しっぽや(No.135~144)
side<ナリ>
今まで猫しか飼ったことのなかった私が犬を飼うことになった。
『犬』と言っても、それは一般的な犬とは違っている。
死んだ犬や猫が獣の輪廻の輪から外れ、新たな飼い主を得るため人を模した存在となり人に化けて生きていく、彼らは『化生』と呼ばれていた。
化生の拠点となっているのは『影森マンション』という高層マンションであった。
最上階には飼い主の居ない化生の部屋、その下2階分は飼い主と化生が共に暮らせる部屋として貸し切り状態になっている。
一般の入居者とあまり顔を合わせずに済むよう、移動には暗証番号が必要な専用エレベーターが設けられていた。
このマンションの特殊性には驚くばかりだった。
ふかやを飼った直後、マンションを管理している不動産屋のゲンの部屋に、私は愛犬と共に相談に訪れていた。
ゲンとは既に顔見知りだ。
私がふかやを飼うことになって、とても喜んでくれている。
「すいません、仕事の後で疲れてるのに時間をとらせちゃって
夕飯までご馳走になって、何だか申し訳ないです」
恐縮する私に
「遠慮しなくて良いんだって、俺達化生関係者は家族みたいなもんだからよ
ナガトの料理を自慢できる相手が居てくれるのも、嬉しい晩餐だ
お客がいるときは、とっときの瓶ビール出せるしな
さ、グッとやって」
ゲンは上機嫌でビールを注いでくれた。
「ふかやと一緒に住むなら、世帯用の部屋にするか?
最近は飼い主出来てもワンルームから移動しないケースもあるが
引っ越しは一気に済ませた方が楽だかんな
どーせこっちに来るんなら、新しい部屋に荷物運んだ方が効率的だぜ」
「確かにそうなんですが、無料で広い部屋を使わせてもらっちゃって良いのか気になっちゃって
普通に借りたらけっこう家賃取られますよね」
私は気になっていたことを聞いてみた。
「まあ、入居人の審査あるから相場よりは押さえてるが、上階だから5桁じゃ借りられないな
ただ、俺達は化生のお世話係も兼ねてるんで、オーナーの特別配慮で無料なのさ
ヤバい、俺、逆にナガトにお世話されてる」
オドケるゲンに
「私は好きでお世話してるから良いんです
第一、ゲンは他の化生の飼い主のお世話やこのマンションの管理もしているのですから、私の世話よりずっと立派なことをしていますよ」
彼の飼い猫である長瀞が誇らしげな顔で寄り添っていた。
「後、ふかやと一緒に猫も飼いたいけど、それって良いのかな」
私はドキドキしながら聞いてみた。
ペット可マンションではあるものの、化生を飼うことを前提に無料で住まわせて貰うなら難しいのかも、と思ったのだ。
「俺、越した当初はヒマラヤンも飼ってたぜ
ナガトとマリちゃん、そんなに仲良くなかったのに悪いな、と思ったけどさ
ふかやが気にしないなら良いんじゃねーの?」
「私は、マリさんからゲンを奪ってしまったから嫌われてたんです
それでも、最後は見送らせていただけました」
2人の言葉に、私は頷いた。
「そうですね、この部屋には穏やかな猫の気配しかありません
嫌う、と言っても決定的に仲が悪い訳ではなかったのでしょう
当たらず障らず的な感じだったのでは」
つい口をついてしまった言葉に、2人の顔に驚愕が走る。
「ナリは死んだ者を感じることが出来る占い師なんだ
それに、僕たち獣と通じることも出来るんだよ」
ふかやが得意そうに説明すると
「アニマルコミュニケーター、タケぽんと同じか
しかも、死んだものも感じ取れるなんてスゲーな」
ゲンは呆然と呟いていた。
気味悪がられるかと思ったけど、ゲンは私の能力について特に大仰な反応を示さなかった。
そのことに私はホッとする。
考えてみれば私の能力より、化生という存在の方が特殊性では上である。
化生の飼い主にとって私の力は『ちょっと変わった個性』くらいでしかないのだろう。
その後の会話は、最初のように引っ越しの話に戻っていった。
「ふかやは越してきて浅いから荷物そんなに多くないだろ
家電なんかは新しい部屋に一式揃えてあるんで、持ってかなくて済む
部屋はキープしてあるから、自分らで少しずつ荷物運んで良いぜ
俺も休みの日なら手伝えるし
それとも、業者頼んで一気にやるか? 」
ゲンの言葉に私とふかやは顔を見合わせる。
「私の荷物は最初から新しい部屋に運んでおけるし仕事が軌道に乗るまで時間有るから、こっちにいる間はふかやの部屋の荷物、私が運んでおこうか」
「僕も仕事の後とか休みの日に運ぶよ
ナリと一緒に住めるんだもん、頑張る」
ふかやは満面の笑みで私を見てくれた。
「そうだな、部外者入れるより自分らでやった方が機密保持的にも良いか
秘密組織っぽいな俺ら」
ゲンはヒヒッと笑った後
「そうだ、他にも助っ人頼めそうな奴に声かけとくかな
ナリが作業するのって昼間だろ?
シフトにもよるが、昼に手伝いに回せそうな奴がいるんだ
しっぽやのシフトを控えめにしてもらえば余裕だろ」
何だか楽しげに計画を練るのであった。
ゲンから連絡があり、明日の昼に大麻生の飼い主が引っ越しの手伝いをしてくれることになった。
大麻生とは1回だけ、しっぽやの事務所で会ったことがある。
元警察犬のジャーマンシェパードの化生で、とても真面目で好感が持てる犬だった。
大麻生は去年の初冬に飼い主が決まったらしい。
自分に続きふかやに飼い主が出来たことを喜んでくれていた。
私はこちらに来てから日が浅く実家と影森マンションを行ったり来たりしていたので、ゲンとカズハ以外の飼い主と会うのは初めてだった。
私よりも若い飼い主とのことで、少し緊張してしまう。
「すげーベッピンだから猫の化生かとビックリすんぜ
もっとも、爺ちゃんっ子だって言ってたから、中身案外ジジムサいけど
引っ越しのバイト代とかは気にしなくて良いから
気になるんだったら、駄菓子でもくれてやりな」
ゲンからはそんな風に言われていたので、一応実家の方で売っている地域限定のお菓子を買ってきていた。
しかし引っ越しの手伝いをさせて、お礼が駄菓子では申し訳なさすぎる。
『大麻生も呼んで、夕飯でも奢るのが良いかな』
私はそんなことを考えていた。
ピンポーン
ふかやの部屋で荷物をまとめていると、インターホンが鳴った。
大麻生の飼い主が来てくれたようだ。
ドアを開けたら、そこにはゲンが言っていたように猫の化生と見紛(みまが)う煌びやかで美しい青年が立っていた。
金色に染められている長髪がとても良く似合っている。
背は私と同じくらいだけど、程良く引き締まりスラリと伸びた肢体はバランス良く美しい。
モデルなのかと思うほど、全てが麗(うるわ)しかった。
「ども、大麻生の飼い主の山口 浦(やまぐち うら)でっす
ウラで良いっすよ」
そんな彼は驚くほど気さくに声をかけてくる。
「あ、ふかやの飼い主の石原 也(いしわら なり)です
ナリって呼んで」
私も慌てて返事を返した。
「わざわざ休みの日にすいません
お礼に夕飯、奢りますよ」
私が恐縮して言うと
「いや、俺達が引っ越すときの参考にさせて貰おうかなって思ってさ
ワンルームじゃないと、どんな感じになるのか想像付かなくて
業者頼むのも何だし、俺達が引っ越すときに手伝ってくれればチャラってことで」
彼はニヒッと笑う。
きれいな顔なのに、その表情は人懐っこく見えた。
「後さ、来客用の駐車場に停めてあるバイク、ナリのなんだって?
あれ、見せてもらいたいな、つか、触って良い?」
伺うような視線に
「もちろん良いよ、バイク好き?」
私は嬉しくなってしまう。
「免許無いけど、見るのは好き
昔は悪いダチのケツに乗っけてもらったりしてた
そいつ、あんま運転上手くなかったから、けっこー怖くて」
「私の後ろはふかや専用だから、乗せてはあげられないんだ」
「何だ、早速ノロケ?」
私達は顔を見合わせて笑ってしまう。
化生のことで笑いあえる相手がいることが嬉しかった。
それから私達はエレベーターで何往復もして、荷物を移動させていく。
食器類などは間に新聞紙を挟んだだけで運び、新しい部屋の食器棚に入れていく。
服は無造作に段ボール箱に入れ、新居の部屋のクローゼットに収納していった。
それは、荷造りと荷ほどきを同時にやっている感じだった。
ウラのおかげで、夕方までにはかなりの荷物を移動させることが出来ていた。
「ありがとう、助かったよ
一休みしてコーヒーでも飲もう」
作業に区切りをつけ、私はウラに声をかけた。
ふかやの部屋に戻った私達は、インスタントコーヒーとお礼に用意したお菓子で一息入れることにした。
「すげー、こんな味のプリプリッツあるんだ
ジャンガリコとかプッキー、カントリーママン、地域限定侮れねー
これメチャ美味いじゃん!何で全国発売してくれねーんだ」
地域限定とは言え、ありふれているお菓子をウラは珍しがって美味しそうに食べてくれた。
用意していたお菓子が十分お礼の役を果たしたようで、ホッとする。
「家具やら家電やら、新しい部屋に準備されてるのは楽で良いね
でも俺、けっこー荷物増やしちゃったんだよなー
ソウちゃんに似合いそうなアクセサリーとか服とか買いまくってるから、って自分のもかなりあるけど
引っ越さないで、ずっとあの部屋にいりゃいいかって気になってきた」
ウラはコーヒーを飲みながら難しい顔になった。
「私とふかやも手伝うよ
引っ越しの期限が厳しく決まってないから、のんびりやれるし
私達も実際に新しい部屋で暮らし始めるのは、来月からかな
ふかやの荷物をある程度片付けたら、自分の分もやらないといけないからね
とは言え、実家を物置代わりにさせてもらう感じになるけど
あまり使わない物とか、置いてきちゃうつもり」
私は舌を出してみせる。
「猫も実家に預けようか悩んだけど、ふかやが一緒に暮らして良いって言ってくれたんだ
だから、ワンルームだとちょっと手狭でさ
バーマンって少し大きめの猫が2匹来ることになるから
ここがペット可マンションで良かった」
私の言葉に
「ペット…」
何故かウラは暗い表情になっていくのであった。
今まで猫しか飼ったことのなかった私が犬を飼うことになった。
『犬』と言っても、それは一般的な犬とは違っている。
死んだ犬や猫が獣の輪廻の輪から外れ、新たな飼い主を得るため人を模した存在となり人に化けて生きていく、彼らは『化生』と呼ばれていた。
化生の拠点となっているのは『影森マンション』という高層マンションであった。
最上階には飼い主の居ない化生の部屋、その下2階分は飼い主と化生が共に暮らせる部屋として貸し切り状態になっている。
一般の入居者とあまり顔を合わせずに済むよう、移動には暗証番号が必要な専用エレベーターが設けられていた。
このマンションの特殊性には驚くばかりだった。
ふかやを飼った直後、マンションを管理している不動産屋のゲンの部屋に、私は愛犬と共に相談に訪れていた。
ゲンとは既に顔見知りだ。
私がふかやを飼うことになって、とても喜んでくれている。
「すいません、仕事の後で疲れてるのに時間をとらせちゃって
夕飯までご馳走になって、何だか申し訳ないです」
恐縮する私に
「遠慮しなくて良いんだって、俺達化生関係者は家族みたいなもんだからよ
ナガトの料理を自慢できる相手が居てくれるのも、嬉しい晩餐だ
お客がいるときは、とっときの瓶ビール出せるしな
さ、グッとやって」
ゲンは上機嫌でビールを注いでくれた。
「ふかやと一緒に住むなら、世帯用の部屋にするか?
最近は飼い主出来てもワンルームから移動しないケースもあるが
引っ越しは一気に済ませた方が楽だかんな
どーせこっちに来るんなら、新しい部屋に荷物運んだ方が効率的だぜ」
「確かにそうなんですが、無料で広い部屋を使わせてもらっちゃって良いのか気になっちゃって
普通に借りたらけっこう家賃取られますよね」
私は気になっていたことを聞いてみた。
「まあ、入居人の審査あるから相場よりは押さえてるが、上階だから5桁じゃ借りられないな
ただ、俺達は化生のお世話係も兼ねてるんで、オーナーの特別配慮で無料なのさ
ヤバい、俺、逆にナガトにお世話されてる」
オドケるゲンに
「私は好きでお世話してるから良いんです
第一、ゲンは他の化生の飼い主のお世話やこのマンションの管理もしているのですから、私の世話よりずっと立派なことをしていますよ」
彼の飼い猫である長瀞が誇らしげな顔で寄り添っていた。
「後、ふかやと一緒に猫も飼いたいけど、それって良いのかな」
私はドキドキしながら聞いてみた。
ペット可マンションではあるものの、化生を飼うことを前提に無料で住まわせて貰うなら難しいのかも、と思ったのだ。
「俺、越した当初はヒマラヤンも飼ってたぜ
ナガトとマリちゃん、そんなに仲良くなかったのに悪いな、と思ったけどさ
ふかやが気にしないなら良いんじゃねーの?」
「私は、マリさんからゲンを奪ってしまったから嫌われてたんです
それでも、最後は見送らせていただけました」
2人の言葉に、私は頷いた。
「そうですね、この部屋には穏やかな猫の気配しかありません
嫌う、と言っても決定的に仲が悪い訳ではなかったのでしょう
当たらず障らず的な感じだったのでは」
つい口をついてしまった言葉に、2人の顔に驚愕が走る。
「ナリは死んだ者を感じることが出来る占い師なんだ
それに、僕たち獣と通じることも出来るんだよ」
ふかやが得意そうに説明すると
「アニマルコミュニケーター、タケぽんと同じか
しかも、死んだものも感じ取れるなんてスゲーな」
ゲンは呆然と呟いていた。
気味悪がられるかと思ったけど、ゲンは私の能力について特に大仰な反応を示さなかった。
そのことに私はホッとする。
考えてみれば私の能力より、化生という存在の方が特殊性では上である。
化生の飼い主にとって私の力は『ちょっと変わった個性』くらいでしかないのだろう。
その後の会話は、最初のように引っ越しの話に戻っていった。
「ふかやは越してきて浅いから荷物そんなに多くないだろ
家電なんかは新しい部屋に一式揃えてあるんで、持ってかなくて済む
部屋はキープしてあるから、自分らで少しずつ荷物運んで良いぜ
俺も休みの日なら手伝えるし
それとも、業者頼んで一気にやるか? 」
ゲンの言葉に私とふかやは顔を見合わせる。
「私の荷物は最初から新しい部屋に運んでおけるし仕事が軌道に乗るまで時間有るから、こっちにいる間はふかやの部屋の荷物、私が運んでおこうか」
「僕も仕事の後とか休みの日に運ぶよ
ナリと一緒に住めるんだもん、頑張る」
ふかやは満面の笑みで私を見てくれた。
「そうだな、部外者入れるより自分らでやった方が機密保持的にも良いか
秘密組織っぽいな俺ら」
ゲンはヒヒッと笑った後
「そうだ、他にも助っ人頼めそうな奴に声かけとくかな
ナリが作業するのって昼間だろ?
シフトにもよるが、昼に手伝いに回せそうな奴がいるんだ
しっぽやのシフトを控えめにしてもらえば余裕だろ」
何だか楽しげに計画を練るのであった。
ゲンから連絡があり、明日の昼に大麻生の飼い主が引っ越しの手伝いをしてくれることになった。
大麻生とは1回だけ、しっぽやの事務所で会ったことがある。
元警察犬のジャーマンシェパードの化生で、とても真面目で好感が持てる犬だった。
大麻生は去年の初冬に飼い主が決まったらしい。
自分に続きふかやに飼い主が出来たことを喜んでくれていた。
私はこちらに来てから日が浅く実家と影森マンションを行ったり来たりしていたので、ゲンとカズハ以外の飼い主と会うのは初めてだった。
私よりも若い飼い主とのことで、少し緊張してしまう。
「すげーベッピンだから猫の化生かとビックリすんぜ
もっとも、爺ちゃんっ子だって言ってたから、中身案外ジジムサいけど
引っ越しのバイト代とかは気にしなくて良いから
気になるんだったら、駄菓子でもくれてやりな」
ゲンからはそんな風に言われていたので、一応実家の方で売っている地域限定のお菓子を買ってきていた。
しかし引っ越しの手伝いをさせて、お礼が駄菓子では申し訳なさすぎる。
『大麻生も呼んで、夕飯でも奢るのが良いかな』
私はそんなことを考えていた。
ピンポーン
ふかやの部屋で荷物をまとめていると、インターホンが鳴った。
大麻生の飼い主が来てくれたようだ。
ドアを開けたら、そこにはゲンが言っていたように猫の化生と見紛(みまが)う煌びやかで美しい青年が立っていた。
金色に染められている長髪がとても良く似合っている。
背は私と同じくらいだけど、程良く引き締まりスラリと伸びた肢体はバランス良く美しい。
モデルなのかと思うほど、全てが麗(うるわ)しかった。
「ども、大麻生の飼い主の山口 浦(やまぐち うら)でっす
ウラで良いっすよ」
そんな彼は驚くほど気さくに声をかけてくる。
「あ、ふかやの飼い主の石原 也(いしわら なり)です
ナリって呼んで」
私も慌てて返事を返した。
「わざわざ休みの日にすいません
お礼に夕飯、奢りますよ」
私が恐縮して言うと
「いや、俺達が引っ越すときの参考にさせて貰おうかなって思ってさ
ワンルームじゃないと、どんな感じになるのか想像付かなくて
業者頼むのも何だし、俺達が引っ越すときに手伝ってくれればチャラってことで」
彼はニヒッと笑う。
きれいな顔なのに、その表情は人懐っこく見えた。
「後さ、来客用の駐車場に停めてあるバイク、ナリのなんだって?
あれ、見せてもらいたいな、つか、触って良い?」
伺うような視線に
「もちろん良いよ、バイク好き?」
私は嬉しくなってしまう。
「免許無いけど、見るのは好き
昔は悪いダチのケツに乗っけてもらったりしてた
そいつ、あんま運転上手くなかったから、けっこー怖くて」
「私の後ろはふかや専用だから、乗せてはあげられないんだ」
「何だ、早速ノロケ?」
私達は顔を見合わせて笑ってしまう。
化生のことで笑いあえる相手がいることが嬉しかった。
それから私達はエレベーターで何往復もして、荷物を移動させていく。
食器類などは間に新聞紙を挟んだだけで運び、新しい部屋の食器棚に入れていく。
服は無造作に段ボール箱に入れ、新居の部屋のクローゼットに収納していった。
それは、荷造りと荷ほどきを同時にやっている感じだった。
ウラのおかげで、夕方までにはかなりの荷物を移動させることが出来ていた。
「ありがとう、助かったよ
一休みしてコーヒーでも飲もう」
作業に区切りをつけ、私はウラに声をかけた。
ふかやの部屋に戻った私達は、インスタントコーヒーとお礼に用意したお菓子で一息入れることにした。
「すげー、こんな味のプリプリッツあるんだ
ジャンガリコとかプッキー、カントリーママン、地域限定侮れねー
これメチャ美味いじゃん!何で全国発売してくれねーんだ」
地域限定とは言え、ありふれているお菓子をウラは珍しがって美味しそうに食べてくれた。
用意していたお菓子が十分お礼の役を果たしたようで、ホッとする。
「家具やら家電やら、新しい部屋に準備されてるのは楽で良いね
でも俺、けっこー荷物増やしちゃったんだよなー
ソウちゃんに似合いそうなアクセサリーとか服とか買いまくってるから、って自分のもかなりあるけど
引っ越さないで、ずっとあの部屋にいりゃいいかって気になってきた」
ウラはコーヒーを飲みながら難しい顔になった。
「私とふかやも手伝うよ
引っ越しの期限が厳しく決まってないから、のんびりやれるし
私達も実際に新しい部屋で暮らし始めるのは、来月からかな
ふかやの荷物をある程度片付けたら、自分の分もやらないといけないからね
とは言え、実家を物置代わりにさせてもらう感じになるけど
あまり使わない物とか、置いてきちゃうつもり」
私は舌を出してみせる。
「猫も実家に預けようか悩んだけど、ふかやが一緒に暮らして良いって言ってくれたんだ
だから、ワンルームだとちょっと手狭でさ
バーマンって少し大きめの猫が2匹来ることになるから
ここがペット可マンションで良かった」
私の言葉に
「ペット…」
何故かウラは暗い表情になっていくのであった。