しっぽや(No.126~134)
side<NARI>
ふかやの部屋で彼の手相を視ようとした私は、全くと言っていいほどその線が読みとれず、そのことに深く落ち込んでしまった。
これで『職業占い師』だなんて、おこがましいにも程がある。
それなのにふかやは『私のせいではない』と言って励ましてくれた。
その彼の優しさが嬉しかった。
しかも彼はこんな私ともっと一緒に居たいと言ってくれて、夕飯に誘ってくれる。
私が泊まっていけるなら、ドッグカフェを案内したいと言い出したのだ。
気落ちした私のことを気にかけてくれているのだろう。
私は彼の優しさに甘えてしまうことにした。
しかし甘えてばかりでは申し訳ないので、今夜の夕飯を食べに行くため私が車を出そうと誘い返す。
彼は越してきたばかりだと言っていたし車を持っていないので、この近辺でも行ったことがない店があるのではないかと気が付いたからだ。
歩くと1時間以上かかる場所も、車なら手軽に行ける距離である。
大きな道路沿いならふかやが知らない店があるのでは、と思ったのだ。
それから
「職場に顔出して、きちんと説明した方が良いんじゃないかな」
そう言ってみた。
しっぽやはとても良い職場のようだけれど、流石に挨拶なしで何日も休むのはマズいのではないか、と気になっていたのだ。
私が行っている短期バイト先でも、メールやラインの連絡だけで急に休みたいと言ってくる人は常識を疑われていた。
占いの仕事は予約が入っても何の連絡もなくキャンセル(後日判明…)されることは度々あるのだが、きちんとした企業であればそう言う訳にもいかないだろう。
私の言葉に頷いて、ふかやは事務所に行くことを了承してくれた。
「ナリとお揃いのライディングジャケット買ったて自慢しなきゃ」
気を使ってくれたのだろう、彼は職場に行くのは何でもないことだと言うように明るく振る舞っていた。
しかしふっと不安そうな顔になり
「あの…、もし急に用が出来ても、黙って帰らないで僕が戻ってくるまで居てくれる?」
伺うように聞いてくる。
「大丈夫、ちゃんと部屋に居るから
ふかやって、甘えっ子だね」
上司に怒られるより私が黙って帰る方が怖いとばかりの彼の態度がおかしくて、思わず笑ってしまった。
安心させようと頭を撫でると、フワフワの彼の髪が手に心地良い。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
親しげな挨拶を交わす私達の関係って、ちょっと恋人同士みたいかな、思わずそんなことを考えてしまう。
私にとってふかやは、離れ難い特別な存在になっていたのだった。
ふかやが『好きに過ごして良い』と言ってくれたので、私は主(あるじ)不在の部屋でくつろいでいた。
テレビをつけてみるが、まだ退屈な正月番組が多かった。
ニュースが間に入りそうな情報番組を流し、お湯を沸かすと新しいコーヒーを淹れる。
冷蔵庫を覗いたら、ありふれたメーカー、ありふれた値段の物しか入っていなかった。
インスタントコーヒーは冷たい牛乳にも溶けるポピュラーなもので、詰め替え用がストックされているのを発見する。
このマンションを見たときは別の世界の住人のように感じていたふかやが、一気に身近に感じられた。
お茶請けで出されていた煎餅やカステラの残りをつまみながら、私はスマホで店の検索を始めた。
『高級店、とかは考えなくて良さそう
むしろ庶民的な味の方が口に合いそうだよね、ファミレスとか
とは言え、ふかやにとっては遠出になるだろうし、せっかくだから珍しいと思ってもらえる店に連れて行きたいな』
そんなとき、見るともなく付けていたテレビがファミレスの特集をしていることに気が付いた。
何店舗か紹介されているのを見て
『ロイヤリティホスト…最近行ってないや
ファミレスでも、ここってちょっと高級感あるメニューなんだよね
今やってるフェア、美味しそう』
検索したら、このマンションから車で40分前後で行ける場所に店舗があった。
『ここなら行ったこと無いかも』
店を決めた私はふかやの喜ぶ顔を想像し、嬉しくなった。
気が抜けたのか、少し眠気がさしてくる。
『ふかやが帰ってくるまで、少しだけ横にならせてもらおうかな』
食器を片付けるとテレビを消す。
『ちょっとだけだから、アラームはかけなくていいか』
スマホをテーブルの上に置いて、私はベッドにもぐりこんだ。
ふかやはいつもこのベッドで寝ているんだ、と思うだけで胸がドキドキしてしまった。
『何だか今の私って、危ない人みたい』
自分自身に苦笑してしまうが、ベッドで布団にくるまれていると彼に抱かれているように感じる。
その幸福感からか、ほんの少しのうたた寝のつもりが私は深く熟睡してしまったようだ。
ふっと意識が覚醒すると、部屋の中は真っ暗になっていた。
窓から差し込む月明かりで、かろうじて部屋の輪郭が見て取れる。
人の形をした真っ黒い影がしゃがんだ状態でベッドにもたれ掛かっていることに気が付いた私は、恐怖のあまり全身に鳥肌が立ち、声を出すことすら出来ず硬直してしまうのであった。
私は子供の頃から、時々生きてはいない者の影を見ることがあった。
彼らの声を聞くことは無かったが、時々は彼らに何があって何を求めているのか感じることが出来た。
しかし、望みを叶えてあげることも強制的に立ち去らせることも出来ない。
私はただ感じ取れるだけで、彼らに干渉できるような能力を持っていないのだ。
彼らに気が付いている事を気取られず、去っていってくれるのを待つことしか出来なかった。
うっかり視線を合わせてしまったときは、その後何日も熱を出して寝込んでしまう事もあるため、なるべく怪しげな場所には近付かないよう注意していた。
ふかやのマンションは近代的すぎる建物だったので、うっかり気を緩めてしまっていた。
逃げようにも影はベッドにぴったりくっ付いていて、身動きすれば気付かれてしまいそうだった。
と言うか、私のことを覗き込んでいる格好にも見える。
『助けて、ふかや!』
私は咄嗟(とっさ)に心の中でふかやに助けを求めてしまっていた。
ふかやのことを考えただけで恐怖でパニックを起こしていた心が静まっていく。
『そうだ、ここはふかやの部屋だ
もし彼に害のある者であるなら、私が何とかしなくては』
そのことに思い至ると勇気がわいてくる。
私は意を決して影を凝視することにしてみた。
影からいやな気配は感じられない。
それどころか
『スースースー』
規則正しい寝息のような呼吸音が聞こえてきた。
その段になって、やっと私はこの影が実体を持っていることに気が付いた。
『え?まさか、これってふかや?』
手を伸ばして影の頭に当たる部分に触れると、先ほど触った柔らかな髪の感触がした。
『何でこんなところで寝てるの?』
今度はさっきとは違うパニックに襲われてしまった。
『電気がついてないから、ふかやはまだ帰ってきてないと思いこんでた
きっと私が寝ているのに気が付いて、つけなかったんだ
そして私がベッドを占領してしまっていたから寝ることも出来ずに…
ごめんなさいふかや』
ふかやの姿に、あんなにも怯えてしまっていた自分が滑稽であった。
それよりも、ふかやに対して申し訳なく思う気持ちでいっぱいになる。
私は上体を起こし
「ふかや、起きて、そんな姿勢じゃ身体が痛いでしょ」
そう語りかけ揺すってみるが彼は微動だにしなかった。
『ふかや…だよね』
不安に駆られた私はもう一度彼の髪に触れ、その感触を確認する。
やはり、それはふかやの髪の感触で間違いなかった。
私はさっきより大きな声を出すと
「ふかや、ふかや、起きて
風邪ひいちゃうよ」
少し乱暴に身体を揺すりながら語りかけた。
彼は小さく身動(みじろ)ぎするが、まだ寝ぼけているようであった。
彼の口からは『ワン』とも『ウォン』とも聞こえる、犬の鳴き声のように不明瞭な寝言が呟かれている。
彼は手を伸ばして私に触れてきた。
そのまま彼に押し倒され、私の身体はベッドに逆戻りする。
甘えるように胸元に頬擦りしてくる彼を、押しのけることは出来なかった。
彼に密着されている状態に胸がドキドキしてしまう。
そして彼はそのまま私の唇に自分の唇を合わせてくる。
私の心臓は爆発してしまいそうだった。
薄闇の中、ふかやの目が開き私を見つめると、彼からまたしても痺れるような感覚が伝わってきた。
今ならそれが何であるかハッキリ感じ取れた。
彼は私の身体を欲しているのだ。
それに気が付いても嫌悪感は全く感じなかった。
むしろ彼に求められていることに喜びを感じている自分を意識していた。
ふかやがより深く唇を重ねてきて、口内に舌を差し入れてくる。
このまま流されてしまって良いのだろうか、という躊躇(ためら)いはすぐに消え
「ん…、ふ…かや…」
私は誘うような甘い囁きをもらしていた。
布団越しでも、彼の下半身が激しく反応していることが伺い知れた。
そんな状態であるのに行為に及ぼうとせず
「ナリ、好きです
貴方のことを愛しています
僕の側に居てください、貴方を守らせてください」
彼は告白をしてくれる。
その誠実な態度に、私は完全にふかやの虜になってしまった。
私達は服を脱いで、直にお互いの肌を合わせあった。
部屋が明るかったら、きっと彼の顔をまともに見れなかっただろう。
触れている彼の肩や背にはなめらかな隆起があり、細身ながらきれいな筋肉が付いていることが伺えた。
ふかやの形の良い唇が自分の身体を移動していると感じるだけで、身体が激しく反応してしまう。
こんなにも甘い声を上げることが出来たのかと驚くほど、私の口からは喘ぎが絶え間なく滑り出していた。
「ナリ…愛しています」
「ふかや…私も…好きだよ」
愛の言葉を伝えながら、私達は一つに繋がった。
彼の熱い想いが体の中に入ってくる。
私もそれに応えるよう想いを解き放つ。
私達は何度もそれを繰り返し、想いを確認する儀式を続けた。
彼に抱かれている時間は、出会ってから一緒に過ごした時間の何倍もの濃さを感じさせる濃密な幸福に満ちあふれているものであった。
ふかやの部屋で彼の手相を視ようとした私は、全くと言っていいほどその線が読みとれず、そのことに深く落ち込んでしまった。
これで『職業占い師』だなんて、おこがましいにも程がある。
それなのにふかやは『私のせいではない』と言って励ましてくれた。
その彼の優しさが嬉しかった。
しかも彼はこんな私ともっと一緒に居たいと言ってくれて、夕飯に誘ってくれる。
私が泊まっていけるなら、ドッグカフェを案内したいと言い出したのだ。
気落ちした私のことを気にかけてくれているのだろう。
私は彼の優しさに甘えてしまうことにした。
しかし甘えてばかりでは申し訳ないので、今夜の夕飯を食べに行くため私が車を出そうと誘い返す。
彼は越してきたばかりだと言っていたし車を持っていないので、この近辺でも行ったことがない店があるのではないかと気が付いたからだ。
歩くと1時間以上かかる場所も、車なら手軽に行ける距離である。
大きな道路沿いならふかやが知らない店があるのでは、と思ったのだ。
それから
「職場に顔出して、きちんと説明した方が良いんじゃないかな」
そう言ってみた。
しっぽやはとても良い職場のようだけれど、流石に挨拶なしで何日も休むのはマズいのではないか、と気になっていたのだ。
私が行っている短期バイト先でも、メールやラインの連絡だけで急に休みたいと言ってくる人は常識を疑われていた。
占いの仕事は予約が入っても何の連絡もなくキャンセル(後日判明…)されることは度々あるのだが、きちんとした企業であればそう言う訳にもいかないだろう。
私の言葉に頷いて、ふかやは事務所に行くことを了承してくれた。
「ナリとお揃いのライディングジャケット買ったて自慢しなきゃ」
気を使ってくれたのだろう、彼は職場に行くのは何でもないことだと言うように明るく振る舞っていた。
しかしふっと不安そうな顔になり
「あの…、もし急に用が出来ても、黙って帰らないで僕が戻ってくるまで居てくれる?」
伺うように聞いてくる。
「大丈夫、ちゃんと部屋に居るから
ふかやって、甘えっ子だね」
上司に怒られるより私が黙って帰る方が怖いとばかりの彼の態度がおかしくて、思わず笑ってしまった。
安心させようと頭を撫でると、フワフワの彼の髪が手に心地良い。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
親しげな挨拶を交わす私達の関係って、ちょっと恋人同士みたいかな、思わずそんなことを考えてしまう。
私にとってふかやは、離れ難い特別な存在になっていたのだった。
ふかやが『好きに過ごして良い』と言ってくれたので、私は主(あるじ)不在の部屋でくつろいでいた。
テレビをつけてみるが、まだ退屈な正月番組が多かった。
ニュースが間に入りそうな情報番組を流し、お湯を沸かすと新しいコーヒーを淹れる。
冷蔵庫を覗いたら、ありふれたメーカー、ありふれた値段の物しか入っていなかった。
インスタントコーヒーは冷たい牛乳にも溶けるポピュラーなもので、詰め替え用がストックされているのを発見する。
このマンションを見たときは別の世界の住人のように感じていたふかやが、一気に身近に感じられた。
お茶請けで出されていた煎餅やカステラの残りをつまみながら、私はスマホで店の検索を始めた。
『高級店、とかは考えなくて良さそう
むしろ庶民的な味の方が口に合いそうだよね、ファミレスとか
とは言え、ふかやにとっては遠出になるだろうし、せっかくだから珍しいと思ってもらえる店に連れて行きたいな』
そんなとき、見るともなく付けていたテレビがファミレスの特集をしていることに気が付いた。
何店舗か紹介されているのを見て
『ロイヤリティホスト…最近行ってないや
ファミレスでも、ここってちょっと高級感あるメニューなんだよね
今やってるフェア、美味しそう』
検索したら、このマンションから車で40分前後で行ける場所に店舗があった。
『ここなら行ったこと無いかも』
店を決めた私はふかやの喜ぶ顔を想像し、嬉しくなった。
気が抜けたのか、少し眠気がさしてくる。
『ふかやが帰ってくるまで、少しだけ横にならせてもらおうかな』
食器を片付けるとテレビを消す。
『ちょっとだけだから、アラームはかけなくていいか』
スマホをテーブルの上に置いて、私はベッドにもぐりこんだ。
ふかやはいつもこのベッドで寝ているんだ、と思うだけで胸がドキドキしてしまった。
『何だか今の私って、危ない人みたい』
自分自身に苦笑してしまうが、ベッドで布団にくるまれていると彼に抱かれているように感じる。
その幸福感からか、ほんの少しのうたた寝のつもりが私は深く熟睡してしまったようだ。
ふっと意識が覚醒すると、部屋の中は真っ暗になっていた。
窓から差し込む月明かりで、かろうじて部屋の輪郭が見て取れる。
人の形をした真っ黒い影がしゃがんだ状態でベッドにもたれ掛かっていることに気が付いた私は、恐怖のあまり全身に鳥肌が立ち、声を出すことすら出来ず硬直してしまうのであった。
私は子供の頃から、時々生きてはいない者の影を見ることがあった。
彼らの声を聞くことは無かったが、時々は彼らに何があって何を求めているのか感じることが出来た。
しかし、望みを叶えてあげることも強制的に立ち去らせることも出来ない。
私はただ感じ取れるだけで、彼らに干渉できるような能力を持っていないのだ。
彼らに気が付いている事を気取られず、去っていってくれるのを待つことしか出来なかった。
うっかり視線を合わせてしまったときは、その後何日も熱を出して寝込んでしまう事もあるため、なるべく怪しげな場所には近付かないよう注意していた。
ふかやのマンションは近代的すぎる建物だったので、うっかり気を緩めてしまっていた。
逃げようにも影はベッドにぴったりくっ付いていて、身動きすれば気付かれてしまいそうだった。
と言うか、私のことを覗き込んでいる格好にも見える。
『助けて、ふかや!』
私は咄嗟(とっさ)に心の中でふかやに助けを求めてしまっていた。
ふかやのことを考えただけで恐怖でパニックを起こしていた心が静まっていく。
『そうだ、ここはふかやの部屋だ
もし彼に害のある者であるなら、私が何とかしなくては』
そのことに思い至ると勇気がわいてくる。
私は意を決して影を凝視することにしてみた。
影からいやな気配は感じられない。
それどころか
『スースースー』
規則正しい寝息のような呼吸音が聞こえてきた。
その段になって、やっと私はこの影が実体を持っていることに気が付いた。
『え?まさか、これってふかや?』
手を伸ばして影の頭に当たる部分に触れると、先ほど触った柔らかな髪の感触がした。
『何でこんなところで寝てるの?』
今度はさっきとは違うパニックに襲われてしまった。
『電気がついてないから、ふかやはまだ帰ってきてないと思いこんでた
きっと私が寝ているのに気が付いて、つけなかったんだ
そして私がベッドを占領してしまっていたから寝ることも出来ずに…
ごめんなさいふかや』
ふかやの姿に、あんなにも怯えてしまっていた自分が滑稽であった。
それよりも、ふかやに対して申し訳なく思う気持ちでいっぱいになる。
私は上体を起こし
「ふかや、起きて、そんな姿勢じゃ身体が痛いでしょ」
そう語りかけ揺すってみるが彼は微動だにしなかった。
『ふかや…だよね』
不安に駆られた私はもう一度彼の髪に触れ、その感触を確認する。
やはり、それはふかやの髪の感触で間違いなかった。
私はさっきより大きな声を出すと
「ふかや、ふかや、起きて
風邪ひいちゃうよ」
少し乱暴に身体を揺すりながら語りかけた。
彼は小さく身動(みじろ)ぎするが、まだ寝ぼけているようであった。
彼の口からは『ワン』とも『ウォン』とも聞こえる、犬の鳴き声のように不明瞭な寝言が呟かれている。
彼は手を伸ばして私に触れてきた。
そのまま彼に押し倒され、私の身体はベッドに逆戻りする。
甘えるように胸元に頬擦りしてくる彼を、押しのけることは出来なかった。
彼に密着されている状態に胸がドキドキしてしまう。
そして彼はそのまま私の唇に自分の唇を合わせてくる。
私の心臓は爆発してしまいそうだった。
薄闇の中、ふかやの目が開き私を見つめると、彼からまたしても痺れるような感覚が伝わってきた。
今ならそれが何であるかハッキリ感じ取れた。
彼は私の身体を欲しているのだ。
それに気が付いても嫌悪感は全く感じなかった。
むしろ彼に求められていることに喜びを感じている自分を意識していた。
ふかやがより深く唇を重ねてきて、口内に舌を差し入れてくる。
このまま流されてしまって良いのだろうか、という躊躇(ためら)いはすぐに消え
「ん…、ふ…かや…」
私は誘うような甘い囁きをもらしていた。
布団越しでも、彼の下半身が激しく反応していることが伺い知れた。
そんな状態であるのに行為に及ぼうとせず
「ナリ、好きです
貴方のことを愛しています
僕の側に居てください、貴方を守らせてください」
彼は告白をしてくれる。
その誠実な態度に、私は完全にふかやの虜になってしまった。
私達は服を脱いで、直にお互いの肌を合わせあった。
部屋が明るかったら、きっと彼の顔をまともに見れなかっただろう。
触れている彼の肩や背にはなめらかな隆起があり、細身ながらきれいな筋肉が付いていることが伺えた。
ふかやの形の良い唇が自分の身体を移動していると感じるだけで、身体が激しく反応してしまう。
こんなにも甘い声を上げることが出来たのかと驚くほど、私の口からは喘ぎが絶え間なく滑り出していた。
「ナリ…愛しています」
「ふかや…私も…好きだよ」
愛の言葉を伝えながら、私達は一つに繋がった。
彼の熱い想いが体の中に入ってくる。
私もそれに応えるよう想いを解き放つ。
私達は何度もそれを繰り返し、想いを確認する儀式を続けた。
彼に抱かれている時間は、出会ってから一緒に過ごした時間の何倍もの濃さを感じさせる濃密な幸福に満ちあふれているものであった。