しっぽや(No.158~162)
荒木の合格結果を知った翌々日、俺は黒谷の部屋に泊まりに来ていた。
愛犬と2人だけの大学合格プチ祝いをするためだ。
しっぽやの方は少し早めに上がらせてもらっていた。
「どうなることかと思ったけれど、2人して大学に合格できて良かったですね
日野が合格してくれたのは嬉しいけど、荒木だけもう1年間受験生だと考えるとちょっとモヤモヤすると思っていたのです
これで心おきなくプチ祝いをする事が出来ます
シロも似たようなメニューでプチ祝いをすると張り切ってましたよ
一緒にひろせに習いに行っていたのです
もっとも、習った料理だけだと日野には足りないと思い色々追加してみました」
テーブルの上には所狭しと色んな料理が並んでいる。
鯛とマグロの紅白刺身、紅白の蒲鉾、カニかま(これも色味が紅白だ!)サラダ、一口カツ、エビフライ、水餃子の入ったスープ。
真ん中にドーンと置かれた大きな土鍋に入っているのは、鯛が丸々1匹入っている鯛飯だった。
「デザートには、桜のパウンドケーキを焼いてあります
出すときに、生クリームとあんこを添えますね」
鯛をほぐしながら黒谷が弾んだ声で言う。
「凄い!美味そう!ありがとう黒谷」
鯛のお腹が膨らんでいると思ったら、中からゆで卵が3個も出てきた。
「これはひろせのアイデアです
大きな鯛が手に入ったので多目に入れてみました
鯛にあわせて思い切って土鍋も大きい物を買ってしまいました
嬉しいときにする買い物は抑えが効かなくなりますね
でもこれで、冬に鍋をするときも1度に沢山作れます」
黒谷が鯛飯を丼によそって手渡してくれる。
上に乗っているゆで卵が豪華に見えた。
「いただきます!」
俺は早速鯛飯を頬張った。
鯛の旨みが染みているご飯は程良い塩加減で、後から加えた三つ葉の爽やかな香りが最高だ。
「美味ーい!!」
ゆで卵にも鯛の旨みが染みていた。
「黒谷って本当に料理が上手いよね
俺、長瀞さんより黒谷の方が料理上手なんじゃないかって思う」
箸を動かしながらそんなことを言うと
「それは、悪い気がしませんね
長瀞はゲンに少量でも色々食べてもらえるよう頑張っていました
余った分をご相伴していたから、僕やシロは舌が肥えていったのかも」
黒谷は悪戯っぽい顔で笑っていた。
「皆、飼い主のために頑張ってるんだね
俺も飼い犬のために頑張るから
大学に行って何をしっぽやの為に役立てられるかまだわかんないけど、それを探すためにも勉強するよ
荒木だけに任せておけないし車の免許も取る
でもナリのバイク見て、バイクも良いなーとか思ってるんだけどさ」
未来の予定をワクワクしながら立てられる、そんな今の自分の状況が嬉しくて仕方なかった。
「大学が始まったら、俺や荒木は今ほどはバイトに行けないと思う
タケぽんだけだと不安かな
ウラが時間あったら顔出してくれると思うけど、それはそれで不安な気がする」
俺は少し考え込んでしまう。
「僕達も簡単なパソコン作業を覚えるようにします
それに少し先の話ではありますが、ソシオの飼い主が決まったので正式に所員になってくれるんです
人員が増えるし、大丈夫ですよ」
「え、あの三毛猫君、飼い主出来たんだ」
俺は1回だけ会ったことのある猫のことを思い出していた。
ついでに、荒木とタケぽんの猫バカっぷりも思い出す。
猫バカ、と言っても猫に対してきちんとした知識を持っていることは、しっぽやでは強みになる。
むしろ、動物のことを知らない方がダメなのだ。
『俺も、もう少し動物のことを勉強した方が良いよな』
大学で教えてくれることではないので独学でやらなければいけないが、それは楽しそうな独学であった。
「ソシオの飼い主はバイクで事故にあって入院中です
近日中に退院できるようですが療養が必要だし引っ越しの準備があるので、歓迎会&合格祝いパーティーには来られないとか
ナリの友達ですから、先にそちらの関係でプチ歓迎会をするのではないでしょうか
影森マンションに引っ越して来るので、そのうち会うこともあるでしょう
ゲンの店で働く事になるとか
病院に面接に行ったら使えそうな奴だった、って喜んでました」
「ゲンさんのお墨付きなら良い人そうだね
ナリのバイク友達か、会ったらバイク見せてもらおっと」
俺はお代わりの為、丼を黒谷に差し出した。
何も言わなくても黒谷はそれを受け取り、鯛飯をよそってくれる。
飼い主の一挙手一投足を見逃さず常に気を配ってくれる愛犬は、頼りになる存在だった。
ご飯を食べた後は、デザートを堪能する。
和風のケーキなので黒谷は焙じ茶を煎れてくれた。
「桜の香りが春っぽくて良いね
俺の桜も咲いてくれたし、高校生最後の春休みは楽しく過ごすよ
もちろん、黒谷と一緒にね」
俺が笑うと、黒谷も笑い返してくれた。
「飼い主と過ごす春、楽しみです」
「梅や桜の咲いてる並木道をランニングしたいな」
「帰りは牛丼屋ですね」
「もちろん」
2人で過ごす春を思い、俺達の心は幸せに染まるのであった。
ケーキを食べながら会話したりテレビを観たりまったり過ごしていたが、食欲が満たされた俺は黒谷を感じたくなってきた。
「そろそろ、シャワーでも浴びる?」
期待するように問いかけると
「はい」
黒谷も頬を染めて答えてくれた。
俺達は直ぐにシャワールームに移動し、2人で温かなお湯に打たれ始めた。
黒谷の逞しい肉体をシャワーの滴がしたたっていく。
「黒谷って、着やせするよね
黒い服が多いからスレンダーに見えるのかな
甲斐犬も一見スレンダーだけど、けっこうガッシリしてるんだよなー」
俺は彼の胸に指を這わせ、筋肉を確認するようになぞっていった。
「それは、日野も同じですよ
運動をしているせいでしょうか、筋肉がとてもキレイに引き締まっております」
黒谷も俺の体に指を這わせている。
軽く胸の突起を摘まれ、ビクリと反応してしまう。
「ん、ふっ…」
思わずもらした吐息ごと、黒谷の唇が俺の唇を貪り始めた。
舌を絡め合い2人の唇は熱く繋がりあう。
お互いの自身は堅く強ばり、それを相手の体に押しつけて欲望を加速させていった。
キスよりも、もっともっと深く相手と繋がって激しく揺さぶられると頭の中が真っ白になっていく。
黒谷の存在以外を感じ取れず、この世にただ2人しか居ないのではないかと錯覚してしまう。
俺が黒谷への想いを激しく解放すると、彼も俺の中に勢いよく想いを注ぎ込んでくれた。
荒い息を吐きながら
「黒谷、俺の最高の愛犬、愛してる」
そう伝えて彼の胸に顔を埋める。
「日野、僕の可愛い飼い主、愛してます」
彼は俺を抱きしめて満足そうに囁いた。
暫く抱き合った後
「お背中、お流しいたしましょう」
黒谷がスポンジにボディーソープを出して泡立て始めた。
「俺、シャンプーしてあげるね
愛犬のシャンプーくらい出来るようにならなきゃ
荒木に教わったんだ」
触れ合っている肌に我慢できずもう1度繋がったりしながら、俺達はお互いの身体を磨き上げていった。
シャワーを浴び終わった後はベッドに移動して、更に激しく繋がりあった。
翌日を休みにしていたから時間を気にせず何度も触れ合える、最高にゴージャスで幸せな時間を過ごすことが出来ていた。
激しい運動のせいで疲れていたけれど興奮していたせいか寝付けずにいる俺に付き合って、黒谷も起きていた。
彼に抱かれ頭を胸に乗せ鼓動を感じる。
それは激しい快楽の果ての安らぎの時間だった。
「起きたら少し走りに行こうか
土手の方まで行ってみる?何か花が咲いてれば花見にもなるのにな」
「良いですね、自分の足で走るのはとても気持ち良いものです」
黒谷はそう言うと、少し考え込む様子をみせた。
「何か気になる?」
俺はそっと聞いてみる。
「いえ、ふかやはバイクに乗ると自分で走るより早く走れて気持ち良いと言っていたな、と思い出して」
「俺がバイクの免許取ったら、タンデムして黒谷も乗ってみようよ
ふかやが乗れるんだし、黒谷だって直ぐに慣れると思う」
黒谷と2人でバイクに乗ることを想像するとワクワクしてきた。
「そう、ですね…
しかし、ソシオの飼い主はバイクで事故にあって大怪我を負いました
もし、ソシオによる発見が遅ければ、最悪命を落としていたかも
車よりも身体が剥き出しでいる分、バイクの方が危ないのではないかと思ってしまうんです
日野の身に何かあったら、と思うと恐ろしい…
バイクに乗るのが日野の望みでも、それを阻止してしまいたくなる
飼い主が先に亡くなる絶望に耐えられないという、僕のエゴなのですが」
俺を抱きしめる黒谷の腕は震えていた。
「大丈夫、もう2度と黒谷を置いていかないから
安全運転するよう気を付ける
絶対事故らない、とは言えないけど、死ぬほどの事故は起こさないから
って、何か安心できないセリフだな
黒谷にとって楽しい思い出を作れるような運転をする
だから、一緒に乗ろう
ラッキードッグと一緒に乗れば、大丈夫だって」
自分でも支離滅裂な言い草だと思ったけれど、俺は何とかして黒谷を安心させてやりたかった。
「そうですね、僕は日野のラッキードッグだった
ソシオもラッキーキャットだったから、飼い主は事故の割には深刻なダメージを負う怪我が無かったって言ってましたっけ」
黒谷の言葉は、いつもの調子に戻っていた。
「バイクはグチャグチャに壊れたそうですよ
修理費にしたいから、給料前借りしたいってソシオに相談されたんです
三峰様がソシオの出世払いだ、と全額立替を申し出てくださいました
何でも特殊なバイクだったらしく、かなりお金がかかりそうだとか」
「うわ、悲惨…俺、事故らないようマジで気を付ける」
俺はブルッと身を震わせて、更に強く黒谷に抱きついた。
「免許取るときは、ナリに教わろっと
その方が安心そう」
「そうしてください」
眠気が訪れるまで俺達はたわいない話に花を咲かせる。
その花の花びらはどれだけ散っても無くなることはなく、それはまるで桜の大木に次々と花が咲いていくような圧倒的な存在感と美しさを持って、俺の心を満たしてくれるのであった。
愛犬と2人だけの大学合格プチ祝いをするためだ。
しっぽやの方は少し早めに上がらせてもらっていた。
「どうなることかと思ったけれど、2人して大学に合格できて良かったですね
日野が合格してくれたのは嬉しいけど、荒木だけもう1年間受験生だと考えるとちょっとモヤモヤすると思っていたのです
これで心おきなくプチ祝いをする事が出来ます
シロも似たようなメニューでプチ祝いをすると張り切ってましたよ
一緒にひろせに習いに行っていたのです
もっとも、習った料理だけだと日野には足りないと思い色々追加してみました」
テーブルの上には所狭しと色んな料理が並んでいる。
鯛とマグロの紅白刺身、紅白の蒲鉾、カニかま(これも色味が紅白だ!)サラダ、一口カツ、エビフライ、水餃子の入ったスープ。
真ん中にドーンと置かれた大きな土鍋に入っているのは、鯛が丸々1匹入っている鯛飯だった。
「デザートには、桜のパウンドケーキを焼いてあります
出すときに、生クリームとあんこを添えますね」
鯛をほぐしながら黒谷が弾んだ声で言う。
「凄い!美味そう!ありがとう黒谷」
鯛のお腹が膨らんでいると思ったら、中からゆで卵が3個も出てきた。
「これはひろせのアイデアです
大きな鯛が手に入ったので多目に入れてみました
鯛にあわせて思い切って土鍋も大きい物を買ってしまいました
嬉しいときにする買い物は抑えが効かなくなりますね
でもこれで、冬に鍋をするときも1度に沢山作れます」
黒谷が鯛飯を丼によそって手渡してくれる。
上に乗っているゆで卵が豪華に見えた。
「いただきます!」
俺は早速鯛飯を頬張った。
鯛の旨みが染みているご飯は程良い塩加減で、後から加えた三つ葉の爽やかな香りが最高だ。
「美味ーい!!」
ゆで卵にも鯛の旨みが染みていた。
「黒谷って本当に料理が上手いよね
俺、長瀞さんより黒谷の方が料理上手なんじゃないかって思う」
箸を動かしながらそんなことを言うと
「それは、悪い気がしませんね
長瀞はゲンに少量でも色々食べてもらえるよう頑張っていました
余った分をご相伴していたから、僕やシロは舌が肥えていったのかも」
黒谷は悪戯っぽい顔で笑っていた。
「皆、飼い主のために頑張ってるんだね
俺も飼い犬のために頑張るから
大学に行って何をしっぽやの為に役立てられるかまだわかんないけど、それを探すためにも勉強するよ
荒木だけに任せておけないし車の免許も取る
でもナリのバイク見て、バイクも良いなーとか思ってるんだけどさ」
未来の予定をワクワクしながら立てられる、そんな今の自分の状況が嬉しくて仕方なかった。
「大学が始まったら、俺や荒木は今ほどはバイトに行けないと思う
タケぽんだけだと不安かな
ウラが時間あったら顔出してくれると思うけど、それはそれで不安な気がする」
俺は少し考え込んでしまう。
「僕達も簡単なパソコン作業を覚えるようにします
それに少し先の話ではありますが、ソシオの飼い主が決まったので正式に所員になってくれるんです
人員が増えるし、大丈夫ですよ」
「え、あの三毛猫君、飼い主出来たんだ」
俺は1回だけ会ったことのある猫のことを思い出していた。
ついでに、荒木とタケぽんの猫バカっぷりも思い出す。
猫バカ、と言っても猫に対してきちんとした知識を持っていることは、しっぽやでは強みになる。
むしろ、動物のことを知らない方がダメなのだ。
『俺も、もう少し動物のことを勉強した方が良いよな』
大学で教えてくれることではないので独学でやらなければいけないが、それは楽しそうな独学であった。
「ソシオの飼い主はバイクで事故にあって入院中です
近日中に退院できるようですが療養が必要だし引っ越しの準備があるので、歓迎会&合格祝いパーティーには来られないとか
ナリの友達ですから、先にそちらの関係でプチ歓迎会をするのではないでしょうか
影森マンションに引っ越して来るので、そのうち会うこともあるでしょう
ゲンの店で働く事になるとか
病院に面接に行ったら使えそうな奴だった、って喜んでました」
「ゲンさんのお墨付きなら良い人そうだね
ナリのバイク友達か、会ったらバイク見せてもらおっと」
俺はお代わりの為、丼を黒谷に差し出した。
何も言わなくても黒谷はそれを受け取り、鯛飯をよそってくれる。
飼い主の一挙手一投足を見逃さず常に気を配ってくれる愛犬は、頼りになる存在だった。
ご飯を食べた後は、デザートを堪能する。
和風のケーキなので黒谷は焙じ茶を煎れてくれた。
「桜の香りが春っぽくて良いね
俺の桜も咲いてくれたし、高校生最後の春休みは楽しく過ごすよ
もちろん、黒谷と一緒にね」
俺が笑うと、黒谷も笑い返してくれた。
「飼い主と過ごす春、楽しみです」
「梅や桜の咲いてる並木道をランニングしたいな」
「帰りは牛丼屋ですね」
「もちろん」
2人で過ごす春を思い、俺達の心は幸せに染まるのであった。
ケーキを食べながら会話したりテレビを観たりまったり過ごしていたが、食欲が満たされた俺は黒谷を感じたくなってきた。
「そろそろ、シャワーでも浴びる?」
期待するように問いかけると
「はい」
黒谷も頬を染めて答えてくれた。
俺達は直ぐにシャワールームに移動し、2人で温かなお湯に打たれ始めた。
黒谷の逞しい肉体をシャワーの滴がしたたっていく。
「黒谷って、着やせするよね
黒い服が多いからスレンダーに見えるのかな
甲斐犬も一見スレンダーだけど、けっこうガッシリしてるんだよなー」
俺は彼の胸に指を這わせ、筋肉を確認するようになぞっていった。
「それは、日野も同じですよ
運動をしているせいでしょうか、筋肉がとてもキレイに引き締まっております」
黒谷も俺の体に指を這わせている。
軽く胸の突起を摘まれ、ビクリと反応してしまう。
「ん、ふっ…」
思わずもらした吐息ごと、黒谷の唇が俺の唇を貪り始めた。
舌を絡め合い2人の唇は熱く繋がりあう。
お互いの自身は堅く強ばり、それを相手の体に押しつけて欲望を加速させていった。
キスよりも、もっともっと深く相手と繋がって激しく揺さぶられると頭の中が真っ白になっていく。
黒谷の存在以外を感じ取れず、この世にただ2人しか居ないのではないかと錯覚してしまう。
俺が黒谷への想いを激しく解放すると、彼も俺の中に勢いよく想いを注ぎ込んでくれた。
荒い息を吐きながら
「黒谷、俺の最高の愛犬、愛してる」
そう伝えて彼の胸に顔を埋める。
「日野、僕の可愛い飼い主、愛してます」
彼は俺を抱きしめて満足そうに囁いた。
暫く抱き合った後
「お背中、お流しいたしましょう」
黒谷がスポンジにボディーソープを出して泡立て始めた。
「俺、シャンプーしてあげるね
愛犬のシャンプーくらい出来るようにならなきゃ
荒木に教わったんだ」
触れ合っている肌に我慢できずもう1度繋がったりしながら、俺達はお互いの身体を磨き上げていった。
シャワーを浴び終わった後はベッドに移動して、更に激しく繋がりあった。
翌日を休みにしていたから時間を気にせず何度も触れ合える、最高にゴージャスで幸せな時間を過ごすことが出来ていた。
激しい運動のせいで疲れていたけれど興奮していたせいか寝付けずにいる俺に付き合って、黒谷も起きていた。
彼に抱かれ頭を胸に乗せ鼓動を感じる。
それは激しい快楽の果ての安らぎの時間だった。
「起きたら少し走りに行こうか
土手の方まで行ってみる?何か花が咲いてれば花見にもなるのにな」
「良いですね、自分の足で走るのはとても気持ち良いものです」
黒谷はそう言うと、少し考え込む様子をみせた。
「何か気になる?」
俺はそっと聞いてみる。
「いえ、ふかやはバイクに乗ると自分で走るより早く走れて気持ち良いと言っていたな、と思い出して」
「俺がバイクの免許取ったら、タンデムして黒谷も乗ってみようよ
ふかやが乗れるんだし、黒谷だって直ぐに慣れると思う」
黒谷と2人でバイクに乗ることを想像するとワクワクしてきた。
「そう、ですね…
しかし、ソシオの飼い主はバイクで事故にあって大怪我を負いました
もし、ソシオによる発見が遅ければ、最悪命を落としていたかも
車よりも身体が剥き出しでいる分、バイクの方が危ないのではないかと思ってしまうんです
日野の身に何かあったら、と思うと恐ろしい…
バイクに乗るのが日野の望みでも、それを阻止してしまいたくなる
飼い主が先に亡くなる絶望に耐えられないという、僕のエゴなのですが」
俺を抱きしめる黒谷の腕は震えていた。
「大丈夫、もう2度と黒谷を置いていかないから
安全運転するよう気を付ける
絶対事故らない、とは言えないけど、死ぬほどの事故は起こさないから
って、何か安心できないセリフだな
黒谷にとって楽しい思い出を作れるような運転をする
だから、一緒に乗ろう
ラッキードッグと一緒に乗れば、大丈夫だって」
自分でも支離滅裂な言い草だと思ったけれど、俺は何とかして黒谷を安心させてやりたかった。
「そうですね、僕は日野のラッキードッグだった
ソシオもラッキーキャットだったから、飼い主は事故の割には深刻なダメージを負う怪我が無かったって言ってましたっけ」
黒谷の言葉は、いつもの調子に戻っていた。
「バイクはグチャグチャに壊れたそうですよ
修理費にしたいから、給料前借りしたいってソシオに相談されたんです
三峰様がソシオの出世払いだ、と全額立替を申し出てくださいました
何でも特殊なバイクだったらしく、かなりお金がかかりそうだとか」
「うわ、悲惨…俺、事故らないようマジで気を付ける」
俺はブルッと身を震わせて、更に強く黒谷に抱きついた。
「免許取るときは、ナリに教わろっと
その方が安心そう」
「そうしてください」
眠気が訪れるまで俺達はたわいない話に花を咲かせる。
その花の花びらはどれだけ散っても無くなることはなく、それはまるで桜の大木に次々と花が咲いていくような圧倒的な存在感と美しさを持って、俺の心を満たしてくれるのであった。