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しっぽや(No.102~115)

暫く自分を見つめていたウラが、急に自分に抱きついてきた。
間近に感じるウラの気配、頬に触れる彼の柔らかな唇の感触、体中に広がる甘い感覚に心臓が爆発しそうだった。
ウラの手が自分の股間をなで上げる。
正式に自分を飼ってもらえる訳ではないのに、すぐにでも彼と契りたいと思う気持ちを抑えるため、全神経を使わなければならなかった。

そんな状態の自分の胸に
「大麻生…よし」
『お預け』を解除する彼の命令が響き渡る。
それを聞いたとたん自分は獣に戻ってしまった。

ウラの唇に自分の唇を合わせ、激しく貪った。
彼に抵抗は無く、それどころか積極的に舌を絡ませてくる。
2人の唇からは、湿った音が絶え間なく響いていた。
どちらとも無く服を脱がせあい、顕わになった肌に舌を這わせていく。
ウラの唇に触れられた自分の肌と、ウラの肌に触れている自分の唇が熱を持っていった。

耐えきれずに
「ウラ…お慕いしております
 どうか自分に貴方を守らせてください
 共に在ることをお許しください…」
自分はそう懇願してしまう。
ウラはどこかうっとりとした顔で
「うん…」
小さく、しかしハッキリと答えてくれた。

『人と契る』
それがどのようなことか以前の自分にはわからなかった。
しかしウラを前にすると、自然と体が動いていた。
ウラの中に熱い想い吐き出すと、彼もそれに答えてくれる。
「ん…、ソウ…ちゃん…」
甘く名前を囁かれるたびに新たな欲望がわき起こり、気分が高まりすぎていた自分は何度も彼と体を重ねた。

情熱の果ての心地よい疲労感に包まれながら、ウラを胸に抱いて眠りにつく。
こんなにも充実した気持ちを感じたことは、化生してから初めてのことである。
自分の正体を明かしていないという不安は幸福感の前に消し飛んでしまい、今はただ、ウラの温もりだけを感じて安らぎの眠りにつくのであった。



翌朝、飼い主を胸に抱きながら意識が覚醒する。
朝日に包まれた部屋の中は、いつもより輝いて見えた。
『貴方を、お守りします』
美しいウラの寝顔に、自分は何度目になるかわからない誓いを立てる。
そっと頬に触れると、彼が小さく身じろぎした。
「起こしてしまいましたか、まだ寝ていてもかまいませんよ」
うっすらと目を開けて自分を見つめるウラに微笑みかけると
「おはよ」
彼も笑って答えてくれた。
それから自分の胸に顔を埋め
「ソウちゃんって、本当に初めてだったの?」
確認するように聞いてくる。
「はい、あの、お体は辛くないでしょうか
 何というか止め時がわからず、かなり無茶をさせてしまったのでは」
今更ながらその事に気が付いて、自分は慌ててしまった。
獣に戻ってしまった自分が、恥ずかしく感じられた。

オロオロする自分を暫く見つめていたが
「エッチした後も、ソウちゃんは、ソウちゃんなのな
 自分の物にした、って態度しないんだ」
ウラは嬉しそうな顔で、そっとキスをしてくれた。
「ソウちゃんとのエッチ、超気持ち良かったぜ
 そっか、手慣れてるってより、俺のこと気持ちよくさせようとしてくれたのか
 そういや俺の反応見て、的確に良いツボついてきてたっけ」
彼は1人で納得していた。
ウラの機嫌が直ってくれたし、命令があったとは言えいきなり契ってしまった事を怒っていないようで、自分はホッとした。

「朝食に、ひろせのお菓子を食べませんか?
 甘くないパウンドケーキですから、軽食になるかと
 ハムエッグとサラダも作ります」
自分は恐る恐る、ウラにお菓子を勧めてみた。
今度は彼は機嫌良く
「そだね、食べてやっても良っか
 もうソウちゃんは俺のだもん」
そう言って、自分に抱きついてくる。
ウラのその言葉が、自分の胸に暖かく広がっていく。
『ソウちゃんは俺のだもん』
飼い主に所有される喜びに、この上ない幸せを感じていた。


仕事に出る自分を、ウラは見送りたいと言ってくれた。
2人でエレベーターに向かい歩いていると、丁度ひろせとタケぽんも部屋から出てくるところであった。
「え?」
ウラが驚いた声を上げ、自分とひろせを見比べる。
「おはよう、大麻生
 ひろせの新作食べた?チーズ入りで、しょっぱい系も美味しいでしょ
 あれさ、ゴマとか枝豆入れても美味しいんじゃないかなーと思うんだ
 ベーコンだとビミョーかな
 試作出来たら、またお裾分けするね」
自分に話しかけてくるタケぽんに、ひろせが幸せそうな顔で寄り添っていた。

「何だ、彼氏持ちか
 本当に単なる同僚なんだ…」
ウラは気が抜けた感じで呟いた。
「あ、もしかしてその人が?」
タケぽんはウラを見て
「大麻生って、良い奴だよ」
そう笑いかけた。
「知ってる」
ウラは勝ち誇ったようにそう言うと自分の腕に腕を絡め、甘えるように寄り添ってくる。
その腕の温もりが嬉しくて、顔が緩んでしまった。

そんな自分たちを見て
「良かったね」
ひろせもタケぽんも、嬉しそうな顔をしてくれるのであった。



ウラと契ってからの日々も、それまでと同じように過ぎていった。
仕事から帰った自分にウラはアイスミルクティーを作ってくれて、自分は彼に夕飯を作る。
食後にはテレビを眺めながらお茶を飲み、たわいのない話を楽しんだ。
それからシャワーを浴びた後、彼の許しが出ると体を重ねる。
ウラと過ごせる時間は至福の物であった。

しかし、胸の内の不安は日々高まっていく。
彼と過ごす時が楽しければ楽しいほど、正体がバレた後の反応が怖かったのだ。
親鼻と秩父先生の話を聞いていたため、自分のことでウラに不安を感じさせる事も避けたかった。

ウラも何か自分に言いたいことがあるようだ。
時折、自分に何かを告げたそうに口を開くが、すぐに『何でもない』と言って話題を逸らすことがあった。
体を許し合っていても心を許し合えない今の関係が、次第にもどかしく感じられるようになっていった。

まずはきちんと『飼って』いただかなければ。
自分はそう決意すると、夕飯の後の2人の時間に思い切って告げてみることにした。


「ウラは、犬を飼ったことがおありですか?」
自分がそう切り出すと、ウラは一瞬ギクリとした表情を見せた。
「何?ソウちゃんいきなり」
顔は笑っているものの、答える声は固かった。
「また、飼ってみたいと思われますか?」
「…別に」
彼は興味なさそうに視線を逸らすが、その瞳は寂しげな光をたたえていた。
挫けそうになる心を叱咤し
「自分を…犬として飼っていただけないでしょうか」
ウラの瞳を見つめ、そう懇願する。
「飼うって、ソウちゃん、何言って…」
戸惑うウラに
「番犬としてお側に置いてください
 貴方をお守りしたいのです」
自分は心からの言葉を告げた。

「番犬…?俺が散々ソウちゃんのこと『犬みたい』って言ってたから?
 やだな、気にしてた?
 ごめん、ソウちゃんはソウちゃんだよ
 普通に付き合ってくれれば良いんだ」
ウラは苦笑して、自分に抱きついてきた。
「あんな商売してたから信憑性無いだろうけどさ
 俺もソウちゃんのこと、本気で好きになっちゃった
 『守りたい』って言ってもらえたの、凄く嬉しかった」
自分のことを『好き』と言ってくれるウラの言葉が胸に染み渡っていく。
自分はウラの背中に手を回し、きつく抱きしめながら
「それでも、犬としてウラをお守りすることは、許されないでしょうか」
恐る恐るそう聞いてみた。

ウラは自分に抱かれながら暫く考えていたようだが
「番犬プレイ…?って、この考え、また何かズレてるのかな
 ほんと、ソウちゃんって訳わかんねー
 でも、ソウちゃんみたいな格好いい番犬…
 うん、満更でもないな」
嬉しそうに微笑みかけてくれた。
「で、飼い主の俺は何をすれば良いわけ?
 エサやり、っても、俺、料理できないぜ
 あ、散歩にでも行こうか」
クスクス笑うウラの柔らかな髪に顔を埋め
「いつもアイスミルクティーを作っていただいております
 飼っていただけるだけで、自分は本望です」
そう言うのが精一杯だった。
拒絶されなかった安堵感で、涙が流れて言葉にならなかったのだ。

「ソウちゃん、これくらいでオーバーだなー」
ウラは涙を拭ってくれる。
「ちゃんと飼ってあげるから、泣かないの」
「はい!」
ウラに優しく撫でられて、今後はウラの命令無くして泣かないようにしなければ、と自分は気を引き締めた。
飼ってもらえることになっただけで少し気が軽くなるものの、正体を開かす決心は未だに付かなかった。

「そうだ、トリミングは出来ないけど、シャンプーしようか?」
ウラが艶やかな笑顔を向けてくれる。
「似合う首輪も買ってあげた方が良いのかな
 ソウちゃん格好いいから、黒が似合うと思うよ」
ウラの指が頬をそっと撫で、首筋まで移動した。
「鎖まで用意したら、やり過ぎ?
 ヤバい、番犬プレイ、ハマりそう
 俺、女王様気質無いんだけどなー」
ウラに撫でられているだけで、息が上がっていく。
ウラも美しい頬を染め、興奮した目で自分を見てくれた。

「たまには、場所変えてやるのも良っか
 ソウちゃん、洗ってあげるからシャワールームで気持ちよくして」
「かしこまりました」
ウラの命令に自分は即座に反応する。

「お手」
そう命令されたので、ウラの手に自分の手を重ねてみた。
彼は重ねた手を口元に持って行くと、唇を押し当て舌を這わせた。
それだけで、自分の体は激しく反応してしまった。
「俺だけの番犬か
 ソウちゃん、エロいこと思いついたね」
ウラは楽しそうにフフッと笑う。

シャワールームで、床で、ベッドで、自分たちは初めての時のように激しく繋がり合った。
飼ってもらえる安堵感と正体を明かしていない不安感、胸の内に様々な感情が去来するものの、ウラに甘く名前を呼ばれるだけで全てが吹き飛んでしまう。

快楽に身を任せ飼い主を胸に抱き眠りにつく自分は、確かに幸せな獣であった。
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