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しっぽや(No.102~115)

side<TAKESI>

「タケシ、大麻生が正式に飼っていただけることになったんですって」
しっぽや事務所の所員控え室で、俺の恋人兼飼い猫のひろせが美しい顔を輝かせ、嬉しい報告をしてくれた。
大麻生は、ひろせが化生した直後にミイちゃんのお屋敷で暮らしていたとき、可愛がってくれていたシェパードの化生だ。
その縁で、彼がミイちゃんのお屋敷からしっぽやに来た後は、俺も親しく付き合っていた。

「今日、大麻生が休んでるのって、それでなのか
 あのキレイなお兄さんに、飼ってもらえることになったんだね」
俺は1回だけ会ったことのあるその人の顔を思い出していた。
「お祝いに、昨日焼いたクッキーを持って行ってみようかな
 飼い主さん、甘いもの好きだと良いけど」
ひろせはソワソワしている。
大麻生に飼い主が出来たことが、嬉しくて仕方ないのだろう。
新しい飼い主にも興味があるようだ。
実は俺も、興味はあった。
大麻生は超が付くほど真面目な化生だが、あのお兄さんは
『何かちょっと軽薄と言うか、チャラく見えたんだよね…』
失礼ではあったが、俺はそんな風に感じてしまっていたのだ。
大麻生をちゃんと飼えるのか、化生という存在を真摯に受け止めているのか気になっていた。

「行くなら、俺も一緒に行っていい?」
伺うように聞いてみると
「もちろんです、僕一人で行ったら、大麻生に延々自慢話を聞かされそうだもの」
ひろせは笑いながら答えてくれた。
「良かったら大麻生の部屋に行った後、泊まっていきませんか
 話し込んだら、遅くなっちゃうかもしれないし」
今度はひろせが伺うように聞いてきた。
「あ、う、うん、そうしよっかな」
大麻生をダシに使うみたいで少し申し訳なかったけど、俺はその提案にのることにする。
急遽ひろせの部屋にお泊まりが決まり、その後の俺は浮かれた状態でバイトに精を出すのであった。



業務終了後、影森マンションのひろせの部屋に2人で帰り、ひろせお手製お菓子詰め合わせを持って大麻生の部屋を訪れた。
「どうぞ、お上がりください」
大麻生に促され、俺達は少し緊張しながら部屋に入っていった。
「あ、前にお菓子くれた可愛子ちゃんと、彼氏君じゃん
 あのお菓子、美味しかったよ
 そっか、もしかして可愛子ちゃんって化生ってやつ?
 俺並の美形なんて、そうそう居ないもんな
 彼氏君は人間だろ、化生みたいな煌めきオーラ出てないし」
大麻生の飼い主は、美しい顔でカラカラと笑いながら指摘する。
チャラく見えても、洞察力はあるようであった。

「はい、あの、ひろせの飼い主の武川 丈志(たけかわ たけし)です」
俺が頭を下げると
「何だか『タケ』がクドい名前だな
 俺は大麻生の飼い主の山口 浦(やまぐち うら)でーす
 『ソウちゃんの飼い主』だって、自分で言ってて照れるぜ」
山口さんは嬉しそうな顔で大麻生の腕にしがみついた。
しがみつかれた大麻生は、もっと嬉しそうな顔になる。
こんな大麻生の顔を見るのは、初めてだった。
俺が心配するまでもなく、この2人はきちんと飼い主と飼い犬になっていることがうかがえた。

「名前の『タケ』がクドいのは、前にゲンちゃんにも言われました
 俺のことは『タケぽん』で良いですよ」
「確かに、ゲンちゃんが言いそう
 俺は『ウラ』でいいよ
 よろしくな、タケぽん」
ウラは既にゲンちゃんと顔馴染みのようだ。

「タケぽんって、仕事とかしてる?」
ウラは少し伺うように俺を見る。
「しっぽやで、バイトしてます」
「バイト?もしかして、まだガッコー行ってんのか
 大学院とか言うんだっけ?お前、頭良いんだな」
俺の答えで、ウラはため息を付く。
ちみっこ先輩達と知り合ってから大学生だと思われたことはよくあったけど、大学院生だと思われた事は初めてだ。
自分がどんどん老けていく気がして、俺はガックリしてしまう。
「俺、この春、高校に入ったばっかです
 日野先輩と荒木先輩には会いましたか?
 あの2人と同じ高校行ってます」
そう告げるとウラの動きが止まり、瞳が驚愕に見開かれた。

「高…校…?春に入ったって事は、1年生…?
 いや待て、俺、算数苦手だから計算間違ってんのかも
 ああ、夜学ってとこだと年齢関係ないんだっけ
 日野ちゃんって、夜学だったのか?」
ウラはかなり混乱しているようであった。
「俺、今16歳です」
数字を伝えた方が分かりやすいかと年齢を教えると
「…マジ?十代?!ってことは、俺より5こも下かよ!
 日野ちゃんの親、って言われた方がまだ納得できるんだけど
 お前、マジ、パネェな!」
驚き過ぎているのか、ウラに変な感心をされてしまった。
あまりに失礼な言いぐさではあったが、あの童顔先輩達を見ていれば仕方がない。
俺は力なく笑うことしか出来なかった。


一通り挨拶をすませた後、俺とひろせは大麻生の部屋でお茶を飲んでいくことになった。
「お手軽なもんで悪いけど、うちの定番」
ウラは悪戯っぽくウインクすると、パックの紅茶でアイスミルクティーを作ってくれた。
持ってきたお菓子を食べながら、ウラが大麻生を飼うに至った経過をかいつまんで説明される。
ウラと日野先輩の関係とかちょっと要領を得ない部分もあったけど、それは不思議な縁を感じさせる話であった。

「俺とひろせは、特にそんな繋がりはないんだよな」
羽生と中川先生、ジョンと月さん、黒谷と日野先輩、縁がある飼い主と化生も多いから、少しそれを羨ましく感じてしまう。
「でも僕たちだって、心は誰よりも繋がっています」
ひろせが俺の心を敏感に察知して、そっと寄り添ってくれた。
「そうだね、ひろせの考えてることなら分かるよ」
俺がひろせの髪を撫でると、俺への愛の気持ちが温かく胸に流れ込んでくる。
それは、いつ感じても幸せな思いになれるものであった。

「ウラ、タケぽんはアニマルコミュニケーターの能力があるそうなんです 
 動物の思いを感じ取ることが出来るとか」
大麻生に説明されると、ウラはまたもや驚いた顔で俺を見た。
「何それ、超能力みたいなもん?
 ソウちゃん、うかつに昨夜のこととか思い出せないじゃん
 高校生にはまだ早いこと、俺達してるから」
ウラは艶めいた瞳で大麻生を見て、その腕に抱きついた。
「ひろせ以外は、そんなに細かく気持ちは分かりませんよ
 つか、そんなプライベートなこと知ってもしょうがないし」
俺はちょっと赤くなってしまう。
「そうなの?どうせなら自慢しよっかなー、とか思ったのに」
流し目でこちらを見て笑うウラに、ますます顔が火照ってしまった。
モジモジする俺を見て
「なんだ、体はデカいけど、まだお子様か」
ウラは可笑しそうに笑っていた。


それからいろいろと話し込んでいたので、ひろせの部屋に戻ったのはかなり遅い時間になってしまった。
「前もって泊まることにしといて良かったよ
 あんまり直前に連絡すると、さすがに親が心配するからさ」
俺はひろせにヘヘッと笑ってみせた。
「ウラってキレイだけど、気さくで話しやすい人だったね」
大麻生を見るときの優しげな彼の瞳を思い出し、最初に感じていたチャラい印象は消えていた。
「ええ、ウラは大麻生のことを、とても大事に思ってくださっているようでした
 良い人に飼っていただけたようです
 三峰様も安心なさるでしょう」
ひろせは嬉しそうに笑っている。

「ウラもキレイだけど、ひろせの方がもっとキレイだからね」
俺はひろせを抱き寄せキスをして、心の中で愛の言葉を思い浮かべた。
「タケシも大麻生より格好良いです」
ひろせはうっとりとした顔で俺に抱かれていた。
彼からも、愛の言葉が心に流れ込んでくる。
「ん…」
俺達のキスは、徐々に激しいものに変わっていった。

「ひろせ、明日も仕事だけど、して良い?」
耳元に唇を寄せ囁くように聞いてみると
「はい、タケシも学校がありますよね
 負担にならないようなら、して欲しいです」
ひろせは熱い吐息とともに答えてくれる。
俺達はさらに激しく唇を求め合った。
密着している下半身は、お互いに堅く反応している。
直ぐにでも繋がりたい欲望を我慢して、俺は唇を合わせたままのひろせを抱き上げベッドに移動した。

彼の服を脱がせ自分も服を脱ぎ捨てて、首筋やすべらかな胸元に唇を這わせていく。
胸の突起を口に含み舌で刺激すると
「あ…ん、タケシ」
ひろせはビクンと体を震わせ甘い悲鳴を上げる。
それが愛しくて可愛くて、俺の欲望はますます加速していった。
「タケシ…、きてください」
誘うように怪しく身をくねらせるひろせに応えるため、俺は自身をその体に埋めていく。
「ひっ…、あっ…」
大きく仰け反ったひろせが、俺を迎え入れてくれた。

「ひろせ、愛してる、ひろせ…」
激しく動きながら、何度も彼の名前を口にする。
心が繋がっていても、きちんと口に出して伝えたかった。
「タケシ、タケシ、僕も愛してる」
俺を締め付けながら、ひろせもそれに応えてくれる。
俺達はお互いが与える快楽に身を任せ、想いの全てを解放し合った。
1度では熱が治まらず、その後も何度か繋がり合ったため、気が付くと時刻は深夜を回っていた。
時計を見つめ、俺達は少し笑ってしまう。

「ひろせと居ると、時間がどんどん過ぎてくよ」
「僕も、そう感じます
 もっとずっと一緒に居たい」
甘えるようにすり寄ってくるひろせを胸に抱き
「ずっと一緒に居られる時が、きっと来るから」
俺は彼の髪の感触を楽しみながら、そっと撫で続けた。
「はい、それを思いながら時を重ねていくのも楽しそうです」
クスリと笑うひろせに
「俺もだよ」
笑ってそう答え、俺達は同じ未来を夢に見ながら眠りに落ちるのであった。
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