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しっぽや(No.145~157)

ナリの部屋に戻りキかャットタワーを組み立てた後、俺達はピザとビールでランチを楽しんだ。
「労働の後のメシは美味いなー」
「昼酒ってのが、また贅沢で良い」
「こうなると思って、休みを多めに取っといて正解だったぜ」
皆、我が家のようにナリの家でくつろいでいる。
かく言う俺も同じ気分だった。

「モッチー、ウイスキーじゃなくて良いの?」
ソシオが俺の顔を確かめるようにのぞき込んできた。
「ピザん時は、炭酸が良いんだよなー
 ソシオは?それで足りるのか?」
彼はさっき俺が買ってやったスポーツドリンクの残りをチビチビと飲んでいた。
「うん、これ、ピザに合うね
 飲み切っちゃうのもったいない、せっかくモッチーが買ってくれたのに」
残りを確かめるようにペットボトルを見つめるので
「そんなに気に入ったなら、また買ってやるよ
 後で一緒に買いに行くか?この辺、コンビニあるだろ?」
俺はそう誘ってみる。
「2人で買い物行くの?じゃあ、ついでにスーパーで今日の夕飯の材料買ってきて」
俺達の会話を耳ざとく聞いていたナリが、すかさず言葉をはさんできた。

「へいへい、ナリって、いつからそんなに人使い荒くなったんだか」
俺は大仰にため息を付いて見せる。
「皆、今夜は何食べたい?手軽に鍋にする?
 コンロ2個あるから、違う味の鍋一気に作れるよ
 それとも1つはしゃぶしゃぶにしようか
 締めはうどんにして、続いちゃうけど雑炊は明日の朝にしよう」
「良いねー、鍋は海鮮で肉はしゃぶしゃぶが良いかな
 ちょっとサッパリしたメニューだな、モッチー揚げ物総菜も買ってきて」
「俺、ポテサラ食いたい
 あ、鍋にシュウマイ入れるのも良くないか?水餃子とか」
「野菜は水菜と椎茸は必須だぜ、後、豆腐な」
「白菜とネギが必須だろ、俺は白滝よりマロニー派」
俺のため息は黙殺され、皆、好き放題に食べたい物を言い出し始めた。

「荷物多くなっちゃうね、車使う?」
ナリにそう聞かれたが、先ほど辛そうな様子で車に乗っていたソシオの姿を思い出し
「いや、車だと道がよくわかんないし、ブラブラ歩いてくよ
 ソシオ、道案内してくれるんだろ?荷物は2人で持てば大丈夫だ」
俺はソシオに話を振った。
「2人でお出かけ?それってデートってやつ?
 道案内するし、荷物も持つ!」
ソシオは目を輝かせて俺を見つめてきた。
「モッチーと一緒のお出かけ良かったね、ソシオ」
ナリが優しく話しかけたため、皆は俺とソシオをはやし立てるタイミングを失っていた。
「うん!デートしたって皆に自慢できる!」
ソシオがあまりに嬉しそうに伝えるので、結局皆は微笑ましいものを見る目で俺達を見つめるのであった。


少し休んでから、俺とソシオは最寄りのスーパーに向かった。
「モッチーとデート、嬉しいな」
ソシオはウキウキした様子で俺の隣を歩いている。
「ソシオは安上がりだなー
 デートならもっと良い店に行きたい、とか言わないんだ
 レジャー施設で遊んでブランドショップで買い物して、三つ星レストランで食事、なんてさ」
俺は今まで付き合ってきた奴等のことを思い出していた。
「俺、そーゆーのよく分からないから想像付かないや
 モッチーと一緒に夕飯の買い物するのは想像できる、凄く楽しそう」
エヘヘっと笑うソシオが可愛くて、俺はますます彼のことが気になるようになっていった。

スーパーの店内でカートに乗せたカゴの中に食べたい物を入れていくのは、ソシオの言うとおり楽しいことだった。
「あ、これ美味そう、鍋に入れてみるか」
「ポテサラってポテトサラダ?こないだキタアカリってポテトを使ったの食べたら美味しかったよ」
「豆腐は味が濃そうなのがいいな
 お、チーチク売ってるぞ、ソシオ好きだったよな、一緒に買ってくか」
「覚えててくれたの?モッチー、優しいね」
そんな会話を楽しみながらの買い物は、本当にデートをしているようだった。

レジに向かう最中、ソシオの目が和菓子コーナーに向いていることに気が付いた。
「甘いもの、何か買っていこうか?何が好き?
 スポーツドリンクだけじゃ、買い物の駄賃にもならないだろ」
そう聞くと
「この前、葉っぱの形のお饅頭食べたら美味しかったよ」
そんな答えが返ってきた。
「葉っぱ?ああ、モミジマンジュウかな?
 甘い物も適当に買ってくか
 あいつら、あんな図体してるくせに甘い物も好きなんだぜ
 温泉地にツーリング行くと、必ず温泉饅頭買うからな
 ま、かく言う俺も、買っちまうんだが」
俺が笑ってみせたら
「俺もアンコ好き!お揃いだ」
ソシオも笑顔になる。
「お、海苔付きの御手洗(みたらし)団子も売ってるのか
 ほら、海苔と御手洗のタレと団子で、ソシオみたいな色」
俺はソシオの3色の髪を撫でてやった。
「モッチー、これ好き?」
「ああ、団子はアンコと御手洗で無限ループになるな
 よし、これも買おう」
既に食材が山のように入っているカゴの上に団子を置いて、俺達の楽しいデートは終了になるのだった。



その晩の夕食も皆でワイワイ騒ぎながら、美味い鍋をつつき酒を飲み交わす楽しいものになった。
「もう少し暖かくなったら、温泉でも行かねーか?」
「山奥の秘湯の温泉宿とかどうよ」
「海が見えるとこも捨てがたい」
「良いね、私とタンデムしてふかやも行こう」
「ナリや皆と行ける旅行、嬉しいな」
そんなことを話す俺達を、ソシオは羨ましそうに見ていた。

「ソシオも行くか、俺の後ろに乗っけてやるよ」
そう誘うと
「俺、バイクに乗れるかな
 ふかやみたいに、乗り物に乗り慣れてないからさ
 俺のせいでモッチーが危ない目に遭うの嫌だもの」
ソシオはモジモジして少し俯いてしまった。
「モッチーが明日も1日居られるなら、練習してみたら?
 どうせならカクタスに行って、カツサンド買ってきてよ
 しっぽやのバイト君達に差し入れしたいんだ
 国道に出ちゃえばほとんど一直線で行けるし、道がわかりやすいと思うよ」
「また俺達がお使い係りか
 ナリがカツサンドをご所望だってさ、ソシオ、一緒に行って買ってこよう
 あんまり乱暴な運転しないようにするからな
 気分悪くなったらすぐに止めるし、休みながら行ってみようぜ
 今夜の酒は、この辺でやめとくよ
 俺もスポドリ飲もう、ソシオ少し分けてくれ」
俺は残っていたウイスキーを飲み干して、グラスをソシオに差し出した。
彼は慌てて、自分が飲んでいたペットボトルのスポドリをクラスに注いでくれる。
「明日も、デートだな」
「うん、うん!」
ソシオは輝くような笑顔で何度も頷いていた。


今夜も俺はソシオの部屋で寝ることになった。
スズキはずいぶん馴れてくれて、俺が手に持って差し出しているチュルーを夢中で舐めている。
「明日もモッチーと一緒のデート、嬉しいな
 でも、嬉しければ嬉しい分だけ、モッチーが帰っちゃうのが寂しいや
 また、こっちに来てくれる?」
ソシオはヤマハにチュルーをあげながら、上目遣いで聞いてきた。
「ああ、俺達付き合ってんだから、たまにゃーデートしないと」
「そうだよね、俺達付き合ってるんだもんね
 もっともっと、モッチーのこと知りたい
 モッチーの役に立ちたい
 本当は、ずっと側にいたい」
切ない瞳で俺のことを見つめてくるソシオを見ていたら、俺は胸がドキドキしてきた。
ソシオはとても純粋に、俺に対する好意をぶつけてくる。
その純粋さに当てられてしまったのだろうか、俺も彼のことが随分と気になってきていた。

「今夜も一緒に寝てくれる?」
ソシオのお願いに、俺の胸の鼓動は更に速まっていく。
昨夜のように純粋に、ソシオとベッドを共に出来る自信が無くなっていたのだ。
『だから、ナリの家ではマズいって
 明日のタンデムの練習ついでに、ホテルにでもシケ込むとか』
一瞬そんな考えが頭を過(よ)ぎってしまうが、ソシオの俺に対する好意にあぐらをかくようなマネをするのは、俺のささやかなプライドが邪魔をしていた。
「ヤマハとスズキと皆で一緒に寝よう」
結果、俺の答えは教育番組のように健全な物になってしまう。
それでもソシオは嬉しそうに頷いていた。


俺は昨夜より大胆に、ベッドの中でソシオを胸に抱き寄せた。
「そっちだと、猫が居るから狭いだろ?」
言い訳のような言葉が口をついて出てしまう。
「モッチーの心臓の音がする、モンブランと一緒に寝てるときみたい」
ソシオはフフッと笑って俺の胸に顔を埋めていた。
「モンブラン?」
「前に一緒に暮らしてた、ラブラドールレトリーバー
 優しい犬でさ、俺のこと可愛がってくれたんだ
 本当はそんなことしちゃダメだったんだろうに…」
遠い思い出を呟くソシオに、俺は言葉がかけられなかった。
言葉をかける代わりに肩をそっと抱き顔を寄せると、唇を合わせる。
今までしていたような軽いものではなく、かといって情事の最中のような濃厚なものでもない。
相手を労(いたわ)るような少し深めのキス。

「ソシオが仕事を休めるなら、俺が帰るとき一緒に家に来てみるか?」
キスの後、思わずそんな言葉を口走っていた。
俺もソシオと離れがたく感じ始めていたのだ。
「モッチーのお家に行って良いの?」
ソシオは驚いた顔を見せた。
「いや、家っつーか1Kのアパートだけどな
 でも仕事があるから、あんまりかまってやれねーか
 それじゃ、俺の部屋にいても退屈だ」
誘ったは良いが、気の利いたもてなしを出来そうにない自分に苦笑してしまう。
しかしソシオは俺にギュッとしがみついて
「モッチーのお家に行きたい、モッチーと一緒に居たい!」
声を震わせ懇願するように伝えてきた。

ナリへの想いが胸から消えたわけではない。
けれどもソシオにしがみつかれた瞬間、俺の胸の中にはソシオの居場所が出来上がっていた。
『俺って、惚れっぽいな』
それは、今まで付き合ってきた者に感じる好意とは違うもののような気がした。
『ソシオと居ると、ペースが狂うわ』
その感覚は不快なものではなく、心がじんわりと暖まっていくようなものなのであった。
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