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しっぽや(No.145~157)

ピンポーン

宴の最中に、チャイムが鳴る。
「あれ?出前は直に部屋には届かないはずなんだけど」
ナリが首を捻りながら玄関に向かうが、俺とふかやには誰が来たかの察しがついていた。
「どーもどーも、お邪魔します
 若い集まりに混ざっちゃって悪いね」
ナリと一緒にゲンと長瀞がリビングに姿を現した。
「「ゲンさん」」
皆、ゲンとは顔見知りなので笑顔で出迎える。
「座ってください、今日はお疲れさまでした」
「今夜はモッチーの奢りなんすよ
 ゲンさんも食べていってください」
皆はゲンと長瀞のために場所を空けていた。
「いやー、そう言ってもらえると思ってナガトの手料理を土産に持ってきたんだ
 美味いぜ、居酒屋『長瀞』のつまみは」
「皆さんのお口に合うと良いのですが」
長瀞が3段の重箱をテーブルの上に置き開けていくと、皆から歓声が上がる。
「美味そー」
「これ、全部手作りっすか?」
「マジで居酒屋開けるレベル」
俺とふかやは顔を見合わせ『習いに行こう』と目線で会話した。

ゲンと長瀞が宴会に加わり出前が届き、場はどんどん盛り上がっていった。
「モッチー君、来週から出勤な
 客商売だし、ネクタイスーツで来てくれよ
 まあ、暫くは裏方やってもらうけど
 ソシオも来週からしっぽやに復帰してもらえるか?
 今度から臨時所員じゃなく、正式な捜索員だ
 モッチー君にネクタイの結び方教えてもらえ
 パーカーで出社しちゃダメだぞ」
ゲンは俺達を見ながら楽しそうに笑っている。
「そういや、ミイちゃんがソシオに会いたがってたんだ
 近々来ると思うから、失礼の無いように部屋を片付けとけよ
 どんな所で暮らすようになるか、見たいんだってさ
 お前さんはミイちゃんの秘蔵っ子みたいなもんだからなー
 嬉しい反面、寂しくなるんだろ
 『ソシオが居ないと、むさ苦しい集団しか見れない』って嘆いてたぜ」
ゲンはビールを飲みながら機嫌良くクツクツ笑っている。
「ミイちゃん?」
首を傾げるモッチーに
「ここのマンションのオーナー
 ソシオはVIPのお世話係だったの」
ゲンが悪戯っぽい顔で告げた。
「何々、ソシオって、スゲー奴だったの?」
「VIPと知り合いって、マジか」
事情を知らないモッチーの友達は、一様に驚いた顔をしていた。

「今更だけど、何だかここって別世界って感じなんだよなー」
モッチーの友達の呟きに
「いやいや、君らと同じ世界だよ
 これからも遊びに来てくれ
 ふかやとソシオも仲間に入れてくれるとありがたいな
 んで、オジサンも誘ってもらえると嬉しいぜ」
ゲンはヒヒッと笑って言った。
「ゲンさん、俺らとそんなに年離れてないっしょ」
「まだオジサンっつーには早いって」
皆が慌てて否定する様子をゲンは楽しそうに見ていた。
「んじゃ、『ゲンお兄さん』とでも呼んで貰おうか」
「お兄さんって感じじゃないな」
「むしろ『アニキ』って感じか」
「そうそう『ゲンのアニキ』ってイメージ」
「任侠映画かっつーの」
ゲンの持つ雰囲気に包まれて、場はますます盛り上がっていく。

「モッチー、ゲンアニキみたいな人が上司で良かったじゃん」
「自分でもそう思う
 俺、頑張ります」
モッチーに感謝の目を向けられ
「おう、期待してるぜ
 皆、家を買う時は、まずモッチー君に相談してもらおうか
 周りにも宣伝しといてくれよ、契約取れたら特別ボーナスはずむからな」
ゲンは晴れやかな笑顔を見せていた。

その後も楽しい宴会は続き、日にちが変わった少し後に解散になる。
皆はナリの部屋に泊まっていくが、俺とモッチーは部屋に帰るために玄関に向かう。
ゲンと長瀞も一緒に続いていた。
「楽しい奴らだな、良い友達もってるじゃん」
ゲンに肩を叩かれて
「はい、外見あんなだけど、皆、気の良い奴です」
モッチーは少し誇らしげに答えていた。
「おいおい、お前さんだって、ちっとは迫力ある外見だぜ
 でな、考えたんだが、皆に早く覚えて貰うためと女性客にも受けが良いようにネームプレートはこれ付けてもらうから
 写真は、出社したときにでも撮らせてもらうぜ
 名刺もお揃いで作るからな」
ゲンに手渡された物を見たモッチーが
「ほんと、ゲン店長んとこフリーダムっすね」
そう言って苦笑する。
俺が手元をのぞき込むと大きめのネームプレートに三毛猫の写真が印刷されていて
『大野原不動産××支店 持田 保夫(もちだ やすお) 猫バカ担当 ペット可物件多数取り扱っております お気軽にご相談ください』
そんな文字が書かれていた。

「知り合いが、良いデザインの名刺を作るようになってな
 せっかくだし、うちの店員のを一新しようと思ってさ
 良いタイミングで入社したな」
クツクツ笑っているゲンに
「…みたいですね、ソシオのおかげかな」
モッチーは神妙な顔をみせた。
「ソシオの運を引き寄せたのはモッチー君だ
 お前等、強運カップルだな
 ま、俺だってナガトと出会えた強運の持ち主だけどよ」
ゲンは傍らの長瀞を優しく撫でる。
幸せそうな長瀞に負けないようモッチーの側に寄ると、彼は力強く俺を引き寄せてくれた。

ナリの部屋を後にする俺達は、幸せな飼い猫と飼い主だった。



ナリの部屋から3つ離れた突き当たりの部屋のドアの前で、俺とモッチーは立ち止まった。
今度は俺が鍵を取り出して、鍵穴に差し込んで回してみる。

カチャリ

俺とモッチーの楽園の扉が開く音がした。
「何つーか、早くも『帰ってきた』って感じがするな
 まだ越してきて数時間なのによ」
靴を脱ぎながらモッチーが照れたように笑う。
「俺も同じ
 ナリの部屋の貸してもらってた場所じゃなく、ここが自分の部屋なんだって感じる
 自分の居場所なんだって」
俺は早足でリビングに向かい電気をつけた。
見知った家具と、段ボール箱が山積みのリビング。
「明日から居場所作りが始まるぞ」
「うん、楽しみ」
リビングをながめる俺を、モッチーが後ろから抱きしめてくれた。
「シャワー、使うか
 もうガスも水道も使えるってゲン店長が言ってたから」
耳元で彼が囁いた。
「一緒に浴びよう
 日用品の箱にシャワー用品一式入れといたから、すぐ出せるよ」
俺は体に回された手に自分の手を重ね、さらに密着する。
2人の間に流れる時間は既に幸福なものだったが、これからもっと素晴らしいものになる予感で体が熱くなっていった。

シャワー用品を箱から取り出して、シャワールームに向かう。
洗濯機だけが設置されている脱衣所の鏡には、幸せそうな俺達の姿が写っている。
「やっぱ、ワンルームとは違うな
 シャワーの側に脱衣所と洗面台があるだけで、リッチに見える」
満足そうに辺りを見回して、モッチーが服を脱いでいく。
俺も着ている物を全部脱ぎ捨てた。
脱ぎ終わった俺達はシャンプーやボディーソープを持ってシャワールームに入る。
コックを捻ると最初は冷たい水が出てきたが、徐々に温かくなっていった。
「前より広いから浴槽に湯を溜めて2人で入れそうだが、今日はシャワーだけでいいか」
「うん、だって、早くモッチーとしたいもん」
温かいお湯に打たれながら、俺達は唇を合わせあった。

「あっ…んんっ…」
彼の手に敏感な部分を刺激され、思わずもれてしまう喘ぎを俺は必死に押しとどめた。
「ソシオ、もう我慢しなくて大丈夫だ、ここは防音バッチリなんだから
 隣は空き部屋みたいだしよ」
飼い主からのお許しが出て、俺は今まで上げられなかった想いの丈(たけ)を存分に吐き出すことが出来た。
「ああっ…、モッチー、モッチー、愛してる…
 ひい、んっ…あっあっあっ、くぅっ」
しかしモッチーに貫かれ激しく揺さぶられると、まともな言葉が口からは出てこなかった。
「ソシオ、ソシオ…」
彼が情熱的に名前を呼んでくれることが更に俺の興奮に拍車をかける。
こんなにも彼に求められているのだと実感し、耐えきれずに彼の手の中に想いを解放した。
モッチーもひときわ深く自身を突き入れ、俺の中に想いをそそぎ込んでくれた。

俺達は荒い息を吐きながら温かなお湯に打たれ続けていた。
「声を我慢してるソシオも可愛いけど、喘ぎながら名前を呼んでくれるソシオも可愛いなー
 スゲー、興奮した」
モッチーは満足そうに俺の頬にキスをしてくれる。
「俺も、モッチーに呼んでもらえるの嬉しくて興奮する
 『壮士』じゃなくて『ソシオ』になれて良かったって思えるんだ」
そう言って濡れて頬に張り付いている彼の髪をなで上げた。
俺達は見つめ合い、そっと唇を合わせる。
「そんじゃ、さっさと洗ってベッドで続きをするか
 この部屋での、最初のスイーツを堪能だ
 今のは味見のつまみ食い」
「そのために、ベッドだけは真っ先に使えるようにしといたんだもんね」
俺はクスクス笑いながら答えた。

「荷物運んだあいつらにゃお見通しだったろうが、まあ良いか
 朝飯食いにナリのとこに行ったときは、いかにも『疲れてたんでぐっすり寝てました』みたいな顔してみるか?」
「無理だよ、だって俺、幸せだからどうしてもニヤニヤしちゃうもん
 それに、この辺キスマーク付いてるし」
俺はシャワールームの鏡で自分の姿を見て誇らかな思いを感じていた。
これはモッチーがつけてくれた、俺が彼の所有物であるという証なのだ。
「しまった、そこは服で隠せないな
 すまん、興奮しすぎて、羽目外しちまった」
慌てるモッチーに
「しっぽや復帰は来週だし、それまでには消えるから大丈夫だよ
 でも、本当は消したくないけど
 モッチーが付けてくれた愛の印だから」
俺は悪戯っぽく笑ってみせる。
「じゃあ、服で隠せるとこにいっぱい付けといてやるよ
 まずは、ベッドでゆっくりとな」
「楽しみ」

約束通り、ベッドに移動したモッチーは俺の体に印をいっぱい付けてくれた。


電気を消してある寝室。
カーテンの無い窓から、明るい満月の光が室内を照らしていてくれた。
けれどもモッチーはもっともっと明るい光で俺を照らしてくれる。
今夜は、お日様のように温かく、明るく、眩しくすらある彼と始める生活の最初の夜だ。

俺は彼の情熱に包まれて、深い喜びと満足感を覚えるのであった。
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