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しっぽや(No.102~115)

「お帰り、お疲れさま!
 午前中はショッピングモールに買い物行って、事務所用にカルカッタオークション買ってきたんだ
 ソウちゃんこれで淹れたミルクティー好きだもんね
 ひろせがスコーン焼いてきてくれたから、アフタヌーンティーしよ
 クロテッドクリームとジャムも買ってきたし、何か本格的じゃん!」
事務所では愛しい飼い主が満面の笑みで出迎えてくれた。
『買い物に行く』と言っていたのは自分のために紅茶を買いに行ってくれていたのだとわかると、嬉しさのあまり涙が出そうになってしまう。
そんな自分をウラは優しく見つめて、キスをしてくれた。

「ウラ、クロテッドクリームって何?」
控え室でのお茶の席、日野が興味深そうにクリームの入った容器を眺めている。
「うーん、何か、牛乳で作ったクリーム?
 生クリームより重いけど、口の中に淹れるとサッとトロケる食感が良くて最近気に入ってんの
 焼き菓子に付けると、美味いんだよなー」
ウラはスコーンにクリームをたっぷりと乗せ、自分の前の小皿に置いてイチゴジャムを添えてくれる。
「何だよ、その曖昧な説明」
日野が苦笑する。
「美味いんだけど、説明しにくい味なんだって
 ちなみに、カズハ先輩に教えてもらいました」
ウラは同じようにクリームをたっぷり乗せたスコーンを日野の小皿に乗せた。
「何だかオシャレなクリームなのに、ジャムのチョイスがイチゴとか
 婆ちゃん育ちだよね」
「うちは、ジャムっつったら、イチゴだったの
 後はマーマレードな」
「わかる!うちも」
ウラと日野は打ち解けていて、屈託無く笑いあっていた。

自分も黒谷も、飼い主を幸せな想いで見つめる。
「ひろせは『ペンション』の猫だから、こんな風に飼い主とお茶をしたこともあったろうけどさ
 僕は日野に飼っていただいて初めて体験できたから、お茶の時間はいつも嬉しいんだ
 一緒にご飯を食べるのもね」
「自分もですよ
 猫達は犬より身近に人間と居られて、幸せです」
庭から家を伺うことしかできなかった犬の時に比べ、今の自分は何と幸せなのだろうとシミジミとした気分になった。
「でも、あのバカ犬は室内犬だったんだよね
 あんなデカい犬を部屋で飼おうなんて、凄い人がいたものだ
 あれはバブルの影響なのか」
「まったくですよ、今は犬に対する人の考え方が随分柔軟になりました
 ヤマさんですら手を焼いていた犬種を…」
黒谷と頷き合っていると
「ソウちゃん、お代わり淹れてあげるね」
ウラがカラになっている自分のカップを持ち上げる。
飼い主に気にかけてもらえ、胸の内に幸福感が満ちあふれた。


「ウラ、今日の捜索はまだ1件だけですが、多くの子供達に『格好いい』と誉めていただきました」
先程の出来事を思い出し、自分は誇らかに報告する。
「子供ですらわかるソウちゃんの格好良さ!
 凄い!マジ、パネェ!」
ウラはお代わりが入ったカップを置くと、自分に抱きついてきた。
そして得意げな視線を日野に向ける。
「子供に?よく大麻生に怯えなかったね」
日野は驚いた顔をした。
「子供達の1人が、ドーベルマンを飼っているようでしたから
 最近、人を守っている犬の気配を感じられるようになりました」
「ああ、それは僕も分かるようになったよ
 近い犬種だと特にわかるよね」
自分と黒谷の会話を聞いて
「ドーベルマン…?そう言えばあの後輩、小学生の弟がいたっけ」
日野はそんなことを呟いていた。


「今日は黒谷のとこに泊まってくよ」
日野がそう言い出したので、自分たちは夕飯を食べに一緒にファミレスに行くことにした。
この4人でファミレスに行くと、ウラと初めて会った時のことを思い出す。
日野が恐喝されていると聞き相手に憤慨していたはずなのに、自分はウラを目の前にして全ての思考が彼に支配されてしまった。
『この方に飼っていただきたい』
その時は心惹かれる人間に出会えた喜びより、このまま分かれなければいけないという不安の方が大きかった。
今となっては、それは遠い過去のことに感じられる。
ウラに飼っていただけて愛していただける現在が、自分の生きる全てであった。

「この面子でファミレスって、何か懐かしく感じるな」
ウラの呟きで、彼も同じ事を考えているのだとわかり嬉しくなる。
同じ過去を共有する、飼い主との思い出が宝物のように感じられた。

それから、皆で色々と食べたい物を言って注文する。
自分が勧めるメニューをウラは嬉しそうに頼んでくれた。
「ソウちゃんは、俺がガキの頃のご馳走メニューわかってくれてんだな」
自分を見て優しく微笑むウラに、彼の役に立てていのだと誇りがわいてくる。
ウラはヤマさんに育てられているため、自分でも分かるようなメニューを好んでくれるので夕飯を作るときも助かっていた。

その日、4人で囲んだテーブルは飼い主との新たな楽しい思い出となって胸に刻まれるのであった。




「いやー、食った食った
 日野ちゃんと一緒に食うと、色々試せて良いな
 ご馳走メニュー堪能しまくり」
部屋に戻ったウラは満足げな表情でソファーに腰掛けた。
「2人だと、あまり品数を多く作りませんからね
 もっと品数を増やした方が良いですか?」
そう問いかけると
「あんま多くても、残しちゃうからもったいないよ
 爺ちゃん、そーゆーのうるさかったから、『食べ物を粗末にするのは、もったいない』って身に染みついちゃっててさ
 それに俺、ソウちゃんの炒め物好きだから、それで作る丼物がご馳走なんだ
 丼物って、何かテンション上がるんだよなー
 そうだ、今度、麻婆茄子丼作って
 出来合いのシュウマイと餃子と春巻きも乗っければ、ボリューム満点中華チック丼じゃん」
ウラは朗らかに笑ってくれる。

「かしこまりました
 寒い夜には風邪をひかないよう、寝る前に温かい飲み物も作りましょう
 今日、皆にお汁粉や卵酒等の作り方を教わってきたんです」
「どうせ寝る前に体が温まることするけどね」
ウラはヘヘッと笑った後
「卵酒か…風邪ひいたとき、婆ちゃんが作ってくれたっけ」
少し懐かしそうに呟いていた。
「ウラに風邪をひかせないよう、今後は新郷のように自分も気を付けます」
「俺、どっちかっつーと暑がりだし、桜ちゃんほど柔じゃないって」
自分の言葉に、ウラは少し照れくさそうに笑ってくれた。

「本当は俺が、飼い犬の健康管理してやりたいんだけどな
 ミルクティーくらいしか作れなくて、ごめん
 今日は事務所に持ってったやつの他に、カズハ先輩お勧めの『ベルエポック』って紅茶も買ってきたんだ
 後、セイロンのルフナってやつ
 これ、ロイヤルミルクティーに合うんだって
 タケぽんにレンジで作れるロイヤルミルクティーの作り方教わったから、試してみようと思ってさ」
ウラはバッグから色々な茶葉を取り出して見せてくれた。
「けっこー買ったから、ここの店の会員になっちゃった
 このカード見せると、5%引きで買い物できるんだぜ
 カズハ先輩とお揃いなんだー」
嬉しそうな彼の笑顔に愛おしさが増していく。
思わず彼を抱きしめ
「ありがとうございます
 自分は、とても幸せな飼い犬です」
万感の思いを込め、そう告げた。

「うん、俺頑張って、ソウちゃんを世界で一番幸せな飼い犬にしてあげる」
ウラは自分の腕の中でうっとりと囁いた後
「俺も、幸せにしてもらって良い?」
少し艶めいた声音で言葉を続けた。
「もちろんです
 今夜はどのようなことを教えていただけますか」
自分も彼の耳元に口を寄せ、そっと囁き返す。
密着しあっているお互いの体はこれからの行為を思い、興奮のため熱を帯びてきていた。
「事務所で言っていた、鋲の付いた首輪を着けましょうか」
「あれに合いそうな鎖を買ってきたんだ、早速使ってみよう」
ウラは怪しくクツクツと笑う。
自分達は熱く見つめ合い、深く深く唇を合わせあった。


ウラが着ているシャツを脱がせ、首輪を着けてくれる。
その首輪に鎖を繋ぎ、軽くそれを引き寄せた。
飼い主に首を引かれる感覚に、彼に所有されているという喜びがわき上がる。
自分たちは息をするのももどかしく、激しくお互いの唇をむさぼりあった。
深く浅く舌を絡め、下半身をすり付けあう。
どちらの自身も服の上からでも分かるほど固く強ばっていて、それがさらに欲望に火を付けた。
すぐにでも繋がりたい想いを抑え、自分はウラのシャツを脱がせていく。
なめらかな胸に指を這わせ突起を摘むと
「ああ…ん」
ウラの唇から甘い吐息が漏れ出した。
暫くは彼の反応を見ながら左右の突起を弄ぶ。
ウラの甘い反応に刺激され、服の中で自身が痛いほど張りつめていた。

「ソウちゃ…、後ろから…来て」
甘いウラの懇願で、自分は後ろから彼を貫いた。
きつく自分を受け止めてくれるウラへの愛が溢れていく。
快楽を追い求めて体を動かしながら、自分はウラ自身に手を這わせた。
自分の動きに合わせるように、熱い彼自身に刺激を与えていく。
「あっ、あっ、ソウちゃ…
 そこ…良い、凄…あっ」
手の中に想いを吐き出したウラが仰け反って、ひときわ強く自分を締め付ける。
その刺激で、自分も熱い思いを彼の中に吐き出していた。

乱れる息を整えながら、ウラが軽く鎖を引っ張った。
自分は彼に顔を寄せ命令を待つ。
「まだ抜かないで、このままもう1回ヤレる?」
汗ばんだ肌に美しい金髪をまとい付かせ、ウラは興奮に潤む瞳で問いかけてくる。
「頑張ります」
自分は彼の頬にキスをして、そう答えた。

自分たちは夜が更けるまで、何度も繋がりあった。
どれだけ思いを解放しても、ウラに対する愛がわき上がってくる。
その想いは、枯れることのない泉にも似ていた。

出会った時は何故惹かれるのか分からなかった。
今でもその感覚は言葉に出来ない。
しかし彼と共に過ごし時を重ねるほど、さらに惹かれていく自分がいる。
その感覚は間違いではないと、腕の中の飼い主を見るたびに喜びと共に実感出来た。


飼い主と一つになるかけがえのない時間を過ごし、自分の中で煌めく思い出がまた増えたのであった。
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