しっぽや(No.174~197)
控え室の扉の先には、背の高い化生がいた。
空と変わらない背丈だけど、空よりずっと細身でスリムだった。
顔つきも空より優雅で優しそうだ。
茶色い頭髪は首の下辺りから白に変わり、サラサラと長く流れている。
一部はコートの襟元に付いている白い毛皮と混じり、モデルのようなとてもゴージャスな雰囲気を醸し出していた。
その長い髪の先端はまた茶色の毛に戻っている。
長瀞さんやひろせと言った長毛種の猫を見慣れてはいたが、それとは違うスリムなのにズッシリとした感じ。
『犬?だよな?サイベリアンやメインクーンでもあそこまで大きくないだろうし、顔つきもイケメンだけど煌びやかじゃない
長毛の犬…?アフガンハウンドとかサルーキ?あんなにはっきり茶色い毛色だったっけ』
混乱する俺の横で
「ああ!そうか!ラフ・コリーだ
黒谷がラッシーって言ってたのに、何で気が付かなかったんだ」
日野が叫んだ。
言われて俺も気が付いた。
「成る程、コリーか」
呆然とする俺達に『久那』はニッコリ笑いかけ
「GOOD!」
少し気取った声でそう言った。
「凄いね、ちゃんとラフ・コリーって言ってくれるなんて
ここの犬達はざっくりと『コリー』としか言ってくれないんだ
まあ、あの映画のせいで昔はコリーと言えばラフ・コリーの事だったけど」
久那は少し肩を竦めて見せた。
「昨日、犬の図録を見てたからわかったんだ
今もコリーと言えばラフ・コリーって感じだよ
後はボーダーコリーが有名かな
日本の住宅事情だとコリーよりシェルティが主流かも」
日野はスラスラと答えている。
日野がその本を事務所に持ってきてくれたら、俺もきちんと読んでおこうと決意した。
「ラフ・コリーの化生『久那』です
よろしくね、新しい飼い主さん達」
久那が頭を下げると、長く柔らかそうな髪がフワッと広がった。
「黒谷の飼い主の寄居 日野です」
「白久の飼い主の野上 荒木です」
俺達も慌てて頭を下げる。
「ん?黒谷と白久の飼い主は、大学生になるって言ってなかたっけ?
君達若く見えるね、高学年用子供服のモデルでもいけそう」
悪気はないのだろう笑いながら言う久那の言葉に、俺も日野もひきつった笑顔を向けるしかないのだった。
「久しぶり、久那
相変わらず洗いにくそうな服を着てるね」
月さんが苦笑気味に挨拶すると
「そうでもないよ、このフェイクファーは外せるんだ
和泉が本物の毛皮を使う野蛮人だと思わないでね
ほら、普通にいけるだろ?」
久那はコートを脱いでタグを月さんとジョンに見せていた。
コートの下は長袖Tシャツにジーンズという、とてもラフな格好だ。
それもまた、彼には似合っていた。
Tシャツとは言えブランド物なのか、デザインされた『I(アイ)』が2個並んでいるロゴが入っている。
『知らないブランドだけど俺の着ている物の、4、5着分の金額したりして…
飼い主さん、ウラみたいに飼い犬を飾り立てたがる人なのかも』
その気持ちは最近の俺にも分かってきていた。
「久那は何を飲む?和洋中なんでもあるよ
お茶請けもどうぞ」
そう聞くと
「これが噂の『喫茶しっぽや』か、大麻生に聞いてるよ
新入り猫がクッキー焼いたりしてんだろ?これがそう?
よし、先輩が味見してやろう
クッキーには紅茶かな、アールグレイをお願いするよ」
久那は静にソファーに腰掛けた。
「俺が淹れるよ、俺達の分も一緒にな
タケぽんよりうまく淹れられるか自信ないけど」
日野が俺にウインクして流しに向かう。
月さん達へのお茶は俺が煎れたので、次は自分の番だと言っているようだった。
「最近は白久もお菓子を作って持ってきたりするんだよ
和のアレンジが凄い、って誉められてる
俺の口に合うようにって色々考えてくれてて、美味しいよ」
ちょっと照れくさく感じながらそう教えると、久那は口をあんぐり開けた。
「白久が?あの、果報は寝て待ての白久が?寝てて果報が来ても気付かなそうな白久が?
双子と長瀞が『猫用布団』と大絶賛してた白久が?
飼い主のためにお菓子作り!
凄いね荒木、どうやって躾たの」
あまりな言われようだったけど心底驚いている様子を見ると、バカにしている感じではなかった。
「いや、躾てはいないけど
俺が美味しそうに食べるのが嬉しいって言ってくれてさ」
俺の答えで久那の顔が優しくなった。
「そうか、うん、そうだね
飼い主の役に立つこと、それは犬にとっての誇りと喜び
ついに白久もそれを手に入れたんだ、良かった」
微笑む久那を見て、彼が白久のことを心配してくれていたことがわかり嬉しくなる。
「久那も、飼い主の役に立ちたいって思ってる?」
「もちろん!そして、実際とても役に立っている」
彼は俺の問いに誇らかに顔を輝かせて答えるのであった。
「どうぞ」
日野が紅茶の入ったカップを久那と俺の前に置き、俺の隣に座った。
「ありがとう」
久那は優雅な動作でクッキーを口にする。
「新人猫お手製アイスボックスクッキーか、キレイに出来てるし味のバランスも食感も良い
良いセンスをしてるようだね」
久那の言葉に
『ひろせ、新人と言うには馴染みすぎてるんだけど
俺にとってはソシオの方が新人っぽく感じるな
でもソシオは古い化生だから、化生の中では古株扱いなのか』
ついそんなことを考えてしまう。
日野を横目で見ると、同じように何とも言えない表情をしていた。
そんな俺達の顔を読んだのか
「俺は大麻生と同じ時期に、ここに来たんだ
映画に出ていた犬と同じ犬種だって、ちょっとは騒がれたよ」
久那はそう言ってウインクして見せた。
「もっとも、本職の警察犬だった『刑事犬』大麻生に比べれば、俺にはこれといって得意な事が無かったけどね
日本のドラマとアメリカの映画って違いもあって、大麻生の方が他の奴らにはより身近なスター犬に感じられたんじゃないかな
だからと言って、仲間外れみたいな扱いを受けた訳じゃない
俺も普通に馴染んでたよ
飼い犬になって飼い主の仕事の補佐をするまでは、しっぽやで迷子犬を探してたしさ」
久那は紅茶を飲んで『良い香りだね、好みのフレーバーだ』と微笑んだ。
「飼い主さんって有名な人なんですか?モッチーがファンだとか」
日野がためらいがちに口にする。
それは俺も気になっていたところだった。
「ファッションデザイナーだよ
まあ、ファッションだけじゃなく何でもデザイナー、って感じかな
こだわり屋だし、色々自分でやりたがるんだ」
飼い主の話題になったせいか、久那の表情は幸せそうに和らいでいた。
「この服も和泉のデザインなんだけど、知らない?
そんなに高くないから、学生でも背伸びすれば買えると思うよ
『IZUMI・ISAMA』
ダブル『I』なんて呼ばれ方もするかな
俺の飼い主、石間 和泉(いさま いずみ)って言うんだ」
そう教えてもらっても、俺にはピンとこなかった。
「うーん」
日野も同じようなもので、少し困った顔をしていた。
「最近は雑貨のデザインもしてるんだけどなー
特集されてる雑誌、持ってくれば良かった
飼い主とお揃いコーデ、ってペット用の服もデザインしててさ
俺、たまにペットコーナーのモデルやってんだ
もちろんこの体だから飼い主用の服を着てね」
久那は悪戯っぽく笑った。
「モデル!だから動作が優雅に見えるのか」
俺はやっと合点がいった。
「和泉が店を出して俺はその手伝いのためここから遠い街で暮らすことにしたんだ、それが8年前のこと
しっぽやから遠ざかってたせいで、今は何だか浦島太郎になった気分だよ
俺の知らない新しい化生や飼い主が沢山いる
でも、知った顔も居る
ジョン、岩月、久しぶり」
久那に親しげな視線を向けられ
「和泉の活躍、メディアでチェックしてたよ
すっかり有名人だね」
月さんはニッコリ笑ってそう言った。
「あ、和泉が来た」
久那が顔を輝かせて立ち上がり控え室から出ていくと
「ここに置いてある服、和泉が用意してくれた物が多いんだ
飼い主が居ない化生は、どんな服を買えばいいかよく分からないから
それに、僕の店でも洗いやすそうな素材を選んで貰ってるから助かってるんだ」
月さんが教えてくれた。
以前白久は『事務所のクローゼットに入っている服を適当に着ている』と言っていたが、サイズや色合いがここにいる化生に似合っていると思っていた。
ゲンさんが用意しているのかと思っ
ていたのだが
「ファッションデザイナーが選んでたのか」
俺と日野は驚きと共に納得した。
控え室の扉が開き、久那に手を取ってリードされながら和泉さんが入ってきた。
何だかファッションショーの最後にモデルに囲まれてデザイナーが歩いているようだった。
ナリのような髪型だけど、髪がウェーブしているので全く違った印象を与えている。
意志の強そうな瞳が印象的な整った顔立ち、でも、いくつくらいの人なのか年齢不詳だった。
長身の久那と並んでいる為にとても小柄に見えるのも、年齢不詳に拍車をかけていた。
『いや、小柄に見えるとかじゃない』
俺は思わず立ち上がって和泉さんに近づいていった。
『この人、親父と同じくらいの身長だ!ってことは俺と3cm前後しか違わない』
不躾にジロジロと見つめてしまった俺に
「君、可愛い顔立ちだね、高学年用子供服のモデルやってみない?」
彼も失礼なことを言うのだった。
「和泉、荒木君はこう見えて春から大学生なんだよ」
月さんがやんわりと窘(たしな)めて(?)くれる。
「大学生?もしかして白久の飼い主?
3年寝太郎よりも寝てる白久が、よくこんな可愛い子発掘出来たね」
呆れたような和泉さんに
「でも、和泉の方がもっと可愛いよ」
久那がすかさずそう言った。
和泉さんは少し照れたように久那の手を撫で
「失礼、石間 和泉、久那の飼い主です」
俺に誇らかに宣言する。
それが新たな先輩飼い主との初対面になるのだった。
空と変わらない背丈だけど、空よりずっと細身でスリムだった。
顔つきも空より優雅で優しそうだ。
茶色い頭髪は首の下辺りから白に変わり、サラサラと長く流れている。
一部はコートの襟元に付いている白い毛皮と混じり、モデルのようなとてもゴージャスな雰囲気を醸し出していた。
その長い髪の先端はまた茶色の毛に戻っている。
長瀞さんやひろせと言った長毛種の猫を見慣れてはいたが、それとは違うスリムなのにズッシリとした感じ。
『犬?だよな?サイベリアンやメインクーンでもあそこまで大きくないだろうし、顔つきもイケメンだけど煌びやかじゃない
長毛の犬…?アフガンハウンドとかサルーキ?あんなにはっきり茶色い毛色だったっけ』
混乱する俺の横で
「ああ!そうか!ラフ・コリーだ
黒谷がラッシーって言ってたのに、何で気が付かなかったんだ」
日野が叫んだ。
言われて俺も気が付いた。
「成る程、コリーか」
呆然とする俺達に『久那』はニッコリ笑いかけ
「GOOD!」
少し気取った声でそう言った。
「凄いね、ちゃんとラフ・コリーって言ってくれるなんて
ここの犬達はざっくりと『コリー』としか言ってくれないんだ
まあ、あの映画のせいで昔はコリーと言えばラフ・コリーの事だったけど」
久那は少し肩を竦めて見せた。
「昨日、犬の図録を見てたからわかったんだ
今もコリーと言えばラフ・コリーって感じだよ
後はボーダーコリーが有名かな
日本の住宅事情だとコリーよりシェルティが主流かも」
日野はスラスラと答えている。
日野がその本を事務所に持ってきてくれたら、俺もきちんと読んでおこうと決意した。
「ラフ・コリーの化生『久那』です
よろしくね、新しい飼い主さん達」
久那が頭を下げると、長く柔らかそうな髪がフワッと広がった。
「黒谷の飼い主の寄居 日野です」
「白久の飼い主の野上 荒木です」
俺達も慌てて頭を下げる。
「ん?黒谷と白久の飼い主は、大学生になるって言ってなかたっけ?
君達若く見えるね、高学年用子供服のモデルでもいけそう」
悪気はないのだろう笑いながら言う久那の言葉に、俺も日野もひきつった笑顔を向けるしかないのだった。
「久しぶり、久那
相変わらず洗いにくそうな服を着てるね」
月さんが苦笑気味に挨拶すると
「そうでもないよ、このフェイクファーは外せるんだ
和泉が本物の毛皮を使う野蛮人だと思わないでね
ほら、普通にいけるだろ?」
久那はコートを脱いでタグを月さんとジョンに見せていた。
コートの下は長袖Tシャツにジーンズという、とてもラフな格好だ。
それもまた、彼には似合っていた。
Tシャツとは言えブランド物なのか、デザインされた『I(アイ)』が2個並んでいるロゴが入っている。
『知らないブランドだけど俺の着ている物の、4、5着分の金額したりして…
飼い主さん、ウラみたいに飼い犬を飾り立てたがる人なのかも』
その気持ちは最近の俺にも分かってきていた。
「久那は何を飲む?和洋中なんでもあるよ
お茶請けもどうぞ」
そう聞くと
「これが噂の『喫茶しっぽや』か、大麻生に聞いてるよ
新入り猫がクッキー焼いたりしてんだろ?これがそう?
よし、先輩が味見してやろう
クッキーには紅茶かな、アールグレイをお願いするよ」
久那は静にソファーに腰掛けた。
「俺が淹れるよ、俺達の分も一緒にな
タケぽんよりうまく淹れられるか自信ないけど」
日野が俺にウインクして流しに向かう。
月さん達へのお茶は俺が煎れたので、次は自分の番だと言っているようだった。
「最近は白久もお菓子を作って持ってきたりするんだよ
和のアレンジが凄い、って誉められてる
俺の口に合うようにって色々考えてくれてて、美味しいよ」
ちょっと照れくさく感じながらそう教えると、久那は口をあんぐり開けた。
「白久が?あの、果報は寝て待ての白久が?寝てて果報が来ても気付かなそうな白久が?
双子と長瀞が『猫用布団』と大絶賛してた白久が?
飼い主のためにお菓子作り!
凄いね荒木、どうやって躾たの」
あまりな言われようだったけど心底驚いている様子を見ると、バカにしている感じではなかった。
「いや、躾てはいないけど
俺が美味しそうに食べるのが嬉しいって言ってくれてさ」
俺の答えで久那の顔が優しくなった。
「そうか、うん、そうだね
飼い主の役に立つこと、それは犬にとっての誇りと喜び
ついに白久もそれを手に入れたんだ、良かった」
微笑む久那を見て、彼が白久のことを心配してくれていたことがわかり嬉しくなる。
「久那も、飼い主の役に立ちたいって思ってる?」
「もちろん!そして、実際とても役に立っている」
彼は俺の問いに誇らかに顔を輝かせて答えるのであった。
「どうぞ」
日野が紅茶の入ったカップを久那と俺の前に置き、俺の隣に座った。
「ありがとう」
久那は優雅な動作でクッキーを口にする。
「新人猫お手製アイスボックスクッキーか、キレイに出来てるし味のバランスも食感も良い
良いセンスをしてるようだね」
久那の言葉に
『ひろせ、新人と言うには馴染みすぎてるんだけど
俺にとってはソシオの方が新人っぽく感じるな
でもソシオは古い化生だから、化生の中では古株扱いなのか』
ついそんなことを考えてしまう。
日野を横目で見ると、同じように何とも言えない表情をしていた。
そんな俺達の顔を読んだのか
「俺は大麻生と同じ時期に、ここに来たんだ
映画に出ていた犬と同じ犬種だって、ちょっとは騒がれたよ」
久那はそう言ってウインクして見せた。
「もっとも、本職の警察犬だった『刑事犬』大麻生に比べれば、俺にはこれといって得意な事が無かったけどね
日本のドラマとアメリカの映画って違いもあって、大麻生の方が他の奴らにはより身近なスター犬に感じられたんじゃないかな
だからと言って、仲間外れみたいな扱いを受けた訳じゃない
俺も普通に馴染んでたよ
飼い犬になって飼い主の仕事の補佐をするまでは、しっぽやで迷子犬を探してたしさ」
久那は紅茶を飲んで『良い香りだね、好みのフレーバーだ』と微笑んだ。
「飼い主さんって有名な人なんですか?モッチーがファンだとか」
日野がためらいがちに口にする。
それは俺も気になっていたところだった。
「ファッションデザイナーだよ
まあ、ファッションだけじゃなく何でもデザイナー、って感じかな
こだわり屋だし、色々自分でやりたがるんだ」
飼い主の話題になったせいか、久那の表情は幸せそうに和らいでいた。
「この服も和泉のデザインなんだけど、知らない?
そんなに高くないから、学生でも背伸びすれば買えると思うよ
『IZUMI・ISAMA』
ダブル『I』なんて呼ばれ方もするかな
俺の飼い主、石間 和泉(いさま いずみ)って言うんだ」
そう教えてもらっても、俺にはピンとこなかった。
「うーん」
日野も同じようなもので、少し困った顔をしていた。
「最近は雑貨のデザインもしてるんだけどなー
特集されてる雑誌、持ってくれば良かった
飼い主とお揃いコーデ、ってペット用の服もデザインしててさ
俺、たまにペットコーナーのモデルやってんだ
もちろんこの体だから飼い主用の服を着てね」
久那は悪戯っぽく笑った。
「モデル!だから動作が優雅に見えるのか」
俺はやっと合点がいった。
「和泉が店を出して俺はその手伝いのためここから遠い街で暮らすことにしたんだ、それが8年前のこと
しっぽやから遠ざかってたせいで、今は何だか浦島太郎になった気分だよ
俺の知らない新しい化生や飼い主が沢山いる
でも、知った顔も居る
ジョン、岩月、久しぶり」
久那に親しげな視線を向けられ
「和泉の活躍、メディアでチェックしてたよ
すっかり有名人だね」
月さんはニッコリ笑ってそう言った。
「あ、和泉が来た」
久那が顔を輝かせて立ち上がり控え室から出ていくと
「ここに置いてある服、和泉が用意してくれた物が多いんだ
飼い主が居ない化生は、どんな服を買えばいいかよく分からないから
それに、僕の店でも洗いやすそうな素材を選んで貰ってるから助かってるんだ」
月さんが教えてくれた。
以前白久は『事務所のクローゼットに入っている服を適当に着ている』と言っていたが、サイズや色合いがここにいる化生に似合っていると思っていた。
ゲンさんが用意しているのかと思っ
ていたのだが
「ファッションデザイナーが選んでたのか」
俺と日野は驚きと共に納得した。
控え室の扉が開き、久那に手を取ってリードされながら和泉さんが入ってきた。
何だかファッションショーの最後にモデルに囲まれてデザイナーが歩いているようだった。
ナリのような髪型だけど、髪がウェーブしているので全く違った印象を与えている。
意志の強そうな瞳が印象的な整った顔立ち、でも、いくつくらいの人なのか年齢不詳だった。
長身の久那と並んでいる為にとても小柄に見えるのも、年齢不詳に拍車をかけていた。
『いや、小柄に見えるとかじゃない』
俺は思わず立ち上がって和泉さんに近づいていった。
『この人、親父と同じくらいの身長だ!ってことは俺と3cm前後しか違わない』
不躾にジロジロと見つめてしまった俺に
「君、可愛い顔立ちだね、高学年用子供服のモデルやってみない?」
彼も失礼なことを言うのだった。
「和泉、荒木君はこう見えて春から大学生なんだよ」
月さんがやんわりと窘(たしな)めて(?)くれる。
「大学生?もしかして白久の飼い主?
3年寝太郎よりも寝てる白久が、よくこんな可愛い子発掘出来たね」
呆れたような和泉さんに
「でも、和泉の方がもっと可愛いよ」
久那がすかさずそう言った。
和泉さんは少し照れたように久那の手を撫で
「失礼、石間 和泉、久那の飼い主です」
俺に誇らかに宣言する。
それが新たな先輩飼い主との初対面になるのだった。