しっぽや(No.174~197)
side<HINO>
黒谷とデートを楽しんだ次の日のバイト中、俺と荒木は新たな化生と飼い主に会うことになった。
月さんと親しいと言うことは、それなりに長く化生を飼っている人なのだろう。
彼らがどのように出会って、どんな風に絆を深め化生を飼うことにしたのか、最初から黒谷の飼い主としての自覚しかなかった俺には気になるところだった。
先に事務所の控え室にやってきたのは、ラフ・コリーの化生の『久那(くな)』だ。
初見の化生の犬種を当てることが出来て、俺はホッとする。
昨日買った本に『映画の有名犬』のコーナーがあってパラ見していたし、黒谷が『ラッシー』と言うヒントをくれていたから判断が付いたのだ。
今までペットを飼ったことがなく、荒木やタケぽんに比べ知識が劣っていると感じていた俺にとっては嬉しい出来事であった。
暫くは控え室でひろせお手製クッキーと俺の淹れた紅茶を楽しんでいたが、久那の飼い主がしっぽやにやってきた。
久那にリードされ控え室に入って来た飼い主を見て、俺も荒木もどう反応して良いかわからなかった。
ナリのような髪型であるものの、その髪は柔らかく波打っている。
彼の長い睫に赤い唇は、西洋人形を思わせた。
長身の久那と並ぶとかなり小柄で、その整っている顔は老成しているように見えるが、荒木に『高学年用子供服のモデルにならないか』と声をかけた時には悪戯っぽい表情に変わっている。
月さんよりは若そうだけどゲンさんと比べるとどうなのか、何とも年齢不詳な人だった。
荒木は彼に近づいて、マジマジと頭頂部を見ていた。
いや、頭を見ているのではなく身長を測っているようだ。
荒木を指標にし、俺も彼の身長を割り出してみた。
『168cm前後ってとこだな、ここの猫達と似たり寄ったりか』
俺も荒木も飼い主の中では背が低いことを気にしていたので、160cm台の飼い主は大歓迎、と言ったところだった。
名乗りを上げた俺と荒木と同じように
「石間 和泉(いさま いずみ)、久那の飼い主です」
和泉さんも名乗りを上げる。
その口調や態度には『化生の飼い主である誇り』のようなものが感じられ、俺は一気に親しみがわいてきて彼を身近に感じる事ができた。
「ファッションデザイナーなんですね」
スポーツ系のメーカーならまだしも、ブランド服に興味がないのでまったく知らなかった。
荒木も同様だろう。
「まあ、学生向けって訳じゃないからね
ロンティとかならいけるかなって思って何種類か出してみたけど、反応今一だったし」
和泉さんは肩を竦めて見せた。
久那もそうなのだが『業界人っぽいワザトラシいオーバーアクション』が会話に時々挟まれてくる。
しかし化生の飼い主だと知っているので、それは嫌みなものではなく対外的なポーズなのだろうと察しが付くので逆に微笑ましかった。
「因みに、久那が着てるこのロンティで8000円なんだけど、どう思う?」
俺と荒木は困った顔を見合わせた。
久那が言っていたとおり背伸びすれば買えない額じゃ似けれど、正直その金額を出しても良いと思えるほど魅力的には感じなかった。
「ダメかー」
和泉さんは大きなため息を付いた。
「学生君には『ブランド』ってだけじゃ響かないんだよな
そもそもこれ、洗濯に強くて型くずれしにくいって母親に向けたコンセプトが大きいからさ
息子に買うには高かったかな」
考え込む和泉さんに
「流石にこの年になると、母親が買った服を着るとかないです
確かに、洗濯は母親任せだけど」
荒木がモジモジと口にする。
「俺も、大物以外は自分で買ってます
今はバイトしてるけど、前は普段着とかにあんまり出せる余裕無かったから、ブランド系はちょっと…」
俺の言葉で
「そっかー、しまったな、自分を基準にしたのが敗因か
俺ん家、ちょっと特殊だったんだ
貴重な意見、ありがとー」
和泉さんはハッとした顔になり、俺達に頭を下げてきた。
「あ、いや、全然、大したこと言えなくてすいません」
思わず俺達もペコペコと頭を下げていた。
「和泉のデザイン、ソシオの飼い主には好評だったじゃない」
久那が取りなすように言うと
「え?ゲンのとこの彼、ソシオの飼い主?ソシオ、飼い猫になれたの?
じゃあお祝いに新作でも一式プレゼントするか
俺達が離れてる間に、ここも変わったなー
新しい飼い主増えたみたいだしさ、喜ばしいことだ
でも、岩月兄さんとジョンは変わってないね」
和泉さんは懐かしそうに月さんを見た。
「和泉と違って、随分オジサンになったよ
和泉は最後に見たときと変わってなくて驚いた」
「かなり化粧で誤魔化してるからね、こーゆー職業なもんで」
ペロリと舌を出してみせる和泉さんは、それでも若々しく見えた。
「お前の親父さんみたいな天然若作りは、そうそういないみたいだぜ」
こっそり荒木に耳打ちすると
「親父には、顔より中身が大人になって欲しい」
憮然とした顔で答えるのだった。
俺も荒木も、和泉さんと久那の口からちょいちょいソシオの名前が出ることに気が付いていた。
ソシオは古い化生だが、今までミイちゃんの屋敷の外に出たことはなかったと聞いている。
「和泉さん、ソシオのこと前から知ってるんですか?」
同じ疑問を感じたのだろう、荒木がそう質問した。
「山の中のお屋敷って言うのが珍しくて、久那を飼ってからミイちゃんとこには何度も行ってたよ
でも、ソシオに初めて会えたのは7、8回目くらいだったかな
猫飼ってる友達に話には聞いてたけど、猫ってのは人見知りが激しいね
俺はそれまで犬しか飼ったこと無かったから、ちょっと新鮮な感じだったなー
犬とは兄妹みたいな仲でさ」
和泉さんが他の犬の話をし始めたせいか、久那がピッタリと大きな体を彼に寄せていった。
和泉さんは自然な動作で久那の手を軽く叩き、親愛を示している。
久那は直ぐに穏やかな顔に戻っていた。
『犬プロだ』
俺も荒木もその鮮やかな手並みに感服した。
「ソシオがパーカーが好きだから、何着かデザインしてみたっけ
でも、うちの客層には合わなくて、話題にはならなかったよ
ヤングカジュアルみたいなの、うちは弱くて
俺のデザインセンスのせいだと言われると、ぐうの音も出ないけど
うちの主力はメンズと、最近延びてきてる『お揃い物』かな
ペットとお揃い、親子でお揃い、楽しくデザインできてるせいかこっちは評判も上々
流れで雑貨にも手を出し始めたんだ」
「和泉はファッションデザイナーと言うより、マルチクリエイターって感じだよね
本当に凄いよ」
月さんに誉められ、和泉さんは照れくさそうな表情になった。
「昔はトガってたのに今は丸くなったしね
トガってるって言うより、高慢ちきって感じかな」
「岩月兄さん、それ若い子の前で言わないでよー
俺のしっぽやにおける黒歴史なんだから」
焦る和泉さんを見て、月さんは楽しそうに笑っている。
「大丈夫だよ、化生が選ぶって意味、この子達ちゃんと分かってるから
僕も分かってたから、和泉のことは苦手に思ってても嫌いになれなかった
きっと、久那が派手なコリーだからじゃなく、久那が久那だから飼ってくれるだろうって信じてたよ」
「岩月兄さんには適わないな」
苦笑する和泉さんは、会った当初よりずっと素直な人に見えた。
「控え室のクローゼットに入ってる服って、和泉さんが選んだって聞きました
白久は最近自分で選んだり俺が選んだりして新しい服買ってるけど、初めて会ったときはあの白スーツ、神秘的で凄く格好いいなって思ったんです
ちょっとビックリしたというか
皆の分の服、全部揃えてあげたんですか?」
荒木の疑問に
「うん、と言っても一気に揃えた訳じゃないけどね
それまでは秩父先生が見繕ってくれてたみたいなんだけど、お医者さんって、ほら、基本白衣羽織っちゃうから仕事着に無頓着なんだよ
化生も服のことはさっぱりわからないし
生前の毛色に近い色が落ち着くから、色が合ってれば良いや的な感覚で選んでて、野暮ったい服も多くて気になってたんだ
サイズも大きかったり小さかったりしてたしさ」
和泉さんは腕を組んで唸りながら答えていた。
「僕は布地はわかっても、デザイン関係はさっぱりだからね
最初は背広着てれば普通の人っぽく見えるだろう、って感じだったっけ
しっぽやが軌道に乗るまでは作業着みたいなの着てる事も多かったし」
月さんも苦笑を見せた。
「あれは洗うとき楽で良かったんだぜ
今は俺達がいるから、皆、楽してんだ
泥はねとか、全く気にしてないもんな」
ジョンに目を向けられ、俺と荒木は
「いつもお世話になってます…」
少し気まずい思いで頭を下げた。
「本職のファッションデザイナーにセレクトしてもらってたなんて、凄いな
俺が下手に選ぶより、これからもずっと選んでもらった方が良さそう
よろしくお願いします」
俺が頭を下げると
「飼い主が選んだ物の方が似合うと思うよ
親ばかのセンスは最高だから」
和泉さんは悪戯っぽくウインクして見せた。
「飼い主いない子用には、今まで通り年1回くらい見繕うよ
そうだ、クローゼットチェックさせてもらおうと思ってたんだっけ
ちょっと見せてね」
彼はそう言ってクローゼットの中身を見始めた。
「新しい服が随分増えたな…ふーん…ん?ああ、成る程、双子用か
へー良い感じじゃん、飼い主が選んだの?双子も飼い猫になれたんだ」
「あ、いや、多分それは大麻生の飼い主が揃えた奴だと思います」
俺は以前、ウラが双子のコーディネートをしていたことを思い出した。
「自分の化生以外に服を選んであげる、か」
和泉さんはどこか懐かしそうな顔になった。
「あの、良かったら和泉さんと久那のこと聞かせてください」
好奇心を抑えきれず俺が頼むと
「俺も知りたいです」
荒木も身を乗り出した。
「和泉と久那、話してあげたら?君達の絆を」
月さんに促され、ソファーに戻ってきた和泉さんは久那の隣に座り
「そうだな、先輩の昔話を聞かせてあげよう」
気障っぽくそう言うと、長い物語を語り始めるのだった。
黒谷とデートを楽しんだ次の日のバイト中、俺と荒木は新たな化生と飼い主に会うことになった。
月さんと親しいと言うことは、それなりに長く化生を飼っている人なのだろう。
彼らがどのように出会って、どんな風に絆を深め化生を飼うことにしたのか、最初から黒谷の飼い主としての自覚しかなかった俺には気になるところだった。
先に事務所の控え室にやってきたのは、ラフ・コリーの化生の『久那(くな)』だ。
初見の化生の犬種を当てることが出来て、俺はホッとする。
昨日買った本に『映画の有名犬』のコーナーがあってパラ見していたし、黒谷が『ラッシー』と言うヒントをくれていたから判断が付いたのだ。
今までペットを飼ったことがなく、荒木やタケぽんに比べ知識が劣っていると感じていた俺にとっては嬉しい出来事であった。
暫くは控え室でひろせお手製クッキーと俺の淹れた紅茶を楽しんでいたが、久那の飼い主がしっぽやにやってきた。
久那にリードされ控え室に入って来た飼い主を見て、俺も荒木もどう反応して良いかわからなかった。
ナリのような髪型であるものの、その髪は柔らかく波打っている。
彼の長い睫に赤い唇は、西洋人形を思わせた。
長身の久那と並ぶとかなり小柄で、その整っている顔は老成しているように見えるが、荒木に『高学年用子供服のモデルにならないか』と声をかけた時には悪戯っぽい表情に変わっている。
月さんよりは若そうだけどゲンさんと比べるとどうなのか、何とも年齢不詳な人だった。
荒木は彼に近づいて、マジマジと頭頂部を見ていた。
いや、頭を見ているのではなく身長を測っているようだ。
荒木を指標にし、俺も彼の身長を割り出してみた。
『168cm前後ってとこだな、ここの猫達と似たり寄ったりか』
俺も荒木も飼い主の中では背が低いことを気にしていたので、160cm台の飼い主は大歓迎、と言ったところだった。
名乗りを上げた俺と荒木と同じように
「石間 和泉(いさま いずみ)、久那の飼い主です」
和泉さんも名乗りを上げる。
その口調や態度には『化生の飼い主である誇り』のようなものが感じられ、俺は一気に親しみがわいてきて彼を身近に感じる事ができた。
「ファッションデザイナーなんですね」
スポーツ系のメーカーならまだしも、ブランド服に興味がないのでまったく知らなかった。
荒木も同様だろう。
「まあ、学生向けって訳じゃないからね
ロンティとかならいけるかなって思って何種類か出してみたけど、反応今一だったし」
和泉さんは肩を竦めて見せた。
久那もそうなのだが『業界人っぽいワザトラシいオーバーアクション』が会話に時々挟まれてくる。
しかし化生の飼い主だと知っているので、それは嫌みなものではなく対外的なポーズなのだろうと察しが付くので逆に微笑ましかった。
「因みに、久那が着てるこのロンティで8000円なんだけど、どう思う?」
俺と荒木は困った顔を見合わせた。
久那が言っていたとおり背伸びすれば買えない額じゃ似けれど、正直その金額を出しても良いと思えるほど魅力的には感じなかった。
「ダメかー」
和泉さんは大きなため息を付いた。
「学生君には『ブランド』ってだけじゃ響かないんだよな
そもそもこれ、洗濯に強くて型くずれしにくいって母親に向けたコンセプトが大きいからさ
息子に買うには高かったかな」
考え込む和泉さんに
「流石にこの年になると、母親が買った服を着るとかないです
確かに、洗濯は母親任せだけど」
荒木がモジモジと口にする。
「俺も、大物以外は自分で買ってます
今はバイトしてるけど、前は普段着とかにあんまり出せる余裕無かったから、ブランド系はちょっと…」
俺の言葉で
「そっかー、しまったな、自分を基準にしたのが敗因か
俺ん家、ちょっと特殊だったんだ
貴重な意見、ありがとー」
和泉さんはハッとした顔になり、俺達に頭を下げてきた。
「あ、いや、全然、大したこと言えなくてすいません」
思わず俺達もペコペコと頭を下げていた。
「和泉のデザイン、ソシオの飼い主には好評だったじゃない」
久那が取りなすように言うと
「え?ゲンのとこの彼、ソシオの飼い主?ソシオ、飼い猫になれたの?
じゃあお祝いに新作でも一式プレゼントするか
俺達が離れてる間に、ここも変わったなー
新しい飼い主増えたみたいだしさ、喜ばしいことだ
でも、岩月兄さんとジョンは変わってないね」
和泉さんは懐かしそうに月さんを見た。
「和泉と違って、随分オジサンになったよ
和泉は最後に見たときと変わってなくて驚いた」
「かなり化粧で誤魔化してるからね、こーゆー職業なもんで」
ペロリと舌を出してみせる和泉さんは、それでも若々しく見えた。
「お前の親父さんみたいな天然若作りは、そうそういないみたいだぜ」
こっそり荒木に耳打ちすると
「親父には、顔より中身が大人になって欲しい」
憮然とした顔で答えるのだった。
俺も荒木も、和泉さんと久那の口からちょいちょいソシオの名前が出ることに気が付いていた。
ソシオは古い化生だが、今までミイちゃんの屋敷の外に出たことはなかったと聞いている。
「和泉さん、ソシオのこと前から知ってるんですか?」
同じ疑問を感じたのだろう、荒木がそう質問した。
「山の中のお屋敷って言うのが珍しくて、久那を飼ってからミイちゃんとこには何度も行ってたよ
でも、ソシオに初めて会えたのは7、8回目くらいだったかな
猫飼ってる友達に話には聞いてたけど、猫ってのは人見知りが激しいね
俺はそれまで犬しか飼ったこと無かったから、ちょっと新鮮な感じだったなー
犬とは兄妹みたいな仲でさ」
和泉さんが他の犬の話をし始めたせいか、久那がピッタリと大きな体を彼に寄せていった。
和泉さんは自然な動作で久那の手を軽く叩き、親愛を示している。
久那は直ぐに穏やかな顔に戻っていた。
『犬プロだ』
俺も荒木もその鮮やかな手並みに感服した。
「ソシオがパーカーが好きだから、何着かデザインしてみたっけ
でも、うちの客層には合わなくて、話題にはならなかったよ
ヤングカジュアルみたいなの、うちは弱くて
俺のデザインセンスのせいだと言われると、ぐうの音も出ないけど
うちの主力はメンズと、最近延びてきてる『お揃い物』かな
ペットとお揃い、親子でお揃い、楽しくデザインできてるせいかこっちは評判も上々
流れで雑貨にも手を出し始めたんだ」
「和泉はファッションデザイナーと言うより、マルチクリエイターって感じだよね
本当に凄いよ」
月さんに誉められ、和泉さんは照れくさそうな表情になった。
「昔はトガってたのに今は丸くなったしね
トガってるって言うより、高慢ちきって感じかな」
「岩月兄さん、それ若い子の前で言わないでよー
俺のしっぽやにおける黒歴史なんだから」
焦る和泉さんを見て、月さんは楽しそうに笑っている。
「大丈夫だよ、化生が選ぶって意味、この子達ちゃんと分かってるから
僕も分かってたから、和泉のことは苦手に思ってても嫌いになれなかった
きっと、久那が派手なコリーだからじゃなく、久那が久那だから飼ってくれるだろうって信じてたよ」
「岩月兄さんには適わないな」
苦笑する和泉さんは、会った当初よりずっと素直な人に見えた。
「控え室のクローゼットに入ってる服って、和泉さんが選んだって聞きました
白久は最近自分で選んだり俺が選んだりして新しい服買ってるけど、初めて会ったときはあの白スーツ、神秘的で凄く格好いいなって思ったんです
ちょっとビックリしたというか
皆の分の服、全部揃えてあげたんですか?」
荒木の疑問に
「うん、と言っても一気に揃えた訳じゃないけどね
それまでは秩父先生が見繕ってくれてたみたいなんだけど、お医者さんって、ほら、基本白衣羽織っちゃうから仕事着に無頓着なんだよ
化生も服のことはさっぱりわからないし
生前の毛色に近い色が落ち着くから、色が合ってれば良いや的な感覚で選んでて、野暮ったい服も多くて気になってたんだ
サイズも大きかったり小さかったりしてたしさ」
和泉さんは腕を組んで唸りながら答えていた。
「僕は布地はわかっても、デザイン関係はさっぱりだからね
最初は背広着てれば普通の人っぽく見えるだろう、って感じだったっけ
しっぽやが軌道に乗るまでは作業着みたいなの着てる事も多かったし」
月さんも苦笑を見せた。
「あれは洗うとき楽で良かったんだぜ
今は俺達がいるから、皆、楽してんだ
泥はねとか、全く気にしてないもんな」
ジョンに目を向けられ、俺と荒木は
「いつもお世話になってます…」
少し気まずい思いで頭を下げた。
「本職のファッションデザイナーにセレクトしてもらってたなんて、凄いな
俺が下手に選ぶより、これからもずっと選んでもらった方が良さそう
よろしくお願いします」
俺が頭を下げると
「飼い主が選んだ物の方が似合うと思うよ
親ばかのセンスは最高だから」
和泉さんは悪戯っぽくウインクして見せた。
「飼い主いない子用には、今まで通り年1回くらい見繕うよ
そうだ、クローゼットチェックさせてもらおうと思ってたんだっけ
ちょっと見せてね」
彼はそう言ってクローゼットの中身を見始めた。
「新しい服が随分増えたな…ふーん…ん?ああ、成る程、双子用か
へー良い感じじゃん、飼い主が選んだの?双子も飼い猫になれたんだ」
「あ、いや、多分それは大麻生の飼い主が揃えた奴だと思います」
俺は以前、ウラが双子のコーディネートをしていたことを思い出した。
「自分の化生以外に服を選んであげる、か」
和泉さんはどこか懐かしそうな顔になった。
「あの、良かったら和泉さんと久那のこと聞かせてください」
好奇心を抑えきれず俺が頼むと
「俺も知りたいです」
荒木も身を乗り出した。
「和泉と久那、話してあげたら?君達の絆を」
月さんに促され、ソファーに戻ってきた和泉さんは久那の隣に座り
「そうだな、先輩の昔話を聞かせてあげよう」
気障っぽくそう言うと、長い物語を語り始めるのだった。