しっぽや(No.126~134)
side<HUKAYA>
化生してからの僕の生活は、初めての体験の連続だった。
人の体で生活を送り、しっぽやでペット探偵として迷子の犬を捜索し、同僚やその飼い主達と親しく付き合う。
それはとても刺激的で楽しい日々であった。
年が明けても僕の初めての体験は続いていた。
初めて1人でする事務所の電話番、初めての猫の捜索、そして初めての飼ってもらいたい人との出会い。
今日は飼ってもらいたいと思っているナリが、僕をバイクに乗せてくれることになったのだ。
犬だった時にあのお方には車であちこち連れて行ってもらっていたけど、バイクに乗るのは初めてのことである。
ナリやナリの友達がバイクに乗る時の注意を色々教えてくれた。
僕を後ろに乗せることでナリを危険な目にあわせないよう、教えてもらったことを心に刻み込む。
ジャケットやブーツを借り準備を整えて、僕とナリは外に出て行った。
バイクに跨がってナリに腕を回し密着すると、甘い痺れが身体を走り抜ける。
『このまま、いつまでもナリを抱きしめていたい
もっと深くナリに触れたい』
そんな欲望は、バイクが走り出すとたちまち消えていった。
『ナリを転倒させるわけにはいかない』
ナリの身体からも緊張が感じられ、僕は彼の動きに自分を合わせようと必死になった。
『飼い主と一緒に走る、それは犬の本分じゃないか』
そう気が付いて、ナリが僕にどうして欲しいか感じ取ろうと努力する。
それは犬の時にやっていたアジリティ(犬の障害物競走)を思い起こさせ次第に楽しくなってきた。
ナリのかすかな体重移動に合わせ、僕も真似をして体重を移動させる。
いつしか僕達の動きは一つになっていた。
電車や車に乗って移動しているのではない、自分が走っているのだという実感を伴いながら景色が凄いスピードで流れていく。
犬の時にドッグランで全力疾走しても、こんなに早く走れたことはなかった。
飼い主と一緒に風のように走れる喜びに、僕の胸は打ち震えるのであった。
暫く走って、ナリはコンビニの駐車場にバイクを止める。
僕達は店でホットの缶コーヒーを買って、駐車場の隅で一緒に飲み始めた。
コーヒーを口にすると、その温かさにホッとする。
走っているときは興奮していて寒さなんて感じなかったけど、身体は冷えていたようだ。
寒さを感じなかったのはナリと一緒にいることも大きかった。
彼の側に居られるだけで、僕は心が温かくなる。
彼とずっと一緒に居られたら、彼に飼ってもらえたら、どんなに幸せであろう。
ナリの優しい顔に見とれ、想いが押さえきれなくなった僕は
「あの、ナリ…、その…
僕は、ナリに…」
思わず言葉を口に出してしまっていた。
それでも決定的な『飼って欲しい』という事を口にすることは出来なかった。
いきなりそんなことを言われたらナリはどう思うだろうと考えると、気持ちが挫けてしまう。
初めて会った荒木に『飼って欲しい』と伝えられた白久の勇気には、感服(かんぷく)するしかなかった。
言葉の続きを待っているナリの視線に耐えられず
「僕と友達になってください
また、一緒に走ってください」
何とか無難に聞こえる言葉を発して頭を下げた。
『僕は意気地なしだ…』
萎んでいく僕の気持ちは
「私達、もう友達だと思うよ」
ナリのその一言で一気に膨れ上がって爆発した。
彼はバイクにも乗れない僕を『友達』だと言ってくれたのだ。
今はその関係で十分だ。
喜びのあまり思わず彼を抱きしめてしまったが、彼は拒まなかった。
気分が盛り上がっていたせいだろうか、ナリから好意を向けられた気がしたが、それは『友達に対する友情』だろう。
それが『愛しい者への特別な感情』に変わってくれるよう頑張ろうと、僕は決意を新たにするのだった。
翌日、バイク用のジャケットやブーツを買いに皆で店に行くことになった。
店には同じ様な物がズラッと並んでいて、僕には何が何だか分からなかった。
ナリと友達(彼らも僕と友達になってくれた!)があれこれと見繕ってくれなければ、1日かけても買い物なんて無理だったことだろう。
ナリが自分用にと新しく買ったジャケットは僕の物と色違いのお揃いで、それはいつも事務所で『飼い主とお揃い自慢』をされていた自分にとって夢のような状況だった。
「ナリとお揃いだって、事務所で皆に自慢しちゃおう」
勢い込んで言うと
「私とお揃いなんて、自慢するほどの事かな」
ナリは少し照れたように笑っている。
それでも
「散財しちゃったけど、一式新品で揃えると嬉しいよね
ふかやって背が高いから、ジャケットとブーツが凄く様になってるよ
元が取れるくらい、タンデムしなくちゃ」
そう言って優しく微笑んでくれた。
ナリに褒めてもらって、タンデムに誘ってもらって泣きたくなるような喜びに満たされる。
彼と交わす言葉は、いつも美しい宝石のような煌めきを感じさせるものであった。
ナリの家に帰ると彼のご両親が旅行から帰ってきていた。
彼らは買ってきていたお土産を僕にも食べるように勧めてくれる。
珍しい旅先の食べ物に、テンションが上がってしまう。
「こんなに喜んでもらえるなら、もっと買ってくれば良かったな
ナリはどれも『飽きた』って言って喜ばないから張り合いがないんだ」
父親にそう言われ
「だって、観光地の土産物って似たり寄ったりじゃない
たまには温泉地以外に行けば良いのに」
ナリは困ったように笑っていた。
それからナリは、嬉しい提案をしてくれる。
僕を車でマンションまで送ってくれると言うのだ。
おかげで今夜もまた泊めてもらうことが出来た。
それはナリと別れたくなかった僕にとって、とても嬉しいことであった。
ナリはバイク以外、車の運転も出来るそうだ。
もし、ナリに飼ってもらえることが出来たとしても、僕は彼の役に立てるのだろうか。
そう考えると何も出来ない自分自身に、また落ち込みそうになってしまう。
けれどもナリは
「ふかやはスズキを探してくれたじゃない
とても助かった、ありがとう」
そう言うと僕に優しく微笑んでくれた。
「長瀞の助けがあったからだけどね」
そう答えながらも、彼に褒められて気分が浮上してくる自分を感じていた。
ナリと一緒に居れば、落ち込んでいるヒマは無いようであった。
友達が帰った後も、僕はナリと一緒にいられることに舞い上がっていた。
「ヤマハとスズキの爪切り、手伝ってくれないかな
2匹とも爪切り大嫌いで、いつも家族総出で大騒ぎになるんだ
言い聞かせてくれない?」
彼がそう切り出したとき、僕にも出来そうなお願いに張り切ってしまった。
さっそく2匹を説得にかかる。
チュルーをご褒美に提示し、爪切りは怖いことではないと散々説明すると、2匹は渋々ながら従ってくれた。
大人しく爪切りさせてくれるヤマハ君とスズキさんにナリは驚いていた。
僕を頼もしそうな瞳で見てくれる。
彼の役に立てた事に誇らかな気持ちになった。
その後ブラッシングをしても良いか聞かれたので2匹に確認すると
『キラキラした小袋のカリカリに、ササミふりかけをかけてくれるなら良い』
そんな答えが返ってきた。
2匹は僕を通じて美味しい物を効率よく貰う術(すべ)を学んだようだった。
夜はナリの部屋に布団を敷いてもらい、一緒の部屋で2人だけで(猫もいるけど)寝られることになった。
ナリはバイクでどんな所に行けるか、一生懸命説明してくれる。
具体的にどんな場所で、どうやって行けばよいのかさっぱり分からなかったけど、楽しそうに話すナリがその場所に僕を誘ってくれる事が嬉しかった。
彼に行ってみたい場所を聞かれ、思わず『飼い主の側』と言ってしまいそうになり
「飼い…、っと、海水浴とか」
苦し紛れの返事をしてしまう。
彼は僕の不審な態度を気にすることなく
「ああ、夏の海も良いね」
そう答えるとまた物思いに没頭していくようであった。
『フカヤ、マダ寝ナイノ?
ボク、一緒ニ寝テアゲテモ良ヨ
可愛イボクト一緒ニ寝ラレルノ、嬉シイデショ』
ヤマハ君が布団に乗ってきて、ドッカリと座り込んだ。
『ズルイ!アタシモ、アタシモフカヤト一緒ニ寝ル
フカヤ、犬ダケド怖クナイモン
アタシト一緒ニ寝ルホウガ、フカヤ嬉シイモン』
スズキさんもヤマハ君の真似をして、布団に乗ってきた。
『この状況、波久礼だったら両手に華って思うんだろうな
本当はナリと一緒に寝たいんだけど…流石に無理だよね』
僕は一応飼い主に確認しようと
「ナリ、一緒に寝て良い?」
そう聞いてみた。
彼は一瞬惚(ほお)けたような表情になり、顔が赤くなっていった。
「猫と寝るの初めてじゃないし、潰さないよう気を付けるから」
気を悪くしたのかと慌てて言い添えると
「あ、ああ、うん、良いけど2匹に挟まれると寝返り打てなくなるよ」
ナリも慌てたように答えてくれた。
その夜は2匹の猫に挟まれた温かな布団で、飼い主(暫定)と一緒の部屋で寝られる幸せを味わうのであった。
次の日、僕はナリの隣に座って車に乗っていた。
犬だったときは『危ないから』と、絶対に乗せてもらえなかった場所だ。
また初めての体験をすることが出来て嬉しくなる。
その後は一番重大な初めてである『飼い主を部屋でおもてなしする』が待ちかまえていた。
インスタントコーヒーと割れ煎餅、カステラ切り落としといった普段のおやつしか部屋に無かったけれど、ナリは美味しそうに食べてくれた。
僕と同じような物が好きだとわかり、嬉しくなった。
それから僕は、気になっていたナリの仕事について聞いてみる。
『僕にも手伝える仕事だったら役に立てるんだけどな』
そう思っていたが、ナリの返事は『占い師』という思いもかけないものであった。
『タロットカード』や『アニマルメディスンカード』等を使って占いをするらしい。
そう教えられても、僕には何が何だかさっぱり分からない。
ナリは僕なんかでは手伝えない、とても凄い仕事をしている人だった。
化生してからの僕の生活は、初めての体験の連続だった。
人の体で生活を送り、しっぽやでペット探偵として迷子の犬を捜索し、同僚やその飼い主達と親しく付き合う。
それはとても刺激的で楽しい日々であった。
年が明けても僕の初めての体験は続いていた。
初めて1人でする事務所の電話番、初めての猫の捜索、そして初めての飼ってもらいたい人との出会い。
今日は飼ってもらいたいと思っているナリが、僕をバイクに乗せてくれることになったのだ。
犬だった時にあのお方には車であちこち連れて行ってもらっていたけど、バイクに乗るのは初めてのことである。
ナリやナリの友達がバイクに乗る時の注意を色々教えてくれた。
僕を後ろに乗せることでナリを危険な目にあわせないよう、教えてもらったことを心に刻み込む。
ジャケットやブーツを借り準備を整えて、僕とナリは外に出て行った。
バイクに跨がってナリに腕を回し密着すると、甘い痺れが身体を走り抜ける。
『このまま、いつまでもナリを抱きしめていたい
もっと深くナリに触れたい』
そんな欲望は、バイクが走り出すとたちまち消えていった。
『ナリを転倒させるわけにはいかない』
ナリの身体からも緊張が感じられ、僕は彼の動きに自分を合わせようと必死になった。
『飼い主と一緒に走る、それは犬の本分じゃないか』
そう気が付いて、ナリが僕にどうして欲しいか感じ取ろうと努力する。
それは犬の時にやっていたアジリティ(犬の障害物競走)を思い起こさせ次第に楽しくなってきた。
ナリのかすかな体重移動に合わせ、僕も真似をして体重を移動させる。
いつしか僕達の動きは一つになっていた。
電車や車に乗って移動しているのではない、自分が走っているのだという実感を伴いながら景色が凄いスピードで流れていく。
犬の時にドッグランで全力疾走しても、こんなに早く走れたことはなかった。
飼い主と一緒に風のように走れる喜びに、僕の胸は打ち震えるのであった。
暫く走って、ナリはコンビニの駐車場にバイクを止める。
僕達は店でホットの缶コーヒーを買って、駐車場の隅で一緒に飲み始めた。
コーヒーを口にすると、その温かさにホッとする。
走っているときは興奮していて寒さなんて感じなかったけど、身体は冷えていたようだ。
寒さを感じなかったのはナリと一緒にいることも大きかった。
彼の側に居られるだけで、僕は心が温かくなる。
彼とずっと一緒に居られたら、彼に飼ってもらえたら、どんなに幸せであろう。
ナリの優しい顔に見とれ、想いが押さえきれなくなった僕は
「あの、ナリ…、その…
僕は、ナリに…」
思わず言葉を口に出してしまっていた。
それでも決定的な『飼って欲しい』という事を口にすることは出来なかった。
いきなりそんなことを言われたらナリはどう思うだろうと考えると、気持ちが挫けてしまう。
初めて会った荒木に『飼って欲しい』と伝えられた白久の勇気には、感服(かんぷく)するしかなかった。
言葉の続きを待っているナリの視線に耐えられず
「僕と友達になってください
また、一緒に走ってください」
何とか無難に聞こえる言葉を発して頭を下げた。
『僕は意気地なしだ…』
萎んでいく僕の気持ちは
「私達、もう友達だと思うよ」
ナリのその一言で一気に膨れ上がって爆発した。
彼はバイクにも乗れない僕を『友達』だと言ってくれたのだ。
今はその関係で十分だ。
喜びのあまり思わず彼を抱きしめてしまったが、彼は拒まなかった。
気分が盛り上がっていたせいだろうか、ナリから好意を向けられた気がしたが、それは『友達に対する友情』だろう。
それが『愛しい者への特別な感情』に変わってくれるよう頑張ろうと、僕は決意を新たにするのだった。
翌日、バイク用のジャケットやブーツを買いに皆で店に行くことになった。
店には同じ様な物がズラッと並んでいて、僕には何が何だか分からなかった。
ナリと友達(彼らも僕と友達になってくれた!)があれこれと見繕ってくれなければ、1日かけても買い物なんて無理だったことだろう。
ナリが自分用にと新しく買ったジャケットは僕の物と色違いのお揃いで、それはいつも事務所で『飼い主とお揃い自慢』をされていた自分にとって夢のような状況だった。
「ナリとお揃いだって、事務所で皆に自慢しちゃおう」
勢い込んで言うと
「私とお揃いなんて、自慢するほどの事かな」
ナリは少し照れたように笑っている。
それでも
「散財しちゃったけど、一式新品で揃えると嬉しいよね
ふかやって背が高いから、ジャケットとブーツが凄く様になってるよ
元が取れるくらい、タンデムしなくちゃ」
そう言って優しく微笑んでくれた。
ナリに褒めてもらって、タンデムに誘ってもらって泣きたくなるような喜びに満たされる。
彼と交わす言葉は、いつも美しい宝石のような煌めきを感じさせるものであった。
ナリの家に帰ると彼のご両親が旅行から帰ってきていた。
彼らは買ってきていたお土産を僕にも食べるように勧めてくれる。
珍しい旅先の食べ物に、テンションが上がってしまう。
「こんなに喜んでもらえるなら、もっと買ってくれば良かったな
ナリはどれも『飽きた』って言って喜ばないから張り合いがないんだ」
父親にそう言われ
「だって、観光地の土産物って似たり寄ったりじゃない
たまには温泉地以外に行けば良いのに」
ナリは困ったように笑っていた。
それからナリは、嬉しい提案をしてくれる。
僕を車でマンションまで送ってくれると言うのだ。
おかげで今夜もまた泊めてもらうことが出来た。
それはナリと別れたくなかった僕にとって、とても嬉しいことであった。
ナリはバイク以外、車の運転も出来るそうだ。
もし、ナリに飼ってもらえることが出来たとしても、僕は彼の役に立てるのだろうか。
そう考えると何も出来ない自分自身に、また落ち込みそうになってしまう。
けれどもナリは
「ふかやはスズキを探してくれたじゃない
とても助かった、ありがとう」
そう言うと僕に優しく微笑んでくれた。
「長瀞の助けがあったからだけどね」
そう答えながらも、彼に褒められて気分が浮上してくる自分を感じていた。
ナリと一緒に居れば、落ち込んでいるヒマは無いようであった。
友達が帰った後も、僕はナリと一緒にいられることに舞い上がっていた。
「ヤマハとスズキの爪切り、手伝ってくれないかな
2匹とも爪切り大嫌いで、いつも家族総出で大騒ぎになるんだ
言い聞かせてくれない?」
彼がそう切り出したとき、僕にも出来そうなお願いに張り切ってしまった。
さっそく2匹を説得にかかる。
チュルーをご褒美に提示し、爪切りは怖いことではないと散々説明すると、2匹は渋々ながら従ってくれた。
大人しく爪切りさせてくれるヤマハ君とスズキさんにナリは驚いていた。
僕を頼もしそうな瞳で見てくれる。
彼の役に立てた事に誇らかな気持ちになった。
その後ブラッシングをしても良いか聞かれたので2匹に確認すると
『キラキラした小袋のカリカリに、ササミふりかけをかけてくれるなら良い』
そんな答えが返ってきた。
2匹は僕を通じて美味しい物を効率よく貰う術(すべ)を学んだようだった。
夜はナリの部屋に布団を敷いてもらい、一緒の部屋で2人だけで(猫もいるけど)寝られることになった。
ナリはバイクでどんな所に行けるか、一生懸命説明してくれる。
具体的にどんな場所で、どうやって行けばよいのかさっぱり分からなかったけど、楽しそうに話すナリがその場所に僕を誘ってくれる事が嬉しかった。
彼に行ってみたい場所を聞かれ、思わず『飼い主の側』と言ってしまいそうになり
「飼い…、っと、海水浴とか」
苦し紛れの返事をしてしまう。
彼は僕の不審な態度を気にすることなく
「ああ、夏の海も良いね」
そう答えるとまた物思いに没頭していくようであった。
『フカヤ、マダ寝ナイノ?
ボク、一緒ニ寝テアゲテモ良ヨ
可愛イボクト一緒ニ寝ラレルノ、嬉シイデショ』
ヤマハ君が布団に乗ってきて、ドッカリと座り込んだ。
『ズルイ!アタシモ、アタシモフカヤト一緒ニ寝ル
フカヤ、犬ダケド怖クナイモン
アタシト一緒ニ寝ルホウガ、フカヤ嬉シイモン』
スズキさんもヤマハ君の真似をして、布団に乗ってきた。
『この状況、波久礼だったら両手に華って思うんだろうな
本当はナリと一緒に寝たいんだけど…流石に無理だよね』
僕は一応飼い主に確認しようと
「ナリ、一緒に寝て良い?」
そう聞いてみた。
彼は一瞬惚(ほお)けたような表情になり、顔が赤くなっていった。
「猫と寝るの初めてじゃないし、潰さないよう気を付けるから」
気を悪くしたのかと慌てて言い添えると
「あ、ああ、うん、良いけど2匹に挟まれると寝返り打てなくなるよ」
ナリも慌てたように答えてくれた。
その夜は2匹の猫に挟まれた温かな布団で、飼い主(暫定)と一緒の部屋で寝られる幸せを味わうのであった。
次の日、僕はナリの隣に座って車に乗っていた。
犬だったときは『危ないから』と、絶対に乗せてもらえなかった場所だ。
また初めての体験をすることが出来て嬉しくなる。
その後は一番重大な初めてである『飼い主を部屋でおもてなしする』が待ちかまえていた。
インスタントコーヒーと割れ煎餅、カステラ切り落としといった普段のおやつしか部屋に無かったけれど、ナリは美味しそうに食べてくれた。
僕と同じような物が好きだとわかり、嬉しくなった。
それから僕は、気になっていたナリの仕事について聞いてみる。
『僕にも手伝える仕事だったら役に立てるんだけどな』
そう思っていたが、ナリの返事は『占い師』という思いもかけないものであった。
『タロットカード』や『アニマルメディスンカード』等を使って占いをするらしい。
そう教えられても、僕には何が何だかさっぱり分からない。
ナリは僕なんかでは手伝えない、とても凄い仕事をしている人だった。