるデザイナーさん
すごく気さくで良い人だって店長感激してたけど、彼って化生の飼い主だよね
荒木君と日野君が新店舗記念パーティーにお呼ばれしたって言ってたよ
ふかやは会ったことあるの?」
少し声のトーンを落として聞いてみる。
「僕は化生して日が浅いから、会ったことないんだ
久那ってコリーの化生の飼い主なんだって
三峰様のお屋敷にはよく来るみたいで、武衆の方が彼らには詳しいかも
お菓子とか、お土産色々買ってきてくれるみたい
餌付けされてる、って三峰様は笑ってた
人間嫌いだったソシオも、和泉の前には姿を現してたらしいよ
もっとも、何ヶ月もかかってやっと、って感じらしいけど」
「それは凄いね」
私は『有名デザイナー』と言うより『化生の飼い主』としての彼がどんな風に自分の化生と知り合って絆を深めたか、の方が気になっていた。
デザートでも追加しようか、と言うタイミングでスマホが着信を告げる振動を伝えてきた。
知らない番号が表示されている。
「ふかや、みつ豆頼んでおいて」
ふかやは頷いた後もメニューを見ていたが、神経がこちらに集中していることを感じていた。
『占い希望のお客さんかな』
そう思い、迷惑にならないよう再び店の外に移動しながら電話に出る。
「もしもし?」
『初めまして、石間 和泉と申します
こちら、石原 也様のお電話でよろしいでしょうか』
相手は今話題に上っていた、イサマ イズミその人だった。
「はい、そうです、初めまして
店長から配達依頼について伺っております
何か個別のご要望がおありでしょうか」
緊張しながら尋ねると
『いきなり電話してすいません、ウラに番号聞いてかけたんです
ずーずーしいお願いなんですけど、配達に行くときに俺と久那も一緒に乗せてってもらえますか?
久しぶりに母親に会いに行くのも良いかなって、思いついて
もちろんガソリン代とか高速料金、手数料はお支払いしますから
あ、久那っていうのは、その…』
少し言いよどむ彼に
「コリーですね」
私は先回りして答えた。
『はい、大きいけど細いから、空より邪魔にならないかと思います
頭の良さは段違いだし』
早速、飼い主バカ全開発言の彼に親しみを覚え
「プードルの頭の良さもかなりのものです」
私も言葉を返す。
『知ってます、昔、トイ・プードルを飼っていたから
愛情深く賢い、良い犬です』
昔を懐かしむような優しい声で答えられ、私はまだ見ぬ彼のことが一気に好きになっていた。
「店で待ち合わせてそのまま出発するかたちで大丈夫なら、9時半頃に来れそうですか?」
『大丈夫です、よろしくお願いします』
「それではお待ちしております」
通話を終えた私は新たな出会いにワクワクしていた。
席に戻るとふかやが何か言うより先に
「石間 和泉さんからの電話だったよ、配達に一緒に行きたいって」
私はそう報告する。
「相手の化生も一緒に?」
ふかやは伺うように上目遣いで聞いてくる。
「うん、ふかやも一緒に行く?
プードルに好意的な人だったから嫌がらないと思うよ」
「行く!後で黒谷に電話して、しっぽやは休みにしてもらう!」
こうして私たちは石間和泉さんと共に出かけることになった。
ちなみに、この日行った海も帰ってからベッドで過ごした時間も、2人にとってすてきな思い出の1ページになるのだった。
木曜日の朝、私とふかやは早めにペットショップに向かっていた。
水曜日のうちに店内に準備しておいた商品を、配達用として使っている自分の車に詰め込んだ。
将来的にはしっぽやで使用するため、大型犬用のクレートでも積めるようにと選んだ車種なので、大量の品物を何とか詰め込むことが出来た。
「ケージ類とか、大物があったらアウトだったかな」
大量買いのオマケとして試供品フードが詰め込まれたレジ袋を後部座席に置くと、配達先の住所をナビに打ち込んだ。
「ん?」
助手席に座っていたふかやが、何かに気が付いたように顔を上げる。
私もつられて顔を上げると、派手な人が目に飛び込んできた。
茶と白に染められている長い髪、細い体のラインがわかるジャケットは品が良いデザインでオーダーメードの物のようだ。
『英国紳士』
そんな言葉が頭をかすめるような人だった。
整った顔立ちから澄んだ瞳が真っ直ぐに私たちを見つめているのが分かる。
「僕には初めての気配だけど彼って化生だよ、久那ってコリーだ」
ふかやに教えてもらうまでもなく、その美しさは人外のものだった。
長身の化生の後ろから、猫の化生とさほど変わらない背丈の人が出てきた。
それはモッチーに見せてもらった雑誌に載っていた顔と、同じ顔だ。
「イサマ イズミ」
有名人の登場に、柄にもなく緊張してしまう。
しかしその有名人は
「おはようございます、石原さんですね
先日お電話した石間です、本日はよろしくお願いします」
運転席の私に向かい丁寧に頭を下げた後
「こっちは愛犬の久那、凄い綺麗でしょ
初めて会う人がいるときは、特に念入りにスタイリングするんだ」
いたずらっ子みたいな表情で声をひそめて囁いた。
自分の化生を見て驚いていた私に満足したらしい。
「石原です、ナリで良いですよ
皆、そう呼んでくれます」
「じゃあ、俺のことは和泉って呼んで
何度言っても、モッチーは俺のこと『先生』とか呼んでくるんだけどな」
有名人で私より年上のはずであったが、彼は気さくに話しかけてくれる。
店長が言っていた通りの人のようだった。
和泉は助手席に座っているふかやに気が付くと、何ともいえない優しい表情になった。
慈しむようにふかやを見つめている。
「君が、プードルのふかや?」
初めて会う犬を驚かせないような気配りが感じられる声音で、和泉は優しく語りかけていた。
「はい、スタンダード・プードルのふかやです」
ふかやが礼儀正しく答えると、和泉の笑みが深くなった。
「触っても良い?」
そう問いかけられたふかやは頷いて、撫でやすいよう車外に降り立った。
和泉は慣れた手つきでふかやの髪を撫でている。
焼き餅を焼くかと思った彼の化生も、何だか懐かしそうな瞳で2人を見つめていた。
「いきなりごめんね、以前飼ってたプードルの毛色に似てたからつい
うちの子はトイ・プードルだけど、やっぱり触り心地は一緒だね」
「ブルーベリーは、もう少し濃い毛色だったかな
彼女は直ぐに俺に懐いてくれたっけ
ストロベリーは気が強くて、ブルーがいつもなだめ役だった
血は繋がってなくても、良い姉妹だったね」
彼らは暫くふかやを見つめていたが
「時間とらせてごめん、出発しようか」
和泉がハッとしたように私に視線を送ってきた。
「そうですね、後部座席にどうぞ
袋の中の試供品はおまけです」
「好き嫌いとかアレルギーとかあるし、フードは最初にちょっとだけ試したいんだよね
色々入ってるの、ありがたいな
気に入ったのあったら、また注文させてもらうよ」
私たちは車に乗り込み、和泉の母親の犬舎に向かい出発した。
道中、お互いがどのようにして化生と知り合い飼うことになったのか、昔話で盛り上がった。
「最初に見たときはあまりにキレイで、ビックリしたよ
久那は派手だしね」
「ふかやは宗教画の天使みたいだと思いました
よく巻き毛の天使が描かれてるじゃないですか」
「そう言われてみると、天使っぽくもあるか
宗教モチーフはやったことないんだよな
面白そうだけど制約ありそうで、商品には出来ないし
個人的に楽しむ分には平気か」
「イサマ イズミが個人的に作った服、プレミアものじゃないですか」
そんな話をしている最中、クラシックが小さく流れた。
「失礼」
和泉が鞄からスマホを取り出し
「母親から」
小さくそう言うと電話に出た。
「今、そっち向かってる、久那も一緒
え?うん、うん…マジか…それは、酷いな
ああ、うん、俺と久那はもちろん手伝うよ
あと、ちょっと聞いてみる
男手はあった方がいいだろ?先に行って、少しでも連れてきといて
じゃあ、また」
通話を終えた和泉は沈痛な面持ちになる。
「ナリとふかや、時間ある?ちょっと手伝って欲しいことが出来た
今、母親のとこ、多頭飼育崩壊の現場に入ってるらしい」
和泉に告げられた言葉に、私は思わず息をのんでしまうのだった。
「はい、ナビがあるし大丈夫ですよ、…はい、…はい、分かりました
それでは木曜の朝に出勤して荷物を積んだら配達してきます」
スマホでの通話を終えた私は、ファミレスの扉の側から店内に戻っていった。
席ではふかやがソワソワしながら待っていてくれる。
戻った私を見て顔を輝かせる様は、本当に可愛らしかった。
「お店から電話だったんでしょ?忙しくなったのかな
帰った方が良い?
残念だけど、僕、ちゃんと『待て』出来るから、ナリが仕事終わるまで待ってるよ」
健気な愛犬の申し出に
「大丈夫、配達の仕事を頼まれただけだから
次の木曜日に、ちょっと遠出の配達依頼が入ったんだ
市内以外の配達って初めてだけど、1日かけて良いって言ってくれてるし余裕だと思う
良いお得意さんが出来たみたい
今日は予定通り海を見に行けるよ」
私は安心させるように答えた。
「やったー!」
ふかやは顔を輝かせた。
今日は仕事の休みを利用して、海までタンデムしようと前から楽しみにしていたのだ。
海で泳ぐにはまだまだ早いけど、飼い犬と一緒に海岸を散歩するなんて、考えるだけで楽しいシチュエーションだった。
まだ海の家や売店はやっていないことを見越して先に食事をしようと、ファミレスに入ったのだ。
「このお店、近所には無いけど和食メインで美味しいね
連れてきてくれてありがとう」
「季節メニューのホタルイカの天ぷらって珍しいよね、白エビの掻き揚げも
海鮮丼も豪勢だし、これから海に行くぞって気分が高まるよ」
私たちは海の幸に舌鼓を打っていた。
「そうそう、配達を頼んでくれたお客さんって、イサマ イズミなんだって
モッチーが好きな黒い服を手がけてるデザイナーさん
すごく気さくで良い人だって店長感激してたけど、彼って化生の飼い主だよね
荒木君と日野君が新店舗記念パーティーにお呼ばれしたって言ってたよ
ふかやは会ったことあるの?」
少し声のトーンを落として聞いてみる。
「僕は化生して日が浅いから、会ったことないんだ
久那ってコリーの化生の飼い主なんだって
三峰様のお屋敷にはよく来るみたいで、武衆の方が彼らには詳しいかも
お菓子とか、お土産色々買ってきてくれるみたい
餌付けされてる、って三峰様は笑ってた
人間嫌いだったソシオも、和泉の前には姿を現してたらしいよ
もっとも、何ヶ月もかかってやっと、って感じらしいけど」
「それは凄いね」
私は『有名デザイナー』と言うより『化生の飼い主』としての彼がどんな風に自分の化生と知り合って絆を深めたか、の方が気になっていた。
デザートでも追加しようか、と言うタイミングでスマホが着信を告げる振動を伝えてきた。
知らない番号が表示されている。
「ふかや、みつ豆頼んでおいて」
ふかやは頷いた後もメニューを見ていたが、神経がこちらに集中していることを感じていた。
『占い希望のお客さんかな』
そう思い、迷惑にならないよう再び店の外に移動しながら電話に出る。
「もしもし?」
『初めまして、石間 和泉と申します
こちら、石原 也様のお電話でよろしいでしょうか』
相手は今話題に上っていた、イサマ イズミその人だった。
「はい、そうです、初めまして
店長から配達依頼について伺っております
何か個別のご要望がおありでしょうか」
緊張しながら尋ねると
『いきなり電話してすいません、ウラに番号聞いてかけたんです
ずーずーしいお願いなんですけど、配達に行くときに俺と久那も一緒に乗せてってもらえますか?
久しぶりに母親に会いに行くのも良いかなって、思いついて
もちろんガソリン代とか高速料金、手数料はお支払いしますから
あ、久那っていうのは、その…』
少し言いよどむ彼に
「コリーですね」
私は先回りして答えた。
『はい、大きいけど細いから、空より邪魔にならないかと思います
頭の良さは段違いだし』
早速、飼い主バカ全開発言の彼に親しみを覚え
「プードルの頭の良さもかなりのものです」
私も言葉を返す。
『知ってます、昔、トイ・プードルを飼っていたから
愛情深く賢い、良い犬です』
昔を懐かしむような優しい声で答えられ、私はまだ見ぬ彼のことが一気に好きになっていた。
「店で待ち合わせてそのまま出発するかたちで大丈夫なら、9時半頃に来れそうですか?」
『大丈夫です、よろしくお願いします』
「それではお待ちしております」
通話を終えた私は新たな出会いにワクワクしていた。
席に戻るとふかやが何か言うより先に
「石間 和泉さんからの電話だったよ、配達に一緒に行きたいって」
私はそう報告する。
「相手の化生も一緒に?」
ふかやは伺うように上目遣いで聞いてくる。
「うん、ふかやも一緒に行く?
プードルに好意的な人だったから嫌がらないと思うよ」
「行く!後で黒谷に電話して、しっぽやは休みにしてもらう!」
こうして私たちは石間和泉さんと共に出かけることになった。
ちなみに、この日行った海も帰ってからベッドで過ごした時間も、2人にとってすてきな思い出の1ページになるのだった。
木曜日の朝、私とふかやは早めにペットショップに向かっていた。
水曜日のうちに店内に準備しておいた商品を、配達用として使っている自分の車に詰め込んだ。
将来的にはしっぽやで使用するため、大型犬用のクレートでも積めるようにと選んだ車種なので、大量の品物を何とか詰め込むことが出来た。
「ケージ類とか、大物があったらアウトだったかな」
大量買いのオマケとして試供品フードが詰め込まれたレジ袋を後部座席に置くと、配達先の住所をナビに打ち込んだ。
「ん?」
助手席に座っていたふかやが、何かに気が付いたように顔を上げる。
私もつられて顔を上げると、派手な人が目に飛び込んできた。
茶と白に染められている長い髪、細い体のラインがわかるジャケットは品が良いデザインでオーダーメードの物のようだ。
『英国紳士』
そんな言葉が頭をかすめるような人だった。
整った顔立ちから澄んだ瞳が真っ直ぐに私たちを見つめているのが分かる。
「僕には初めての気配だけど彼って化生だよ、久那ってコリーだ」
ふかやに教えてもらうまでもなく、その美しさは人外のものだった。
長身の化生の後ろから、猫の化生とさほど変わらない背丈の人が出てきた。
それはモッチーに見せてもらった雑誌に載っていた顔と、同じ顔だ。
「イサマ イズミ」
有名人の登場に、柄にもなく緊張してしまう。
しかしその有名人は
「おはようございます、石原さんですね
先日お電話した石間です、本日はよろしくお願いします」
運転席の私に向かい丁寧に頭を下げた後
「こっちは愛犬の久那、凄い綺麗でしょ
初めて会う人がいるときは、特に念入りにスタイリングするんだ」
いたずらっ子みたいな表情で声をひそめて囁いた。
自分の化生を見て驚いていた私に満足したらしい。
「石原です、ナリで良いですよ
皆、そう呼んでくれます」
「じゃあ、俺のことは和泉って呼んで
何度言っても、モッチーは俺のこと『先生』とか呼んでくるんだけどな」
有名人で私より年上のはずであったが、彼は気さくに話しかけてくれる。
店長が言っていた通りの人のようだった。
和泉は助手席に座っているふかやに気が付くと、何ともいえない優しい表情になった。
慈しむようにふかやを見つめている。
「君が、プードルのふかや?」
初めて会う犬を驚かせないような気配りが感じられる声音で、和泉は優しく語りかけていた。
「はい、スタンダード・プードルのふかやです」
ふかやが礼儀正しく答えると、和泉の笑みが深くなった。
「触っても良い?」
そう問いかけられたふかやは頷いて、撫でやすいよう車外に降り立った。
和泉は慣れた手つきでふかやの髪を撫でている。
焼き餅を焼くかと思った彼の化生も、何だか懐かしそうな瞳で2人を見つめていた。
「いきなりごめんね、以前飼ってたプードルの毛色に似てたからつい
うちの子はトイ・プードルだけど、やっぱり触り心地は一緒だね」
「ブルーベリーは、もう少し濃い毛色だったかな
彼女は直ぐに俺に懐いてくれたっけ
ストロベリーは気が強くて、ブルーがいつもなだめ役だった
血は繋がってなくても、良い姉妹だったね」
彼らは暫くふかやを見つめていたが
「時間とらせてごめん、出発しようか」
和泉がハッとしたように私に視線を送ってきた。
「そうですね、後部座席にどうぞ
袋の中の試供品はおまけです」
「好き嫌いとかアレルギーとかあるし、フードは最初にちょっとだけ試したいんだよね
色々入ってるの、ありがたいな
気に入ったのあったら、また注文させてもらうよ」
私たちは車に乗り込み、和泉の母親の犬舎に向かい出発した。
道中、お互いがどのようにして化生と知り合い飼うことになったのか、昔話で盛り上がった。
「最初に見たときはあまりにキレイで、ビックリしたよ
久那は派手だしね」
「ふかやは宗教画の天使みたいだと思いました
よく巻き毛の天使が描かれてるじゃないですか」
「そう言われてみると、天使っぽくもあるか
宗教モチーフはやったことないんだよな
面白そうだけど制約ありそうで、商品には出来ないし
個人的に楽しむ分には平気か」
「イサマ イズミが個人的に作った服、プレミアものじゃないですか」
そんな話をしている最中、クラシックが小さく流れた。
「失礼」
和泉が鞄からスマホを取り出し
「母親から」
小さくそう言うと電話に出た。
「今、そっち向かってる、久那も一緒
え?うん、うん…マジか…それは、酷いな
ああ、うん、俺と久那はもちろん手伝うよ
あと、ちょっと聞いてみる
男手はあった方がいいだろ?先に行って、少しでも連れてきといて
じゃあ、また」
通話を終えた和泉は沈痛な面持ちになる。
「ナリとふかや、時間ある?ちょっと手伝って欲しいことが出来た
今、母親のとこ、多頭飼育崩壊の現場に入ってるらしい」
和泉に告げられた言葉に、私は思わず息をのんでしまうのだった。