しっぽや(No.163~173)
私と荒木はしっぽや最寄り駅まで戻り、普段は足を向けることがないホームセンターに向かう。
到着すると園芸コーナーに移動した。
「これは俺も詳しくないから、アドバイス出来ないや
クロスケが食べちゃうとヤバいから、家では鉢植えどころか花も飾ったこと無かったもんなー」
荒木は売場を見渡しながら考え込んでいる。
「一応スマホで調べてはきたのですが、荒木にも確認していただきたいと思いまして
お手数をおかけして、申し訳ありません」
私は恐縮してしまう。
「まあ、俺でも店員さんに話を聞くくらいのことは出来るよ
どうしても分からなかったら最後はプロに聞いてみよう
それにこれって、俺のためにしてくれるんだろ?」
荒木は嬉しそうに笑ってくれる。
「はい、上手く育てられると良いのですが
無事に収穫できるよう頑張ってみます」
気を引き締めると私も売場を見渡して、目当ての物を探し始めた。
私の新たなチャレンジ、それは荒木のためにバジルを育てることだった。
荒木の好きなエビとアボカドのサラダにはフレッシュバジルが欠かせないのだが、毎回思うように手に入るわけではなかった。
セリや大葉、パセリといったメジャーな香野菜はいつでも売っていたがバジルはそうはいかないのだ。
手に入らないときは乾燥バジルを使っているのだが、やはり風味は生の物の方が良いと感じていた。
自分で育てれば葉のつく時期ならいつでも手に入って便利なのではないか、そう考えたのが始まりだった。
新たなチャレンジをする飼い主に触発され、私も植物を育てるという自分にとって全く未知のことをしてみようと思えるようになったのだ。
「本当はもう少し暖かくなってから育て始める方が良いようなのですが、荒木との春休みの思い出にしたくて先走ってしまいました
種から発芽させるのは難しそうなので、苗があれば、と」
「白久が育ててくれたバジル、食べるの楽しみだよ
サラダだけじゃなく、パスタにも合いそうだし
タイやサーモンの刺身にも合う、って桜さんが言ってたっけ
あっちが苗のコーナーみたいだ、行ってみよう」
私達は荒木が発見してくれた場所に、歩いていった。
「こっちは花の苗…、っと、ここら辺が野菜っぽい
まだ寒いせいかあんまり種類はなさそうだね」
苗が植えられているポットに刺さっているタグの品種名を確認しながら移動する。
「苗の状態だと、皆同じに見えるなー
黒猫を見分けるより難しいよ、これ」
荒木はそう言いながらポットをのぞき込む。
「あっ」
タグを見るよりも先に、香りが私に届いてきた。
「こちらがそうかもしれません」
私が指さしたポットにはまだ小さな苗が植わっていた。
「これ?本当だ、バジルって書いてある
やっぱまだ早いのかな、苗が小さいしポットは4個しか置いてないや
でも苗があってラッキーだったね」
ニッコリ笑う荒木を見て私はホッと胸をなで下ろした。
「後はプランターと土ですね、プランターは一応2個買ってみます
問題は…」
「土、だね」
私と荒木は沢山の種類が並んでいる土や肥料、腐葉土を見て固まってしまう。
ちょうどその時、店員さんがポットの苗に水をやりに来た。
「すいません、ちょっとお聞きしたいんですが」
荒木がすかざずその店員さんに声をかけてくれる。
他にお客が居なかったのが幸いして、その店員さんは親切にバジルの育て方や適した土を教えてくれた。
「ありがとうございます、スマホで調べてはきたのですが実物を見るとよくわからなくなってしまって」
「助かりました」
お店のカートに苗とプランターの他に、お勧めされた土と肥料を入れ私と荒木は店員さんに何度も頭を下げた。
「上手く育つと良いですね
これから苗は随時入荷しますので、どうしてもダメなようでしたらまたご来店ください」
店員さんからのアドバイスで『荒木に自分で育てた物を食べていただく』という私の夢も広がっていった。
大荷物を抱えてマンションの部屋に帰り着く。
一息つく間もなく、私と荒木は早速苗を植え替えてみることにした。
「色々教えて貰って、やる気があるうちにやった方が良いもんね」
「はい、覚えているうちに注意しておいた方が良い点を箇条書きにして貼っておきます
もう少し暖かくなるまで、夜間は室内に取り込むことにしましょう
部屋にプランターを置いておく場所も整えなければ」
私達はベランダに出て、作業を開始する。
店員さんに教えていただいたことやスマホで調べた情報に従い、思ったより早くポットからプランターに植え替えることが出来た。
ハーブ用の土を買うことが出来たので、土作りから始めなくて良いのが幸いしたようだ。
最後に水をたっぷりあたえ、作業を終える。
まだ黄緑色の小さな苗がプランターに並んでいる様子が、何とも言えず可愛らしい。
飼い主とともに植え替えた苗に、私は早くも愛着を覚えていた。
「植物を育てるなんて小学生の頃のアサガオ以来だけど、こっちの方が可愛い気がする」
荒木も同じようにこの苗のことを可愛いと思ってくれていて、飼い主と通じ合っている感覚がとても嬉しかった。
ベランダを片付け室内にプランター置き場用のトレイを置いて汚れた手を洗い、やっと私達は一息付くために座ることが出来た。
「一仕事終えた、って達成感あるなー
満足したらお腹空いて来ちゃった」
荒木の言葉で時計を見ると、もうお昼をだいぶ過ぎた時間になっている。
「有り合わせで良ければ、簡単な物を作ります」
飼い主に言われて自分も空腹であることに気が付いた。
「うーん、白久の料理も魅力的だけど、さっき貰ったカップラーメンが気になってさ
QUOカード入ってたらいいな、って
食べてみない?」
「良いですね、岩月様達にちなみ卵を落として月見ラーメンにいたしましょう
ラーメンだけでは足りないので、冷凍ご飯を解凍して最後にスープをかけて食べようと思いますが、荒木もいかがですか」
「俺もご飯欲しい!炭水化物ばっかだけど、今日は働いたもんね」
「夕飯に野菜を多めにとって帳尻を合わせれば大丈夫ですよ」
私達は笑いながら遅いランチの準備を開始した。
薬缶を火にかけ、ご飯を解凍する。
荒木は私がテーブルに戻るまで、カップラーメンのフタを開けずに待っていてくれた。
「一緒に確認したいじゃん」
「当たっていると良いですね」
フタの説明を見ていた荒木が
「これワンタン麺なんだけど、エビワンタンが入ってるんだって
月さん、それでわざわざ俺にくれたのかな」
少し驚いた声を出した。
「それもあると思いますよ
最近のカップラーメンは、本当に色々な種類がありますね
エビ味の物があるか、今度私もチェックしてみます」
荒木のために何かを選べることは、とても心躍ることであった。
荒木が1個目のフタを慎重に剥がし中をのぞき込む。
「ダメだ、それらしい物は入ってないや
こーゆーのって、何万個も作られるんだろうし、そうそう当たらないよね」
スープやかやくの小袋を取り出して開け、カップに入れていく。
2個目のフタを剥がし小袋を取り出そうとしていた荒木の動きが止まった。
「何か袋が多い?これって液体スープも入ってるの?
さっきのには入ってなかったよ、不備だったのかも」
少しがっかりしたような荒木の声が、取り出した小袋を見てすぐに興奮したものになる。
「これ、QUOカードだ!凄い、当たってる!
月さんにお礼返しが出来るよ」
瞳を輝かせながら荒木は私に小袋を手渡してくれた。
それは透明なビニール袋に入っているカードだった。
カードにはドラマのワンシーンが印刷されているようだ。
公園のベンチらしき場所に座っている男の人の横に、耳が半分垂れている茶色の中型ミックス犬が寄り添っている場面だった。
「ああ、言われてみればこの方、生前のジョンに似ているかもしれません
毛色や毛の長さ、やんちゃな目元とか
当時、洋犬ミックスは珍しかったのですが、今ではジョンはかなりオーソドックスなミックス犬になりますね」
私は犬の姿の彼を思い出し、思わず笑ってしまった。
「そうなんだ」
私がカードを渡すと、荒木も改めてマジマジと絵柄を眺めていた。
「今のジョンに似てる…と言えば似てるのかな
髪の色とか似た感じだよね
月さんに渡すまでなくさないようにしなくちゃ」
荒木は財布の中にカードを丁寧にしまっていた。
それから私達は月見カップラーメンライス、というささやかながらも美味しいご馳走を食べる。
荒木と食べるカップラーメンは1人で食べる物より何倍も美味しいと感じていた。
「バジルの様子、また見に来て良い?
摘芯っていうのするんだよね、それも見てみたいな」
「花を咲かせない方が収穫量が上がる、との事でしたのでやってみます
摘芯で切り落とした部分は、ピザにのせてみましょうか
トマトとモッツァレラチーズを買って、マルゲリータを作ります」
バジルの育て方とともに、フレッシュバジルを使ったメニューも調べておいたのだ。
私の言葉で荒木はクスクス笑っている。
何か言い間違ってしまったかとオロオロしてしまうが
「バリバリの和犬からマルゲリータとかモッツァレラチーズなんて言葉が出てくるなんて、可愛くて可笑しい
色々調べてくれたんだね、ありがとう」
荒木は私を見て嬉しそうに微笑んでくれた。
その微笑みは私にとって何よりのご褒美だった。
「今日の予定は終了したから、これから自由時間だね
もう夕方だけど泊まっていくからまだ時間はあるよ、何しよっか」
飼い主の嬉しい問いに
「散歩がてら、DVDでも借りに行きますか?
あのジョンに似た犬が出てくると言うドラマ、DVDが出ていると書いてありましたのでちょっと気になりました」
私はそう答えてみる。
「俺も同じ事思ってた」
またしても気持ちが通じ合っていることを確認できて、私は幸せを感じていた。
「DVD鑑賞にはポテチとコーラも用意しないとね
さっき話してたから、ピザも食べたくなってきたな」
「今日は栄養より楽しみを優先して、好きな物を食べながら観ましょう」
私達はテーブルの上を片付けると、意気揚々と影森マンションを後にする。
私と荒木の思い出のページが増えた今日は、とても満ち足りた休日になるのであった。
到着すると園芸コーナーに移動した。
「これは俺も詳しくないから、アドバイス出来ないや
クロスケが食べちゃうとヤバいから、家では鉢植えどころか花も飾ったこと無かったもんなー」
荒木は売場を見渡しながら考え込んでいる。
「一応スマホで調べてはきたのですが、荒木にも確認していただきたいと思いまして
お手数をおかけして、申し訳ありません」
私は恐縮してしまう。
「まあ、俺でも店員さんに話を聞くくらいのことは出来るよ
どうしても分からなかったら最後はプロに聞いてみよう
それにこれって、俺のためにしてくれるんだろ?」
荒木は嬉しそうに笑ってくれる。
「はい、上手く育てられると良いのですが
無事に収穫できるよう頑張ってみます」
気を引き締めると私も売場を見渡して、目当ての物を探し始めた。
私の新たなチャレンジ、それは荒木のためにバジルを育てることだった。
荒木の好きなエビとアボカドのサラダにはフレッシュバジルが欠かせないのだが、毎回思うように手に入るわけではなかった。
セリや大葉、パセリといったメジャーな香野菜はいつでも売っていたがバジルはそうはいかないのだ。
手に入らないときは乾燥バジルを使っているのだが、やはり風味は生の物の方が良いと感じていた。
自分で育てれば葉のつく時期ならいつでも手に入って便利なのではないか、そう考えたのが始まりだった。
新たなチャレンジをする飼い主に触発され、私も植物を育てるという自分にとって全く未知のことをしてみようと思えるようになったのだ。
「本当はもう少し暖かくなってから育て始める方が良いようなのですが、荒木との春休みの思い出にしたくて先走ってしまいました
種から発芽させるのは難しそうなので、苗があれば、と」
「白久が育ててくれたバジル、食べるの楽しみだよ
サラダだけじゃなく、パスタにも合いそうだし
タイやサーモンの刺身にも合う、って桜さんが言ってたっけ
あっちが苗のコーナーみたいだ、行ってみよう」
私達は荒木が発見してくれた場所に、歩いていった。
「こっちは花の苗…、っと、ここら辺が野菜っぽい
まだ寒いせいかあんまり種類はなさそうだね」
苗が植えられているポットに刺さっているタグの品種名を確認しながら移動する。
「苗の状態だと、皆同じに見えるなー
黒猫を見分けるより難しいよ、これ」
荒木はそう言いながらポットをのぞき込む。
「あっ」
タグを見るよりも先に、香りが私に届いてきた。
「こちらがそうかもしれません」
私が指さしたポットにはまだ小さな苗が植わっていた。
「これ?本当だ、バジルって書いてある
やっぱまだ早いのかな、苗が小さいしポットは4個しか置いてないや
でも苗があってラッキーだったね」
ニッコリ笑う荒木を見て私はホッと胸をなで下ろした。
「後はプランターと土ですね、プランターは一応2個買ってみます
問題は…」
「土、だね」
私と荒木は沢山の種類が並んでいる土や肥料、腐葉土を見て固まってしまう。
ちょうどその時、店員さんがポットの苗に水をやりに来た。
「すいません、ちょっとお聞きしたいんですが」
荒木がすかざずその店員さんに声をかけてくれる。
他にお客が居なかったのが幸いして、その店員さんは親切にバジルの育て方や適した土を教えてくれた。
「ありがとうございます、スマホで調べてはきたのですが実物を見るとよくわからなくなってしまって」
「助かりました」
お店のカートに苗とプランターの他に、お勧めされた土と肥料を入れ私と荒木は店員さんに何度も頭を下げた。
「上手く育つと良いですね
これから苗は随時入荷しますので、どうしてもダメなようでしたらまたご来店ください」
店員さんからのアドバイスで『荒木に自分で育てた物を食べていただく』という私の夢も広がっていった。
大荷物を抱えてマンションの部屋に帰り着く。
一息つく間もなく、私と荒木は早速苗を植え替えてみることにした。
「色々教えて貰って、やる気があるうちにやった方が良いもんね」
「はい、覚えているうちに注意しておいた方が良い点を箇条書きにして貼っておきます
もう少し暖かくなるまで、夜間は室内に取り込むことにしましょう
部屋にプランターを置いておく場所も整えなければ」
私達はベランダに出て、作業を開始する。
店員さんに教えていただいたことやスマホで調べた情報に従い、思ったより早くポットからプランターに植え替えることが出来た。
ハーブ用の土を買うことが出来たので、土作りから始めなくて良いのが幸いしたようだ。
最後に水をたっぷりあたえ、作業を終える。
まだ黄緑色の小さな苗がプランターに並んでいる様子が、何とも言えず可愛らしい。
飼い主とともに植え替えた苗に、私は早くも愛着を覚えていた。
「植物を育てるなんて小学生の頃のアサガオ以来だけど、こっちの方が可愛い気がする」
荒木も同じようにこの苗のことを可愛いと思ってくれていて、飼い主と通じ合っている感覚がとても嬉しかった。
ベランダを片付け室内にプランター置き場用のトレイを置いて汚れた手を洗い、やっと私達は一息付くために座ることが出来た。
「一仕事終えた、って達成感あるなー
満足したらお腹空いて来ちゃった」
荒木の言葉で時計を見ると、もうお昼をだいぶ過ぎた時間になっている。
「有り合わせで良ければ、簡単な物を作ります」
飼い主に言われて自分も空腹であることに気が付いた。
「うーん、白久の料理も魅力的だけど、さっき貰ったカップラーメンが気になってさ
QUOカード入ってたらいいな、って
食べてみない?」
「良いですね、岩月様達にちなみ卵を落として月見ラーメンにいたしましょう
ラーメンだけでは足りないので、冷凍ご飯を解凍して最後にスープをかけて食べようと思いますが、荒木もいかがですか」
「俺もご飯欲しい!炭水化物ばっかだけど、今日は働いたもんね」
「夕飯に野菜を多めにとって帳尻を合わせれば大丈夫ですよ」
私達は笑いながら遅いランチの準備を開始した。
薬缶を火にかけ、ご飯を解凍する。
荒木は私がテーブルに戻るまで、カップラーメンのフタを開けずに待っていてくれた。
「一緒に確認したいじゃん」
「当たっていると良いですね」
フタの説明を見ていた荒木が
「これワンタン麺なんだけど、エビワンタンが入ってるんだって
月さん、それでわざわざ俺にくれたのかな」
少し驚いた声を出した。
「それもあると思いますよ
最近のカップラーメンは、本当に色々な種類がありますね
エビ味の物があるか、今度私もチェックしてみます」
荒木のために何かを選べることは、とても心躍ることであった。
荒木が1個目のフタを慎重に剥がし中をのぞき込む。
「ダメだ、それらしい物は入ってないや
こーゆーのって、何万個も作られるんだろうし、そうそう当たらないよね」
スープやかやくの小袋を取り出して開け、カップに入れていく。
2個目のフタを剥がし小袋を取り出そうとしていた荒木の動きが止まった。
「何か袋が多い?これって液体スープも入ってるの?
さっきのには入ってなかったよ、不備だったのかも」
少しがっかりしたような荒木の声が、取り出した小袋を見てすぐに興奮したものになる。
「これ、QUOカードだ!凄い、当たってる!
月さんにお礼返しが出来るよ」
瞳を輝かせながら荒木は私に小袋を手渡してくれた。
それは透明なビニール袋に入っているカードだった。
カードにはドラマのワンシーンが印刷されているようだ。
公園のベンチらしき場所に座っている男の人の横に、耳が半分垂れている茶色の中型ミックス犬が寄り添っている場面だった。
「ああ、言われてみればこの方、生前のジョンに似ているかもしれません
毛色や毛の長さ、やんちゃな目元とか
当時、洋犬ミックスは珍しかったのですが、今ではジョンはかなりオーソドックスなミックス犬になりますね」
私は犬の姿の彼を思い出し、思わず笑ってしまった。
「そうなんだ」
私がカードを渡すと、荒木も改めてマジマジと絵柄を眺めていた。
「今のジョンに似てる…と言えば似てるのかな
髪の色とか似た感じだよね
月さんに渡すまでなくさないようにしなくちゃ」
荒木は財布の中にカードを丁寧にしまっていた。
それから私達は月見カップラーメンライス、というささやかながらも美味しいご馳走を食べる。
荒木と食べるカップラーメンは1人で食べる物より何倍も美味しいと感じていた。
「バジルの様子、また見に来て良い?
摘芯っていうのするんだよね、それも見てみたいな」
「花を咲かせない方が収穫量が上がる、との事でしたのでやってみます
摘芯で切り落とした部分は、ピザにのせてみましょうか
トマトとモッツァレラチーズを買って、マルゲリータを作ります」
バジルの育て方とともに、フレッシュバジルを使ったメニューも調べておいたのだ。
私の言葉で荒木はクスクス笑っている。
何か言い間違ってしまったかとオロオロしてしまうが
「バリバリの和犬からマルゲリータとかモッツァレラチーズなんて言葉が出てくるなんて、可愛くて可笑しい
色々調べてくれたんだね、ありがとう」
荒木は私を見て嬉しそうに微笑んでくれた。
その微笑みは私にとって何よりのご褒美だった。
「今日の予定は終了したから、これから自由時間だね
もう夕方だけど泊まっていくからまだ時間はあるよ、何しよっか」
飼い主の嬉しい問いに
「散歩がてら、DVDでも借りに行きますか?
あのジョンに似た犬が出てくると言うドラマ、DVDが出ていると書いてありましたのでちょっと気になりました」
私はそう答えてみる。
「俺も同じ事思ってた」
またしても気持ちが通じ合っていることを確認できて、私は幸せを感じていた。
「DVD鑑賞にはポテチとコーラも用意しないとね
さっき話してたから、ピザも食べたくなってきたな」
「今日は栄養より楽しみを優先して、好きな物を食べながら観ましょう」
私達はテーブルの上を片付けると、意気揚々と影森マンションを後にする。
私と荒木の思い出のページが増えた今日は、とても満ち足りた休日になるのであった。