しっぽや(No.145~157)
side<SOSIO>
俺とモッチーは直ぐに影森マンションで一緒に暮らせることになった。
せっかく飼ってもらえることになったけど、モッチーの仕事の関係で暫く別れて暮らす覚悟をしていたので、それは嬉しい誤算だった。
「ほんんと、ソシオが居るとタイミング良く事が進むな
流石は雄の三毛猫だ、いや、俺達の愛の奇跡か」
自分では何だかよくわからないが、モッチーが喜んでいるので俺も嬉しくなる。
「きっと、モッチーが格好いいからじゃない?」
「いや、ソシオが可愛いからだ」
俺達はそんなことを言い合っては、顔を見合わせて笑いあう。
引っ越しの準備で忙しなくも幸せな時間を過ごしていた。
引っ越しの前夜、この部屋での最後の思い出に夜中までモッチーと契っていたので寝たのが遅くなってしまった。
当然、起きた時間も遅かった。
「ヤバい、10時回ってる、9時には起きようと思ってたのに」
先に起きたモッチーの驚いた声で俺も飛び起きた。
「アラームかけときゃよかったな
出発には間に合うが、ちと忙しないぞ
ちぇっ、やっぱ最後まで格好良く決められなかったか」
モッチーは苦笑して頭をかくをと
「おはよう、ソシオ」
そう言って優しくキスをしてくれた。
「おはよう、モッチー
身支度したら、シーツとか残りの荷物纏めるね
朝ご飯用意してくれる?」
モッチーの腕に負担をかけたくないので、引っ越し準備は出来るだけ俺がすることにしていたのだ。
「ああ、用意つっても、調理パンとペットボトルだけだが」
「飼い主に用意してもらえば、カリカリだってご馳走だよ」
「人用カリカリ?シリアルがそれっぽいな
引っ越して2人で仕事始めたら、たまにはコーンフレークやグラノラの手抜き朝飯にするか」
「白久が手軽だけどけっこう美味しいって言ってたやつだ
ミルクとか豆乳とかヨーグルト混ぜるんでしょ?
食べてみたかったんだ」
飼い主と新しい予定を立てる会話が嬉しかった。
朝食の後ゴミをまとめ、最後の荷物を鞄に詰めている最中に、モッチーの友達とナリがやってきた。
「さて、どんどん運び出すからな
引っ越し屋でのバイト歴は、お前より俺の方が長いんだ
怪我人は座って見てな」
一番体格の良い『ダイチ』が張り切って腕まくりをする。
「私は宅配のバイト経験を生かして、段ボール箱をやっつけるかな
割れ物系はゲンから借りたワゴンで運ぶよ」
ナリが段ボール箱の山を物色し始めた。
何人もの手で荷物がドンドン運ばれていく。
部屋はドンドン寂しくなっていった。
2時間かからずに部屋の荷物が積み込まれ、そこは生活の匂いのしない箱のような場所に変わる。
モッチーと暮らした部屋は、今は俺と彼の思い出の中にだけあった。
「部屋はここにあるのにもう無いなんて、不思議…」
箱を見渡して俺が呆然と呟くと
「これから、新しい部屋を2人で作っていこうな」
モッチーは俺の肩を抱き寄せ、頭を撫でてくれた。
俺達の側に寄ってきたナリが小声で
「猫は家に付くっていうからね、環境の変化に敏感だ
ヤマハとスズキも、最初はどれだけふかやが説得しても落ち着かなかったっけ
でも、今はくつろぎまくってる
モッチーが居るし、ソシオも直ぐに新しい部屋に慣れるよ」
そう囁いた。
「うん」
俺は感傷的な気分を振り切るように頷いた。
考えれば、あれだけ長く居た三峰様のお屋敷を離れるときだって、こんな気分にはならなかった。
この部屋は俺にとって本当に特別な場所だったのだと痛感した。
けれども、その『特別』はモッチーが居てくれたからだ。
きっと影森マンションの部屋も俺の特別な場所になると確信があった。
不動産屋が最後の確認に訪れるまで少し時間があったので、コンビニで飲み物と軽食を買ってきて皆で食べながら休憩する。
「あそこって、直通エレベーターの暗証番号いちいち入れないとダメなんだろ?
荷物の運び込み、時間食いそうだな
高層階に階段上らずに運べるのはありがたいけどさ」
「その辺は大丈夫、ゲンが設定解除してくれるから自由に使えるよ
ほかの入居者気にしなくていいぶん、気が楽なんじゃない?
しっぽやの皆も仕事中で、エレベーター使う人居ないし」
「凄い特別待遇だな、助かるぜ」
俺には『引っ越しの状況』がわからないけど、他の皆は慣れているようなので心配はいらなかった。
「皆、今夜は私の部屋に泊まっていってね
トラック用に駐車場も用意してもらったから気兼ねしなくていいし
ビール1本くらいなら、翌日に酔いは残らないんじゃない」
「労働の後はそれくらいの楽しみがないとな」
「今日のお礼に、今夜は俺が奢るよ
向こうに着いたら酒買いに行ってくる、ソシオと行ったからスーパーの場所は覚えてるし
後は寿司やピザでも取るか」
「当然だ」
楽しいおしゃべりは不動産屋の到着で終了となる。
鍵を受け渡したりシキキンとかレイキンとかの話を終えると、俺達は影森マンションに向けて出発するのだった。
俺とモッチーはナリが運転するワゴンに乗せてもらっていた。
モッチーが一緒だし、もう車に乗っていても怖いとは感じなかった。
「お前のバイク、修理までにもう少しかかるって連絡あったぜ」
「そうか悪いな、お前等に全部任せちまって」
「あそこの親父さんと顔繋いでおくの悪くないから、渡りに船って感じかな
クラッシュしてても、あのバイク見りゃ大事に乗ってたのわかるじゃん
俺達バイク仲間の友情に、親父さんウルッときてたぜ」
「そうそう、普通なら盗難車じゃないかって疑われたとこだ」
「でも、ダイちゃんが前もって利用してなかったら疑われてたかもよ
モッチー、ダイちゃんに感謝してね」
「へいへい、今回も大活躍だし、ダイチにゃ足を向けて寝られませんって」
モッチー達は楽しそうにしゃべっていた。
「バイク直ったら、ソシオも一緒にツーリング行こうな」
急に話を振られドキドキしながら頷くと
「ナリ、ふかやも行くだろ?
フリスビーとか持ってった方が良いかな
何かあいつ見てると一緒にフリスビーで遊んでみたい、とか思っちまうんだよな
ソシオだとビニールボールとか」
モッチーの友達は首を捻っている。
「うん、俺、ボールで遊ぶの好き
ふかやもボール好きなんじゃないかな」
「じゃあ、広々したとこに行ってっみっか
何かピクニックみたいだ」
俺達は影森マンションに着くまで、退屈せずにしゃべり続けるのだった。
影森マンションに到着するとゲンが待っていてくれて、車を誘導してくれた。
荷物を運び込む際のエレベーター管理もしてくれる。
俺とモッチーは先に部屋に行って、荷物を運び込む指示をすることになった。
ゲンから渡された鍵(三毛猫のマスコット付き)をモッチーが鍵穴に差し込んで回すと『カチャリ』と小さな音がする。
扉を開けて俺とモッチーは2人で部屋に入っていく。
トイレとシャワールームとキッチンの奥がリビング、更に奥に2部屋あった。
まだ何も置いてなくてガランとしているそこは、先ほどまで居たモッチーの部屋のように箱に見えた。
「写真は送ってもらってたけど、実物見ると感動するな
ここで、ソシオと新しい生活を始められるんだ」
箱を見回すモッチーの気分が上がっているのがわかる。
それにつられて、俺もこの箱が素晴らしい物に思えてきた。
俺達は暫くリビングの中央に立ち尽くし、まだカーテンの掛かっていない窓から外を眺めたりしていた。
直ぐに廊下が騒がしくなる。
「おっと、荷物の第1便が到着したぞ
まずは、大物からだ」
モッチーが慌てて玄関に出迎えに行く。
俺も後に続いていった。
冷蔵庫、食器棚、洗濯機、本棚、モッチーの部屋で使い慣れていた物達が次々に運び込まれてきて、俺はそれらを前に安心感を覚えていた。
『ここが、部屋なんだ』
やっとそれが実感できた気がした。
寝室に使う部屋にベッドが運び込まれていく。
あの上でモッチーと過ごした時間を思い出し、幸せが運び込まれた気分になった。
「後の引っ越しのことを考えて、コンパクトな家具にしといて良かったぜ
まあ、高層マンションに引っ越せるとは思わなかったけどな
作り付けの収納ラックもあるし、ソシオと2人で不都合なく暮らせるだろう」
大きな物があらかた運び込まれ、モッチーはホッとした様子だった。
次は段ボール箱が次々と運ばれてくる。
自分で詰めたし何が入っているか箱に書いておいたので、これは俺にも置く場所の見当が付く。
俺は玄関先に山積みされた箱を、整理し易いように部屋に運び込むお手伝いをする事が出来た。
「俺の引っ越しなのに、俺ばっか何もやらなくて悪いな
明日からの荷解きは俺がやるから」
モッチーが申し訳なさそうな顔になる。
「腕の治りが遅くなったら困るもん、重い物は絶対持たないでね
これくらいなら俺にも出来るから、大丈夫だよ」
「ありがとう」
俺達は他に誰もいない隙をつくように唇を合わせ、次第に増えていく思い出の品を見つめて幸せを共にした。
夕方になり辺りが暗くなり始めた頃、最後の段ボールが運び込まれ引っ越し終了となった。
「これでラスト」
ナリが運んできた段ボールを玄関先に置いて、晴れやかな笑顔を見せる。
「お疲れさん、マジで助かったよ」
集まってきた友達にモッチーが笑顔を向けた。
「皆、ありがとう
今夜はモッチーの奢りだから、遠慮しないで食べていってね
俺、ビールのお酌してあげる」
俺も頭を下げて笑顔を向けると
「あ、いや、酌はいいよ」
「う、うん、手酌で無礼講にしよう」
「酒は程々にするか、明日もトラックの運転あるし」
皆は何故か目を逸らし気味であった。
その後、荷物はそのままにしてナリの部屋に集合する。
まずはスポーツドリンクで今日の頑張りに乾杯し、寿司やピザの出前を頼んだ。
早めに帰宅したふかやがビールや乾き物を色々買ってきてくれて、出前が届く前に酒盛りが始まった。
前回の集まりと同じ様なシチュエーションなのに、今の俺には飼い主が居てくれることが不思議で喜ばしかった。
俺とモッチーは直ぐに影森マンションで一緒に暮らせることになった。
せっかく飼ってもらえることになったけど、モッチーの仕事の関係で暫く別れて暮らす覚悟をしていたので、それは嬉しい誤算だった。
「ほんんと、ソシオが居るとタイミング良く事が進むな
流石は雄の三毛猫だ、いや、俺達の愛の奇跡か」
自分では何だかよくわからないが、モッチーが喜んでいるので俺も嬉しくなる。
「きっと、モッチーが格好いいからじゃない?」
「いや、ソシオが可愛いからだ」
俺達はそんなことを言い合っては、顔を見合わせて笑いあう。
引っ越しの準備で忙しなくも幸せな時間を過ごしていた。
引っ越しの前夜、この部屋での最後の思い出に夜中までモッチーと契っていたので寝たのが遅くなってしまった。
当然、起きた時間も遅かった。
「ヤバい、10時回ってる、9時には起きようと思ってたのに」
先に起きたモッチーの驚いた声で俺も飛び起きた。
「アラームかけときゃよかったな
出発には間に合うが、ちと忙しないぞ
ちぇっ、やっぱ最後まで格好良く決められなかったか」
モッチーは苦笑して頭をかくをと
「おはよう、ソシオ」
そう言って優しくキスをしてくれた。
「おはよう、モッチー
身支度したら、シーツとか残りの荷物纏めるね
朝ご飯用意してくれる?」
モッチーの腕に負担をかけたくないので、引っ越し準備は出来るだけ俺がすることにしていたのだ。
「ああ、用意つっても、調理パンとペットボトルだけだが」
「飼い主に用意してもらえば、カリカリだってご馳走だよ」
「人用カリカリ?シリアルがそれっぽいな
引っ越して2人で仕事始めたら、たまにはコーンフレークやグラノラの手抜き朝飯にするか」
「白久が手軽だけどけっこう美味しいって言ってたやつだ
ミルクとか豆乳とかヨーグルト混ぜるんでしょ?
食べてみたかったんだ」
飼い主と新しい予定を立てる会話が嬉しかった。
朝食の後ゴミをまとめ、最後の荷物を鞄に詰めている最中に、モッチーの友達とナリがやってきた。
「さて、どんどん運び出すからな
引っ越し屋でのバイト歴は、お前より俺の方が長いんだ
怪我人は座って見てな」
一番体格の良い『ダイチ』が張り切って腕まくりをする。
「私は宅配のバイト経験を生かして、段ボール箱をやっつけるかな
割れ物系はゲンから借りたワゴンで運ぶよ」
ナリが段ボール箱の山を物色し始めた。
何人もの手で荷物がドンドン運ばれていく。
部屋はドンドン寂しくなっていった。
2時間かからずに部屋の荷物が積み込まれ、そこは生活の匂いのしない箱のような場所に変わる。
モッチーと暮らした部屋は、今は俺と彼の思い出の中にだけあった。
「部屋はここにあるのにもう無いなんて、不思議…」
箱を見渡して俺が呆然と呟くと
「これから、新しい部屋を2人で作っていこうな」
モッチーは俺の肩を抱き寄せ、頭を撫でてくれた。
俺達の側に寄ってきたナリが小声で
「猫は家に付くっていうからね、環境の変化に敏感だ
ヤマハとスズキも、最初はどれだけふかやが説得しても落ち着かなかったっけ
でも、今はくつろぎまくってる
モッチーが居るし、ソシオも直ぐに新しい部屋に慣れるよ」
そう囁いた。
「うん」
俺は感傷的な気分を振り切るように頷いた。
考えれば、あれだけ長く居た三峰様のお屋敷を離れるときだって、こんな気分にはならなかった。
この部屋は俺にとって本当に特別な場所だったのだと痛感した。
けれども、その『特別』はモッチーが居てくれたからだ。
きっと影森マンションの部屋も俺の特別な場所になると確信があった。
不動産屋が最後の確認に訪れるまで少し時間があったので、コンビニで飲み物と軽食を買ってきて皆で食べながら休憩する。
「あそこって、直通エレベーターの暗証番号いちいち入れないとダメなんだろ?
荷物の運び込み、時間食いそうだな
高層階に階段上らずに運べるのはありがたいけどさ」
「その辺は大丈夫、ゲンが設定解除してくれるから自由に使えるよ
ほかの入居者気にしなくていいぶん、気が楽なんじゃない?
しっぽやの皆も仕事中で、エレベーター使う人居ないし」
「凄い特別待遇だな、助かるぜ」
俺には『引っ越しの状況』がわからないけど、他の皆は慣れているようなので心配はいらなかった。
「皆、今夜は私の部屋に泊まっていってね
トラック用に駐車場も用意してもらったから気兼ねしなくていいし
ビール1本くらいなら、翌日に酔いは残らないんじゃない」
「労働の後はそれくらいの楽しみがないとな」
「今日のお礼に、今夜は俺が奢るよ
向こうに着いたら酒買いに行ってくる、ソシオと行ったからスーパーの場所は覚えてるし
後は寿司やピザでも取るか」
「当然だ」
楽しいおしゃべりは不動産屋の到着で終了となる。
鍵を受け渡したりシキキンとかレイキンとかの話を終えると、俺達は影森マンションに向けて出発するのだった。
俺とモッチーはナリが運転するワゴンに乗せてもらっていた。
モッチーが一緒だし、もう車に乗っていても怖いとは感じなかった。
「お前のバイク、修理までにもう少しかかるって連絡あったぜ」
「そうか悪いな、お前等に全部任せちまって」
「あそこの親父さんと顔繋いでおくの悪くないから、渡りに船って感じかな
クラッシュしてても、あのバイク見りゃ大事に乗ってたのわかるじゃん
俺達バイク仲間の友情に、親父さんウルッときてたぜ」
「そうそう、普通なら盗難車じゃないかって疑われたとこだ」
「でも、ダイちゃんが前もって利用してなかったら疑われてたかもよ
モッチー、ダイちゃんに感謝してね」
「へいへい、今回も大活躍だし、ダイチにゃ足を向けて寝られませんって」
モッチー達は楽しそうにしゃべっていた。
「バイク直ったら、ソシオも一緒にツーリング行こうな」
急に話を振られドキドキしながら頷くと
「ナリ、ふかやも行くだろ?
フリスビーとか持ってった方が良いかな
何かあいつ見てると一緒にフリスビーで遊んでみたい、とか思っちまうんだよな
ソシオだとビニールボールとか」
モッチーの友達は首を捻っている。
「うん、俺、ボールで遊ぶの好き
ふかやもボール好きなんじゃないかな」
「じゃあ、広々したとこに行ってっみっか
何かピクニックみたいだ」
俺達は影森マンションに着くまで、退屈せずにしゃべり続けるのだった。
影森マンションに到着するとゲンが待っていてくれて、車を誘導してくれた。
荷物を運び込む際のエレベーター管理もしてくれる。
俺とモッチーは先に部屋に行って、荷物を運び込む指示をすることになった。
ゲンから渡された鍵(三毛猫のマスコット付き)をモッチーが鍵穴に差し込んで回すと『カチャリ』と小さな音がする。
扉を開けて俺とモッチーは2人で部屋に入っていく。
トイレとシャワールームとキッチンの奥がリビング、更に奥に2部屋あった。
まだ何も置いてなくてガランとしているそこは、先ほどまで居たモッチーの部屋のように箱に見えた。
「写真は送ってもらってたけど、実物見ると感動するな
ここで、ソシオと新しい生活を始められるんだ」
箱を見回すモッチーの気分が上がっているのがわかる。
それにつられて、俺もこの箱が素晴らしい物に思えてきた。
俺達は暫くリビングの中央に立ち尽くし、まだカーテンの掛かっていない窓から外を眺めたりしていた。
直ぐに廊下が騒がしくなる。
「おっと、荷物の第1便が到着したぞ
まずは、大物からだ」
モッチーが慌てて玄関に出迎えに行く。
俺も後に続いていった。
冷蔵庫、食器棚、洗濯機、本棚、モッチーの部屋で使い慣れていた物達が次々に運び込まれてきて、俺はそれらを前に安心感を覚えていた。
『ここが、部屋なんだ』
やっとそれが実感できた気がした。
寝室に使う部屋にベッドが運び込まれていく。
あの上でモッチーと過ごした時間を思い出し、幸せが運び込まれた気分になった。
「後の引っ越しのことを考えて、コンパクトな家具にしといて良かったぜ
まあ、高層マンションに引っ越せるとは思わなかったけどな
作り付けの収納ラックもあるし、ソシオと2人で不都合なく暮らせるだろう」
大きな物があらかた運び込まれ、モッチーはホッとした様子だった。
次は段ボール箱が次々と運ばれてくる。
自分で詰めたし何が入っているか箱に書いておいたので、これは俺にも置く場所の見当が付く。
俺は玄関先に山積みされた箱を、整理し易いように部屋に運び込むお手伝いをする事が出来た。
「俺の引っ越しなのに、俺ばっか何もやらなくて悪いな
明日からの荷解きは俺がやるから」
モッチーが申し訳なさそうな顔になる。
「腕の治りが遅くなったら困るもん、重い物は絶対持たないでね
これくらいなら俺にも出来るから、大丈夫だよ」
「ありがとう」
俺達は他に誰もいない隙をつくように唇を合わせ、次第に増えていく思い出の品を見つめて幸せを共にした。
夕方になり辺りが暗くなり始めた頃、最後の段ボールが運び込まれ引っ越し終了となった。
「これでラスト」
ナリが運んできた段ボールを玄関先に置いて、晴れやかな笑顔を見せる。
「お疲れさん、マジで助かったよ」
集まってきた友達にモッチーが笑顔を向けた。
「皆、ありがとう
今夜はモッチーの奢りだから、遠慮しないで食べていってね
俺、ビールのお酌してあげる」
俺も頭を下げて笑顔を向けると
「あ、いや、酌はいいよ」
「う、うん、手酌で無礼講にしよう」
「酒は程々にするか、明日もトラックの運転あるし」
皆は何故か目を逸らし気味であった。
その後、荷物はそのままにしてナリの部屋に集合する。
まずはスポーツドリンクで今日の頑張りに乾杯し、寿司やピザの出前を頼んだ。
早めに帰宅したふかやがビールや乾き物を色々買ってきてくれて、出前が届く前に酒盛りが始まった。
前回の集まりと同じ様なシチュエーションなのに、今の俺には飼い主が居てくれることが不思議で喜ばしかった。