しっぽや(No.102~115)
side<KAZUHA>
化生の関係者に、新しい仲間が加わった。
大麻生の飼い主『山口 浦(やまぐち うら)』さんである。
大麻生は僕の飼い犬の空と同じ武衆(ぶしゅう)で働いていたこともあるので、しっぽやに戻ってきた後は親しくしていた。
真面目な大型洋犬で好ましい化生のため、飼い主が決まったことは素直に嬉しいことであった。
浦さんはとてもキレイな方で、初めて会ったときは猫の化生だと思ってしまった。
失礼なことを言ってしまった僕に浦さんは気分を害した様子もなく、店のバイトをしてくれると言ってくれた。
今まで、こんなに派手でキレイで自信満々な人に普通に接してもらった事がなかった僕は、とても驚いてしまう。
彼のような人たちは、大抵僕みたいな弱虫が嫌いなのだ。
何もしなくとも側にいるだけで不興を買って嫌なことを言われることが多く、僕はいつも身構えてしまっていた。
けれども浦さんは違う。
『化生の関係者』
それは最初から心開ける証のように感じられた。
今日はウラさんが店のバイトに面接(僕から頼み込んだことではあるが、便宜上面接が必要なのだ)に来てくれた。
初めて会ったときより大人しめの服装にアクセサリー類は抜き、髪は結わえてもらっているけれど、とてもキレイな人だから、一緒に歩いていることに少し引け目を感じてしまった。
面接の後、僕は馴染みのドッグカフェでお礼にランチを奢ることにした。
『しまった、こーゆー人はファミレスとか一般的な店の方が良かったのかも』
僕は早くも自分の迂闊さ加減に落ち込んでしまう。
しかし彼は店内をキョロキョロと見回して
「俺、ドッグカフェなんて初めて
犬と一緒に入れるって、格好いい店じゃん」
輝くような笑顔を見せてくれた。
ホッとした僕はメニューを手渡し
「僕の奢りなので、好きなものを頼んでください」
普通にそう言うことが出来た。
「すげー、どれも美味しそう
ローストビーフサンドだって、ポテトも付いてて超ボリューム!
良いじゃん、俺、これにしよっと」
浦さんが迷わず空のお気に入りメニューを選んだので、僕は思わず笑ってしまった。
「?」
浦さんに不思議そうな顔を向けられ
「あ、いえ、もっとヘルシーなのを頼むのかと」
僕は慌ててしまう。
「いやいや、まだ育ち盛りだし、肉食系っすから
とは言え、体型には気を付けないとなー」
彼はお腹の辺りをさすってみせた。
浦さんは顔がキレイなだけでなく、体つきも美しかった。
自分の貧弱な体型に、また彼に対し引け目を感じてしまう。
「僕は秋鮭とキノコの和風パスタにします」
「秋っぽい限定メニュー!それ、俺もちょっと気になってたんだ
婆ちゃんの料理で育ってるから、俺、和食系も好きでさ」
浦さんが瞳を輝かせるので
「取り分け皿もらって、少し食べてみます?」
僕はそう提案してみた。
「シェア良いね!
俺のも食べて、カズハ先輩って痩せてるから肉も食わなきゃ」
彼の自然な言葉に
「せ、先輩?」
僕はビックリしてしまう。
「だって、ペットショップでも化生の飼い主としても先輩でしょ?
年も、そうですよね
大学卒業してから働いてるんなら、25、6歳くらい?」
伺うように聞いてくる彼に
「あの、僕、大学には行ってないんです
専門学校には1年行ってたけど
歳は今、23です」
僕はしどろもどろに答える。
バカにされるかな、と思ったけど
「なんだ、俺、21だから、そんなに違わないじゃん
てか、俺も大学行ってないんだ、お揃いお揃い
良かったー、しっぽやの受験生達見て、ちょっと引け目に感じててさー」
彼は華やかに笑ってくれた。
「僕、少し引きこもってた時期があったから、高校卒業したのも、出席日数とか本当にギリギリだったんです」
彼の笑顔に後押しされ、つい聞かれてもいないことまでしゃべってしまう。
「マジ?俺も超絶ギリギリで高校卒業してんだ
あの頃は悪い奴らとツルんでて、ろくに学校行ってなかったからなー
何だー、俺たち似てるじゃん」
こんなにキレイで明るい人に『似てる』と言われて、僕はさっきよりビックリする。
「浦さんて、優しい人ですね」
僕がため息とともに告げると、彼はまた不思議そうな顔になった。
「優しい?何かよく分かんないけど、浦さんって呼ばれるのシックリこないな、下心丸出しの奴に呼ばれてるみたいでさ
『ウラ』で良いって
でも俺は『カズハ先輩』って呼ばせて
俺のこと欲しがらない優しい先輩出来たの初めてだもん
って、あれ?高校んとき、俺も先輩達から日野ちゃんと同じ目にあわされてたのか?
そこまで無理矢理じゃなかったし、小遣い貰ってたから気付かなかった」
よく分からないけど、彼は一人で納得していた。
「あの、ウラ」
僕は恐る恐る呼び捨てで彼に話しかけてみる。
「何?」
ウラはごく自然に返事をしてくれた。
「この店、デザートも美味しいんだ
ケーキもシェアする?」
僕の提案に
「良いね!肉球ケーキっての気になってたんだよ」
彼はまた、華やかな笑顔で答えてくれるのであった。
「化生って、不思議な存在だよなー」
ウラがデザートのケーキをつつきながらしみじみとそんなことを言うので、僕も思わず盛大に頷いてしまった。
「ゲンさんの考察を色々聞かせてもらったんですが、根本的なことは謎すぎるって言ってました
何で選んでもらえたのか、全く分からないと
僕もそう思います
空の元の飼い主って大柄で筋肉質で、いかにも『大型犬の飼い主』って人だったから
性格も豪快というか自信家、でも几帳面なとこもあったかな
犬だったときの空のゴハン、バッチリ栄養管理して手作りしてたから」
僕は空の記憶の転写で見た『あのお方』の事を思い出していた。
「何で僕みたいなウジウジした人間を選んでくれたのか、最初は不安でした
それに、僕もちょっと、空に対して後ろ暗いところがあって…」
僕は以前の飼い犬の姿を、空の中に重ねて見ていたのだ。
けれども今は違う。
僕は空を空として好きだし、空も今では僕だけを飼い主として認めてくれていることを知っている。
僕達の心の距離は確実に近付いて、今では重なっていた。
「荒木君は白久の元の飼い主と面差しが似ているそうです
日野君は、過去世で黒谷の飼い主だったとか
中川先生は中学生の時に羽生を飼っていたんですって
月さんはお祖父さんがジョンの飼い主だったし、化生と飼い主の関係って本当に色々ありますね」
僕は他の化生と飼い主のことについて知っていることを、化生の関係者になってまだ日の浅いウラに説明してあげた。
初めて出来た『後輩』に、少し先輩風を吹かせたかったのかもしれない。
ウラは興味深そうに僕の話を聞いてくれた。
「元の飼い主と正反対、ってのは俺も一緒だよ
元の飼い主は責任感が強くて、真面目な人でさ
自分が体壊しても、ソウちゃんの面倒みてくれてたんだ
俺、チャラチャラしてて不真面目だけど、そこだけは見習いたい
俺も最後までソウちゃんの面倒みたいよ」
ウラはそう言って、美しく微笑んだ。
「って、格好良いこと言ったところで、実際俺が面倒みてもらってるんだけどさ
絶賛ヒモ街道爆走中って感じ
ここは少しでも働いて、ソウちゃんに新しい首輪のひとつも買ってやりたい訳なんだ
さっきの面接、俺、大丈夫かな」
ウラは伺うように僕の顔をのぞき込んできた。
「大丈夫ですよ、店長もチーフマネージャーもすぐに代わりの人員がみつかって喜んでたし
『良い人そう』って言ってました」
僕が伝えると
「『良い人』?何かくすぐったい言われ方
今までそんなの言われたことないや」
ウラは照れたように笑っていた。
「ウラ、大麻生に首輪を買ってあげるんですか?」
僕は先ほどのウラの言葉で気になっていた事を聞いてみる。
「ん?まあね、ソウちゃん黒い首輪が超似合っててセクシーだから
あれ着けたソウちゃんとすると、超燃える」
ウラはウットリとした顔を見せた。
「カズハ先輩は?空に首輪とか買ってやらないの?
エッチの時、小道具用意しない派?」
逆にウラに聞き返され
「え?いえ、僕は首輪は買ってあげたことはないです
伊達眼鏡は買ってあげたけど
って、エッチの時って、な、何ですかそれ」
僕はうろたえながら答えるしかなかった。
「空とは、ちゃんとエッチしてるんでしょ?
空、カズハ先輩の寝顔が可愛いって言ってたよ」
ニヤニヤ笑う美しい顔を前に、僕は真っ赤になって俯いてしまう。
「つかさー、俺、本当にカズハ先輩って凄いと思うよ
だってハスキーの飼い主出来てるんだもん
もっと自信もって良いとこッスよ、それ
あんな大型の体力バカ犬種の相手出来るなんて、マジ尊敬
ソウちゃんは大型犬っても、素直で頭良くてさー
エッチの主導権も基本は俺だし
すげー良すぎて、こっちが訳わかんなくなっちゃう時もあるけどね」
艶やかな顔でサラリととんでもないことを言うウラに、僕は益々何も言えなくなってしまう。
「カズハ先輩も小道具用意すると、ちょっと雰囲気変わって燃えますよ
首輪、ハスキーだと何色が似合うかな
空はグレー系の毛色だから、やっぱ黒?」
ウラにそんなことを言われ、僕はつい首輪を着けた空の姿を想像してしまった。
「黒も似合うけど、赤が華やかかも
でもハスキーって首輪より、チェーンやバンダナの方が似合うと思うんですよね」
思わずそう口走ってしまう。
「カズハ先輩、マニアック!
チェーンかー、シェパードにも似合いそう
でも、バンダナはどうかな」
首を捻るウラに
「シェパードなら、ネクタイの方が似合いそうですね
編んだ革紐とかも良いかな」
僕は何だか真剣に答えてしまった。
「ネクタイ、シェパードの真面目っぽい雰囲気に合う!
でも、裸ネクタイのソウちゃんに抱かれるのって、コントみたいな気も…
しかし、試してみる価値はあるな
よし、さっそく今晩やってみるか
貴重なご意見、アザーッス」
満面の笑みのウラに頭を下げられて、我に返った僕はまた赤くなって俯くことしか出来ないのであった。
化生の関係者に、新しい仲間が加わった。
大麻生の飼い主『山口 浦(やまぐち うら)』さんである。
大麻生は僕の飼い犬の空と同じ武衆(ぶしゅう)で働いていたこともあるので、しっぽやに戻ってきた後は親しくしていた。
真面目な大型洋犬で好ましい化生のため、飼い主が決まったことは素直に嬉しいことであった。
浦さんはとてもキレイな方で、初めて会ったときは猫の化生だと思ってしまった。
失礼なことを言ってしまった僕に浦さんは気分を害した様子もなく、店のバイトをしてくれると言ってくれた。
今まで、こんなに派手でキレイで自信満々な人に普通に接してもらった事がなかった僕は、とても驚いてしまう。
彼のような人たちは、大抵僕みたいな弱虫が嫌いなのだ。
何もしなくとも側にいるだけで不興を買って嫌なことを言われることが多く、僕はいつも身構えてしまっていた。
けれども浦さんは違う。
『化生の関係者』
それは最初から心開ける証のように感じられた。
今日はウラさんが店のバイトに面接(僕から頼み込んだことではあるが、便宜上面接が必要なのだ)に来てくれた。
初めて会ったときより大人しめの服装にアクセサリー類は抜き、髪は結わえてもらっているけれど、とてもキレイな人だから、一緒に歩いていることに少し引け目を感じてしまった。
面接の後、僕は馴染みのドッグカフェでお礼にランチを奢ることにした。
『しまった、こーゆー人はファミレスとか一般的な店の方が良かったのかも』
僕は早くも自分の迂闊さ加減に落ち込んでしまう。
しかし彼は店内をキョロキョロと見回して
「俺、ドッグカフェなんて初めて
犬と一緒に入れるって、格好いい店じゃん」
輝くような笑顔を見せてくれた。
ホッとした僕はメニューを手渡し
「僕の奢りなので、好きなものを頼んでください」
普通にそう言うことが出来た。
「すげー、どれも美味しそう
ローストビーフサンドだって、ポテトも付いてて超ボリューム!
良いじゃん、俺、これにしよっと」
浦さんが迷わず空のお気に入りメニューを選んだので、僕は思わず笑ってしまった。
「?」
浦さんに不思議そうな顔を向けられ
「あ、いえ、もっとヘルシーなのを頼むのかと」
僕は慌ててしまう。
「いやいや、まだ育ち盛りだし、肉食系っすから
とは言え、体型には気を付けないとなー」
彼はお腹の辺りをさすってみせた。
浦さんは顔がキレイなだけでなく、体つきも美しかった。
自分の貧弱な体型に、また彼に対し引け目を感じてしまう。
「僕は秋鮭とキノコの和風パスタにします」
「秋っぽい限定メニュー!それ、俺もちょっと気になってたんだ
婆ちゃんの料理で育ってるから、俺、和食系も好きでさ」
浦さんが瞳を輝かせるので
「取り分け皿もらって、少し食べてみます?」
僕はそう提案してみた。
「シェア良いね!
俺のも食べて、カズハ先輩って痩せてるから肉も食わなきゃ」
彼の自然な言葉に
「せ、先輩?」
僕はビックリしてしまう。
「だって、ペットショップでも化生の飼い主としても先輩でしょ?
年も、そうですよね
大学卒業してから働いてるんなら、25、6歳くらい?」
伺うように聞いてくる彼に
「あの、僕、大学には行ってないんです
専門学校には1年行ってたけど
歳は今、23です」
僕はしどろもどろに答える。
バカにされるかな、と思ったけど
「なんだ、俺、21だから、そんなに違わないじゃん
てか、俺も大学行ってないんだ、お揃いお揃い
良かったー、しっぽやの受験生達見て、ちょっと引け目に感じててさー」
彼は華やかに笑ってくれた。
「僕、少し引きこもってた時期があったから、高校卒業したのも、出席日数とか本当にギリギリだったんです」
彼の笑顔に後押しされ、つい聞かれてもいないことまでしゃべってしまう。
「マジ?俺も超絶ギリギリで高校卒業してんだ
あの頃は悪い奴らとツルんでて、ろくに学校行ってなかったからなー
何だー、俺たち似てるじゃん」
こんなにキレイで明るい人に『似てる』と言われて、僕はさっきよりビックリする。
「浦さんて、優しい人ですね」
僕がため息とともに告げると、彼はまた不思議そうな顔になった。
「優しい?何かよく分かんないけど、浦さんって呼ばれるのシックリこないな、下心丸出しの奴に呼ばれてるみたいでさ
『ウラ』で良いって
でも俺は『カズハ先輩』って呼ばせて
俺のこと欲しがらない優しい先輩出来たの初めてだもん
って、あれ?高校んとき、俺も先輩達から日野ちゃんと同じ目にあわされてたのか?
そこまで無理矢理じゃなかったし、小遣い貰ってたから気付かなかった」
よく分からないけど、彼は一人で納得していた。
「あの、ウラ」
僕は恐る恐る呼び捨てで彼に話しかけてみる。
「何?」
ウラはごく自然に返事をしてくれた。
「この店、デザートも美味しいんだ
ケーキもシェアする?」
僕の提案に
「良いね!肉球ケーキっての気になってたんだよ」
彼はまた、華やかな笑顔で答えてくれるのであった。
「化生って、不思議な存在だよなー」
ウラがデザートのケーキをつつきながらしみじみとそんなことを言うので、僕も思わず盛大に頷いてしまった。
「ゲンさんの考察を色々聞かせてもらったんですが、根本的なことは謎すぎるって言ってました
何で選んでもらえたのか、全く分からないと
僕もそう思います
空の元の飼い主って大柄で筋肉質で、いかにも『大型犬の飼い主』って人だったから
性格も豪快というか自信家、でも几帳面なとこもあったかな
犬だったときの空のゴハン、バッチリ栄養管理して手作りしてたから」
僕は空の記憶の転写で見た『あのお方』の事を思い出していた。
「何で僕みたいなウジウジした人間を選んでくれたのか、最初は不安でした
それに、僕もちょっと、空に対して後ろ暗いところがあって…」
僕は以前の飼い犬の姿を、空の中に重ねて見ていたのだ。
けれども今は違う。
僕は空を空として好きだし、空も今では僕だけを飼い主として認めてくれていることを知っている。
僕達の心の距離は確実に近付いて、今では重なっていた。
「荒木君は白久の元の飼い主と面差しが似ているそうです
日野君は、過去世で黒谷の飼い主だったとか
中川先生は中学生の時に羽生を飼っていたんですって
月さんはお祖父さんがジョンの飼い主だったし、化生と飼い主の関係って本当に色々ありますね」
僕は他の化生と飼い主のことについて知っていることを、化生の関係者になってまだ日の浅いウラに説明してあげた。
初めて出来た『後輩』に、少し先輩風を吹かせたかったのかもしれない。
ウラは興味深そうに僕の話を聞いてくれた。
「元の飼い主と正反対、ってのは俺も一緒だよ
元の飼い主は責任感が強くて、真面目な人でさ
自分が体壊しても、ソウちゃんの面倒みてくれてたんだ
俺、チャラチャラしてて不真面目だけど、そこだけは見習いたい
俺も最後までソウちゃんの面倒みたいよ」
ウラはそう言って、美しく微笑んだ。
「って、格好良いこと言ったところで、実際俺が面倒みてもらってるんだけどさ
絶賛ヒモ街道爆走中って感じ
ここは少しでも働いて、ソウちゃんに新しい首輪のひとつも買ってやりたい訳なんだ
さっきの面接、俺、大丈夫かな」
ウラは伺うように僕の顔をのぞき込んできた。
「大丈夫ですよ、店長もチーフマネージャーもすぐに代わりの人員がみつかって喜んでたし
『良い人そう』って言ってました」
僕が伝えると
「『良い人』?何かくすぐったい言われ方
今までそんなの言われたことないや」
ウラは照れたように笑っていた。
「ウラ、大麻生に首輪を買ってあげるんですか?」
僕は先ほどのウラの言葉で気になっていた事を聞いてみる。
「ん?まあね、ソウちゃん黒い首輪が超似合っててセクシーだから
あれ着けたソウちゃんとすると、超燃える」
ウラはウットリとした顔を見せた。
「カズハ先輩は?空に首輪とか買ってやらないの?
エッチの時、小道具用意しない派?」
逆にウラに聞き返され
「え?いえ、僕は首輪は買ってあげたことはないです
伊達眼鏡は買ってあげたけど
って、エッチの時って、な、何ですかそれ」
僕はうろたえながら答えるしかなかった。
「空とは、ちゃんとエッチしてるんでしょ?
空、カズハ先輩の寝顔が可愛いって言ってたよ」
ニヤニヤ笑う美しい顔を前に、僕は真っ赤になって俯いてしまう。
「つかさー、俺、本当にカズハ先輩って凄いと思うよ
だってハスキーの飼い主出来てるんだもん
もっと自信もって良いとこッスよ、それ
あんな大型の体力バカ犬種の相手出来るなんて、マジ尊敬
ソウちゃんは大型犬っても、素直で頭良くてさー
エッチの主導権も基本は俺だし
すげー良すぎて、こっちが訳わかんなくなっちゃう時もあるけどね」
艶やかな顔でサラリととんでもないことを言うウラに、僕は益々何も言えなくなってしまう。
「カズハ先輩も小道具用意すると、ちょっと雰囲気変わって燃えますよ
首輪、ハスキーだと何色が似合うかな
空はグレー系の毛色だから、やっぱ黒?」
ウラにそんなことを言われ、僕はつい首輪を着けた空の姿を想像してしまった。
「黒も似合うけど、赤が華やかかも
でもハスキーって首輪より、チェーンやバンダナの方が似合うと思うんですよね」
思わずそう口走ってしまう。
「カズハ先輩、マニアック!
チェーンかー、シェパードにも似合いそう
でも、バンダナはどうかな」
首を捻るウラに
「シェパードなら、ネクタイの方が似合いそうですね
編んだ革紐とかも良いかな」
僕は何だか真剣に答えてしまった。
「ネクタイ、シェパードの真面目っぽい雰囲気に合う!
でも、裸ネクタイのソウちゃんに抱かれるのって、コントみたいな気も…
しかし、試してみる価値はあるな
よし、さっそく今晩やってみるか
貴重なご意見、アザーッス」
満面の笑みのウラに頭を下げられて、我に返った僕はまた赤くなって俯くことしか出来ないのであった。