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しっぽや(No.158~162)

「後は、しょっぱい系だね
 サンドイッチが手早く作れてバリエーション豊富で良いと思うんだ
 あんまり準備に時間をかけられないからさ
 ケーキもサンドイッチも前もって作っておけるじゃん」
「そうですね、パンが乾かないように1個ずつラップでくるんでおけば…
 ラップか」
ひろせは考え込むと、またスマホで検索をし始めた。
「この、キャンディラップサンドと言うのが可愛いと思ってたんです
 魚肉ソーセージを斜めにスライスして先端をカットすれば桜の花びらのようになるから、模様にするのにピッタリかと」
見せてもらった写真のロールサンドは、キャンディーの様にラッブに包まれている。
花形に型抜きされたハムが飾りでついていて、とても可愛い見た目になっていた。

「良いね!これにしよう
 ひろせは何でも知ってるんだね、俺、こんなの検索してみたこと無かったよ」
俺は感心してしまう。
「タケシに作ってあげたら喜ぶかな、って考えながら検索するのが楽しくて
 人間に料理を教わるチャンスがなくても、こうやって色んな人が考えたレシピを知る事が出来るのはありがたいですね
 長瀞はレシピを検索して、更にアレンジを加えたりしています
 パーティーメニューにはチキンを1羽焼いてみたい、って張り切ってました
 ローストビーフとか日頃作らない物にチャレンジして、ゲンにも味わって欲しいんですって
 今回僕はタケシと楽しむためのメニューのお試し、みたいな感じでやらせてもらいます
 荒木と日野をダシにしちゃった」
ひろせは悪戯っぽい顔で舌を出してみせた。
飼い主を喜ばせようと、色々奮闘する化生達は健気で可愛かった。
「ナガトの料理には適わないと思うけど、これは俺たちのオリジナルメニューだ
 喜んでもらえると良いね」
俺は手を伸ばし、ひろせの柔らかな髪をそっと撫でる。
ひろせは俺の手を頬に押しつけ
「僕達のメニュー」
うっとりとした声で呟いていた。

パーティーの日までそんなに時間は無かったが、1回は試しに作ってみようと2人で買い物メモを作成する。
「明日も泊まりに来るから、その時に作ろうか
 材料は仕事の後に買いに行くことにして、パーティーメニュー作りを口実に連泊するよ
 俺も、荒木先輩と日野先輩をダシにつかってるな」
俺が笑うと
「ダシになってくれた2人には、美味しいお返しをしないとね」
ひろせもクスクス笑って秘密めかしてそう言った。


「メニューも決まったし、後は2人の時間を楽しもう」
俺はひろせを抱き寄せて耳元に口を近づけ、そっと囁いた。
「はい、シャワーでも浴びます?」
彼は期待するような瞳で聞いてくる。
「そうだね、入浴剤使って少し温泉気分も味わおう
 捜索を頑張ったひろせの身体をほぐさないとね」
そんなことを言ってシャツの上からひろせの身体に指を這わせ、耳朶を軽く噛む。
身を震わせて反応する姿が可愛らしく、色っぽかった。

俺たちはシャワールームに移動して温かなお湯に打たれながらジャレるようなキスを繰り返していた。
「温泉ではないんですが、美味しそうだなと思って買ってしまいました」
ひろせが持ってきた入浴剤は『牛乳風呂』の元だった。
バスタブに入れると、お湯が乳白色に変わっていく。
ほんのりと甘い香りが鼻をついた。
2人で一緒にバスタブに入ると、盛大にお湯が溢れてしまう。
シャワールームには更に甘い香りが広がっていった。
その香りが入浴剤の物だけではないことに俺は気が付いていた。
極上に甘い香り。
それは欲情しているひろせの気配が混じっているものだった。

「ひろせ」
「タケシ」
俺たちは先ほどより深く口づけを交わしあった。
舌を絡め、お互いの身体に指を這わせてその存在を確かめた。
温かなお湯に浸かっているせいか、あっという間に身体が熱くなっていく。
それは2人の燃える想いのように体中に広がっていった。
このままバスタブで繋がると直ぐにノボセてしまいそうだったので、俺はひろせを促して洗い場に移動する。
「タケシ、きて」
性急に求めてくるひろせを、俺は後ろから貫いた。
「んっ…、はあっ…、タケ…シ…、タケシ…」
甘い香りがひときわ強くなり、それに煽られたように俺の動きも加速していった。
きっとひろせも強く俺の気配を感じているはずだ。

俺達は激しく繋がり、お互いが感じている刺激に酔いながら想いを解放した。


まだひろせの中に自身を埋めたまま、俺は後ろから彼を抱きしめる。
「前から良かったけど、ひろせの気配を感じることが出来るようになってから特に興奮するようになった」
そう言って更に強く抱きしめると
「それでなのかな、僕も凄くタケシを感じるようになったかも」
ひろせはそう答えて、怪しく身を揺らめかせた。
俺達は想いを解放しあっても、身の内から欲望がわき出しているのを感じていた。

「ひろせが疲れてないなら、まだ頑張って良い?」
「いっぱい、頑張って下さい」

俺はひろせの可愛いおねだりを叶えるべく、深夜まで頑張り続けるのであった。




メニューが決まってからの俺達は試作を繰り返し、ナガトやゲンちゃんにアドバイスをもらったりして慌ただしくも充実した日々を過ごしていた。
あっという間に、プチパーティーは明日に迫っていた。
「荒木と日野、喜んでくれるかな」
ベッドの中、愛を確かめ合った後で俺の腕に抱かれたひろせが少し緊張したように話しかけてくる。
「日野先輩用におにぎりのキャンディーラップ巻き、荒木先輩用にエビチリ春巻きも追加して、しょっぱい系も和洋中巻きメニューにしたんだから大丈夫だよ
 やぶきた茶、ウーロン茶、ミルクティ、お茶だって和洋中だもん、絶対ウケるよ
 白久と黒谷がレシピを知りたがるぞ
 ナガトの得意料理が居酒屋なら、ひろせは喫茶店みたいだね」
俺が笑うとひろせも嬉しそうに笑って
「喫茶ひろせの本領発揮です」
可愛らしく舌を出してみせるのだった。



プチパーティーの日は控え室であまり調理をしなくて良いよう遅めの出勤にしてもらい、朝からひろせの部屋のキッチンで大奮闘する。
2人で大荷物を持って出勤したのは、ちょうど昼の時間であった。
早速、控え室のテーブルに料理を並べていく。
先輩達とその飼い犬、控え室にいた化生を交えランチ込みの合格祝いプチパーティーが始まった。

先ずは和洋中の巻きメニューだ。
「荒木先輩も日野先輩も大学合格おめでとうございます
 お疲れさまでした
 無事に桜が咲いたんで、キャンディサンドに桜の花びらをあしらってみました
 今回は和洋中をコンセプトにメニューを考えてみたんです」
俺がテーブルの上を指さすと、早速荒木先輩と日野先輩が手を伸ばした。

「桜の花びらは魚肉ソーセージか、考えたね
 中身はエビとアボカドだ!サンドイッチ用に小さく刻んであっても、包んであるからコボレてこなくて食べやすいや
 手が汚れないし、外に持って行くお弁当にもってこいだなー
 花見とかに良いんじゃない?」
荒木先輩の言葉で、白久がひろせに頭を下げる。
後でレシピを教えてくれ、ということだろう。
「色んな味ご飯を小さいおにぎりにすると何種類も食べられて良いじゃん
 桜の塩漬けご飯に枝豆ご飯、春の色合いだ
 これも手が汚れなくて、キャンディ巻きって便利で良いな」
日野先輩も素直に感心していた。
「おかずは中華春巻きです
 これ、中身はエビチリ、チンジャオロース、麻婆豆腐なんですよ
 スーパーのお総菜を包んで揚げなおしただけのお手軽メニューです」
俺はヘヘッと笑って頭をかいた。
「その手があったか、かなり時短だね」
黒谷が感心したように頷いていた。

テーブルに空きが出てくると、俺とひろせは冷蔵庫からケーキを取り出した。
「ここからが『喫茶ひろせ』の本領発揮です
 ベタ中のベタ、ショートケーキ!」
オーソドックスなケーキだけど、その色合いでテーブルの上が一気に華やいだ。
周りを囲むイチゴ以外に、ケーキの真ん中にも大きなイチゴと小さなイチゴが2個ずつのせてある。
俺はその側に『大学合格おめでとう』と書いたチョコプレートを差し込んだ。
「このイチゴ、先輩達と白久と黒谷をイメージしてのせました」
小さなイチゴに例えられ、2人の先輩が俺を睨んだが
「このイチゴが荒木なのですね、何と愛らしい」
「僕達がいるケーキ、素晴らしすぎる」
飼い犬達が感極まった声を出したので、すぐに機嫌を直してくれた。

畳みかけるようにマーラーカオのパウンドケーキ風とかるかんロールケーキ風をテーブルに置く。
「え?これ、『かるかん』って言うの?面白い!
 口当たりが軽いし、上にのってる桜の塩気が良いね
 人用の『かるかん』かー、変なの」
ブツブツ良いながらニヤニヤとかるかんを食べている荒木先輩は、猫バカ以外の何者でもなかった。
それは俺が初めてこのお菓子名を知ったときと同じ反応だった。

「形はパウンドケーキなのに、本当にマーラーカオだ
 婆ちゃんが作ってくれる蒸しパンも好きだけど、マーラーカオも好きなんだよな
 あれって自分で作れたのか、クッキングパッドでお菓子ってあんまり検索したことないから知らなかった
 今後はお菓子も検索して、婆ちゃんか黒谷に作ってもらうのも有りだな」
日野先輩は機械のような正確さとスピードで、切り分けたマーラーカオを口に運んでいる。
黒谷が先ほどの白久のように、ひろせに頭を下げていた。


先輩達が喜んでくれたし、ひろせがナガトみたいに料理マスターの扱いを受けていて俺は今回のプチパーティーに満足する。
ひろせとの頑張りが形になってくれたのだ。
でも一番満足だったのは『ひろせと2人で仕事をやり遂げた』ことだった。
まだひろせと一緒に捜索を行うのは無理だけど、それでも一緒に出来る仕事があると言うことが嬉しくて誇らしい。
ひろせも同じ思いらしく、パーティー中はずっと華やかな気配をまとわせていた。


こうやって2人で出来ることを積み重ね、もっともっと深い繋がりで結ばれるようになりたい。
いつかゲンちゃんとナガトのように強い絆で結ばれる事を信じ、俺達は未来に向かって確実に歩いていくのだった。
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