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しっぽや(No.135~144)

「猫師匠、っと、波久礼にはもう会いましたか?」
「まだ会ってないんだ、こっちに常駐している化生じゃないんだよね
 皆、猫の話題を出すと必ず彼の名前を口にするね、凄い人みたい」
ナリはクスクス笑っている。
「猫カフェでも相性占い出来ないか、口利きしてもらうよう頼んでみるってふかやが言ってたっけ
 彼って、ほとんどそこのスタッフみたいなものなんだって?
 私、こっちではペットとの相性占い限定でやってみようかなって思ってるから、そーゆーの興味有りそうな人の居る場所で占いやらせてもらえるの有り難いよ
 ペットって、飼い主のこと結構冷静に見てる部分あるんだ
 カードにきっちり現れるから、やってみると面白い結果が出たりする
 そうだ、今度タケぽんも占わせて」
ナリは興味深そうな顔を見せた。
「面白そう、是非やってみて」
本格的な占い、なんてやってもらったことが無いのでナリとの約束は楽しみだった。

「波久礼に猫とのコミュニケーションの取り方を習ってるんだけど、漠然としたことしかわからなくてさ
 何か、その猫を守っている高次の存在に許可を取ってから話しかけると良いとか何とか
 そうやって猫に話しかけても、必要な情報を上手く聞き出せないんだ
 猫との仲は深まる気がするけど、捜索に役立てられる気がしないよ
 ナリはどうやって猫とコミュニケーションとってるの?」
俺は人目線での猫とのコミュニケーション方法を知りたかった。
「凄い、猫のハイヤーセルフに許可を取るって発想はなかったよ
 随分高度なことやってるんだね
 私は一方的に、どれだけ飼い猫を愛してるか話しかけるイメージでしか接してなかったからなー
 でも、私の想いは通じてたってふかやに教えてもらえて嬉しかった
 ふかやに対する私の想いも通じてるんだ」
フフッとナリは幸せそうに笑う。
「犬を飼うなんて初めてだったけど、化生とは深く繋がれるみたい
 それで、私の想いをふかやが猫達に通訳してくれたりするから、今は前より飼い猫達と繋がってる気がするんだ
 そっか、タケぽんも化生を通じてコミュニケーション図ってみるのも良いんじゃない?
 ひろせに中継点になってもらう感じとか
 ひろせとは通じ合ってるんでしょ」
ナリに優しく聞かれ、俺は照れながらも勢いよく頷いた。

「はい!ひろせとはかなり通じ合ってます
 俺の想いの中継点になってもらう…
 何か、出来る気がしてきました」
前向きな俺の言葉に、ナリが嬉しそうに頷いてくれる。
「じゃあ、まず、ひろせと繋がるイメージで強く彼のことを考えて
 私が居ると邪魔かな?
 取りあえず、私はそっちに意識を向けないでこれに集中してるよ
 面白い解釈する人の本、みつけたんだ」
ナリは本屋の袋から手相の本を取り出して読みだした。
『勉強熱心だなー』
俺は占いに対する彼の姿勢に感心する。
それから邪魔になる視覚情報を遮断するため目を閉じて、ひろせのことに集中し始めた。


ひろせのことなら直ぐに頭に思い浮かべることが出来る。
白と灰色の柔らかな長い髪、美しい顔、俺を見る時の優しい眼差し。
冬休みに泊まりに行ったときは、和装にチャレンジしていた。
黒谷に着付けてもらったらしい。
元旦は着物のひろせと初詣に行って、正月から営業していたカフェで紅茶とスイーツを楽しんだのだ。
洋猫が和装でケーキを食べる姿は、絵はがきの写真に使えるんじゃないかと思うほど愛らしかった。

部屋に戻っても『飼い主との初の初詣』に浮かれているひろせは絶えず輝くような笑顔を見せ、頬が美しいバラ色に染まっている。
ふわふわの長髪が俺を誘うよう優しく揺れ、ひろせの美しい顔を縁取っていた。
愛しさのあまり、俺はその髪ごと彼を抱きしめ唇を合わせた。
熱く甘やかな吐息が口内をくすぐって、たまらなくなってしまう。
キスはいつものように舌を絡め合う濃厚なものに変わっていった。
『タケ…シ…、して…』
ひろせの俺を求める囁きが、ケーキよりも甘く体中に広がっていく。
俺の送る刺激の一つ一つに彼は甘い反応を示してくれた。

はだけた着物から見えるひろせのきれいな首筋に赤い花を咲かせ、胸の突起を摘んでこね上げる。
彼は身を震わせて俺にしがみついてきた。
着物の前面は盛大に開かれ、ほとんどひろせの美しい肢体をかくしていなかった。
スラリと伸びた足が俺の身体に絡みついてくる。
熱く反応している彼自身が、俺の腹に押しつけられていた。
もちろん、俺自身も彼のものに負けないくらい激しく反応している。
俺は着ている物を脱ぎ捨てるとひろせの両足を開かせ肩に抱え上げて、その中心に自身を埋めていった。

俺の動きに合わせ、ひろせの口からさらに甘い声が紡がれていく。
熱く自身を締め付けてくる彼のあまりの愛おしさに、俺は直ぐに想いを解き放ってしまった。
けれどもひろせへの愛は、枯れることなくわき上がってくる。
俺たちは日付が変わるまで想いを確かめ合った。

年の始めからひろせと共に過ごせて、最高に幸せな冬休みを満喫していたと俺は改めて思うのであった。



コンコン

ノックの音に続き事務所のドアが開く音がして、俺は我に返る。
ひろせと繋がろうとしていたはずが、際(きわ)どい思い出に浸ってしまっていたようだ。
ナリはまだ熱心に本のページをめくったり、自分の手相と本の解説を代わる代わる見たりしていた。
俺の邪念が彼に伝わってなくてホッとする。


「お帰りひろせ、外は寒かった?
 顔が凄く赤くなってるけど、大丈夫?
 僕もさっき捜索に行ってきたんだ
 でも、そこまでの症状にはならなかったな
 やっぱり猫は寒さに弱いね」
事務所から、少し心配そうな黒谷の声が聞こえてきた。
先ほどのノックはひろせのものだったようだ。
「ひろせ、タケぽんが作ったロイヤルミルクティーがポットに入れてあるんで温め直して飲みなよ
 本当に顔が赤いな、熱でもあるんじゃない?熱、計った方がいいかも
 体温計、どこに入れたっけ」
ゴソゴソと日野先輩が引き出しを探っている音がし始めた。
「あ、いえ、多分大丈夫だと思います
 あの、ちょっと、色々と思い出しちゃって
 身体が熱くなってしまったと言うか…」
シドロモドロなひろせの弁解を聞いて、俺は気が付いた。
ひろせと繋がろうとしていた時に俺があんなことを思い出してしまったため、その思い出ごとひろせに伝わってしまったのだ。

俺は慌てて控え室のドアを開け
「ひろせ、お帰り
 こっちで温まってよ」
さりげなさを装い、ひろせの肩を抱いて室内に誘導する。
俺に触れられた彼の肩がビクリと震え、俺の中に彼の興奮の波が押し寄せてきた。
「ごめんなさい、どうしたんだろう
 急にお正月の夜のこと思い出して、身体が反応してきちゃったんです」
恥ずかしそうなひろせの言葉とは裏腹に、その頬は美しく上気し瞳が潤んでいた。
「タケシに、して欲しくてたまらない」
淫靡な囁きが彼の口から滑り出る。
流石にその段になって、ナリが本から顔を上げ俺達に視線を向けてきた。


「気持ちが繋がるのは、成功してるみたいだね
 繋がってると相手の思いも分かるけど、こっちの思いも漏れちゃってるんだよ
 私も、ふかやとそのへんの感情の交換をセーブするの勉強中
 お互い感じ合えるのが良いときもあるけど、ちょっと今はマズいよね
 高校生だとしょうがないか、若いなあ」
やはりナリには今の俺達の状態はお見通しのようで、思いっきり苦笑されてしまった。
「あー、面目ない」
俺も苦笑して頭をかくしかなかった。
状況を飲み込めていないひろせが、少し不安そうな顔で俺とナリを見比べる。
「タケぽんは、ひろせのことがうんと好き、ってこと」
ナリにそう言われ、ひろせの顔が晴れやかなものになっていった。

「まあ、それだけ深く繋がれれば立派なもんだよ
 ひろせ、タケぽんと猫の中継点になってあげてね
 タケぽんの思いを他の猫に訳して伝えて、捜索に役立ちそうな情報を引き出してみて
 きっと君達が2人揃えば、捜索に対して良いコンビになるよ」
ナリの言葉に俺とひろせは顔を見合わせる。
「ひろせと良いコンビ」
「タケシと一緒に捜索に出る」
「双子に負けないようになろう」
「明戸と皆野より僕達の方が通じ合っているコンビになるかも、ですね」
俺達の中には具体的に明るい未来が見え始めていた。

「私もふかやとやってみようかな
 占いの仕事が無いときの臨時バイトみたいな感じで
 でもふかや、猫との意志疎通は難しいって言ってたっけ
 犬の捜索だと、私が足引っ張りそうだし
 君達には適わないか」
ナリは肩を竦めているが、その表情は楽しげであった。

「俺、もっともっと頑張って、ひろせや他の猫と意志疎通出来るようになりたいです
 しっぽやの役に立ちたいんです
 これからも指導してください」
俺は心からの思いを口にして頭を下げる。
「私で教えてあげられることだったら、喜んで」
ナリは優しく微笑むと
「タケぽんは、もう少し落ち着くと良いかもね」
痛いところをついて、ウインクして見せた。


「ああ、そろそろふかやが帰ってくるみたい
 ちょっとごめん」
ナリはソファーから立ち上がり、事務所に移動して行った。
「ナリって、不思議な人ですよね
 一緒に居ると心地良い
 あ、もちろん、タケシと一緒に居る方が気持ち良いけど」
ひろせがそっと俺に寄り添ってきた。
「うん、波久礼とは違った意味で勉強させてくれる」
俺はひろせの腰に手を回し、もっと密着して彼の温かな想いを堪能する。

「さっきのひろせの状態は俺のせいなんだ、ごめんね
 ひろせと繋がろうとして、余分なこと考えちゃったから
 お詫びに、今夜は部屋に泊まっていって良いかな」
彼の柔らかな髪に頬を寄せ囁くと
「もちろんです、責任とってもらわなきゃ
 今だって、身体が凄く熱いんですから」
ひろせはムクレた顔をして見せた。
しかし直ぐに破顔して
「急なタケシのお泊まり、嬉しいな」
そんな可愛らしい言葉を言ってくれた。

新しい仲間を得た俺達は、一緒の未来に向かって確実に進んで行くのであった。
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