しっぽや(No.145~157)
翌朝、時計のアラームで意識が浮上すると、同じような状態のモッチーと目があった。
「おはよーソシオ、いつもこんな時間に起きて仕事に間に合なうのか?」
時刻を確認したらしい彼が聞いてくる。
「うん、事務所まで歩いて10分かからないし、8時半頃出れば余裕だよ
それに、今日は仕事休んでモッチーと一緒に居たいんだけど、ダメ?」
「じゃあ、一緒にキャットタワー組み立てるか
この部屋に設置するんだろうし」
彼の返事で俺の気分は高まってしまう。
「モッチーと一緒、嬉しい!」
気分が高まったのは俺だけでは無かった。
『そしお、今日ハズット家ニ居ルノ?ジャア、朝ト昼ニちゅるーヲ貰エルネ』
『アタシ、缶詰メモ食ベタイ、黒ジャナク金ノヤツ』
ヤマハとスズキもベッドから降りてソワソワしながら部屋の中を歩き始めていた。
『それは、ナリが良いって言ったらね』
そう釘を刺しても2匹は聞いていなかった。
「お客が居るから、オヤツいっぱい貰えると思ってるな
この前ナリの家に泊まりに行ったとき、皆で気前よくあげちまったから
悪い癖つけちゃったなー」
2匹の態度に気が付いたモッチーが、ベッドの上に起きあがり頭をかいて苦笑する。
「ソシオ、『おやつはそんなに貰えない』って説得できる?」
「キャットタワーが出来上がれば、それどころじゃなくなるよ」
「なるほど、確かに」
俺の言葉にモッチーは笑って頷いてくれた。
「オハヨー」
「おはようさん」
「皆よく眠れた?酔いは残ってない?」
「朝ご飯、前の時みたいに雑炊にしてみたよ」
リビングではナリとふかやが朝食の準備をしていて、他の人達も集まり始めていた。
俺はナリに近づくと
「ナリ、モッチーが付き合おうって言ってくれたんだ
『付き合う』って、友達より深い仲になることなんだって
このまま飼って貰えるよう頑張るよ」
小声で誇らかに報告する。
「『付き合う』か…モッチー、案外手が早いんだよね
そのくせ、誰に対しても本気じゃない感じで
悪い奴じゃないんだけどさ」
ナリは苦笑して軽くため息を付いていた。
「うん、モッチーは凄く優しいよ、何度も撫でて貰ったしキスもしてくれた
今日はしっぽやは休んで、ずっとモッチーと一緒に居たいんだ
ヤマハとスズキのためにキャットタワー組み立ててあげる」
俺の言葉に
「私もふかやも、協力するよ
ソシオは今日から少し休むって、ふかやから黒谷に伝えといてもらおうか」
ナリは優しく微笑んでくれる。
「お願い、俺も後で電話しとく
朝食は何を運べば良い?モッチーのとこに持って行きたい」
「じゃあ、この鍋をテーブルの鍋敷きの上に置いて
それで、お椀に雑炊をよそってあげると良いよ
良かったら、皆の分もよそってあげて」
「分かった皆の分もよそう!でも、1番はモッチーのためによそうんだ」
俺はナリから鍋を受け取って、テーブルに近づいていく。
「ソシオ、1人で大丈夫か?お客使いが荒いな、この家は」
モッチーが俺を見て慌てて手を貸してくれようとする。
気にかけてもらえて、俺は嬉しくなった。
「平気、1番にモッチーによそってあげるからね
いっぱい食べて」
モッチーと一緒に食べる朝食は、幸せの味がするのだった。
朝食の後、ふかやはしっぽやに出勤していった。
伝言を頼んではあるが俺は黒谷のスマホに電話をかけ、暫く休みたい旨を伝える。
『こっちのことは気にしなくて大丈夫だよ
何か手伝えそうなことがあったら連絡して
とは言っても、僕も日野もバイクに乗れないし相談にのれるかどうか怪しいけどね
ナリとふかやを頼るのが1番じゃないかな
必要があれば、ふかやも休んでもらっても良いから』
黒谷の言葉はありがたかった。
「モッチーに飼ってもらえるよう頑張る、俺達、付き合うことにはなったんだ
付き合うって、友達より深い関係なんだって」
『そうか、良かったね
雄三毛猫の幸運パワーが、君自身に向くことを祈ってるよ』
黒谷は最後にそう言うと、通話を終了させた。
洗面所から戻ってきたモッチーがスマホをしまっている俺を見て
「しっぽやに電話かけてたのか?急に休みたいなんて、怒られなかった?」
そんな事を聞いてくる。
「大丈夫、有給ってのにしとくから好きなだけ休んで良いって」
俺が答えると彼は驚いた顔になった。
「有給で好きなだけ休んで良いって?しっぽやって本当に凄いな
一流企業でも、なかなか無い待遇だぜ」
「そうなの?じゃあ俺、しっぽやに所属できて運が良いんだ
でも、モッチーに会えたことの方が運が良いと思うよ
今日も格好良い、俺のブラッシングじゃそこまで格好良くできないや」
俺は彼の顔をうっとりとみつめてしまう。
「今朝はソシオのためにセットしたんだ、気に入ってくれたなら嬉しいよ」
モッチーは笑って俺にキスをしてくれた。
彼との触れ合いで俺の胸の中は幸せで満たされるのであった。
それから俺達はナリの運転で車に乗って、大きなペットショップに向かった。
車に乗るのは初めてで怖かったけど、隣にモッチーが座ってくれたので彼の腕を握って何とか恐慌状態にならずにすんだ。
「ソシオ、具合悪そうだけど車に酔いやすいのか?」
車を降りた後、モッチーがそっと聞いてくれる。
「乗り慣れないから緊張しちゃった
モッチーが居てくれたから大丈夫」
外の新鮮な空気を吸って、やっと気分が回復してきた。
『ペットショップ…動物に詳しい人が多そうな場所だな』
一応、パーカーを被って髪の色が見えないよう警戒する。
その姿を見てまだ気分が悪いと思っているのか
「無理すんなよ、飲み物買ってきてやろうか
スポーツドリンクならさっぱりするかな」
モッチーがそう聞いてくれた。
「うん、お願い」
俺は嬉しくなってそう頼んでしまう。
彼に渡されたペットボトルの飲み物は、とても美味しかった。
店内は雑多な気配に満ちている。
『波久礼はペットショップは好きじゃないって言ってたっけ
空は好きだって言ってたけど、何かよくわかんないな』
俺はキョロキョロと店内を見渡してみた。
猫のオヤツが売っているコーナーを発見し、そっちに向かって歩き出した俺にナリが近づいてきて
「ごめん、酔っちゃった?
ふかやは生前から車に乗り慣れてたから、うっかりしてた」
そう囁いた。
「車っての、初めて乗ったから怖くて
あのお方は車なんて乗らなかったからさ
でも、モッチーが居てくれたから平気
飲み物も買ってくれたんだよ」
俺のパーカーのポケットには、まださっきのペットボトルの残りが入っていた。
「ナリ、あそこに下がってるのチュルーじゃない?
何か、見たことないパッケージで珍しい味っぽいよ
ヤマハとスズキにお土産で買っていこう
あれ、何これ、キッスキッスのバラエティーパックだって
色んな味がいっぱい入ってる!これも見たことない!
え?缶詰もレトルトもこんなにいっぱい種類がある
何この店、凄いよ」
辺りをじっくり見ると美味しそうな物が大量にあり、俺はテンションが上がってしまった。
「凄い、ペットショップって凄い!」
興奮する俺に
「この店、近辺では1番大きくて品揃え良いからね
キャットタワー以外にも、珍しいオヤツも買っていこうか
モッチー達に荷物持ちさせなきゃ
ソシオ、彼を捜してカート持ってこさせて」
ナリが悪戯っぽく笑って言った。
「うん、捜してくる」
俺はモッチーの姿を求めてその場を離れていった。
モッチーは、子猫が入っているケージが並んでいる場所に居た。
少し切ない目で子猫を見ている。
一人遊びをしている子猫、眠っている子猫、そんな中に混じり母親を恋しがっている子猫の想念が届いてきて、俺はたまらない気持ちになってしまった。
『波久礼がここを好きじゃないって言っていたのは、これか』
俺はやっとそのことに気が付いた。
まだ母親と居るべき時期の小さな子猫が1匹でケージに入れられているのを見るのは、居たたまれなかった。
子猫の姿を、あのお方に拾われる前の自分と重ねてしまい、恐怖と寂しさで動けなくなってしまう。
硬直する俺に気が付いて、モッチーは側に来てくれた。
「ソシオ、顔が青いぞ、大丈夫か」
彼はしっかりと俺を支えてくれる。
「子猫が、寂しがってて、昔の俺みたいで、怖いよ、俺、もう1人はやだよ」
その恐怖は上手く言葉になってくれなかったが
「俺が居るよ」
モッチーは安心させるように囁いてくれた。
「確かに、ちょっと小さすぎる子猫が居るよな
誕生日から推察する月齢に対しても、皆、小さい気がするし
ちゃんとメシ貰ってんのかな
ダービーを買ったときは、もっと大きかった気がするんだ
まあ、ターキッシュバンは大柄な猫だけどな」
モッチーが居ることで、やっと心が落ち着いてきた。
「ごめん、俺、こーゆー店に来たの初めてで、何か色々ビックリしちゃって
ナリがカートってやつを持って、荷物持ちしてって言ってる
キャットタワー以外にも、チュルーとか買いたいから」
俺は何とか笑顔を作りそう伝えることが出来た。
「そりゃ1人じゃ大変そうだ、皆に声かけて行くか
ほら、ソシオも一緒に行こう」
モッチーは俺の手を取って歩き出す。
それから買い物が終わるまで、彼は俺の側にいてくれた。
家に帰ると、早速キャットタワーを組み立てる。
大きくて天井まで支柱がある物だったけど、背の高い人たちが何人もいるのであっという間に設置された。
俺とナリは見ているだけで良かった。
「マンション猫になったけど、2匹ともこれである程度上下運動出来るね
皆、お疲れさま、ありがとう
お昼はピザでも取ろうか、今夜も泊まっていけるなら昼から飲んじゃう?」
「そうさせてもらおうかな」
「労働報酬がピザだけってのもな」
バーマン兄妹がタワーをチェックし皆がリビングに移動する中
「お疲れさま、今夜も泊まっていって、一緒に寝てくれる?」
俺は小声でモッチーに聞いてみた。
「ああ、もう少し側にいるよ」
彼は安心させるよう、俺の頭を撫でてくれる。
その優しい手を、俺は離したくないと強く思うのだった。
「おはよーソシオ、いつもこんな時間に起きて仕事に間に合なうのか?」
時刻を確認したらしい彼が聞いてくる。
「うん、事務所まで歩いて10分かからないし、8時半頃出れば余裕だよ
それに、今日は仕事休んでモッチーと一緒に居たいんだけど、ダメ?」
「じゃあ、一緒にキャットタワー組み立てるか
この部屋に設置するんだろうし」
彼の返事で俺の気分は高まってしまう。
「モッチーと一緒、嬉しい!」
気分が高まったのは俺だけでは無かった。
『そしお、今日ハズット家ニ居ルノ?ジャア、朝ト昼ニちゅるーヲ貰エルネ』
『アタシ、缶詰メモ食ベタイ、黒ジャナク金ノヤツ』
ヤマハとスズキもベッドから降りてソワソワしながら部屋の中を歩き始めていた。
『それは、ナリが良いって言ったらね』
そう釘を刺しても2匹は聞いていなかった。
「お客が居るから、オヤツいっぱい貰えると思ってるな
この前ナリの家に泊まりに行ったとき、皆で気前よくあげちまったから
悪い癖つけちゃったなー」
2匹の態度に気が付いたモッチーが、ベッドの上に起きあがり頭をかいて苦笑する。
「ソシオ、『おやつはそんなに貰えない』って説得できる?」
「キャットタワーが出来上がれば、それどころじゃなくなるよ」
「なるほど、確かに」
俺の言葉にモッチーは笑って頷いてくれた。
「オハヨー」
「おはようさん」
「皆よく眠れた?酔いは残ってない?」
「朝ご飯、前の時みたいに雑炊にしてみたよ」
リビングではナリとふかやが朝食の準備をしていて、他の人達も集まり始めていた。
俺はナリに近づくと
「ナリ、モッチーが付き合おうって言ってくれたんだ
『付き合う』って、友達より深い仲になることなんだって
このまま飼って貰えるよう頑張るよ」
小声で誇らかに報告する。
「『付き合う』か…モッチー、案外手が早いんだよね
そのくせ、誰に対しても本気じゃない感じで
悪い奴じゃないんだけどさ」
ナリは苦笑して軽くため息を付いていた。
「うん、モッチーは凄く優しいよ、何度も撫でて貰ったしキスもしてくれた
今日はしっぽやは休んで、ずっとモッチーと一緒に居たいんだ
ヤマハとスズキのためにキャットタワー組み立ててあげる」
俺の言葉に
「私もふかやも、協力するよ
ソシオは今日から少し休むって、ふかやから黒谷に伝えといてもらおうか」
ナリは優しく微笑んでくれる。
「お願い、俺も後で電話しとく
朝食は何を運べば良い?モッチーのとこに持って行きたい」
「じゃあ、この鍋をテーブルの鍋敷きの上に置いて
それで、お椀に雑炊をよそってあげると良いよ
良かったら、皆の分もよそってあげて」
「分かった皆の分もよそう!でも、1番はモッチーのためによそうんだ」
俺はナリから鍋を受け取って、テーブルに近づいていく。
「ソシオ、1人で大丈夫か?お客使いが荒いな、この家は」
モッチーが俺を見て慌てて手を貸してくれようとする。
気にかけてもらえて、俺は嬉しくなった。
「平気、1番にモッチーによそってあげるからね
いっぱい食べて」
モッチーと一緒に食べる朝食は、幸せの味がするのだった。
朝食の後、ふかやはしっぽやに出勤していった。
伝言を頼んではあるが俺は黒谷のスマホに電話をかけ、暫く休みたい旨を伝える。
『こっちのことは気にしなくて大丈夫だよ
何か手伝えそうなことがあったら連絡して
とは言っても、僕も日野もバイクに乗れないし相談にのれるかどうか怪しいけどね
ナリとふかやを頼るのが1番じゃないかな
必要があれば、ふかやも休んでもらっても良いから』
黒谷の言葉はありがたかった。
「モッチーに飼ってもらえるよう頑張る、俺達、付き合うことにはなったんだ
付き合うって、友達より深い関係なんだって」
『そうか、良かったね
雄三毛猫の幸運パワーが、君自身に向くことを祈ってるよ』
黒谷は最後にそう言うと、通話を終了させた。
洗面所から戻ってきたモッチーがスマホをしまっている俺を見て
「しっぽやに電話かけてたのか?急に休みたいなんて、怒られなかった?」
そんな事を聞いてくる。
「大丈夫、有給ってのにしとくから好きなだけ休んで良いって」
俺が答えると彼は驚いた顔になった。
「有給で好きなだけ休んで良いって?しっぽやって本当に凄いな
一流企業でも、なかなか無い待遇だぜ」
「そうなの?じゃあ俺、しっぽやに所属できて運が良いんだ
でも、モッチーに会えたことの方が運が良いと思うよ
今日も格好良い、俺のブラッシングじゃそこまで格好良くできないや」
俺は彼の顔をうっとりとみつめてしまう。
「今朝はソシオのためにセットしたんだ、気に入ってくれたなら嬉しいよ」
モッチーは笑って俺にキスをしてくれた。
彼との触れ合いで俺の胸の中は幸せで満たされるのであった。
それから俺達はナリの運転で車に乗って、大きなペットショップに向かった。
車に乗るのは初めてで怖かったけど、隣にモッチーが座ってくれたので彼の腕を握って何とか恐慌状態にならずにすんだ。
「ソシオ、具合悪そうだけど車に酔いやすいのか?」
車を降りた後、モッチーがそっと聞いてくれる。
「乗り慣れないから緊張しちゃった
モッチーが居てくれたから大丈夫」
外の新鮮な空気を吸って、やっと気分が回復してきた。
『ペットショップ…動物に詳しい人が多そうな場所だな』
一応、パーカーを被って髪の色が見えないよう警戒する。
その姿を見てまだ気分が悪いと思っているのか
「無理すんなよ、飲み物買ってきてやろうか
スポーツドリンクならさっぱりするかな」
モッチーがそう聞いてくれた。
「うん、お願い」
俺は嬉しくなってそう頼んでしまう。
彼に渡されたペットボトルの飲み物は、とても美味しかった。
店内は雑多な気配に満ちている。
『波久礼はペットショップは好きじゃないって言ってたっけ
空は好きだって言ってたけど、何かよくわかんないな』
俺はキョロキョロと店内を見渡してみた。
猫のオヤツが売っているコーナーを発見し、そっちに向かって歩き出した俺にナリが近づいてきて
「ごめん、酔っちゃった?
ふかやは生前から車に乗り慣れてたから、うっかりしてた」
そう囁いた。
「車っての、初めて乗ったから怖くて
あのお方は車なんて乗らなかったからさ
でも、モッチーが居てくれたから平気
飲み物も買ってくれたんだよ」
俺のパーカーのポケットには、まださっきのペットボトルの残りが入っていた。
「ナリ、あそこに下がってるのチュルーじゃない?
何か、見たことないパッケージで珍しい味っぽいよ
ヤマハとスズキにお土産で買っていこう
あれ、何これ、キッスキッスのバラエティーパックだって
色んな味がいっぱい入ってる!これも見たことない!
え?缶詰もレトルトもこんなにいっぱい種類がある
何この店、凄いよ」
辺りをじっくり見ると美味しそうな物が大量にあり、俺はテンションが上がってしまった。
「凄い、ペットショップって凄い!」
興奮する俺に
「この店、近辺では1番大きくて品揃え良いからね
キャットタワー以外にも、珍しいオヤツも買っていこうか
モッチー達に荷物持ちさせなきゃ
ソシオ、彼を捜してカート持ってこさせて」
ナリが悪戯っぽく笑って言った。
「うん、捜してくる」
俺はモッチーの姿を求めてその場を離れていった。
モッチーは、子猫が入っているケージが並んでいる場所に居た。
少し切ない目で子猫を見ている。
一人遊びをしている子猫、眠っている子猫、そんな中に混じり母親を恋しがっている子猫の想念が届いてきて、俺はたまらない気持ちになってしまった。
『波久礼がここを好きじゃないって言っていたのは、これか』
俺はやっとそのことに気が付いた。
まだ母親と居るべき時期の小さな子猫が1匹でケージに入れられているのを見るのは、居たたまれなかった。
子猫の姿を、あのお方に拾われる前の自分と重ねてしまい、恐怖と寂しさで動けなくなってしまう。
硬直する俺に気が付いて、モッチーは側に来てくれた。
「ソシオ、顔が青いぞ、大丈夫か」
彼はしっかりと俺を支えてくれる。
「子猫が、寂しがってて、昔の俺みたいで、怖いよ、俺、もう1人はやだよ」
その恐怖は上手く言葉になってくれなかったが
「俺が居るよ」
モッチーは安心させるように囁いてくれた。
「確かに、ちょっと小さすぎる子猫が居るよな
誕生日から推察する月齢に対しても、皆、小さい気がするし
ちゃんとメシ貰ってんのかな
ダービーを買ったときは、もっと大きかった気がするんだ
まあ、ターキッシュバンは大柄な猫だけどな」
モッチーが居ることで、やっと心が落ち着いてきた。
「ごめん、俺、こーゆー店に来たの初めてで、何か色々ビックリしちゃって
ナリがカートってやつを持って、荷物持ちしてって言ってる
キャットタワー以外にも、チュルーとか買いたいから」
俺は何とか笑顔を作りそう伝えることが出来た。
「そりゃ1人じゃ大変そうだ、皆に声かけて行くか
ほら、ソシオも一緒に行こう」
モッチーは俺の手を取って歩き出す。
それから買い物が終わるまで、彼は俺の側にいてくれた。
家に帰ると、早速キャットタワーを組み立てる。
大きくて天井まで支柱がある物だったけど、背の高い人たちが何人もいるのであっという間に設置された。
俺とナリは見ているだけで良かった。
「マンション猫になったけど、2匹ともこれである程度上下運動出来るね
皆、お疲れさま、ありがとう
お昼はピザでも取ろうか、今夜も泊まっていけるなら昼から飲んじゃう?」
「そうさせてもらおうかな」
「労働報酬がピザだけってのもな」
バーマン兄妹がタワーをチェックし皆がリビングに移動する中
「お疲れさま、今夜も泊まっていって、一緒に寝てくれる?」
俺は小声でモッチーに聞いてみた。
「ああ、もう少し側にいるよ」
彼は安心させるよう、俺の頭を撫でてくれる。
その優しい手を、俺は離したくないと強く思うのだった。