しっぽや(No.102~115)
「大麻生」
思わず情けない声が口から出てしまう。
大麻生はやっと書類から顔を上げ俺たちを見るが、『何かご用でしょうか』と言った感じで見つめてくるばかりであった。
そんな時、扉が開いて捜索から戻ってきた白久が控え室に入ってくる。
その姿を、危機的状況を打開してくれる騎士のように感じてしまった。
しかし白久はウラに抱きしめられている俺を見ても、いつものように
「荒木、ただいま戻りました
無事保護出来て、依頼達成です」
と誇らかに報告してくるだけだった。
ウラの唇が、また頬に触れキスをされる。
「うーん、やっぱ人間同士でイチャイチャしてても何の反応も無しか」
気が付くとウラは横目で大麻生のことを見つめていた。
「荒木少年って可愛いよなー」
ウラがわざとらしい声を出すと
「そうなんです、荒木は本当にお可愛らしいんですよ
笑顔が春の日差しのように暖かで、心まで幸せになれます」
白久が嬉しそうに反応する。
「ウラは荒木とは違い可愛らしいと言うよりは美しいからな
煌めかしいと言えば良いのだろうか
闇夜を照らす月のような、崇拝に値(あたい)する存在だ」
大麻生も白久に負けまいとウラを讃辞し始めた。
助けを求めようと思っていたけど、そんな犬達の態度を見ているとウラの考えていることが分かってきた。
白久は俺が他の化生や本物の犬や猫を撫でると、露骨に羨ましそうな顔を見せる。
そう言えば、それは俺が他の人間と居るときには見たことは無かった。
もっとも、こんなに他人に接近した状態を白久に見せたことは無い。
この状況に白久が反応を見せるのか、興味がわいてきた。
俺は抵抗をやめて、大人しくウラに従うことにした。
「ソウちゃん、羨ましくない?」
ウラが更に俺を抱きしめ、優しく髪を撫でながら頬を擦り寄せてくる。
大麻生は
「荒木とすぐに仲良くしていただけて、良かったですね」
と、微笑ましいものを見る顔でそう答えた。
「飼い主同士、仲が良いのはいいことです」
白久も優しく微笑んでいた。
「だってさ」
ウラは俺を見つめて、少し苦笑する。
思わず俺も、同じ様な顔をしてしまった。
気が抜けた俺の唇に、ウラが唇を合わせてきた。
流石に舌は入れてこなかったが、それは軽いキスではなかった。
「荒木…何やってんの?」
いつの間にか帰ってきていた日野が、控え室の扉の影から俺たちをジト目で見ていた。
こんな状況を親友に見られ、恥ずかしいやら情けないやら俺はパニックになってしまう。
「いや、違、その、ウラが無理矢理」
泣きそうな俺に
「お前、金取られるぞ
ウラって、けっこー高いんだぜ」
日野は冷たく言い放った。
「何でこっちが金取られるんだよ」
理不尽な言葉すぎて、ますますパニックになってしまう。
「ここまでやっても犬達には反応無しか」
ウラは俺のパニックなど歯牙にもかけていなかった。
「あ、俺さっきソウちゃんとキスしたから、荒木少年とソウちゃん間接キスじゃん」
わざとらしいウラの言葉で、白久が大麻生に視線を向ける。
大麻生は申し訳なさそうに視線を下げた。
『そこ?そこを気にするの?
むしろ、飼い主の暴挙を気にして欲しい』
俺は改めて、化生との感覚の違いにガックリする。
「荒木少年だけ虐めるのも可哀相だな
せっかくだから日野ちゃんも、って、居やしねぇ
陸上部のエース、逃げ足パネェ」
控え室の扉の側にはスーパーのビニール袋が置かれており、先ほどまで居たはずの日野の姿はどこにも無かった。
とっくに黒谷のところに避難したようだ。
「ほら、白久と口直ししてきな」
ウラが俺を白久の方に押しやった。
俺は白久に抱きついて唇を合わせる。
それから白久の胸に顔を埋めると、やっとパニックが治まってきた。
「はい、これで白久は俺と間接キスな
おあいこ、おあいこ」
ウラの言葉で、犬達がハッとする。
白久と大麻生はお互いを見つめ、『今の出来事は何だったんだろう?』と言う顔つきになった。
俺だって、心の底からそう思っていた。
そんな俺たちのパニック寸劇などおかまいなしに、猫の化生達はソファーでうたた寝をしている。
控え室はいつもの和やかムードに戻っていた。
「いやー、ここは楽しいな」
ウラが嬉しそうに顔を輝かせる。
「荒木少年と日野ちゃんが受験に集中できるよう、バイト頑張るぜ
ゲンちゃんが、俺の歓迎会やろうかって言ってくれたんだけどさー
わざわざそんなことされるの、ちょっと照れくさくい気がすんだ
だから『荒木少年と日野ちゃんの大学合格祝いパーティーと合同で開催してくれ』って頼んどいた
俺がここで歓迎されるかどうかお前らにかかってんだからな
死ぬ気で合格しろよ」
ニヤニヤ笑う美しい顔に
「責任重大じゃん」
俺はため息を付いてみせた。
でも歓迎会なんてやらなくたって、ウラはとっくにしっぽやに歓迎されているのを知っていた。
その後、依頼が立て続けに入り、控え室の化生の姿が減っていく。
今は羽生だけが、うたた寝を通り越してソファーで爆睡していた。
先ほどの白久と大麻生が書いた報告書のデータ入力が終わった俺達バイト員は、控え室で休憩することにした。
コーヒーを飲みながら、ひろせお手製のクッキーを堪能する。
「ここの控え室、グダグダしたいときに最高の環境」
ウラはソファーでくつろぎまくっていた。
「一休みしたら、仕事してもらうからな」
日野がビシッと言って聞かせると
「へいへい、ちみっこ先輩には届かない場所の掃除してやるよ」
得意そうな顔でそんな返事を返してくる。
「高所の掃除はタケぽんの仕事だから、ペットショップに置かせてもらうチラシ、纏めといて」
俺はそう頼んでみた。
「はーい、荒木少年センパイ」
ウラはニヤニヤしながら俺を見つめていた。
暫く俺を見ていたと思ったら
「荒木少年って、確かに可愛い系だよな
その顔って、白久の前の飼い主に似てるんだっけ?」
ドキリとさせることを聞いてきた。
「何で知ってんだよ」
日野がウラを睨むと
「ま、ちょっとね、カズハ先輩に少し聞いたから」
ウラは澄ました顔でコーヒーに口を付ける。
「俺も少しは真面目に、化生のことを先輩に聞いたりしてる訳よ」
完璧なウインクをして俺を見る華やかな彼の顔を、直視できなかった。
付き合いはまだ短いはずなのに、ウラはいつも大麻生に愛されているという、自信に満ちあふれている。
それが俺には眩しく映っていたのだ。
「俺の名前な、ソウちゃんの元の飼い主『あのお方』って人からもらったんだ
すっごい偶然だと思わない?
ソウちゃん、まだ時々、俺の中にそいつの面影を見てるみたいなんだよねー」
ハッとする俺と日野におかまいなしにウラはクッキーを口にして
『今のでっかいチョコの固まりが入ってた』
と、ご満悦だった。
何と言って良いか分からない俺に
「でもさ、俺はこの名前気に入ってる
ソウちゃんの飼い主からもらったって分かって、誇りにも思ってるし
あんなに真面目な人からもらったのに、俺、こんな不真面目で申し訳ないけどさ」
ウラはヘヘヘっと笑ってみせた。
「気に…ならないの?」
吹っ切れたと思っていても、俺はやはり心にわだかまりがあった。
「うーん、俺達の関係ってけっこー複雑でね
『あのお方』って奴が亡くなった後、ソウちゃんを引き取って飼ってたのって、今、まだ生きてる俺の爺ちゃんなんだ
でもソウちゃんは爺ちゃんじゃなく、俺を選んだ
祖父が飼ってた犬の化生の飼い主になるって、月さんみたいじゃん?
でも、月さんとジョンって、それがなくったって信頼し合ってる飼い主と化生に見えるぜ
上手く言えねーけどさ、後何十年も経って荒木少年がシミシミでシワシワでショボショボの爺さんになったって、きっと白久は『可愛い』って言ってくれるよ
化生に選ばれるってのは、そーゆーことなんじゃないかな」
ウラは照れくさそうに頭をかいた。
「そーゆーことって、どーゆーことだよ
ちぇっ、上手い言葉が出てこねーや
学がないと、格好いいシーンで決められねーのな」
『はあー』と盛大にため息を付いたウラが、俺を見てまたウインクする。
「うん、言葉にはし難いけど、何となく分かる気がする
ありがとう」
俺がウラに礼を言うと
「ウラってさ、チャラ男のくせに、そーゆーとこ真面目だよね」
日野も笑顔を見せた。
「だから、そーゆーとこってどーゆーとこ?
お前、頭良いんだから言葉にしてくれよ」
ウラが笑顔で日野を茶化してくる。
「いい加減に見えても、根本は『良い人』ってところかな
荒木のこと聞いて、慰めてくれようとしたんだろ?」
ニヤリと笑う日野に
「別に、そんなことないけどさ
さっき味見させてもらったから、少しくらいはな」
ウラもニヤリと笑って見せた。
「で、いくらとる気?」
「ディープじゃないけど、頬にも何回かしたしなー
先輩だから1万にまけといてやるぜ」
「だってさ、荒木、どうする?」
ヒソヒソ話していた2人が、いきなり話を俺に振ってくる。
「え?何が?」
俺には話が見えなかった。
「こいつにキスされたら高いって言ったろ?」
「マジで金取るの?いらないよ、そんな押し売りみたいなキス
てか、別にウラとそんなことしたくないし」
俺は慌てて否定する。
「少年、そんな力一杯拒否すんなよ
って、隙有り!」
言うが早いが、ウラは油断しきっていた日野の唇を奪っていた。
慌ててウラを突き飛ばそうとする日野の腕をヒラリとかわし
「すげー、これで今日、2万も稼いだぜ
やっぱ、ここって面白いわー」
ウラは輝く月光のように、艶やかに笑ってみせる。
気が付くと、このやりとりを楽しんでいる自分がいた。
彼のようにありのままを受け入れて、その状況を楽しむのって有りだよな、とスッキリした気持ちになれる。
新しい不思議な仲間は、すっかり事務所の一員になって馴染んでいるのであった。
思わず情けない声が口から出てしまう。
大麻生はやっと書類から顔を上げ俺たちを見るが、『何かご用でしょうか』と言った感じで見つめてくるばかりであった。
そんな時、扉が開いて捜索から戻ってきた白久が控え室に入ってくる。
その姿を、危機的状況を打開してくれる騎士のように感じてしまった。
しかし白久はウラに抱きしめられている俺を見ても、いつものように
「荒木、ただいま戻りました
無事保護出来て、依頼達成です」
と誇らかに報告してくるだけだった。
ウラの唇が、また頬に触れキスをされる。
「うーん、やっぱ人間同士でイチャイチャしてても何の反応も無しか」
気が付くとウラは横目で大麻生のことを見つめていた。
「荒木少年って可愛いよなー」
ウラがわざとらしい声を出すと
「そうなんです、荒木は本当にお可愛らしいんですよ
笑顔が春の日差しのように暖かで、心まで幸せになれます」
白久が嬉しそうに反応する。
「ウラは荒木とは違い可愛らしいと言うよりは美しいからな
煌めかしいと言えば良いのだろうか
闇夜を照らす月のような、崇拝に値(あたい)する存在だ」
大麻生も白久に負けまいとウラを讃辞し始めた。
助けを求めようと思っていたけど、そんな犬達の態度を見ているとウラの考えていることが分かってきた。
白久は俺が他の化生や本物の犬や猫を撫でると、露骨に羨ましそうな顔を見せる。
そう言えば、それは俺が他の人間と居るときには見たことは無かった。
もっとも、こんなに他人に接近した状態を白久に見せたことは無い。
この状況に白久が反応を見せるのか、興味がわいてきた。
俺は抵抗をやめて、大人しくウラに従うことにした。
「ソウちゃん、羨ましくない?」
ウラが更に俺を抱きしめ、優しく髪を撫でながら頬を擦り寄せてくる。
大麻生は
「荒木とすぐに仲良くしていただけて、良かったですね」
と、微笑ましいものを見る顔でそう答えた。
「飼い主同士、仲が良いのはいいことです」
白久も優しく微笑んでいた。
「だってさ」
ウラは俺を見つめて、少し苦笑する。
思わず俺も、同じ様な顔をしてしまった。
気が抜けた俺の唇に、ウラが唇を合わせてきた。
流石に舌は入れてこなかったが、それは軽いキスではなかった。
「荒木…何やってんの?」
いつの間にか帰ってきていた日野が、控え室の扉の影から俺たちをジト目で見ていた。
こんな状況を親友に見られ、恥ずかしいやら情けないやら俺はパニックになってしまう。
「いや、違、その、ウラが無理矢理」
泣きそうな俺に
「お前、金取られるぞ
ウラって、けっこー高いんだぜ」
日野は冷たく言い放った。
「何でこっちが金取られるんだよ」
理不尽な言葉すぎて、ますますパニックになってしまう。
「ここまでやっても犬達には反応無しか」
ウラは俺のパニックなど歯牙にもかけていなかった。
「あ、俺さっきソウちゃんとキスしたから、荒木少年とソウちゃん間接キスじゃん」
わざとらしいウラの言葉で、白久が大麻生に視線を向ける。
大麻生は申し訳なさそうに視線を下げた。
『そこ?そこを気にするの?
むしろ、飼い主の暴挙を気にして欲しい』
俺は改めて、化生との感覚の違いにガックリする。
「荒木少年だけ虐めるのも可哀相だな
せっかくだから日野ちゃんも、って、居やしねぇ
陸上部のエース、逃げ足パネェ」
控え室の扉の側にはスーパーのビニール袋が置かれており、先ほどまで居たはずの日野の姿はどこにも無かった。
とっくに黒谷のところに避難したようだ。
「ほら、白久と口直ししてきな」
ウラが俺を白久の方に押しやった。
俺は白久に抱きついて唇を合わせる。
それから白久の胸に顔を埋めると、やっとパニックが治まってきた。
「はい、これで白久は俺と間接キスな
おあいこ、おあいこ」
ウラの言葉で、犬達がハッとする。
白久と大麻生はお互いを見つめ、『今の出来事は何だったんだろう?』と言う顔つきになった。
俺だって、心の底からそう思っていた。
そんな俺たちのパニック寸劇などおかまいなしに、猫の化生達はソファーでうたた寝をしている。
控え室はいつもの和やかムードに戻っていた。
「いやー、ここは楽しいな」
ウラが嬉しそうに顔を輝かせる。
「荒木少年と日野ちゃんが受験に集中できるよう、バイト頑張るぜ
ゲンちゃんが、俺の歓迎会やろうかって言ってくれたんだけどさー
わざわざそんなことされるの、ちょっと照れくさくい気がすんだ
だから『荒木少年と日野ちゃんの大学合格祝いパーティーと合同で開催してくれ』って頼んどいた
俺がここで歓迎されるかどうかお前らにかかってんだからな
死ぬ気で合格しろよ」
ニヤニヤ笑う美しい顔に
「責任重大じゃん」
俺はため息を付いてみせた。
でも歓迎会なんてやらなくたって、ウラはとっくにしっぽやに歓迎されているのを知っていた。
その後、依頼が立て続けに入り、控え室の化生の姿が減っていく。
今は羽生だけが、うたた寝を通り越してソファーで爆睡していた。
先ほどの白久と大麻生が書いた報告書のデータ入力が終わった俺達バイト員は、控え室で休憩することにした。
コーヒーを飲みながら、ひろせお手製のクッキーを堪能する。
「ここの控え室、グダグダしたいときに最高の環境」
ウラはソファーでくつろぎまくっていた。
「一休みしたら、仕事してもらうからな」
日野がビシッと言って聞かせると
「へいへい、ちみっこ先輩には届かない場所の掃除してやるよ」
得意そうな顔でそんな返事を返してくる。
「高所の掃除はタケぽんの仕事だから、ペットショップに置かせてもらうチラシ、纏めといて」
俺はそう頼んでみた。
「はーい、荒木少年センパイ」
ウラはニヤニヤしながら俺を見つめていた。
暫く俺を見ていたと思ったら
「荒木少年って、確かに可愛い系だよな
その顔って、白久の前の飼い主に似てるんだっけ?」
ドキリとさせることを聞いてきた。
「何で知ってんだよ」
日野がウラを睨むと
「ま、ちょっとね、カズハ先輩に少し聞いたから」
ウラは澄ました顔でコーヒーに口を付ける。
「俺も少しは真面目に、化生のことを先輩に聞いたりしてる訳よ」
完璧なウインクをして俺を見る華やかな彼の顔を、直視できなかった。
付き合いはまだ短いはずなのに、ウラはいつも大麻生に愛されているという、自信に満ちあふれている。
それが俺には眩しく映っていたのだ。
「俺の名前な、ソウちゃんの元の飼い主『あのお方』って人からもらったんだ
すっごい偶然だと思わない?
ソウちゃん、まだ時々、俺の中にそいつの面影を見てるみたいなんだよねー」
ハッとする俺と日野におかまいなしにウラはクッキーを口にして
『今のでっかいチョコの固まりが入ってた』
と、ご満悦だった。
何と言って良いか分からない俺に
「でもさ、俺はこの名前気に入ってる
ソウちゃんの飼い主からもらったって分かって、誇りにも思ってるし
あんなに真面目な人からもらったのに、俺、こんな不真面目で申し訳ないけどさ」
ウラはヘヘヘっと笑ってみせた。
「気に…ならないの?」
吹っ切れたと思っていても、俺はやはり心にわだかまりがあった。
「うーん、俺達の関係ってけっこー複雑でね
『あのお方』って奴が亡くなった後、ソウちゃんを引き取って飼ってたのって、今、まだ生きてる俺の爺ちゃんなんだ
でもソウちゃんは爺ちゃんじゃなく、俺を選んだ
祖父が飼ってた犬の化生の飼い主になるって、月さんみたいじゃん?
でも、月さんとジョンって、それがなくったって信頼し合ってる飼い主と化生に見えるぜ
上手く言えねーけどさ、後何十年も経って荒木少年がシミシミでシワシワでショボショボの爺さんになったって、きっと白久は『可愛い』って言ってくれるよ
化生に選ばれるってのは、そーゆーことなんじゃないかな」
ウラは照れくさそうに頭をかいた。
「そーゆーことって、どーゆーことだよ
ちぇっ、上手い言葉が出てこねーや
学がないと、格好いいシーンで決められねーのな」
『はあー』と盛大にため息を付いたウラが、俺を見てまたウインクする。
「うん、言葉にはし難いけど、何となく分かる気がする
ありがとう」
俺がウラに礼を言うと
「ウラってさ、チャラ男のくせに、そーゆーとこ真面目だよね」
日野も笑顔を見せた。
「だから、そーゆーとこってどーゆーとこ?
お前、頭良いんだから言葉にしてくれよ」
ウラが笑顔で日野を茶化してくる。
「いい加減に見えても、根本は『良い人』ってところかな
荒木のこと聞いて、慰めてくれようとしたんだろ?」
ニヤリと笑う日野に
「別に、そんなことないけどさ
さっき味見させてもらったから、少しくらいはな」
ウラもニヤリと笑って見せた。
「で、いくらとる気?」
「ディープじゃないけど、頬にも何回かしたしなー
先輩だから1万にまけといてやるぜ」
「だってさ、荒木、どうする?」
ヒソヒソ話していた2人が、いきなり話を俺に振ってくる。
「え?何が?」
俺には話が見えなかった。
「こいつにキスされたら高いって言ったろ?」
「マジで金取るの?いらないよ、そんな押し売りみたいなキス
てか、別にウラとそんなことしたくないし」
俺は慌てて否定する。
「少年、そんな力一杯拒否すんなよ
って、隙有り!」
言うが早いが、ウラは油断しきっていた日野の唇を奪っていた。
慌ててウラを突き飛ばそうとする日野の腕をヒラリとかわし
「すげー、これで今日、2万も稼いだぜ
やっぱ、ここって面白いわー」
ウラは輝く月光のように、艶やかに笑ってみせる。
気が付くと、このやりとりを楽しんでいる自分がいた。
彼のようにありのままを受け入れて、その状況を楽しむのって有りだよな、とスッキリした気持ちになれる。
新しい不思議な仲間は、すっかり事務所の一員になって馴染んでいるのであった。