しっぽや(No.135~144)
暗く黙り込む彼の気分を変えるため
「そうだ、ウラ、バイク見に行く?」
私はそう誘ってみた。
「あ…うん…つか、その前に、その…
ゲンちゃんに、ちょっと聞いたんだけど…」
ウラは何やら言いよどんでいる。
根気強く言葉の続きを待っていると
「ナリって…アニマルコミュニケーターってやつなんだって…?」
伺うような視線でそんなことを呟いた。
それは特殊な能力に憧れているとか気味悪がられている、と言うのとは少し違う視線だった。
「そんな大層な能力じゃないよ
飼い猫と通じ合ってるって、猫飼いなら感じてる人多いもの
猫バカが極まっただけとも言うかな」
私は冗談めかして言ってみた。
「でも、その…
死んじゃったペットのことも分かるって…」
真剣な顔のウラを見て、私は察しが付いた。
「亡くしたペットで、気になっていることがあるのかな」
そっと聞くと、彼は小さく頷いた。
「亡くなってるペットの写真から想いを感じ取れるほど、能力が強い人はいるよ
私は単なる占い師だし、アニマルコミュニケーター的なことはやったことないんだ
ゲンの時はその猫が亡くなった場所だったし、その子と繋がれた長瀞が居たからボンヤリと、何となくそうかな、って気がしただけ」
苦笑する私を見て、ウラも力なく微笑んだ。
「そっか、あの犬の写真なんて、持ってないや
そういや一緒に写真を撮ってやったことすらなかったんだ
何やってたんだろう
ほんと、サイテーなガキで、サイテーな飼い主だったぜ
子供が動物の世話なんてするもんじゃねーな
きっと恨まれてるわ、俺」
キレイな顔を歪める彼を見て、私は決心する。
「きちんと視たことないし、何か感じ取れるかわからない
それでも良かったら、試してみる?」
私の言葉に彼は驚いた顔をした。
「今日のお礼だよ
『自分の犬と違う』ってクレームは受け付けないからね
あくまでも、お試しだから」
苦笑して念を押すように伝えたが、彼は笑って頷いてくれた。
テーブルの上に置かれた彼の手を取り、そっと触る。
この手はその犬を触ったことがある、犬と繋がっていた場所だ。
「目を瞑って、犬の名前を心で呼んであげて」
ウラは言われた通りの事をしてくれたが、やはり何か感じることは出来なかった。
それでも感覚を彼に会わせていくと、ふいに犬の気配に気が付いた。
それは彼を抱きしめ、守ろうとしているようだった。
『これは大麻生の気配っぽい、ふかやのものと似てるから』
さらに視ようと試みたら、ウラと大麻生を囲むように細い微かな糸のようなものを感じ取れた。
それがウラと大麻生をより強固に結びつけているように感じられた。
「ウラの飼ってた犬って、シェパード?」
そう聞くと彼は目を開け、驚いた顔になる。
「うん、そう
あれ、俺、言ったっけ?何か感じ取れたの?」
期待に瞳を輝かせる彼に
「ごめん、わからなかった
わかったのは、大麻生はウラのこと守ろうとしてるってこと
君達、深く繋がってるんだね
ただ、それを助けてる何かがある気がしたんだ
漠然とシェパード、って感じたのは大麻生がシェパードだからかな?」
私は首を捻ってしまう。
「初めてソウちゃんと会ったとき、格好良くて好みの顔だなって思ったんだ
あのに表情が犬っぽくて、何だか気になってさ
だからソウちゃんの部屋に行っても良いかって、気持ちになった」
「大麻生って、初見(しょけん)で付いて行こうと思うには強面だよね
犬っぽいと感じたのは、無意識に子供の頃接していたシェパードと面影を重ねていたんじゃない
シェパードなら自分に危害を加えないってわかってて、彼のところに行ったとか?」
私達の会話は、何だか推理合戦のようになってきた。
「えー?俺、けっこー犬達にはバカにされてたし、フザケ半分だったと思うけど噛まれかかったこと何回も…
そうだ、それでもあの犬だけはけっして俺に牙を剥いたりしなかった
だから、こんなんで犯人確保できんのか心配してたんだ
学校から帰って犬舎に行くと、尻尾振ってバカみたいに喜んで
待てとかお座りとか上手く出来なくて、いっつも俺の後ウロウロ付いて来ちゃってた
俺、そいつのことダメ犬だとしか思えなかった…」
彼の言葉は、掠れて震えてきていた。
今のウラになら犬の行動が理解出来るのだろう。
「うん、ウラのこと大好きで離れたくなかったんだ
そんな犬が恨んだりすることないよ
自分が居なくなった後、誰かに君を守って欲しくて大麻生と縁を繋いだ、って言ったら出来過ぎかな」
そう問いかけると、彼は激しく頭を振って否定した。
「俺のこと、好きでいてくれたんだ
ろくに世話も出来なかったガキだったのに」
堪えきれずに泣き出した彼の体に、ほんの一瞬だけ金色の糸が巻き付いているように見えた。
それはウラのキレイに染められている金髪によく似た色であった。
私は彼に近寄って、その体を抱きしめた。
ウラは私の腕の中で、子供のように声を上げて泣き続けるのだった。
気分が落ち着いてきたのか、ウラの泣き声が小さくなってきたので、私はボックスティッシュを彼に手渡した。
「ありがと、顔中グチャグチャだ」
彼は照れたように笑って、涙や鼻水を拭っている。
まだ目は赤いものの、その表情は晴れやかだった。
「ごめんね、何だか曖昧なことしか言えなくて
結局ウラが自分で気が付いたし、能力不足で申し訳ない」
「ううん、ナリに言われなかったら気が付かなかった
凄いスッキリしたよ、意識してなかったけどずっと気になってたんだな、あの犬のこと
あ、これ、ソウちゃんには内緒ね
まだ前の犬のこと気にしてるって、悪いじゃん」
彼は少しバツの悪そうな顔になった後
「ナリって凄いね、今度占いもやってもらおうかな
メチャ当たりそう」
そう言ってニヒッと笑う。
「手相だったら今視てみようか?」
私が聞くと
「マジ?視て!金運とかどう?恋愛運はソウちゃんいるからバッチリでしょ」
ウラは嬉々(きき)として手を差し出してくる。
私達はそれから手相占いをしたり、自分の化生のノロケ話をしたり時を忘れて他愛のない話に花を咲かせ、気が付くと外は暗くなっていた。
「暗くなっちゃったけど、バイク見に行く?
明後日まではこっちにいるから、後日にする?
駐車場の照明ってそんなに明るくないし、どうせなら日の光の元で見てもらいたいな」
「そだね、明日改めて見せてもらおっと
明日のペットショップのシフト昼からだし、仕事の前とかさ
あ、カズハ先輩がちょっと言ってたけど、ナリってうちの店で占いブース出したいんだって?
俺からも店長に『良く当たる占い師』だって勧めとくよ」
ウラはキレイにウインクしてみせた。
「従業員に勧めてもらえるの、ありがたいよ
こっちではカード使って、ペットとの相性占い限定でやってみたいんだ
店長さんとかペット飼ってる?
お試しでやってみせた方が分かり易いと思うけど、どうかな
って言っといてなんだけど、今回カード持ってくるの忘れちゃってさ
いったん帰って、次に来るときには持ってくるから
次は来週火曜日から1週間くらい居るつもり
まだしっぽやのバイト君達に会えてないんで、会えると良いな」
「あいつら色んな意味でパッと見『高校生』に見えないから、きっと驚くぜ」
ウラは面白そうにケラケラ笑っている。
「私の方が年上だけど、仲良くしてもらえるかな
自分が高校生だった頃って随分昔な気がするよ、ジェネレーションギャップ感じそう」
少し苦笑する私に
「平気、平気、ナリってあいつら好みの『頼れるお兄さん』って感じだもん
カズハ先輩もナリのことベタ誉めしてたぜ
そうだ、せっかくだから、最初は『占い師』っての前面に押し出して脅かしちゃえば?
幽霊も視える、ってオマケ付きで」
ウラが冗談半分のアドバイスをしてくれる。
「いや、それは怪しすぎるでしょ」
『霊感占い師が会いたがってる』と言われても、自分でも躊躇してしまいそうだった。
「取り敢えず、黒谷に連絡してみるよ
彼の飼い主には会ってみたいからね」
「日野ちゃん?あいつなら餌付けするのが1番だぜ、ご当地銘菓でも持ってきな
大食いだから、饅頭なら1箱は必要かな」
「1箱って…、ウラは大げさだなー」
「会えばわかるぜ、事実は小説よりキナリってやつ
そういや生成(きなり)の服って自分じゃ着なかったけど、ソウちゃん案外似合うんだよね
つか、ナリにも似合いそう」
ウラの言葉に『「小説より奇なり」のこと?』とも思ったが
「生成は服よりもインテリア系が好きなんだ
部屋がかなりナチュラルテイストになるけど、薄いベージュとか案外猫の毛が目立たないのも良くてさ
黒とか真っ白だと凄いことになっちゃうんだ、家の子達長毛だから」
私はそのまま言葉を続けた。
「ああ、そういやナリの新しい部屋のシーツやらカーテン、生成だったね」
「ソファーとクッションも買おうか悩み中」
「俺はベタだけど、ソファーは黒のレザーが良いな」
ウラと話していると、楽しくて時を忘れてしまう。
すでに時刻は夜になっていた。
「ヤバ、そろそろソウちゃんが帰ってくる」
時間に気が付いたウラが慌てて立ち上がった。
「じゃあ、ふかやも帰ってくるね
夕飯の準備、何もしてないや
せっかくだし4人で何か食べに行かない?
お勧めの店、ある?」
「ここんとこ外食はファミレス続いたから、ガツンと焼き肉食べ放題とかどうよ?
あ、占い師って肉食って良いの?ナリってベジタリアン?」
ウラは首を傾げて聞いてくる。
「そんなことないって、肉も魚も普通に食べるよ
ウラこそ体型気にしてダイエットとかしてないの?」
逆に私も聞き返してみた。
「ダイエットは明日から~」
ウラは悪戯っぽい顔で笑うと
「今日は食った分、夜に運動して発散するから大丈夫」
少し艶めいた表情を見せた。
「ごちそうさま」
私は肩を竦めて笑ってしまう。
新しい飼い犬と新しい場所で始める新しい生活。
新しい人間関係は楽しくて、私はふかやと出会い共に居られることに改めて感謝するのであった。
「そうだ、ウラ、バイク見に行く?」
私はそう誘ってみた。
「あ…うん…つか、その前に、その…
ゲンちゃんに、ちょっと聞いたんだけど…」
ウラは何やら言いよどんでいる。
根気強く言葉の続きを待っていると
「ナリって…アニマルコミュニケーターってやつなんだって…?」
伺うような視線でそんなことを呟いた。
それは特殊な能力に憧れているとか気味悪がられている、と言うのとは少し違う視線だった。
「そんな大層な能力じゃないよ
飼い猫と通じ合ってるって、猫飼いなら感じてる人多いもの
猫バカが極まっただけとも言うかな」
私は冗談めかして言ってみた。
「でも、その…
死んじゃったペットのことも分かるって…」
真剣な顔のウラを見て、私は察しが付いた。
「亡くしたペットで、気になっていることがあるのかな」
そっと聞くと、彼は小さく頷いた。
「亡くなってるペットの写真から想いを感じ取れるほど、能力が強い人はいるよ
私は単なる占い師だし、アニマルコミュニケーター的なことはやったことないんだ
ゲンの時はその猫が亡くなった場所だったし、その子と繋がれた長瀞が居たからボンヤリと、何となくそうかな、って気がしただけ」
苦笑する私を見て、ウラも力なく微笑んだ。
「そっか、あの犬の写真なんて、持ってないや
そういや一緒に写真を撮ってやったことすらなかったんだ
何やってたんだろう
ほんと、サイテーなガキで、サイテーな飼い主だったぜ
子供が動物の世話なんてするもんじゃねーな
きっと恨まれてるわ、俺」
キレイな顔を歪める彼を見て、私は決心する。
「きちんと視たことないし、何か感じ取れるかわからない
それでも良かったら、試してみる?」
私の言葉に彼は驚いた顔をした。
「今日のお礼だよ
『自分の犬と違う』ってクレームは受け付けないからね
あくまでも、お試しだから」
苦笑して念を押すように伝えたが、彼は笑って頷いてくれた。
テーブルの上に置かれた彼の手を取り、そっと触る。
この手はその犬を触ったことがある、犬と繋がっていた場所だ。
「目を瞑って、犬の名前を心で呼んであげて」
ウラは言われた通りの事をしてくれたが、やはり何か感じることは出来なかった。
それでも感覚を彼に会わせていくと、ふいに犬の気配に気が付いた。
それは彼を抱きしめ、守ろうとしているようだった。
『これは大麻生の気配っぽい、ふかやのものと似てるから』
さらに視ようと試みたら、ウラと大麻生を囲むように細い微かな糸のようなものを感じ取れた。
それがウラと大麻生をより強固に結びつけているように感じられた。
「ウラの飼ってた犬って、シェパード?」
そう聞くと彼は目を開け、驚いた顔になる。
「うん、そう
あれ、俺、言ったっけ?何か感じ取れたの?」
期待に瞳を輝かせる彼に
「ごめん、わからなかった
わかったのは、大麻生はウラのこと守ろうとしてるってこと
君達、深く繋がってるんだね
ただ、それを助けてる何かがある気がしたんだ
漠然とシェパード、って感じたのは大麻生がシェパードだからかな?」
私は首を捻ってしまう。
「初めてソウちゃんと会ったとき、格好良くて好みの顔だなって思ったんだ
あのに表情が犬っぽくて、何だか気になってさ
だからソウちゃんの部屋に行っても良いかって、気持ちになった」
「大麻生って、初見(しょけん)で付いて行こうと思うには強面だよね
犬っぽいと感じたのは、無意識に子供の頃接していたシェパードと面影を重ねていたんじゃない
シェパードなら自分に危害を加えないってわかってて、彼のところに行ったとか?」
私達の会話は、何だか推理合戦のようになってきた。
「えー?俺、けっこー犬達にはバカにされてたし、フザケ半分だったと思うけど噛まれかかったこと何回も…
そうだ、それでもあの犬だけはけっして俺に牙を剥いたりしなかった
だから、こんなんで犯人確保できんのか心配してたんだ
学校から帰って犬舎に行くと、尻尾振ってバカみたいに喜んで
待てとかお座りとか上手く出来なくて、いっつも俺の後ウロウロ付いて来ちゃってた
俺、そいつのことダメ犬だとしか思えなかった…」
彼の言葉は、掠れて震えてきていた。
今のウラになら犬の行動が理解出来るのだろう。
「うん、ウラのこと大好きで離れたくなかったんだ
そんな犬が恨んだりすることないよ
自分が居なくなった後、誰かに君を守って欲しくて大麻生と縁を繋いだ、って言ったら出来過ぎかな」
そう問いかけると、彼は激しく頭を振って否定した。
「俺のこと、好きでいてくれたんだ
ろくに世話も出来なかったガキだったのに」
堪えきれずに泣き出した彼の体に、ほんの一瞬だけ金色の糸が巻き付いているように見えた。
それはウラのキレイに染められている金髪によく似た色であった。
私は彼に近寄って、その体を抱きしめた。
ウラは私の腕の中で、子供のように声を上げて泣き続けるのだった。
気分が落ち着いてきたのか、ウラの泣き声が小さくなってきたので、私はボックスティッシュを彼に手渡した。
「ありがと、顔中グチャグチャだ」
彼は照れたように笑って、涙や鼻水を拭っている。
まだ目は赤いものの、その表情は晴れやかだった。
「ごめんね、何だか曖昧なことしか言えなくて
結局ウラが自分で気が付いたし、能力不足で申し訳ない」
「ううん、ナリに言われなかったら気が付かなかった
凄いスッキリしたよ、意識してなかったけどずっと気になってたんだな、あの犬のこと
あ、これ、ソウちゃんには内緒ね
まだ前の犬のこと気にしてるって、悪いじゃん」
彼は少しバツの悪そうな顔になった後
「ナリって凄いね、今度占いもやってもらおうかな
メチャ当たりそう」
そう言ってニヒッと笑う。
「手相だったら今視てみようか?」
私が聞くと
「マジ?視て!金運とかどう?恋愛運はソウちゃんいるからバッチリでしょ」
ウラは嬉々(きき)として手を差し出してくる。
私達はそれから手相占いをしたり、自分の化生のノロケ話をしたり時を忘れて他愛のない話に花を咲かせ、気が付くと外は暗くなっていた。
「暗くなっちゃったけど、バイク見に行く?
明後日まではこっちにいるから、後日にする?
駐車場の照明ってそんなに明るくないし、どうせなら日の光の元で見てもらいたいな」
「そだね、明日改めて見せてもらおっと
明日のペットショップのシフト昼からだし、仕事の前とかさ
あ、カズハ先輩がちょっと言ってたけど、ナリってうちの店で占いブース出したいんだって?
俺からも店長に『良く当たる占い師』だって勧めとくよ」
ウラはキレイにウインクしてみせた。
「従業員に勧めてもらえるの、ありがたいよ
こっちではカード使って、ペットとの相性占い限定でやってみたいんだ
店長さんとかペット飼ってる?
お試しでやってみせた方が分かり易いと思うけど、どうかな
って言っといてなんだけど、今回カード持ってくるの忘れちゃってさ
いったん帰って、次に来るときには持ってくるから
次は来週火曜日から1週間くらい居るつもり
まだしっぽやのバイト君達に会えてないんで、会えると良いな」
「あいつら色んな意味でパッと見『高校生』に見えないから、きっと驚くぜ」
ウラは面白そうにケラケラ笑っている。
「私の方が年上だけど、仲良くしてもらえるかな
自分が高校生だった頃って随分昔な気がするよ、ジェネレーションギャップ感じそう」
少し苦笑する私に
「平気、平気、ナリってあいつら好みの『頼れるお兄さん』って感じだもん
カズハ先輩もナリのことベタ誉めしてたぜ
そうだ、せっかくだから、最初は『占い師』っての前面に押し出して脅かしちゃえば?
幽霊も視える、ってオマケ付きで」
ウラが冗談半分のアドバイスをしてくれる。
「いや、それは怪しすぎるでしょ」
『霊感占い師が会いたがってる』と言われても、自分でも躊躇してしまいそうだった。
「取り敢えず、黒谷に連絡してみるよ
彼の飼い主には会ってみたいからね」
「日野ちゃん?あいつなら餌付けするのが1番だぜ、ご当地銘菓でも持ってきな
大食いだから、饅頭なら1箱は必要かな」
「1箱って…、ウラは大げさだなー」
「会えばわかるぜ、事実は小説よりキナリってやつ
そういや生成(きなり)の服って自分じゃ着なかったけど、ソウちゃん案外似合うんだよね
つか、ナリにも似合いそう」
ウラの言葉に『「小説より奇なり」のこと?』とも思ったが
「生成は服よりもインテリア系が好きなんだ
部屋がかなりナチュラルテイストになるけど、薄いベージュとか案外猫の毛が目立たないのも良くてさ
黒とか真っ白だと凄いことになっちゃうんだ、家の子達長毛だから」
私はそのまま言葉を続けた。
「ああ、そういやナリの新しい部屋のシーツやらカーテン、生成だったね」
「ソファーとクッションも買おうか悩み中」
「俺はベタだけど、ソファーは黒のレザーが良いな」
ウラと話していると、楽しくて時を忘れてしまう。
すでに時刻は夜になっていた。
「ヤバ、そろそろソウちゃんが帰ってくる」
時間に気が付いたウラが慌てて立ち上がった。
「じゃあ、ふかやも帰ってくるね
夕飯の準備、何もしてないや
せっかくだし4人で何か食べに行かない?
お勧めの店、ある?」
「ここんとこ外食はファミレス続いたから、ガツンと焼き肉食べ放題とかどうよ?
あ、占い師って肉食って良いの?ナリってベジタリアン?」
ウラは首を傾げて聞いてくる。
「そんなことないって、肉も魚も普通に食べるよ
ウラこそ体型気にしてダイエットとかしてないの?」
逆に私も聞き返してみた。
「ダイエットは明日から~」
ウラは悪戯っぽい顔で笑うと
「今日は食った分、夜に運動して発散するから大丈夫」
少し艶めいた表情を見せた。
「ごちそうさま」
私は肩を竦めて笑ってしまう。
新しい飼い犬と新しい場所で始める新しい生活。
新しい人間関係は楽しくて、私はふかやと出会い共に居られることに改めて感謝するのであった。