しっぽや(No.116~125)
side<SIROKU>
「何というか、贅沢には慣れてしまうものですね」
私はため息と共にそんな言葉を吐き出した。
しっぽや事務所の所長席に座る黒谷が
「急に何を言い出すんだい、シロ」
少し苦笑しながら返事を返してくれる。
私は事務所のソファに深く身を預け
「荒木がバイトに来てくださらないと、張り合いが出ないんです」
また、ため息をついてしまう。
「飼い主が居ないときのシロは、控え室でうたた寝ばかりだったもんねー
猫達は君と寝られるの、楽しみにしてたみたいだけどさ
モフモフの秋田犬と寝るなんて、猫にしてみれば君は贅沢な毛布みたいなもんなのかな」
黒谷はクツクツと笑っている。
「この体はモフモフしてないと思うんですが
そういえば、以前は控え室で双子や長瀞に張り付かれてましたっけ
私的には猫と寝るのは、ちょっと暑かったんですけどね」
過去の自分を思いだし、思わず苦笑してしまった。
「荒木がバイトに来てくださる日は、最初は週末だけでしたが、クロスケ殿の機転のおかげで夏休み以降増やしていただけました
学校が始まってからも連日のようにお会い出来ていた状況が、今では遠く感じてしまいます」
予備校に通う荒木がバイトに来てくださる日は、今年の夏休み明けからかなり減ってしまっていた。
週に1回、多くて2回くらいだろうか。
飼い始めていただけた頃は週1回会えるだけでもこの上なく幸せだったのに、最近はその回数ではとても寂しく感じてしまうのだ。
「泊まりに来てくださる回数も減ってしまいましたし」
自分の部屋の荒木の居ないベッドが、やけに寒く感じられた。
「あー、確かに、飼い主が側にいてくれると言う贅沢には慣れてしまうね」
同じ思いを味わっているのであろう黒谷が、寂しそうな顔つきになった。
「以前に戻ったと思えば、何てことないはずなんだけどさ
夜中に目覚めて独りだと、とても心許ないんだ」
私たちは2人してため息をついてしまった。
「そうだ、シロも捜索頑張って荒木に良いとこ見せれば?
日野とウラが競ってるから、今、僕も大麻生も頑張ってるんだよ
流石に本職だった大麻生にはかなわなくて押され気味だけど、久しぶりに外回りすると新鮮だね」
黒谷の誘いに
「荒木はあまりそう言うことに興味がないようなので、遠慮しておきます
クロが捜索に出ている間は、所長代理として電話番を頑張りますから」
私は曖昧な笑みを浮かべて断った。
「シロ…所長の仕事は電話番だけじゃないんだけど…
まあ良いか、今度荒木が来たら名刺の追加してもらうから、手伝ってあげてよ
あの写真入りの名刺、受けが良いから何種類か欲しいんだ
あれ、良いアイデアだよね」
黒谷に飼い主を誉められ
「荒木はとても素晴らしい方ですから」
私は誇らかな気持ちになった。
黒谷とたわいないやり取りをしていると、上着のポケットが微かに振動する。
スマホを取り出して確認してみたら、荒木からのメールが入っていた。
内容を読んだ私の顔が緩んでしまう。
それだけで黒谷には内容の目星が付いたようで
「荒木が泊まりに来てくれることにでもなった?
それなら早めに上がって良いよ、少しでも長く一緒に居たいだろ?」
そんな言葉をかけてくれる。
「あ、いえ、今日ではないんですよ
今週末は予備校が無いから、バイトの後に泊まりに来てくれるそうです」
報告しながら久しぶりに荒木と過ごす夜のことを思い、胸に幸せが満ちあふれてきた。
「良かったじゃないか、じゃあ、荒木に良いとこ見せるために捜索頑張らなきゃね
お、良いタイミングで電話が
和犬系の捜索依頼だったら、お願いするよ
はい、ペット探偵しっぽやです」
電話に出る黒谷の声に聞き耳を立てる。
現金なもので、荒木に会えるとなると俄然やる気が出てきたのだ。
大麻生や黒谷には及ばなくとも、捜索成功の報告を荒木にしたくて仕方なかった。
「…はい、…はい
では捜査員を向かわせますので、その者にも再度説明をお願いします」
黒谷が受話器を置いて
「柴犬の依頼、行くよね、シロ?」
悪戯っぽい顔を私に向けてきた。
「もちろん!大麻生、とまでは行かなくても、クロくらいの捜索時間で見つけられるよう頑張りますよ」
私は黒谷から依頼メモを受け取り、依頼主の住所への移動方法を確認する。
「言ったな
僕はこないだ、大麻生より早く発見保護出来たんだけど」
得意げな顔の黒谷に
「では私も、それを目指してみます」
私も笑顔を向けた。
「それでは、行ってきます」
私はドアを開け階段を下りると、依頼主の家に向かうべく歩き出した。
季節は冬に移り変わり頬に触れる風は冷たかったが、飼い主と共に過ごせる週末を思うだけで心が温かくなっていく。
私は寒風をものともせず、颯爽と歩き続けるのであった。
週末、私はいつもより早い時間に起きだした。
『荒木のためにお弁当を作るのは、久し振りな気がする』
午前の授業を終えそのままバイトに来る荒木のためにお弁当を用意できることが、殊(こと)の外(ほか)嬉しく思えた。
荒木の好きなものを全部作って持って行きたかったが流石にそれは出来ないので、昨晩、メニューを厳選して考えておいたのだ。
それでも大量に出来てしまったおかずを重箱に詰め込んで、大荷物を持ってドアを開ける。
ちょうど行き合ったひろせも、大きな荷物を持っていた。
「おはよう、ひろせ
タケぽんが泊まりに来るんですか?」
「おはよう、白久
そうなんです、今日はタケシが泊まりに来てくれるんです
それで昨日はお菓子を焼きすぎちゃって
荒木も泊まりですか?」
お互いの荷物の多さで、飼い主の動向がわかってしまう。
「今日は、豪華なランチになりますね」
「はい、ランチもですが、お茶の時間を期待してください」
私たちは顔を見合わせて微笑み合った。
「おはよう、2人とも
今日はご相伴(しょうばん)に預かれそうなんで、僕は弁当作ってこなかったんだ
荷物、僕も持つの手伝うよ」
後ろから黒谷が声をかけてきた。
「お願いします」
私たち3人は足取りも軽く、しっぽやに向かっていった。
コンコン
ノックの前から、私には愛しい飼い主の気配が感じられていた。
「荒木」
腰掛けていた事務所のソファーから立ち上がり、一目散に飼い主の元へと駆け寄っていく。
ドアを開けて入ってきた荒木が私の顔を見て笑顔になった。
「白久、お疲れ様
いつもの肉屋でメンチと唐揚げ買ってきたんだ
まだ温かいよ、ランチに食べよ
ひろせ、タケぽんはパン屋に寄ってから行くって言ってたから、来るのもう少し後になるって」
荒木に渡された袋は温かく、それは幸せな心の温かさのようであった。
「今日は張り切ってお弁当を作ってきました
すぐに温め直しますね
それと、今日は午前中に2件の依頼を達成しました」
荒木は私の報告を誉めて、頭を撫でてくださった。
「荒木が来てくれると、シロが張り切るから助かるよ」
黒谷が朗らかに話しかけてくる。
「今日は日野は予備校で来れないから、黒谷、寂しいんじゃない?
ランチ、一緒に食べよう」
黒谷を気遣ってくれる荒木の優しさが嬉しい。
「ありがとう、それを期待して、今日はお弁当作らなかったんだ」
電話番を長瀞に頼み、私たちは控え室に移動して、楽しいランチを開始した。
インスタントスープを作り、温め直したおかずを並べ、テーブルの上が豪華になっていく。
遅れてきたタケぽんも加わって、皆で食べるランチは特別に美味しく感じられた。
「俺の好きなものばっかりだ、朝から作ってくれてありがとう白久」
隣に座る荒木が美味しそうに私の作った料理を食べるのを見ていると、会えなかった時間があったことなど忘れてしまうような幸福感に包まれる。
「メンチも揚げたてで美味しいです
わざわざお肉屋さんに寄ってきてくださって、ありがとうございます」
そう伝えると
「手作りじゃなくてごめんね」
荒木はそう言いながらも、照れた笑顔を見せてくれた。
「今日は荒木に名刺の補充をお願いしたいんだ
写真入りのやつ
あれ、すごく評判良いんだよね
何パターンか作ってもらえるとありがたいかな」
黒谷がスープを口にして、今日の業務内容を伝える。
「良かった、作ってるときは写真入れると子供っぽいかも、とか思ったけどさ
動物好きな人には、覚えてもらえるんじゃないかなって
フリー素材のイラスト探して、皆に近い犬種とか猫種があったら、そのバージョンも試してみたいんだ
しっぽやのロゴデザインとかも出来ると格好いいんだけどな」
荒木は真剣な顔で提案してくれた。
「先輩、しっぽやのロゴなら『格好いい』より『ほっこりかわいい』方が良いんじゃないですか?
ベタだけど『し』を猫の尻尾っぽくするとか」
「なら『ぽ』の半濁音は肉球イメージで?」
「それ可愛い!しかし『探偵』としてはファンシー過ぎますかね」
荒木とタケぽんが次々とアイデアを出してくれるが、私や黒谷、ひろせにはイメージが追いつかなかった。
それでも、飼い主達が私達のために一生懸命に何かをしてくれようとしている心は感じられる。
ランチを食べながら熱い議論を繰り広げる荒木とタケぽんを、私達は暖かな気持ちで見守るのであった。
やる気に溢れたその日は仕事がはかどり、私は夕方までにさらに2件の依頼をこなしていた。
荒木は新しい名刺を作ってくれた。
「ロゴデザインはもうちょっと待ってて
HPとか運営出来るようになったら、本格的に始動させてみたいんだ」
皆に名刺を配りながら荒木がそう伝える。
「シロも荒木もご苦労様
今日はもう上がって良いから、2人の時間をゆっくり楽しんで」
黒谷の言葉に甘え、私と荒木は事務所を後にする。
これからの時間を思い、私の心は軽かった。
「何というか、贅沢には慣れてしまうものですね」
私はため息と共にそんな言葉を吐き出した。
しっぽや事務所の所長席に座る黒谷が
「急に何を言い出すんだい、シロ」
少し苦笑しながら返事を返してくれる。
私は事務所のソファに深く身を預け
「荒木がバイトに来てくださらないと、張り合いが出ないんです」
また、ため息をついてしまう。
「飼い主が居ないときのシロは、控え室でうたた寝ばかりだったもんねー
猫達は君と寝られるの、楽しみにしてたみたいだけどさ
モフモフの秋田犬と寝るなんて、猫にしてみれば君は贅沢な毛布みたいなもんなのかな」
黒谷はクツクツと笑っている。
「この体はモフモフしてないと思うんですが
そういえば、以前は控え室で双子や長瀞に張り付かれてましたっけ
私的には猫と寝るのは、ちょっと暑かったんですけどね」
過去の自分を思いだし、思わず苦笑してしまった。
「荒木がバイトに来てくださる日は、最初は週末だけでしたが、クロスケ殿の機転のおかげで夏休み以降増やしていただけました
学校が始まってからも連日のようにお会い出来ていた状況が、今では遠く感じてしまいます」
予備校に通う荒木がバイトに来てくださる日は、今年の夏休み明けからかなり減ってしまっていた。
週に1回、多くて2回くらいだろうか。
飼い始めていただけた頃は週1回会えるだけでもこの上なく幸せだったのに、最近はその回数ではとても寂しく感じてしまうのだ。
「泊まりに来てくださる回数も減ってしまいましたし」
自分の部屋の荒木の居ないベッドが、やけに寒く感じられた。
「あー、確かに、飼い主が側にいてくれると言う贅沢には慣れてしまうね」
同じ思いを味わっているのであろう黒谷が、寂しそうな顔つきになった。
「以前に戻ったと思えば、何てことないはずなんだけどさ
夜中に目覚めて独りだと、とても心許ないんだ」
私たちは2人してため息をついてしまった。
「そうだ、シロも捜索頑張って荒木に良いとこ見せれば?
日野とウラが競ってるから、今、僕も大麻生も頑張ってるんだよ
流石に本職だった大麻生にはかなわなくて押され気味だけど、久しぶりに外回りすると新鮮だね」
黒谷の誘いに
「荒木はあまりそう言うことに興味がないようなので、遠慮しておきます
クロが捜索に出ている間は、所長代理として電話番を頑張りますから」
私は曖昧な笑みを浮かべて断った。
「シロ…所長の仕事は電話番だけじゃないんだけど…
まあ良いか、今度荒木が来たら名刺の追加してもらうから、手伝ってあげてよ
あの写真入りの名刺、受けが良いから何種類か欲しいんだ
あれ、良いアイデアだよね」
黒谷に飼い主を誉められ
「荒木はとても素晴らしい方ですから」
私は誇らかな気持ちになった。
黒谷とたわいないやり取りをしていると、上着のポケットが微かに振動する。
スマホを取り出して確認してみたら、荒木からのメールが入っていた。
内容を読んだ私の顔が緩んでしまう。
それだけで黒谷には内容の目星が付いたようで
「荒木が泊まりに来てくれることにでもなった?
それなら早めに上がって良いよ、少しでも長く一緒に居たいだろ?」
そんな言葉をかけてくれる。
「あ、いえ、今日ではないんですよ
今週末は予備校が無いから、バイトの後に泊まりに来てくれるそうです」
報告しながら久しぶりに荒木と過ごす夜のことを思い、胸に幸せが満ちあふれてきた。
「良かったじゃないか、じゃあ、荒木に良いとこ見せるために捜索頑張らなきゃね
お、良いタイミングで電話が
和犬系の捜索依頼だったら、お願いするよ
はい、ペット探偵しっぽやです」
電話に出る黒谷の声に聞き耳を立てる。
現金なもので、荒木に会えるとなると俄然やる気が出てきたのだ。
大麻生や黒谷には及ばなくとも、捜索成功の報告を荒木にしたくて仕方なかった。
「…はい、…はい
では捜査員を向かわせますので、その者にも再度説明をお願いします」
黒谷が受話器を置いて
「柴犬の依頼、行くよね、シロ?」
悪戯っぽい顔を私に向けてきた。
「もちろん!大麻生、とまでは行かなくても、クロくらいの捜索時間で見つけられるよう頑張りますよ」
私は黒谷から依頼メモを受け取り、依頼主の住所への移動方法を確認する。
「言ったな
僕はこないだ、大麻生より早く発見保護出来たんだけど」
得意げな顔の黒谷に
「では私も、それを目指してみます」
私も笑顔を向けた。
「それでは、行ってきます」
私はドアを開け階段を下りると、依頼主の家に向かうべく歩き出した。
季節は冬に移り変わり頬に触れる風は冷たかったが、飼い主と共に過ごせる週末を思うだけで心が温かくなっていく。
私は寒風をものともせず、颯爽と歩き続けるのであった。
週末、私はいつもより早い時間に起きだした。
『荒木のためにお弁当を作るのは、久し振りな気がする』
午前の授業を終えそのままバイトに来る荒木のためにお弁当を用意できることが、殊(こと)の外(ほか)嬉しく思えた。
荒木の好きなものを全部作って持って行きたかったが流石にそれは出来ないので、昨晩、メニューを厳選して考えておいたのだ。
それでも大量に出来てしまったおかずを重箱に詰め込んで、大荷物を持ってドアを開ける。
ちょうど行き合ったひろせも、大きな荷物を持っていた。
「おはよう、ひろせ
タケぽんが泊まりに来るんですか?」
「おはよう、白久
そうなんです、今日はタケシが泊まりに来てくれるんです
それで昨日はお菓子を焼きすぎちゃって
荒木も泊まりですか?」
お互いの荷物の多さで、飼い主の動向がわかってしまう。
「今日は、豪華なランチになりますね」
「はい、ランチもですが、お茶の時間を期待してください」
私たちは顔を見合わせて微笑み合った。
「おはよう、2人とも
今日はご相伴(しょうばん)に預かれそうなんで、僕は弁当作ってこなかったんだ
荷物、僕も持つの手伝うよ」
後ろから黒谷が声をかけてきた。
「お願いします」
私たち3人は足取りも軽く、しっぽやに向かっていった。
コンコン
ノックの前から、私には愛しい飼い主の気配が感じられていた。
「荒木」
腰掛けていた事務所のソファーから立ち上がり、一目散に飼い主の元へと駆け寄っていく。
ドアを開けて入ってきた荒木が私の顔を見て笑顔になった。
「白久、お疲れ様
いつもの肉屋でメンチと唐揚げ買ってきたんだ
まだ温かいよ、ランチに食べよ
ひろせ、タケぽんはパン屋に寄ってから行くって言ってたから、来るのもう少し後になるって」
荒木に渡された袋は温かく、それは幸せな心の温かさのようであった。
「今日は張り切ってお弁当を作ってきました
すぐに温め直しますね
それと、今日は午前中に2件の依頼を達成しました」
荒木は私の報告を誉めて、頭を撫でてくださった。
「荒木が来てくれると、シロが張り切るから助かるよ」
黒谷が朗らかに話しかけてくる。
「今日は日野は予備校で来れないから、黒谷、寂しいんじゃない?
ランチ、一緒に食べよう」
黒谷を気遣ってくれる荒木の優しさが嬉しい。
「ありがとう、それを期待して、今日はお弁当作らなかったんだ」
電話番を長瀞に頼み、私たちは控え室に移動して、楽しいランチを開始した。
インスタントスープを作り、温め直したおかずを並べ、テーブルの上が豪華になっていく。
遅れてきたタケぽんも加わって、皆で食べるランチは特別に美味しく感じられた。
「俺の好きなものばっかりだ、朝から作ってくれてありがとう白久」
隣に座る荒木が美味しそうに私の作った料理を食べるのを見ていると、会えなかった時間があったことなど忘れてしまうような幸福感に包まれる。
「メンチも揚げたてで美味しいです
わざわざお肉屋さんに寄ってきてくださって、ありがとうございます」
そう伝えると
「手作りじゃなくてごめんね」
荒木はそう言いながらも、照れた笑顔を見せてくれた。
「今日は荒木に名刺の補充をお願いしたいんだ
写真入りのやつ
あれ、すごく評判良いんだよね
何パターンか作ってもらえるとありがたいかな」
黒谷がスープを口にして、今日の業務内容を伝える。
「良かった、作ってるときは写真入れると子供っぽいかも、とか思ったけどさ
動物好きな人には、覚えてもらえるんじゃないかなって
フリー素材のイラスト探して、皆に近い犬種とか猫種があったら、そのバージョンも試してみたいんだ
しっぽやのロゴデザインとかも出来ると格好いいんだけどな」
荒木は真剣な顔で提案してくれた。
「先輩、しっぽやのロゴなら『格好いい』より『ほっこりかわいい』方が良いんじゃないですか?
ベタだけど『し』を猫の尻尾っぽくするとか」
「なら『ぽ』の半濁音は肉球イメージで?」
「それ可愛い!しかし『探偵』としてはファンシー過ぎますかね」
荒木とタケぽんが次々とアイデアを出してくれるが、私や黒谷、ひろせにはイメージが追いつかなかった。
それでも、飼い主達が私達のために一生懸命に何かをしてくれようとしている心は感じられる。
ランチを食べながら熱い議論を繰り広げる荒木とタケぽんを、私達は暖かな気持ちで見守るのであった。
やる気に溢れたその日は仕事がはかどり、私は夕方までにさらに2件の依頼をこなしていた。
荒木は新しい名刺を作ってくれた。
「ロゴデザインはもうちょっと待ってて
HPとか運営出来るようになったら、本格的に始動させてみたいんだ」
皆に名刺を配りながら荒木がそう伝える。
「シロも荒木もご苦労様
今日はもう上がって良いから、2人の時間をゆっくり楽しんで」
黒谷の言葉に甘え、私と荒木は事務所を後にする。
これからの時間を思い、私の心は軽かった。