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しっぽや(No.163~173)

「荒木、日野、その後いかがですか
 何か気になることがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
ミイちゃんが俺と日野(白久の隣に座っている)に話しかけてきた。
「いえ、あれから俺の方は特に何も起こってません
 あの…、あの数珠、どうなりました…?」
忘れてしまいたかったが心の奥底で気になっていたのだろう、俺は意図せずそんなことを聞いてしまった。
日野が気遣わしげな視線を送ってくる。
「丁重に供養した後、屋敷の庭の片隅に埋めました
 もう大丈夫ですよ、あの方も自分のしたことの罪深さを悔いているようでしたから」
ミイちゃんの言葉を受け
「俺が、あんな体質だったから…」
日野が沈み込んだ声で呟いた。

「白久も黒谷も長く飼い主がいなかったので心配していました
 しかし、あの試練を乗り越えられるような強い飼い主に恵まれて、この2人の孤独の時間は無駄ではなかったのだ、化生と人は結びあえるのだと心強く感じました
 貴方達は化生の希望でもあります
 変わらずに2人を飼っていてくださって、本当にありがとうございます」
ミイちゃんが深々と頭を下げたので
「ずっと白久と一緒にいるから大丈夫です、白久の飼い主は俺だけなんだから」
「もう黒谷から離れない
 もっと強くなって身体を乗っ取られたり、俺だけ先に逝ったりしないようになります」
俺と日野は慌てて言い募った。
ミイちゃんは確認するように俺と日野、白久と黒谷を順に見て優しい顔で深く頷いていた。

「今日はこちらに来られて、本当に良かったわ
 皆の幸せそうな顔が見れましたから
 それに、日野が沢山食べるところも
 おひつのご飯、1人で1つ食べてましたね
 あれ、5合分くらい入っていたようだけれど」
楽しそうなミイちゃんの言葉に
「「え?」」
俺を含めた全員が日野を見る。
見られた日野も
「え?」
皆が何に驚いているのかわからない感じであった。


その後も宴は続き、最後のデザートを食べると11時近くになっていた。
今日の歓迎会はモッチーとソシオのためのものであったが、同時にミイちゃんのものでもあったことに気が付いた。
ゲンさんを見つめると、二ヤッと笑って親指を立てる。
「今日はお開きにして、また皆で集まろうぜ
 片付けが楽だから、たまにゃ店で集まるのも良いな
 狭い店だと貸し切りにしないと、怪しい集団になっちまうがな」
そんなゲンさんの言葉で歓迎会は終了し、俺たちはマンション組とそれ以外に分かれ車に乗り込んだ。
分かれたと言うか、俺と日野とタケぽんはお泊まりなので、マンション以外の場所に帰る人は桜さんと月さんしかいなかった。
この光景が当たり前になる時間はそう先のことではないと思うと、その未来が待ち遠しかった。



白久の部屋に帰り着き、楽しかった宴の余韻に浸る。
「明日はここから教習所に向かうよ、日野と一緒に行くんだ
 日野と一緒に学校的な場所に向かうのも、あと少しか
 それは寂しいけど俺が免許取れば、外で集まりがあった時にゲンさんとかにお酒飲んでもらえるもんね
 俺、飲むならお茶が良いから、飲めなくても構わないしさ
 頑張って免許取るぞ」
「頼もしいです」
眩しそうに俺を見る白久の笑顔で、彼に守られているばかりの何も出来ない自分ではないと自信が出てきた。

「明日はちょっと遅めに出ても講義には間に合うから、1回だけしない?」
伺うように聞いてみると
「もちろんです、私とクロは明日は重役出勤すると言ってきましたからね」
白久は悪戯っぽく笑った。
「じゃあ、空の分まで頑張るのは午後からだね」
俺も笑って白久と唇を合わせた。
幸せな時間の先にある、さらに嬉しい幸せ。

楽しい仲間との楽しい一時を過ごした俺は、その後の極上の一時を最愛の飼い犬と過ごすのだった。
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