しっぽや(No.163~173)
おきまりの挨拶の後、新しい仲間に乾杯する。
嬉しそうに辺りを見回しているソシオを見るミイちゃんの目は優しかった。
それからミイちゃんは一同を見回し
「本日はこのような席を急に企画し、お忙しい中、お呼び立てしてしまい申し訳有りません
皆様に参加していただけたこと、とても嬉しく思います
お会いできる機会が少なく化生の元締めとして頼りないとは思うでしょうが、これからもご自身の化生共々、よろしくお願いいたします」
凛とした声で宣言し、頭を下げた。
ミイちゃんの隣に座る波久礼も主(あるじ)に習い、同じように頭を下げる。
俺達飼い主も慌てて頭を下げ
「こちらこそ、よろしくお願いします」
思いを込めてそう言った。
化生達も一斉に頭を下げる。
頭を上げたミイちゃんは慈愛に満ちた眼差しを皆に向けていた。
「ミイちゃん、今回の企画は俺が独断で押し通したんだ、おじさんに宴会の注文頼まれてて渡りに船だったし
高額の寄付をいただいたから、日野少年が居ても満足できるくらい食べられる
めったにない機会だ、貴女に一番楽しんでいただきたい」
飼い主の声を、ゲンさんが代弁してくれる。
「ごちそうさまです」
「お会いできて光栄です」
「ミイちゃん、今日の服、可愛くて似合ってるよ」
飼い主達に次々と言葉をかけられ、ミイちゃんは花のような微笑みを見せた。
「さあ、プロの料理を食おう
今日は30人分で注文しといたんだ、それに追加で船盛り3つ、天ぷら盛り合わせ5つ、松阪牛ステーキ10人分
持ち帰り用パックを用意しようかなんて聞かれたが、この量で足りるかビミョーなとこだよな」
ゲンさんの言葉に皆少しひきつった笑顔で頷いていた。
「ミイちゃん、日野少年の食べっぷりをとくとご覧あれ」
「うふふ、武衆の皆より食べるのか、見るのが楽しみだわ」
そんな2人の会話を受けて大麻生が目を泳がせて顔を逸らしたので、俺は武衆の犬達でも日野には適わないことを悟ってしまった。
俺と白久は比較的ミイちゃんの近くに座っていたので、色んな人が挨拶にくる様子を見ていた。
「初めまして、お話は聞いていたのですが中々機会がなくて
ご挨拶が遅れて申し訳ないです」
驚いたことに月さんとミイちゃんは初対面らしかった。
「いいえ、お仕事をしてらっしゃる方はお忙しいのだから、私がもっと早く皆様に会いに来れば良かったのです
結局、秩父先生には会いそびれてしまいました」
彼女は秩父先生の名を少し寂しそうに口にしていた。
「三峰様、お久しぶりです」
「ジョン、貴方が化生してきたときより驚かされた事、まだないのよ
本当に貴方は印象的だったわ
開口1番『知り合いの化生のとこに連れて行って、あのお方の行方を聞いてくれ』なんて言うんだもの
大抵の子は自分の置かれている状況を飲み込めず、呆然としているのに」
当時のことを思い出したのか、ミイちゃんはクスりと笑っていた。
「ジョンは犬の時から私達を見ていたので、化生の事をよく知っていたのです」
白久が小声で耳打ちして教えてくれた。
「初めまして、今までご挨拶にも伺わず、失礼いたしました」
さらに驚いたことに、桜さんもミイちゃんとは初対面だった。
「桜ちゃん大きい犬怖いから、武衆の奴らに会わせたくなかったんだ」
取りなすように新郷が弁解する。
「ゲンの良き友であり共にしっぽやを支えてくださる仲間として、ありがたく思っております
金銭面を全面的にお任せできる方が居て、本当に助かっていますよ」
「こちらの方こそ、事務所の便宜を図っていただき助かっています
おかげで新郷と2人で十分やっていけます」
畏(かしこ)まる桜さんに
「お互い様のようですね」
ミイちゃんはクスクスと笑って頷いていた。
「桜様が犬に慣れてきた後も、新郷はお屋敷に連れて行こうとはしませんでしたけど」
「新郷も、桜さんに対しては何気に過保護だよね」
俺と白久もクスクス笑って囁きあっていた。
「三峰様、お久しぶりです
最近では化生のための授業が滞り気味で申し訳ないです」
「受験生の担任でお忙しいと伺いました
数回受けただけで、波久礼は読める字や書物の知識が増えたと喜んでおります」
ミイちゃんの言葉を受け
「中川先生の教えはわかりやすく、授業を受けさせていただけるのはとてもありがたいです
他の者の覚えが悪く、本当に申し訳有りません」
波久礼が深々と頭を下げていた。
「俺もサトシに教わって、ずいぶん漢字を読み書きできるようになったんだ」
得意げな羽生を見て
「まあ、随分大きくなったこと、大事にしてもらっているのね
こんなに育った化生は初めてなんじゃないかしら」
ミイちゃんは目を細めている。
『そう、育ったんだよ…俺よりチビだったのに…今じゃおれよりちょい高い…』
俺も子猫全開の羽生を知っているだけに、その成長を見る胸中はいつも複雑だった。
「三峰様、今日は出かけるときによく着てる赤い着物じゃないんだ
あれ着てると人形みたいなのに」
挨拶をしに来た空の後ろにカズハさんが控えていた。
「あら、お人形?」
「最近知ったんだけど、髪が伸びる人形にそっくりで…」
お約束のようにミイちゃんの拳で吹っ飛ばされた空の巨体を、カズハさんが後ろでキャッチする。
「リボン、似合ってますよ
今日は白いレースのリボンを持ってきてみたんです、その服にも似合いそう
後でお渡ししますね」
「カズハ様、いつもありがとうございます」
カズハさんは波久礼に手伝われ、意識のない空の体を引っ張って戻っていく。
「カズハ様、空の扱いに随分慣れましたね」
「うん、色んな意味で強くなってる…」
その強さを見習うべきかどうか、俺は少し悩んでしまうのであった。
「三峰様、お久しぶりです
自分が居なくても武衆の者は務(つと)めを果たしているでしょうか」
大麻生とウラが挨拶にやってきた。
「貴方が居なくなって、波久礼が1人で大変そうよ」
ミイちゃんは笑っているが
「大麻生、たまにはこちらにも顔を出してくれ」
波久礼は困った顔で大麻生に訴えかけていた。
「貴方が猫と見まがう飼い主の『ウラ』ですね
ゲンによく聞いております
確かにお美しいわ」
ミイちゃんに笑いかけられ
「ソウちゃ、っと、大麻生の飼い主をやらせていただいてる、山口 浦です
住むとことか仕事とか、何か色々お世話になってありがたくって
あっと、その」
ウラは柄にもなく緊張しているようだった。
「貴方のように優しそうな方に大麻生を飼っていただけて、とても嬉しく思ってます
彼は本当に頑張り屋なので飼い主とノンビリすることを覚えると良いわ
ウラ、とお呼びして良い?
私のことは『ミイちゃん』と呼んでくださいな」
「え?俺、優しそうかな、てか、ミイちゃんって可愛いね
空に怖いオバ…、いや、狼だって聞いてたからビビってたんだ」
ウラは照れたように笑っている。
「まあ、空に…」
ミイちゃんは光る目で、意識を取り戻し肉にかぶりついている空を見た。
「空からは後で話を聞くとして、大麻生をよろしくお願いしますね」
「はい」
2人のにこやかな会話が続く。
俺と白久は空を盗み見て
「明日は空の分まで捜索を頑張ります」
「そうだね、休むことになるかもしれないもんね…」
心を落ち着けようと、少し身体を寄せ合った。
「ミイちゃん、今年の夏休みはお屋敷で修行させてもらっていいですか
山籠もりしてみようと思ってるんです」
「最近、タケシと一緒に捜索に出ているんですよ
あの山の澄んだ空気の中で能力を磨けば、タケシはもっと力を出せると思います」
タケぽんとひろせが挨拶にやってきた。
「貴方達の活躍、聞き及んでおりますよ
人と化生が共に一つのことを成す、大変興味深いことです
どうぞ、いつでもおいでください
武衆の皆もひろせが顔を出してくれれば喜ぶでしょう」
「荒木も、しっぽやの為になることを沢山してくださっています」
白久が急にそう言って俺の膝に手を置いてきた。
特殊能力を持っているタケぽんを、羨ましそうな顔で見てしまっていたようだ。
「波久礼とか、武衆の犬達の名刺も作った方が良いかな」
「波久礼はよくこちらに来ますので、名刺があると良いかもしれませんね
荒木にしか出来ない仕事です」
愛犬の慰めに、俺は直ぐに気分が浮上していった。
「ナリ、貴方の縁がソシオと飼い主を結びつけてくださいました
贔屓をするつもりはないけれど、私にとってソシオは特別な存在になっていたので本当に嬉しいのですよ
屋敷から出ようとすらしなかった、人間を拒(こば)んでいた子が…」
ミイちゃんは瞳を潤ませて、隣に座るソシオを見ている。
「この世に起こることには無駄がない、と言われますが、ソシオが飼い主と結びつけたのは彼自身の頑張りの成果です
よくこの『たらし』を振り向かせることが出来たと、驚いてますよ」
悪戯っぽく笑うナリに、モッチーは苦笑を見せた。
しかし居住まいを正し真剣な顔になると
「ソシオの飼い主の持田 保夫です、モッチーとお呼びください
ソシオのこと、一生大事にします」
そう言って頭を下げた。
「ソシオが選ぶだけのことはある、強い方ですね
貴方のような方に守っていただけるのなら、安心だわ」
目を細めるミイちゃんに
「俺も、モッチーのこと守るんだ」
ソシオが張り切った声で宣言した。
「やっぱり、モッチーって強いと思います?
本人に自覚ないみたいだけど」
「かなりだと思いますよ、自覚する必要が無いほど強いかと」
自分を見て話し合うミイちゃんとナリを、モッチーは『?』と言った感じで見つめていた。
「荒木は私がお守りいたしますので、強くなくても良いのです」
守られるだけというのは情けない気もしたが、力強い白久の言葉は俺に安心感を与えてくれるものであった。
嬉しそうに辺りを見回しているソシオを見るミイちゃんの目は優しかった。
それからミイちゃんは一同を見回し
「本日はこのような席を急に企画し、お忙しい中、お呼び立てしてしまい申し訳有りません
皆様に参加していただけたこと、とても嬉しく思います
お会いできる機会が少なく化生の元締めとして頼りないとは思うでしょうが、これからもご自身の化生共々、よろしくお願いいたします」
凛とした声で宣言し、頭を下げた。
ミイちゃんの隣に座る波久礼も主(あるじ)に習い、同じように頭を下げる。
俺達飼い主も慌てて頭を下げ
「こちらこそ、よろしくお願いします」
思いを込めてそう言った。
化生達も一斉に頭を下げる。
頭を上げたミイちゃんは慈愛に満ちた眼差しを皆に向けていた。
「ミイちゃん、今回の企画は俺が独断で押し通したんだ、おじさんに宴会の注文頼まれてて渡りに船だったし
高額の寄付をいただいたから、日野少年が居ても満足できるくらい食べられる
めったにない機会だ、貴女に一番楽しんでいただきたい」
飼い主の声を、ゲンさんが代弁してくれる。
「ごちそうさまです」
「お会いできて光栄です」
「ミイちゃん、今日の服、可愛くて似合ってるよ」
飼い主達に次々と言葉をかけられ、ミイちゃんは花のような微笑みを見せた。
「さあ、プロの料理を食おう
今日は30人分で注文しといたんだ、それに追加で船盛り3つ、天ぷら盛り合わせ5つ、松阪牛ステーキ10人分
持ち帰り用パックを用意しようかなんて聞かれたが、この量で足りるかビミョーなとこだよな」
ゲンさんの言葉に皆少しひきつった笑顔で頷いていた。
「ミイちゃん、日野少年の食べっぷりをとくとご覧あれ」
「うふふ、武衆の皆より食べるのか、見るのが楽しみだわ」
そんな2人の会話を受けて大麻生が目を泳がせて顔を逸らしたので、俺は武衆の犬達でも日野には適わないことを悟ってしまった。
俺と白久は比較的ミイちゃんの近くに座っていたので、色んな人が挨拶にくる様子を見ていた。
「初めまして、お話は聞いていたのですが中々機会がなくて
ご挨拶が遅れて申し訳ないです」
驚いたことに月さんとミイちゃんは初対面らしかった。
「いいえ、お仕事をしてらっしゃる方はお忙しいのだから、私がもっと早く皆様に会いに来れば良かったのです
結局、秩父先生には会いそびれてしまいました」
彼女は秩父先生の名を少し寂しそうに口にしていた。
「三峰様、お久しぶりです」
「ジョン、貴方が化生してきたときより驚かされた事、まだないのよ
本当に貴方は印象的だったわ
開口1番『知り合いの化生のとこに連れて行って、あのお方の行方を聞いてくれ』なんて言うんだもの
大抵の子は自分の置かれている状況を飲み込めず、呆然としているのに」
当時のことを思い出したのか、ミイちゃんはクスりと笑っていた。
「ジョンは犬の時から私達を見ていたので、化生の事をよく知っていたのです」
白久が小声で耳打ちして教えてくれた。
「初めまして、今までご挨拶にも伺わず、失礼いたしました」
さらに驚いたことに、桜さんもミイちゃんとは初対面だった。
「桜ちゃん大きい犬怖いから、武衆の奴らに会わせたくなかったんだ」
取りなすように新郷が弁解する。
「ゲンの良き友であり共にしっぽやを支えてくださる仲間として、ありがたく思っております
金銭面を全面的にお任せできる方が居て、本当に助かっていますよ」
「こちらの方こそ、事務所の便宜を図っていただき助かっています
おかげで新郷と2人で十分やっていけます」
畏(かしこ)まる桜さんに
「お互い様のようですね」
ミイちゃんはクスクスと笑って頷いていた。
「桜様が犬に慣れてきた後も、新郷はお屋敷に連れて行こうとはしませんでしたけど」
「新郷も、桜さんに対しては何気に過保護だよね」
俺と白久もクスクス笑って囁きあっていた。
「三峰様、お久しぶりです
最近では化生のための授業が滞り気味で申し訳ないです」
「受験生の担任でお忙しいと伺いました
数回受けただけで、波久礼は読める字や書物の知識が増えたと喜んでおります」
ミイちゃんの言葉を受け
「中川先生の教えはわかりやすく、授業を受けさせていただけるのはとてもありがたいです
他の者の覚えが悪く、本当に申し訳有りません」
波久礼が深々と頭を下げていた。
「俺もサトシに教わって、ずいぶん漢字を読み書きできるようになったんだ」
得意げな羽生を見て
「まあ、随分大きくなったこと、大事にしてもらっているのね
こんなに育った化生は初めてなんじゃないかしら」
ミイちゃんは目を細めている。
『そう、育ったんだよ…俺よりチビだったのに…今じゃおれよりちょい高い…』
俺も子猫全開の羽生を知っているだけに、その成長を見る胸中はいつも複雑だった。
「三峰様、今日は出かけるときによく着てる赤い着物じゃないんだ
あれ着てると人形みたいなのに」
挨拶をしに来た空の後ろにカズハさんが控えていた。
「あら、お人形?」
「最近知ったんだけど、髪が伸びる人形にそっくりで…」
お約束のようにミイちゃんの拳で吹っ飛ばされた空の巨体を、カズハさんが後ろでキャッチする。
「リボン、似合ってますよ
今日は白いレースのリボンを持ってきてみたんです、その服にも似合いそう
後でお渡ししますね」
「カズハ様、いつもありがとうございます」
カズハさんは波久礼に手伝われ、意識のない空の体を引っ張って戻っていく。
「カズハ様、空の扱いに随分慣れましたね」
「うん、色んな意味で強くなってる…」
その強さを見習うべきかどうか、俺は少し悩んでしまうのであった。
「三峰様、お久しぶりです
自分が居なくても武衆の者は務(つと)めを果たしているでしょうか」
大麻生とウラが挨拶にやってきた。
「貴方が居なくなって、波久礼が1人で大変そうよ」
ミイちゃんは笑っているが
「大麻生、たまにはこちらにも顔を出してくれ」
波久礼は困った顔で大麻生に訴えかけていた。
「貴方が猫と見まがう飼い主の『ウラ』ですね
ゲンによく聞いております
確かにお美しいわ」
ミイちゃんに笑いかけられ
「ソウちゃ、っと、大麻生の飼い主をやらせていただいてる、山口 浦です
住むとことか仕事とか、何か色々お世話になってありがたくって
あっと、その」
ウラは柄にもなく緊張しているようだった。
「貴方のように優しそうな方に大麻生を飼っていただけて、とても嬉しく思ってます
彼は本当に頑張り屋なので飼い主とノンビリすることを覚えると良いわ
ウラ、とお呼びして良い?
私のことは『ミイちゃん』と呼んでくださいな」
「え?俺、優しそうかな、てか、ミイちゃんって可愛いね
空に怖いオバ…、いや、狼だって聞いてたからビビってたんだ」
ウラは照れたように笑っている。
「まあ、空に…」
ミイちゃんは光る目で、意識を取り戻し肉にかぶりついている空を見た。
「空からは後で話を聞くとして、大麻生をよろしくお願いしますね」
「はい」
2人のにこやかな会話が続く。
俺と白久は空を盗み見て
「明日は空の分まで捜索を頑張ります」
「そうだね、休むことになるかもしれないもんね…」
心を落ち着けようと、少し身体を寄せ合った。
「ミイちゃん、今年の夏休みはお屋敷で修行させてもらっていいですか
山籠もりしてみようと思ってるんです」
「最近、タケシと一緒に捜索に出ているんですよ
あの山の澄んだ空気の中で能力を磨けば、タケシはもっと力を出せると思います」
タケぽんとひろせが挨拶にやってきた。
「貴方達の活躍、聞き及んでおりますよ
人と化生が共に一つのことを成す、大変興味深いことです
どうぞ、いつでもおいでください
武衆の皆もひろせが顔を出してくれれば喜ぶでしょう」
「荒木も、しっぽやの為になることを沢山してくださっています」
白久が急にそう言って俺の膝に手を置いてきた。
特殊能力を持っているタケぽんを、羨ましそうな顔で見てしまっていたようだ。
「波久礼とか、武衆の犬達の名刺も作った方が良いかな」
「波久礼はよくこちらに来ますので、名刺があると良いかもしれませんね
荒木にしか出来ない仕事です」
愛犬の慰めに、俺は直ぐに気分が浮上していった。
「ナリ、貴方の縁がソシオと飼い主を結びつけてくださいました
贔屓をするつもりはないけれど、私にとってソシオは特別な存在になっていたので本当に嬉しいのですよ
屋敷から出ようとすらしなかった、人間を拒(こば)んでいた子が…」
ミイちゃんは瞳を潤ませて、隣に座るソシオを見ている。
「この世に起こることには無駄がない、と言われますが、ソシオが飼い主と結びつけたのは彼自身の頑張りの成果です
よくこの『たらし』を振り向かせることが出来たと、驚いてますよ」
悪戯っぽく笑うナリに、モッチーは苦笑を見せた。
しかし居住まいを正し真剣な顔になると
「ソシオの飼い主の持田 保夫です、モッチーとお呼びください
ソシオのこと、一生大事にします」
そう言って頭を下げた。
「ソシオが選ぶだけのことはある、強い方ですね
貴方のような方に守っていただけるのなら、安心だわ」
目を細めるミイちゃんに
「俺も、モッチーのこと守るんだ」
ソシオが張り切った声で宣言した。
「やっぱり、モッチーって強いと思います?
本人に自覚ないみたいだけど」
「かなりだと思いますよ、自覚する必要が無いほど強いかと」
自分を見て話し合うミイちゃんとナリを、モッチーは『?』と言った感じで見つめていた。
「荒木は私がお守りいたしますので、強くなくても良いのです」
守られるだけというのは情けない気もしたが、力強い白久の言葉は俺に安心感を与えてくれるものであった。