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しっぽや(No.11~22)

「なんと!これはまた、お早いお帰りで!」
白久が波久礼の手元をマジマジと見ながら驚いた声を上げたので
「えっ?」
俺も波久礼も黒谷も、同時に同じ言葉を口にする。
「波久礼の手元にいるお方、クロスケ殿ですよ」
白久の言葉に
「……?ええー!?」
俺は思いっきり疑問の声を上げていた。
混乱しすぎて、白久が何を言っているのか訳がわからなかった。

「クロスケ殿とは想念を通わせようと捜索中に何度も試みましたから、その子猫の気配、すぐわかりました」
白久は微笑んでいる。
「え?何?じゃあ、あの子猫、クロスケの生まれ変わり?
 でもクロスケが死んだのは5月で、今7月だろ?
 あの子は生後1ヶ月前後って感じだから…
 クロスケが死んだ時、この子もう母猫のお腹の中にいたんじゃ?」
俺は自分で言っていて、訳がわからなくなってくる。
「正確に言うと、生まれ変わりと言うよりは『融合』と言ったところでしょうか」
白久の言葉に
「なる程、『憑依(ひょうい)』か!」
黒谷が納得したような声を上げる。

「荒木、魂というものは複数が重なり合っている場合、逆に1つのものが複数に分裂する場合があるんだよ
 この大元の子猫は、クロスケ君と共に生きる事に同意したのだな
 それで、クロスケ君の魂を身体に憑依させ、その魂と融合したんだ
 クロスケ君はよほど早く戻ってきたかったとみえる
 きれいに昇天していたという話であったから、そんな事せずともすぐに転生出来たろうに」
黒谷が苦笑した。
「ああ、申し訳ありません
 クロスケ殿に『ネタばらしが早すぎる』と怒られてしまいました
 クロスケ殿は荒木のお父様の事をとても心配しておられましたから、早く戻ってきたかったのでしょう」
白久も苦笑する。

「何と、お主はもう行く当てを決めていたのだな」
いつの間にか目を覚ましている子猫に、波久礼が呆然と語りかけた。
「波久礼、貴方はその方に荒木の元に連れて行くためのお使いを頼まれたようなものですね」
白久がクスリと笑った。
「あ、えっと、何て言うか…
 クロスケが面倒かけて、ごめん」
俺は、まだよく状況が飲み込めなかったが、取りあえず波久礼に謝った。
「良いのですよ、荒木
 どんな時でも『子猫に頼られる』と言うのは、悪い気がしないものです」
波久礼は笑って、子猫を優しく撫でた。

「シロ、そちらを送り届けたら、今日はもう上がって良いよ
 荒木も、子猫の飼い主探しをしてくれたから、今日はもう上がりで良いや
 2人とも、お疲れ様」
黒谷の言葉に、俺は慌ててしまう。
「飼い主探しって、家に連れてくだけだよ
 俺、来たばっかだし、仕事したことにならないんじゃ…」
しかし波久礼が生真面目な顔で
「いえ、1つの命の居場所を確保する、とても偉大な仕事を成し遂げました
 どうか、この子の事をよろしくお願いします!」
そう言って大仰に頭を下げる。
「ね?」
黒谷はニヤリと笑って、俺にウィンクして見せた。

「荒木、それではこの方を送り届けるのにご同行願えませんか?
 その後、私の部屋でお昼を召し上がってください
 もしかして今日、家に来ていただけるかと思いまして
 昨日、鳥レバの生姜煮と炊き込みご飯を作ってみたから、味をみていただきたいのです」
白久が嬉しそうに言うので
「うん」
俺は素直に頷いてしまった。
『こんなヌルい職場で、ここの運営大丈夫なのかな…』
そんな不安を覚えつつ、俺は貸してもらったペット用キャリーケースにクロスケ(仮)を入れ、ミルクとほ乳瓶の入った袋を持って事務所を後にした。



秋田犬を送り届け、白久の部屋に着くまでに1時間近く歩き回ったため、俺はまた汗だくになってしまった。
「すっかり遅くなってしまいました
 もう、お昼ご飯という時間ではないですね
 準備をしている間、シャワーをお使いください
 着替えは、私の物を使ってかまいませんから」
白久の言葉に、俺はありがたく従う事にする。
シャワーを浴びてサッパリすると白久の服を見てみるが、どれも俺には大きすぎた。
『着替え、少し置いておこうかな
 夏休みになったら、遊びに来たいし…』
そんな事を考え、俺は1人赤くなってしまった。

白久のシャツを借り制服のズボンを履いてテーブルにつくと、白久が料理を並べてくれていた。
炊き込みご飯、鳥レバの生姜煮、ゴーヤチャンプルー、野菜たっぷりのスープなどが用意されている。
「凄い、何か健康に良さそう」
俺が感心して言うと
「今、長瀞に料理を教わっているのです
 ゲン様のために、長瀞はバランスの良い食事というものを勉強していますから
 私は、知識があっても今まで実践した事が無くて…
 お口にあうと良いのですが」
白久は照れたように笑って答えた。
『そう言えば長瀞さん、前に会った時ゲンさんの為にサンドイッチ作るとか言ってたっけ』
俺はそんな事を思い出す。
『人の役に立ちたい』と言っている化生という存在がとてもいじらしく感じられ、俺はますます白久の事が好きになった。
「いただきまーす」
白久の料理は美味しくて、お腹が空いていた俺はつい食べ過ぎてしまった。

「デザートに桃でも剥きましょうか?」
片付けを終えた白久がそう聞いてくれるが
「今、お腹苦しくて無理」
俺は苦笑する。
「あ、クロスケ、じゃないか、あの子猫、お腹空いてないかな?
 事務所でミルクもらってから、4時間近く経ってるよね」
俺は慌ててキャリーケースの中を覗き込む。
「ミイイイ」
子猫は心なしか、不満げな泣き声を上げた。
白久を見ると
「ミルクを作ってあげてください」
少し苦笑しながら、そう言った。

ミルクの缶に書いてある説明書きと睨めっこし、何とか作っている間に白久もシャワーを浴びていた。
やっと作り終え飲ませていると、スラックスを履いただけの白久が近寄ってきて覗き込んでくる。
「可愛らしいですね」
白久のきれいに筋肉のついた上半身が間近で顕わになっていて、俺はドキドキしてしまう。
「あ、うん…、焼き餅、焼く?」
少し上目遣いに聞いてみると
「クロスケ殿は別格ですよ」
白久は微笑んだ。

ミルクを飲み終えた子猫をキャリーケースに戻すと、一丁前に身繕いを始め、終わるとコトンと頭を落として寝てしまった。
「もう少しすると、遊びたい盛りになりますね
 うちに来たばかりの羽生がそんな感じだったので、猫達は皆鬱陶しがって世話を私と黒谷に押し付けたのです」
白久はクスリと笑った。
「最近はすっかり落ち着いてきて、他の猫達と馴染んできていますよ
 中川様に契っていただけたので、色々と自信も出てきたのでしょう」
白久はさらりと、とんでもない事を口にした。
「契る…って…」
俺は顔が真っ赤になった。
そう言えば最近、羽生はますますキレイになってたっけ、と思い出す。

「飼い主と契れる事は、私達化生にとって最高の誉れです」
白久が端正な顔を近付け、そっと唇を合わせてくる。
「私達のような異形の存在を受け入れていただける事が、どれほど喜ばしい事か
 荒木、どれだけ貴方をお慕いしているか、獣である私には言葉で説明しつくせません」
白久は俺をキツく抱き締めた。
言葉で説明されなくても、もう俺にもわかっている。
白久は全身で、俺の事を『愛している』と言っていた。
「うん、俺も、愛している」
そう言葉で返事をし唇を合わせ、俺達はそのままベッドに移動する。

白久が俺の着ている物をソッと脱がせ、肌を顕わにさせる。
白久の舌が、俺の全身にくまなく愛を囁いていく。
巧みなその愛撫に、俺は何度も達してしまう。
「あっ…、んんっ…、しろ…く…」
甘い喘ぎが止まらなかった。
何度も貫かれ、愛を注がれて、俺は白久の腕の中で安らかな眠りに落ちていった。
エアコンの効いた室内であったため、白久の腕の温もりが肌にとても心地よかった。
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