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しっぽや(No.116~125)

side<ARAKI>

最近は学校からの帰り道、駅に向かうまでのささやかな時間が俺と日野のしっぽや関係情報交換の時間になっていた。
「今年は流石に、ゲンさんからハロウィンやクリスマスパーティーの誘いがないよな」
「俺たちが受験生だから、遠慮したんだろ」
そんなことを言いながら、俺達は一抹の寂しさを感じていた。
「俺達抜きで、集まってくれても構わないのにさ
 せっかく今年はタケぽんやウラが仲間に加わったんだから
 ひろせとかパーティーなんて言うと張り切ってお菓子作りそうだし、ウラは皆で集まって騒ぐの好きそうじゃん」
「ゲンさんの性格だと、『受験生抜きで』なんて訳にもいかないと思うぜ
 そーゆーとこ、律儀だもんな
 ガキに対しても対等に接してくれるってゆーかさ」
「うん、タケぽんじゃないけど、ゲンさんのそーゆーとこ格好いいと思う」
歩きながら2人して『うーん』とうなってしまう。

「クリスマス近くの予備校、コマ数どうしてる?」
俺が日野に聞くと
「けっこーつまってる
 年末年始が休みだから、その前後ギュウギュウ」
顔をシカメて肩を竦めてみせた。
「俺と一緒か」
そう答えると、つい、ため息をついてしまった。
「逆に、今なら少し余裕あるんだけどなー
 でもさ、12月に入ったって言っても、クリスマスには遠いし」
そんな俺の言葉に
「あ、俺も今の方が余裕ある」
日野が反応する。
そして俺達はお互い顔を見合わせた。
「同じ事、考えてる?」
「多分」
2人して、ニヤリと笑ってしまった。

「そうだよ、今だよ、今
 前にゲンさんが『先取りは盛り上がるけど、終わってからじゃシラケる』って言ってたじゃん」
「黒谷のとこに泊まりに行けないのは寂しいけどさ
 平日に事務所使わせてもらって当日短時間での解散パーティーなら、中川先生とか桜さんとか月さんも、ちょっとくらい顔出せるんじゃないかな
 大人数になっちゃうから、立食パーティー形式にして」
「食事はデリバリーや総菜活用して、長瀞さんとかにもゆっくりしてもらうとか
 ケーキもお店で買った方が早いかな
 タケぽんに荷物持ちさせて、俺達で準備しよう
 業務は少し早めに切り上げてもらうのが良いかと思うんだけど、所長権限で黒谷にお願いしてみてよ」
「わかった、黒谷にちょっと聞いとくよ
 5時頃に終了してもらえれば十分だろ
 1日くらい良いよね、日頃皆頑張ってるんだし」
冷たい風が吹いているのに、俺達は興奮して少し熱くなってきた。

「今年も、ゲンさん泣かしちゃう?」
日野がニッと笑う。
「去年のお前のアイデアプレゼント、良かったもんな」
俺も同じように笑ってしまった。
「今年はさ、長瀞さんと何かお揃いで用意しようと思うんだ」
「あ、それ良い!
 今度、予備校前に時間ある時にでもショッピングモール見に行こうよ
 つか俺、今日ならちょっと余裕あるけど、どう?」
「俺も6時半からだし、急げば間に合うな
 んじゃ、サクッと選びに行くか」
俺達はそう決めると早足になり、駅までの道を歩いて行く。
久しぶりのイベントなので、俺達のテンションは上がりっぱなしになるのであった。



その晩、予備校から帰った俺は寝る直前に白久に電話する。
俺が勉強している時間が不規則なので、白久から電話をかけてくることはない。
けれども俺が遅い時間に電話をかけても、白久はいつも直ぐに対応してくれた。
電話で聞く白久の声は、『スマホで電話をしている』という緊張と『飼い主と話している喜び』でいつもより興奮した感じに聞こえている。
俺も事務所以外で白久と話すのは久しぶりだったから、きっと同じように少し興奮気味の声になってしまっているだろう。
耳元に互いの声を感じられるこの状況を、嬉しいと思っている自分たちの関係がくすぐったかった。

『事務所でのクリスマスパーティーですか
 良いアイデアだと思います、とても楽しみです
 お手伝いできることがあれば、何でもお申し付けください』
張り切る白久に
「荷物持ちはタケぽんにやらせるから、白久はいつも通り捜索に出てて
 それで、ちょっとだけ早く仕事を切り上げられるよう頑張って欲しいな
 仕事の後、ゆっくりパーティー楽しみたいじゃん
 パーティーの後、白久の部屋に泊まりに行けないのは残念だけどさ
 それは受験終わるまで我慢しとく
 でも、今年中に後2回くらいは泊まりに行きたいな、とか思ってるよ」
俺はそう告げる。
『部屋に来ていただけることを、お待ちしております』
白久がどれだけ嬉しそうな顔をして答えているか、情景が見えるような弾んだ声で答えてくれた。

『捜索も早く終わらせられるよう、頑張ります
 去年のクリスマスに荒木にいただいた手袋をして外回りをしておりますので、とても暖かいです』
「俺も、白久に貰った手袋使ってる
 俺達離れてても、いつだって手を繋ぎあってるんだ」
積み上げてきた2人の時間の思い出が、俺を幸せな気分にしてくれる。

「白久、愛してる」
『荒木、愛しております』

最後に愛をささやき交わし通話を終了すると、俺は幸せな気分のままベッドに潜り込んでいった。




それからの俺と日野は、慌ただしい時間を過ごしていた。
計画を立ててから5日後が、クリスマスパーティーだったからだ。
結局、俺と日野だけでは準備しきれず、皆にも手伝って貰うことになってしまった。
事務所に来る時に、差し入れを持ってきてくれることになったのだ。
しかしメインの食べ物は俺達で準備するから、タケぽんは活躍しそうであった。


「つか先輩、俺、活躍しすぎじゃないっすか?
 当日、俺一人に食べ物全部運ばせようと思ってたとか、どんだけ鬼ですか」
パーティー当日、学校の帰りにタケぽんを引き連れてパン屋で大量買いした俺達は電車で一緒に移動していた。
「いいじゃん、あそこのパン屋のパン、皆好きなんだから
 シュトーレンも手に入って、クリスマスムード盛り上がってきた!」
日野はウキウキとしている。

「後、駅に着いたら肉屋でメンチと唐揚げとトリモモ照り焼き買わなきゃ
 サラダと飲み物は長瀞さんが用意して、白久がオードブル的なもの買っといてくれるってさ
 ケーキはひろせがお店に予約してくれたし
 俺達が用意するのは、こんなもんかな」
俺はメニューをもう一度整理する。
「事前にスナックとジュース類を事務所に置いてもらえたから助かった
 これ以上持たされたら、俺、腕が抜けちゃうよ」
タケぽんが情けない声を上げた。
「ちょっとパンを持たせられたくらいで大げさだな」
日野にジロリと睨まれて
「ちょっとじゃないし、シュトーレンとかオニオンパンとかバゲットとか、1個がずっしり重いんですよ
 6枚切りホテルブレッドが3斤、そのほかに総菜パンやら菓子パン
 テーブルに乗り切りませんって」
タケぽんはまだブツブツ言っていた。
「白久のエビとアボカドのサラダがあるから、食パンは必須なんだよ」
俺もジロリと睨むと、タケぽんは大きな体を縮こまらせた。

「しょうがない、肉屋の買い物は俺達で持ってやるか」
「可愛い後輩のためだもんな」
恩着せがましく言うと、タケぽんはホッとした顔になる。
「あ、その代わり、事務所着いたら予約しといた寿司の盛り合わせ取りに行ってきて
 特大皿で4つ頼んであるから」
「崩さないよう慎重に、かつ、素早く持って帰って来いよ」
「ケーキも、ひろせだけに取りに行かせないで手伝ってね
 6個も注文してあるもんな」
「こっちも崩れてたら減俸だからな、黒谷に頼んでおかなきゃ」
俺達の言葉で、タケぽんの魂が抜けていくのが感じられた。


荷物で手がふさがっていた俺達は、ノックもそこそこに事務所のドアを開ける。
一応、ドアの前でタケぽんが室内の『気配』なるものを読み、依頼人が居ないことを確認してからのことであった。
「芸達者になってきたな、お前」
日野に興味深そうに見られ
「いや、まだまだッスけど
 前にクッキーの弟君(おとうとくん)探しに行ったとき、俺、何にも出来なかったんで、ちょっとは頑張らなきゃなって
 まあ、おかげでひろせの気配はかなりわかるようになりましたよ」
タケぽんは照れくさそうにヘヘッと笑っていた。

予約した物を取りにタケぽんとひろせが事務所を出て行くと、俺と日野は控え室をパーティー会場に変えていく。
「うーん、やっぱ全員が一気に控え室に入るのは無理だな
 控え室のドア開けっ放しにして、事務所の方も会場にしよ」
「パイプ椅子とソファーがあるし、立食っていっても長時間立ちっぱなしにはならなくて済むかな」
100均で買ったクリスマスチックなパーティー用カトラリーや紙コップなどを用意する。
小さなクリスマスツリーをテーブルの真ん中に置くと、クリスマスムードが高まってきた。

捜索に出ていない猫達がセッティングを手伝ってくれる。
「今日は犬の依頼が多いんだ、黒谷まで捜索に出てるくらい
 でも皆、夕方前には戻れそうだからちょうど良いかも
 サトシも、学校からの帰りに寄るって言ってたよ」
羽生が笑って話しかけてくる。
『くそー、こいつ、あっという間に育って今じゃ美青年って感じだよな
 身長も完璧に抜かされてるし
 最初は中学生くらいに見えて、絶対俺よりガキっぽかったのにさ』
少し悔しい思いを感じて見つめると
「そうだ、荒木も豆乳ヨーグルト飲んでみる?
 豆乳とヨーグルトを混ぜるだけなんだけど、長瀞にも美味しいって言われたの
 俺が考えたんだよ」
羽生はエッヘンと言わんばかりに胸を反らして得意げな顔をする。
その表情はまだまだ子猫のもので、俺は何となくホッとしてしまう。
「カルシウムが取れると思うんだ
 アレ飲み始めてから、少し背が伸びたんじゃないかってサトシに言われたよ」
「「飲んでみる!!」」
続く羽生の言葉に俺と日野は盛大に反応してしまうのであった。


夕方になり、捜索に出ていた犬達が戻ってきた。
「今日の業務終了、っと」
黒谷はいつもより2時間以上早い時間にクローズドの看板を事務所のドアに掛け、早仕舞いする旨の張り紙を貼る。
控え室には俺達の他に、化生が揃っていた。

「「メリークリスマス!」」

俺達はシャンメリーやジュース、豆乳ヨーグルトなど思い思いの飲み物で乾杯し、パーティーを開始するのであった。
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