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しっぽや(No.145~157)

side<SOSIO>

部屋に帰ってきた俺達はキャットタワーを組み立てた後、皆でお昼にピザを食べた。
モッチーが買ってくれたスポーツドリンクは、ピザを食べながら飲むとサッパリしていて美味しかった。
『せっかく買ってもらったのに、残りが無くなっちゃった』
少し寂しい思いを感じていた俺に、モッチーがまた買ってくれると言ってくれた。
ナリも協力してくれたので、俺はモッチーと一緒に買い物に行けることになって浮かれていた。
しっぽやの飼い主のいる者達と同じ事が出来る状況に、喜びを感じていたのだ。
モッチーと一緒に居るだけで、何もかもが楽しいことに思えていた。
『モッチーも同じように思っててくれると良いな』
店に行くまでの間中、一緒に歩きながら俺は何度もモッチーの顔を確認してしまう。
「何かついてるか?」
自分の顔を撫でる彼に
「ううん、格好いいなって思って」
俺はエヘヘッと笑って返事を返す。
「そうか?」
「うん!」
モッチーと会話しながら歩いていると、あのお方が居ない心の寂しさが満たされていくようであった。


俺達はスーパーで色々と買い物をする。
モッチーが好きだという食べ物を覚えることが楽しくて、ゲンの好きな物を作りたがる長瀞の気持ちが良くわかる気がした。
モッチーは俺の好きな物を覚えていてくれた。
チーチクやアンコの団子をカゴに入れてくれる。
俺の毛色みたいだ、と言って海苔が巻かれた御手洗(みたらし)団子も買っていて、彼が俺のことを嫌っていない感じがしてホッとしてしまう。
俺の楽しい気分は夕食を食べてモッチーと一緒に部屋に行くまで、ずっと続いていた。

『明日はモッチーが俺をバイクに乗せてくれる
 上手く乗ることが出来れば、ふかやみたいに一緒に出かけることが出来るんだ
 頑張らなきゃ、猫の運動神経フル回転させるぞ』
意気込んでそんなことを考えるが
『明日は楽しい、でも、その次の日は…?
 きっと、モッチー帰っちゃうよね
 人間の会社って、しっぽやみたいに自由に休みをとれないみたいだもん』
それに気が付くと楽しい気分が萎んでいった。
「また、こっちに来てくれる?」
恐る恐る確認すると
「俺達付き合ってんだから、たまにはデートしないと」
彼は笑って請け負ってくれた。
その答えにホッとするものの、別れの寂しさを考えると切なくなってしまう。
せめて今だけでも離れたくない。
モッチーは今夜も一緒に寝ることを了承してくれた。


彼とベッドに入ると、早速ヤマハとスズキがベッドにのってくる。
「そっちだと、猫がいるから狭いだろ?」
そう言って、モッチーは昨夜よりも親密な感じで俺を抱き寄せてくれた。
『ヤマハ、スズキ、ありがとう
 もっと伸び伸び寝て良いよ』
俺は2匹にお礼の想念を送る。
「猫って、何でベッドで横になって寝ようとするかね
 縦になってくれりゃ、コンパクトなのに
 ダービーもそうだったよ」
呆れたようなモッチーに
「だって猫だもん、寝たいように寝るんだよ」
俺は笑って返事を返した。
「まあそうだな、ソシオは猫のなんたるかをわかってんなー
 流石、猫担当のペット探偵だ」
モッチーは誉めるように髪を撫でてくれた。
俺はそれが心地よくて、彼の胸に密着してこの幸せな時を堪能する。

『トクン、トクン、トクン』

優しい鼓動が俺を包んでくれていた。

まだ、猫だった頃の思い出が蘇る。
あのお方のベッドに入れてもらったこと、ベッドの側で眠るモンブランにピッタリくっついて寝たこと。
ベッドとモンブランの間を行ったり来たりして、俺は一晩でどちらの温もりも堪能できる幸せな夜を過ごすのが当たり前のことになっていた。
いつだって優しい鼓動に包まれて、冬でも暖かく眠れたのだ。
俺は今、あのときと同じ幸せを感じていた。
「モンブランと一緒に寝てるときみたい」
思わず呟いた俺に
「モンブラン?」
モッチーは不思議そうな声を出した。
彼にモンブランとの思い出を語っていると、幸せだった時間があまりにも遠すぎて言葉が詰まってしまった。
モッチーは何も言わず俺の肩を抱き寄せ、キスをしてくれた。
今までのキスとは違う、深いキス。
労るような優しいキス。
安心できて嬉しくて、モッチーと触れ合っている状況に鼓動が速まってしまう。
彼の鼓動もさっきより早くなっているように感じた。

「ソシオが仕事を休めるなら、俺が帰るとき一緒に家にきてみるか?」
モッチーは俺をお家に誘ってくれた。
彼の家に行ける、彼の側に居られる、それは素晴らしく嬉しい誘いであった。
俺は二つ返事で頷いた。
黒谷は暫く休んで良いと言ってくれていたので、しっぽやの方は問題がない。
問題があるとすれば、俺がモッチーのバイクの後ろに上手く乗ることが出きるか、だ。
バイクで帰る彼と共に移動できるよう、俺は練習に向け改めて気合いを入れるのだった。




翌朝の朝食も雑炊だったので、俺は張り切って皆のお椀に入れて回った。
「俺のは少しで良いよ」
モッチーがそう言なうから、具合が悪くなったのかと不安を感じてしまう。
心配そうな顔に気が付いたのか
「昨日買っといた団子、食いそびれてただろ
 デザート代わりにあれ食いたいからさ
 ソシオも一緒に食うか?」
彼は笑顔で誘ってくれた。
「うん!俺の毛色みたいな団子と、アンコの団子だよね
 団子の時にはお茶が良い?俺、煎れてあげる」
モッチーの提案は、俺を幸せな気分にさせてくれる。
笑いあう俺達に
「お前ら、本当にラブラブだな」
「流石のモッチーも、これで落ち着くか」
「モッチー案外派手好きだけど、ソシオは健気で可愛い美人だよな
 お前にはソシオみたいな方が似合ってると思うぜ」
皆が笑いながら声をかけてくれた。
「何でお前等、上から目線で俺のことチェックしてんだよ」
彼はそう良いながらも顔は笑っていた。
人間から見ても俺とモッチーがお似合いに見えるということにホッとしたし、とても嬉しかった。
『飼ってもらえれば飼い猫と飼い主に見えるかな』
思わずそんなことを考えてしまう。
『モッチーが俺だけの飼い主になってくれますように』
誰にとも知れず、俺は胸の中でそう祈るのだった。


昨日のように朝食の後モッチーは洗面所に向かっていった。
「ソシオのためにセットするって言ってたよ」
ふかやをしっぽやに送り出したナリが俺に声をかけてくれる。
「モッチーって、いつも格好良いよね
 俺もセットのお手伝いできれば良いんだけど、三峰様や猫をブラッシングするみたいにはいきそうにないや
 俺でも彼の役に立てる事ってあるのかな
 どうすれば気に入ってもらえるようになる?」
ナリなら良いアドバイスをくれるんじゃないかと、俺は期待して聞いてみた。
「ソシオはソシオのままで良いと思う
 モッチー、ソシオのこと気に入ってるみたいだもの
 昨日の買い物、車で行くの断ったでしょ
 あれ、ビール飲んだ後だから、って言うより、ソシオが車内で具合悪そうにしてたの見てたからだと思う
 彼、そういうとこ気が回るんだよね
 だからそれなりにモテるけど、相手の内面をあんまり見てないとこあってさ
 前に彼の恋人がツーリングに混ざった時、私、目の敵にされて参ったよ
 モッチーとは付き合い長いから、2人の共通の思い出が多かったのが原因みたい
 彼、その辺のところフォローしてくれなくてさ」
ナリは苦笑しているが、俺にはそれがどんな状況なのかがわからなかった。

「ソシオは人間相手には焼き餅焼かないか
 むしろダービーの方に焼き餅焼くのかな」
ナリは笑って聞いてくるが、俺にとっては笑い事じゃなかった。
「モッチー、やっぱり長毛種の方が好きなのかな
 ヤマハやスズキのこと、凄い優しく撫でてるんだ
 でも、俺だってベッドで一緒に寝て頭撫でてもらったし、キスだってしてもらったんだから」
少し勝ち誇ったように言い放つと、ナリの笑みは一層深くなった。
「ダービーはモッチーのお母さんの猫になったから大丈夫
 そもそも彼、ダービー以外は短毛種飼ってたよ
 子供の頃から公園や河原で拾った猫を飼ってたって、出会った頃言ってたし
 ミックスだから毛足の長い猫もいたけど、長毛だからって選んだ訳じゃないんだ
 弱った子猫とか見ると『助けなきゃ』って、それだけしか考えられなくなるんだって
 猫好きなら、皆そうだけどね」

ナリの言葉で、またモンブランのことを思い出した。
叱られることがわかっていても、俺を見つけて助けてくれたモンブラン。
周りが反対したのに俺を飼うことに決めてくれたあのお方。
モッチーは俺のことを助けてくれるだろうか。
飼ってくれるだろうか。
「ソシオがモッチーに対する想いを素直にぶつけた方が、良い結果になるんじゃないかと思う
 君たち化生の真っ直ぐな想いは、何よりも心に響くから」
ナリは優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
「俺、あのお方とモンブランには助けてもらってばかりだった
 今度は俺が助けたい
 モッチーに困ったことが起きたら、少しでも助けられる存在になりたい
 彼に必要とされたい
 もっとちゃんと人間のこと勉強しておけば良かったな」
俺は少し気落ちしてしまう。
「モッチーはタンデム相手が出来れば喜ぶよ
 最初は怖いかもしれないけど、彼に全てを任せるつもりで乗ってみて
 カツサンド買ったら2人で事務所に届けに行って、デート長引かせたら?
 こっちは適当にランチするから、そっちも自由にランチ食べに行ってね」
ナリは悪戯っぽくウインクした。

「バイク上手く乗れるようになったら、モッチーのお家に行って良いんだって
 俺、頑張る!」
「もうそこまで話が進んでたの?
 相変わらず、手が早いな
 服とかメット、ちょっと大きいかもしれないけど私の貸してあげるよ」
「ありがとう、ナリがいて良かった」
それから俺達は着替えるためにナリの部屋に移動する。
バイクに乗るのは不安だったけど、モッチーと一緒にいられると思うだけで初めてのことにチャレンジする勇気が湧いてくるのであった。
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