しっぽや(No.145~157)
side<MOTIDA>
親友でもあり俺の片思いの相手でもあるナリの家で、俺は『ソシオ』と言う美青年と知り合い、その日のうちに付き合うことになった。
ソシオは何故か俺に対して積極的に『好き』だと言ってくれるのだ。
俺としては軽いノリで付き合うことにしたのだが、彼と話しているとその一途さが可愛く感じられてきた。
好意という名の独占欲を剥き出しにされると、とたんに相手に対して冷めてしまう俺にしては珍しいことだ。
ソシオに懐かれている状況を、猫に懐かれている状況のように感じていた。
ソシオの言動が猫に対する俺の好みを探るものが多いせいだろうか。
彼の髪を撫でていると猫を撫でているような心の安らぎを感じることが出来た。
その夜は、ソシオとナリの飼い猫2匹と同じベッドで一緒に眠った。
オママゴトのような純愛的シチュエーションに自分でも笑ってしまうが、ソシオに対してはいつもの肉欲的な感情を抱きにくかったのだ。
ソシオも気にしていないようなので、俺は久しぶりに『猫と寝る』という得難い快楽を味わうことが出来たのだった。
翌朝は正月の時と同じように雑炊が朝食で、ソシオは俺のお椀によそってくれた後、皆のお椀にもよそって回っていた。
居候とは言え、ナリが客にあれこれ手伝わせるのは少し不思議な気がした。
しかしソシオは気にした風もなく楽しそうに給仕しているので『あんなに美形なのに、案外世話焼きタイプなんだな』と納得する。
そう言えば長瀞さんもゲンの世話を嬉しそうに焼いていたっけ、と正月のことを思い出した。
ふかやもそうだし、ペット探偵しっぽやの所員は家庭的な人が多いようだった。
朝食の後、俺はブラシやムースを持って洗面所に向かった。
「また、長々コモって身繕い?」
廊下ですれ違ったナリが、笑いながら話しかけてくる。
「いつも、そんなに長くコモってないって」
俺は苦笑してしまう。
「だって、旅行先でモッチーと同室になると顔が洗えないって、ダイちゃんブツブツ言ってたよ」
「他の奴らが時間かけなさすぎなんだ
ナリだってその頭、寝癖がついたら直すの大変だろ?
それと一緒」
俺はナリの艶やかで真っ直ぐな黒髪を見つめて答える。
「私の髪って、寝癖つきにくいんだよね
じゃないと、この髪型してられないよ
いつもササッと梳(と)かして、それでお仕舞い」
「マジか」
あっけらかんと言うナリに、俺は驚きを隠せなかった。
「いつも念入りにセットして、誰に見せるためなんだか
メット被ると崩れちゃうのに」
ナリはクスクス笑っている。
『それは、お前に格好いいと思って欲しいから頑張ってんだろうが』
思わず口をついてしまいそうになった心の想いを飲み込んだ。
「今日はさ、ソシオのためにセットしてあげて」
ナリはそう言って微笑んだ。
「聞いたよ、ソシオと付き合うことにしたんだって?
彼、すごく喜んでた
モッチーのこと『優しくて格好いい』ってベタ誉めしてるよ」
ナリにバレていることに、俺は少し居心地の悪いものを感じていた。
「ソシオって、不思議な奴だよな
あんだけキレイなんだから、今までモテまくってたろうに
何で俺なんだか
からかわれてんのかな」
冗談めかして言ってみたら、ナリは真剣な顔になった。
「本気だよ、ソシオは本気でモッチーのこと好きなんだ
気が合わなくなったり、不快に感じたりするようになるのはしょうがない
でも、最初から遊び感覚で付き合って欲しくないよ
モッチーにはそういう付き合いって、重い?」
ナリの剣幕に、俺は驚いてしまう。
今まで俺の恋愛遍歴に言葉をはさんできたことは無かったからだ。
「ごめん」
ナリは苦笑してため息を付いた。
「私が言う事じゃないけどさ、ソシオ、今まで苦労してきたみたいでね
自分の外見は好きじゃないんだって
美人だからって、周りからチヤホヤされて労せず生きてきた訳じゃないんだよ
しっぽやにいる人は皆そう、悲しい思いを乗り越えてやっと辿り付けた場所
しっぽやって、切ない場所でもあるんだ…」
目を伏せるナリを、俺は呆然と見つめるしかなかった。
「ふかや、も…?」
俺は思わず聞いてしまった。
「うん、彼に寂しい思い辛い思いをさせないよう、私はふかやと一生を供にしようと決めた
ふかやを、とても愛してるから」
その強烈な告白にズキリと胸が痛んだのは、やはりまだナリのことを諦め切れていなかったせいだろう。
「今からこんなこと言われると、負担になっちゃうよね
家にいる間だけでも、ソシオに優しくしてくれると嬉しいな
その後は、当人同士の問題って事で
さて、出かける準備しようかな、タワーの組立よろしくね」
少し微笑むと、ナリはリビングに戻っていった。
1人残された俺は、複雑な思いを抱えたまま洗面所で髪をセットする。
ナリに言われたから、と言う訳ではなかったが、髪型を誉めてくれたソシオのために念入りにセットしてみるのであった。
部屋に戻ると、ソシオがスマホを仕舞っていた。
しっぽやに電話をかけていたのだろう。
急な休みを上司に咎(とが)められなかったか気になって、それを聞いてみる。
俺は派遣社員なので、急な休みはとにかく嫌がられるのだ。
しかしソシオの答えは『好きなだけ有給で休んでいい』という考えられないようなものであった。
「有給無くなると、後で困らないか?」
「え?有給って無くなるの?
黒谷は誰か休むとき『有給にする』っていつも言ってたから、有給って普通の休みだと思ってた」
俺達はあまりの認識の違いに、驚いた顔を見合わせてしまっていた。
「しっぽやって、すげーな」
しかしソシオはそんな凄い企業に所属できるより、俺に会えたことの方が運が良いと信じられないことを言っている。
そしてきれいな顔で俺のことをジッと見つめ
「今日も格好良い」
うっとりとしたように呟いていた。
「今朝はソシオのためにセットしたんだ、気に入ってくれたなら嬉しいよ」
そう言ってキスをすると、幸せそうな顔になる。
『何つーか、本気で可愛いかも』
俺はソシオの事が気になりだしている自分を感じていた。
1時間くらい後、俺達はナリの車でペットショップに向かった。
「新車かー、良いじゃん」
「これ、最近出たばっかのやつで高かったんじゃないか?」
「へー、オプションずいぶん付けたんだな」
バイク好きだが、車にだって興味はある。
俺達は車内を眺め回して、好き勝手なことを言い合っていた。
「本当はしっぽやの車なんだけどね、事務所の経費で買ったから贅沢しちゃった
今のところ私が自由に使わせてもらってるんだ
そのうち高校生のバイト君が免許取るから、私が先に慣れておいて教えてあげる約束してるよ」
「高校生!懐かしいぜ、俺も高校卒業直前に免許取ったっけ」
「俺はバイクが先だったな」
隣に座るソシオは会話に入ってこず、俯いたまま俺の腕を握っていた。
『顔色あんまり良くないし、酔ったのかな』
俺は心配になってしまう。
ペットショップに着いて車を降りたソシオは、やっと人心地がついたような顔をしていた。
しかし、回復したように見えていた彼は、パーカーを被ってしまった。
まだ気分が良くないようだ。
俺がスポーツドリンクを買ってきて彼に渡すと、美味しそうに飲んでくれてホッとする。
「ありがと、こーゆーの初めて飲んだ
事務所ではいつも紅茶とか緑茶とかコーヒー飲んでるから珍しい
後でまた飲もうっと」
飲み残しが入っているペットボトルを大事そうにパーカーのポケットに入れる姿が、いじらしく感じられた。
ペットショップに入ると、俺達はバラバラと店内に散っていく。
俺はダービーへのお土産を選び始めるが、特に目新しい物は売っていない。
そのため、俺の足は自然に子猫が売られているコーナーに向かっていた。
様々な種類の子猫が、ケージに入れられて売られている。
ざっと見たかぎりでは、ターキッシュバンは居なかった。
『珍しい種類だもんな、ダービーの時はたまたま近所のブリーダーが持ち込みに来たって店の人が言ってたし
それで、ちょっと運命感じて買っちまったんだよな
子供の時からずっと拾った猫と暮らしてたのによ
それが、運命は俺じゃなくてお袋に通じてたとか
俺は単なる運び屋だったって訳だ
前の猫が老衰で死んだばっかで、お袋が気落ちしてたから丁度良かったっちゃ、そーなんだが
俺の運命の相手の猫なんているのかね』
取り留めのないことを考えていると、子猫の入ったケージの表面に見知ったパーカー姿が映っていることに気が付いた。
振り返るとその姿はやはりソシオだった。
フードの下からでもわかる青い顔をして固まってしまっている。
また気分が悪くなったのかと、俺は慌てて彼の元に駆けつけた。
ソシオは何やら混乱しているようだった。
『もう1人はいやだよ』
彼の悲痛な叫びが俺の胸に突き刺さる。
『ソシオ、苦労してきたみたいだよ』
今朝のナリの言葉が頭の中によみがえっていた。
幼い子猫が1匹でケージに入れられ売られている状況に、ソシオは自分と重なる何かを思い出してしまったのかもしれない。
「俺が居るよ」
そう耳元で囁いて俺は彼に寄り添った。
気を紛らわせようと話しかけると、徐々に落ち着きを取り戻しているようだった。
『ナリが呼んでる』
彼は少しヒキツった笑顔でそう伝えてきた。
「一緒に行こう」
俺はソシオの手を取って歩き出す。
途中で友達と合流すると
「何だよラブラブじゃんか」
「ほんと、お前は手が早いな」
皆ニヤニヤしながら繋いでいる俺とソシオの手を見つめていた。
「まあね」
何でもないことのように振る舞いながら、俺は店の中でソシオを1人にさせないよう気を付けた。
ソシオも俺から離れようとはせず、それは何だか猫を引き連れて歩いているようで
『この状況、猫と散歩してるみたいでちょっと良いじゃん』
満更でもない気分になるのだった。
親友でもあり俺の片思いの相手でもあるナリの家で、俺は『ソシオ』と言う美青年と知り合い、その日のうちに付き合うことになった。
ソシオは何故か俺に対して積極的に『好き』だと言ってくれるのだ。
俺としては軽いノリで付き合うことにしたのだが、彼と話しているとその一途さが可愛く感じられてきた。
好意という名の独占欲を剥き出しにされると、とたんに相手に対して冷めてしまう俺にしては珍しいことだ。
ソシオに懐かれている状況を、猫に懐かれている状況のように感じていた。
ソシオの言動が猫に対する俺の好みを探るものが多いせいだろうか。
彼の髪を撫でていると猫を撫でているような心の安らぎを感じることが出来た。
その夜は、ソシオとナリの飼い猫2匹と同じベッドで一緒に眠った。
オママゴトのような純愛的シチュエーションに自分でも笑ってしまうが、ソシオに対してはいつもの肉欲的な感情を抱きにくかったのだ。
ソシオも気にしていないようなので、俺は久しぶりに『猫と寝る』という得難い快楽を味わうことが出来たのだった。
翌朝は正月の時と同じように雑炊が朝食で、ソシオは俺のお椀によそってくれた後、皆のお椀にもよそって回っていた。
居候とは言え、ナリが客にあれこれ手伝わせるのは少し不思議な気がした。
しかしソシオは気にした風もなく楽しそうに給仕しているので『あんなに美形なのに、案外世話焼きタイプなんだな』と納得する。
そう言えば長瀞さんもゲンの世話を嬉しそうに焼いていたっけ、と正月のことを思い出した。
ふかやもそうだし、ペット探偵しっぽやの所員は家庭的な人が多いようだった。
朝食の後、俺はブラシやムースを持って洗面所に向かった。
「また、長々コモって身繕い?」
廊下ですれ違ったナリが、笑いながら話しかけてくる。
「いつも、そんなに長くコモってないって」
俺は苦笑してしまう。
「だって、旅行先でモッチーと同室になると顔が洗えないって、ダイちゃんブツブツ言ってたよ」
「他の奴らが時間かけなさすぎなんだ
ナリだってその頭、寝癖がついたら直すの大変だろ?
それと一緒」
俺はナリの艶やかで真っ直ぐな黒髪を見つめて答える。
「私の髪って、寝癖つきにくいんだよね
じゃないと、この髪型してられないよ
いつもササッと梳(と)かして、それでお仕舞い」
「マジか」
あっけらかんと言うナリに、俺は驚きを隠せなかった。
「いつも念入りにセットして、誰に見せるためなんだか
メット被ると崩れちゃうのに」
ナリはクスクス笑っている。
『それは、お前に格好いいと思って欲しいから頑張ってんだろうが』
思わず口をついてしまいそうになった心の想いを飲み込んだ。
「今日はさ、ソシオのためにセットしてあげて」
ナリはそう言って微笑んだ。
「聞いたよ、ソシオと付き合うことにしたんだって?
彼、すごく喜んでた
モッチーのこと『優しくて格好いい』ってベタ誉めしてるよ」
ナリにバレていることに、俺は少し居心地の悪いものを感じていた。
「ソシオって、不思議な奴だよな
あんだけキレイなんだから、今までモテまくってたろうに
何で俺なんだか
からかわれてんのかな」
冗談めかして言ってみたら、ナリは真剣な顔になった。
「本気だよ、ソシオは本気でモッチーのこと好きなんだ
気が合わなくなったり、不快に感じたりするようになるのはしょうがない
でも、最初から遊び感覚で付き合って欲しくないよ
モッチーにはそういう付き合いって、重い?」
ナリの剣幕に、俺は驚いてしまう。
今まで俺の恋愛遍歴に言葉をはさんできたことは無かったからだ。
「ごめん」
ナリは苦笑してため息を付いた。
「私が言う事じゃないけどさ、ソシオ、今まで苦労してきたみたいでね
自分の外見は好きじゃないんだって
美人だからって、周りからチヤホヤされて労せず生きてきた訳じゃないんだよ
しっぽやにいる人は皆そう、悲しい思いを乗り越えてやっと辿り付けた場所
しっぽやって、切ない場所でもあるんだ…」
目を伏せるナリを、俺は呆然と見つめるしかなかった。
「ふかや、も…?」
俺は思わず聞いてしまった。
「うん、彼に寂しい思い辛い思いをさせないよう、私はふかやと一生を供にしようと決めた
ふかやを、とても愛してるから」
その強烈な告白にズキリと胸が痛んだのは、やはりまだナリのことを諦め切れていなかったせいだろう。
「今からこんなこと言われると、負担になっちゃうよね
家にいる間だけでも、ソシオに優しくしてくれると嬉しいな
その後は、当人同士の問題って事で
さて、出かける準備しようかな、タワーの組立よろしくね」
少し微笑むと、ナリはリビングに戻っていった。
1人残された俺は、複雑な思いを抱えたまま洗面所で髪をセットする。
ナリに言われたから、と言う訳ではなかったが、髪型を誉めてくれたソシオのために念入りにセットしてみるのであった。
部屋に戻ると、ソシオがスマホを仕舞っていた。
しっぽやに電話をかけていたのだろう。
急な休みを上司に咎(とが)められなかったか気になって、それを聞いてみる。
俺は派遣社員なので、急な休みはとにかく嫌がられるのだ。
しかしソシオの答えは『好きなだけ有給で休んでいい』という考えられないようなものであった。
「有給無くなると、後で困らないか?」
「え?有給って無くなるの?
黒谷は誰か休むとき『有給にする』っていつも言ってたから、有給って普通の休みだと思ってた」
俺達はあまりの認識の違いに、驚いた顔を見合わせてしまっていた。
「しっぽやって、すげーな」
しかしソシオはそんな凄い企業に所属できるより、俺に会えたことの方が運が良いと信じられないことを言っている。
そしてきれいな顔で俺のことをジッと見つめ
「今日も格好良い」
うっとりとしたように呟いていた。
「今朝はソシオのためにセットしたんだ、気に入ってくれたなら嬉しいよ」
そう言ってキスをすると、幸せそうな顔になる。
『何つーか、本気で可愛いかも』
俺はソシオの事が気になりだしている自分を感じていた。
1時間くらい後、俺達はナリの車でペットショップに向かった。
「新車かー、良いじゃん」
「これ、最近出たばっかのやつで高かったんじゃないか?」
「へー、オプションずいぶん付けたんだな」
バイク好きだが、車にだって興味はある。
俺達は車内を眺め回して、好き勝手なことを言い合っていた。
「本当はしっぽやの車なんだけどね、事務所の経費で買ったから贅沢しちゃった
今のところ私が自由に使わせてもらってるんだ
そのうち高校生のバイト君が免許取るから、私が先に慣れておいて教えてあげる約束してるよ」
「高校生!懐かしいぜ、俺も高校卒業直前に免許取ったっけ」
「俺はバイクが先だったな」
隣に座るソシオは会話に入ってこず、俯いたまま俺の腕を握っていた。
『顔色あんまり良くないし、酔ったのかな』
俺は心配になってしまう。
ペットショップに着いて車を降りたソシオは、やっと人心地がついたような顔をしていた。
しかし、回復したように見えていた彼は、パーカーを被ってしまった。
まだ気分が良くないようだ。
俺がスポーツドリンクを買ってきて彼に渡すと、美味しそうに飲んでくれてホッとする。
「ありがと、こーゆーの初めて飲んだ
事務所ではいつも紅茶とか緑茶とかコーヒー飲んでるから珍しい
後でまた飲もうっと」
飲み残しが入っているペットボトルを大事そうにパーカーのポケットに入れる姿が、いじらしく感じられた。
ペットショップに入ると、俺達はバラバラと店内に散っていく。
俺はダービーへのお土産を選び始めるが、特に目新しい物は売っていない。
そのため、俺の足は自然に子猫が売られているコーナーに向かっていた。
様々な種類の子猫が、ケージに入れられて売られている。
ざっと見たかぎりでは、ターキッシュバンは居なかった。
『珍しい種類だもんな、ダービーの時はたまたま近所のブリーダーが持ち込みに来たって店の人が言ってたし
それで、ちょっと運命感じて買っちまったんだよな
子供の時からずっと拾った猫と暮らしてたのによ
それが、運命は俺じゃなくてお袋に通じてたとか
俺は単なる運び屋だったって訳だ
前の猫が老衰で死んだばっかで、お袋が気落ちしてたから丁度良かったっちゃ、そーなんだが
俺の運命の相手の猫なんているのかね』
取り留めのないことを考えていると、子猫の入ったケージの表面に見知ったパーカー姿が映っていることに気が付いた。
振り返るとその姿はやはりソシオだった。
フードの下からでもわかる青い顔をして固まってしまっている。
また気分が悪くなったのかと、俺は慌てて彼の元に駆けつけた。
ソシオは何やら混乱しているようだった。
『もう1人はいやだよ』
彼の悲痛な叫びが俺の胸に突き刺さる。
『ソシオ、苦労してきたみたいだよ』
今朝のナリの言葉が頭の中によみがえっていた。
幼い子猫が1匹でケージに入れられ売られている状況に、ソシオは自分と重なる何かを思い出してしまったのかもしれない。
「俺が居るよ」
そう耳元で囁いて俺は彼に寄り添った。
気を紛らわせようと話しかけると、徐々に落ち着きを取り戻しているようだった。
『ナリが呼んでる』
彼は少しヒキツった笑顔でそう伝えてきた。
「一緒に行こう」
俺はソシオの手を取って歩き出す。
途中で友達と合流すると
「何だよラブラブじゃんか」
「ほんと、お前は手が早いな」
皆ニヤニヤしながら繋いでいる俺とソシオの手を見つめていた。
「まあね」
何でもないことのように振る舞いながら、俺は店の中でソシオを1人にさせないよう気を付けた。
ソシオも俺から離れようとはせず、それは何だか猫を引き連れて歩いているようで
『この状況、猫と散歩してるみたいでちょっと良いじゃん』
満更でもない気分になるのだった。