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しっぽや(No.116~125)

しっぽや業務終了時間より早めに上がり外に出たが、夕方というより夜に近い暗さになっていた。
頬を刺すような風も出てきている。
たまらずに白久に寄り添うと、体に当たる風が随分和らぎ温もりが感じられた。
「風除け、ありがとう」
温もりが嬉しくて、俺は寄り添った白久の腕に額をつけて甘えてしまう。
白久も、俺が側にいると『温かい』と言ってくれて更に嬉しくなった。
「俺じゃ風除けにならないと思うけど
 カイロ代わりって感じなのかな」
俺がそんな事を言うと、白久は俺を『懐に入れて持ち運びたい』なんて言ってくれた。
いつもならそんなことを言われたら『チビ』だってバカにされた気分になるけど、白久に言われると彼を温めるカイロ役も満更でもない気がして顔が笑ってしまった。

それから白久は『カイロ』について、俺の知らなかったことを教えてくれた。
白久が生きていた時代の話を知る事が出来て、また少し2人の距離が縮まった気がする。
そして北国の犬とは言え冬の外回りは寒いのではないかと、今更ながらに気が付いた。
大事な飼い犬が風邪でもひいてしまったら大変だ。
『今から用意しておけば真冬になっても大丈夫かな』
俺は白久のためにカイロを用意する事を決意した。


「今日はこれからどういたしますか?」
どこにでもお供します、と言った風情の飼い犬に期待を込めた目で見つめられ、俺は悩んでしまった。
2人っきりになったらしたいことをあれこれ考えていたが
「時間が足りなすぎるよ」
俺はガックリと肩を落とし
「早く受験終わんないかな」
結局いつものグチを口にして、盛大なため息を付いてしまった。
「当たり前みたいにずっと一緒にいられた去年が懐かしいや」
子供みたいな我が儘を言う俺に
「私も、そう思っておりました
 飼い主と同じ事を感じられるのは、通じ合っているようで嬉しいものですね」
白久は嬉しそうに頬を染めて笑ってくれた。

そして白久は『贅沢時短デートコース』の提案をしてくれる。
せっかく2人っきりになれて一晩一緒に過ごせるのに、グチってるのはもったいない。
短い時間だからこそ思いっきり楽しまなきゃと、前向きな気持ちにさせられた。
今の俺には2人でいられる時間がすでに贅沢なのだ。
白久の部屋で楽しく過ごすことを考えると、気分が浮き立ってくる。

「じゃあ、今からデート開始!
 まずはDVD見に行こう」
俺は白久の腕を引っ張り、レンタル屋に向かう。
見そびれていた映画のDVDを借り、コンビニで季節限定のポテチやスナック類、炭酸飲料を買い込んだ。
「映画館だとポテチとか持ち込めないからさ
 部屋で見るときのお楽しみ」
俺の選んだ物を、白久は興味深そうにながめていた。
それからスーパーに寄って食料や入浴剤なんかを買い込んで、白久の部屋に帰る。
久しぶりの白久の部屋がとても嬉しかった。


「変なのー、コンビニで買い物しただけなのに、凄く楽しかった」
俺は晴れやかに笑ってしまう。
「いつも行っているスーパーなのに、意外な商品を発見できました」
白久もニコニコしている。
2人で歩いて2人で選んで、2人の時間を満喫できたおかげだと俺達は気が付いていた。
会えなかった時間を感じさせない『絆』みたいなものを実感できて、俺は満たされている自分を感じていた。

制服から白久の部屋に置いている私服に着替えると、開放感が一気に高まりワクワクしてくる。
それから俺達は手分けして荷物の整理をしたり、お菓子を準備した。
俺はテーブルの上にパーティー開けしたスナック類を広げ、ペットボトルを置く。
「何だか豪華ですね」
食料を片付け、部屋着に着替えた白久がテーブルの上を見て微笑んだ。
「荒木、暖房のスイッチを入れたばかりなので、まだ部屋が暖まっておりません
 寒くありませんか」
白久はそう言って俺の隣に腰を下ろした。
俺はもっともっと白久を感じたくなっていたので
「白久のカイロになってあげる」
そんな事を言いながら、彼に寄りかかるようその股の間に滑り込んだ。

「極上のカイロですね」
白久は俺を後ろから抱きしめてくれる。
「俺も温かいや」
飼い犬を椅子代わりにして座るなんて、大型犬じゃないと出来ない贅沢だと考えて笑ってしまう。
「映画館のプレミアシートだって、こんなに座り心地良くないよ
 これって、最高に贅沢な映画鑑賞だ」
映画を見る前から気分が高揚しまくって、顔が笑っていた。

白久に身を預け、周りを気にすることなくスナックを食べながら観る映画は最高に面白かった。
しかし
「これ、デカい画面で観たかったなー」
それだけが少し残念だった。
「そうですね、きっと迫力が違っていたでしょう」
白久も同意してくれたので、俺は驚いてしまう。
「荒木と映画を観ていると、作り物のお話の面白さがわかるような気がするんです」
微笑む白久に
「もし続編が公開されたら、今度は映画館に観に行こう
 何か、続きがありそうな終わり方だったもんね」
俺は愛しい飼い犬と未来の幸せな約束を交わすのであった。


映画を見終わった俺達は、白久が作っておいてくれたおでんとスーパーで買ってきた巻き寿司を食べた。
「大根も卵も、味が染み込んでて美味しい
 体が温まるよ」
スーパーの冷たい巻き寿司も温め直したおでんと一緒に食べると、美味しく感じられた。
「これは海苔ではなく、高菜で巻いてありますね
 具が締めサバなので、サッパリと食べられます」
「こっちのは薄焼き卵で巻いてあるよ
 具はカニカマとキュウリとツナ、鉄板で美味しい組み合わせ」
「そういえばホワイトデーに、荒木が卵焼きで巻いた巻き寿司を作ってくれましたね」
「俺が作った、と言うか、主に日野が作ってくれたんだけどさ」
懐かしい会話を交わしながら食べる夕飯はとても美味しかった。

「そうだ、忘れないうちにカイロ探しておこう」
俺がスマホを取り出すのを白久は不思議そうな顔で見ていたが、通販サイトでカイロを検索すると隣に座って感心したように画面をのぞき込んでくる。
「こんな風に、服に貼るタイプが邪魔にならないし便利で良いと思うんだけど、どう?
 皆外回りで寒いだろうから、多めに買って事務所に置いておこうか
 サイズは、これとこれが良いかな
 俺は使ったことないけど靴に入れるタイプはすぐに熱が冷めちゃうって母さん文句言ってたから、足元は各自厚手の靴下を用意した方が良いいかもね」
欲しい物をカートに入れ、代引で注文を確定させた。

「荒木は色々なことを知っていますね
 私も通販を頼んだことがありますが、スーパーやドラッグストアで買える物は探したことがありませんでした
 中々行けないお店からのお取り寄せばかりで」
白久に誉められて、俺はくすぐったいような気持ちになった。
「虎やの羊羹とか買ってくれたんでしょ?」
「クロが通販すると言うので、ついでのようなものでしたが
 今日の贅沢デートのデザートに出来て、買っておいて良かったです
 では、やぶきた茶と羊羹を用意して参りますね」
食事を終え立ち上がった白久と離れたくなくて
「俺、洗い物するよ、一緒にキッチンに行こう」
俺も慌てて立ち上がる。
白久は嬉しそうな顔で頷いてくれた。
「おでんだと、洗い物あんまり出なくて楽だね」
「明日の朝ご飯は、おでんの残り汁でおじやを作りましょうか」
「朝から温まりそう」
白久と一緒に居られれば、洗い物だって楽しかった。


お茶と羊羹を堪能した俺達は、贅沢デートの最後の締めに温泉旅行に出かける。
スーパーで買った入浴剤だけど、白久と一緒に入ればユニットバスが温泉に早変わりするようであった。

シャワーを浴びながら、俺達は深く唇を合わせあう。
白久と深く触れ合うのは久しぶりだからだろうか、その存在感が強烈に俺の中に入ってくる。
合わせた唇からは、絶え間なく甘い声がもれていた。
白久に触れられているだけで体の奥が燃えるように熱くなり、恥ずかしいくらい体が反応してしまう。
白久に後ろから貫かれると、思わず悲鳴を上げてしまった。

白久はそんな俺自身に手を伸ばし指を絡ませると、自分の動きに合わせるように刺激を送ってくる。
あまりの快感に体の力が抜けていくが、白久はしっかりと俺を支えていてくれた。
「ひっ…、あっ、しろ、く」
「あらき…」
お互いの名前を呼び合いながら、俺達は熱い想いを解放した。

白久は後ろから俺を抱きしめたまま、頬にキスして
「温泉に、入りましょうか」
そう優しく囁いた。
「うん、一緒に入ろう
 ペット連れでの温泉なんて、贅沢」
俺は先ほどの余韻が体に残っていて、まだ胸がドキドキしている。
白久と一緒にユニットバスに入り体を密着させると、また気持ちが高ぶってきた。
それは白久も同じだったのか、俺達は湯の中でも激しく唇を求め合った。
「また、してもよろしいですか」
俺の首筋に軽く歯を立て、胸の突起をいじりながら白久が聞いてくる。
「して、さっきみたいに気持ちよくして」
2人っきりだと思うと、大胆なことも口に出来た。

再び後ろから貫かれ、想いを確かめ合った。
白久の動きに併せ、お湯が激しく波打っている。
彼に求められている状況に興奮が増していき、俺はすぐに想いを放ってしまう。
それは白久も同じだったようで、俺は体の中にその想いが注がれる熱を感じていた。

ざっと体と髪を洗い、シャワールームから出た俺達はベッドでも激しく繋がりあった。
会えなかった時間を埋める行為は、果てしなく続くかに思われた。
しかし、いつしか深い満足感の凪に到達する。
一つになって何度も想いを放ちあった俺達は、ベッドの中でしっかりと抱き合っていた。

白久に優しく髪を撫でられ幸福の闇に落ちる前に
「また、こんな風に、贅沢なデート、しよう、ね…」
俺は何とかそう囁いた。
『白久、愛してる、ずっと一緒に居て』
伝えたいことはまだまだあったが、それを口にする前に意識を手放してしまった。
それでも、白久も俺と同じ想いを感じていることを俺は知っている。

共に存在できる幸福に体中満たされ、俺はこれからの未来に立ち向かう勇気が沸いてくるのであった。
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