しっぽや(No.85~101)
子猫は目やにがひどく、目があまり見えていないようであった。
乾いた涙や鼻水が顔にこびりつき、毛がカピカピになっている。
サビ柄なので、ごちゃごちゃした印象の顔になってしまっていた。
前足とお腹の毛には血が付いている。
しかし今は、出血は止まっているようでホッとした。
「とにかく、病院に連れて行くよ、連絡してあるからすぐ診てもらえると思うんだ
波久礼くん、お昼まだだったら店で食べて
今日のランチは『エビピラフ唐揚げ付き』
僕のおごりでピラフ大盛り唐揚げマシマシにしといて、ってシェフに伝えとくから
飲み物はアイスカフェオレだよね」
子猫をタオルごとキャリーに移しながら、クマさんが言ってくれる。
「いえ、代金はお支払いします」
慌てる私に
「子猫を捕まえてくれたお礼だよ」
彼は今日初めて、心からの笑顔をみせてくれた。
「あ、店に戻る前に服にコロコロかけて手とか消毒してもらえるかな
病原菌扱いするの可哀想なんだけど、この子、どんな病気持ってるかわからないからね」
申し訳なさそうな顔になるクマさんに
「承知しました
店の子たちにうつしてしまってはたいへんですからね」
私は頷いて答えた。
お昼をいただきながらクマさんの帰りを待つ時間は、とても長く感じられた。
私は久しぶりに、飼い主を待っている感覚を思い出していた。
『人と共に在(あ)りたい、人の役に立ちたい』
そんな想いを胸に化生したが、あのような子猫を見るとその思いがゆらいでしまう事もある。
きっとクマさんも、あの子の顔を見て気が付いたことであろう。
『捨てるのも人であれば、救うのもまた人なのだ
獣も人に対して懐き襲い、2面の顔を持つ』
そう理解していても、子猫の惨状はいたたまれなかった。
『飼い主が出来れば、人についての悩みは無くなるのであろうか』
黒谷や白久にそのことを聞いてみたい気分だった。
クマさんが店に戻ってきたのは、2時間近く経ってからだ。
私達は子猫と共に、再び隔離ルームに入っていった。
キャリーから出された子猫は、前足に包帯を巻き、お腹に大きな絆創膏が貼られている。
泣き疲れたのかグッタリしていたが、子猫用ミルクを作ってほ乳瓶で飲ませると、力強く吸ってくれるのが頼もしかった。
ミルクを飲み終わると、私の手の中で眠ってしまう。
かなり疲れていたようであった。
「この子、1ヶ月前後、って感じだよ
歯も生え始めてきてるし、少しずつ離乳食に移動できそうなんだ
乳児よりお世話が楽だから助かったかな」
病院で顔を拭いてもらった子猫は、先ほどよりさっぱりして見えた。
おかげで違和感がいっそう目立っている。
私の視線に気が付き
「やっぱり、波久礼くんも気が付いたよね
この子、ヒゲが切られてる…
前足の傷は釘が刺さった感じだし、お腹は鋭利なもので切られたっぽいって
お腹の傷は浅いけど、足は傷が貫通してるから、直っても歩行の際に引きずるかも…」
クマさんは顔を伏せて、辛そうに説明してくれた。
「何かさ、時々人間でいることが恥ずかしくなるんだ
こんな小さな命に面白半分に危害を加えたり、命がけのやり取りをせずに一方的になぶって優越感を感じるなんて
今の時代、どんな育ち方したらそんな心の卑しい人間になるのか、本当に呆れるしかないよ」
温厚で朗らかなクマさんには珍しく、声を荒げて怒っている。
私自身も人間に対し彼と同じ怒りを感じていたが、同時にそのことに憤(いきどお)ってくれる人間がいることに救われた気もしていた。
「ごめんね、せっかく遠くから来てくれたのに嫌な思いさせちゃって
お店のイベントの方は予定通りに行うから、参加してくれると嬉しいな
波久礼くんがいると猫達お行儀良くなるし、譲渡会での良い出会いが増える気がしてさ」
クマさんはハッとした顔になり、慌てて私に謝った。
「もちろん、譲渡会イベントのために夏休みをいただきましたので微力ながらお手伝いいたしますよ
1匹でも多くの猫が、良い飼い主と巡り会えるように願っています」
私の答えに
「猫達は人と居ることに幸せを感じていてくれてるのかな」
クマさんは力なく微笑んだ。
「今夜にでも知り合いの猫に聞いてみますよ」
私は冗談めかしてそう言ってみる。
「少なくとも、この店にいる猫達は人のことが好きですよ
それに皆、クマさんのことが大好きです
私も、貴方のことを尊敬しております」
そう伝えると
「ありがとう、波久礼くんにそう言ってもらえると何だか動物達に許された気がしてくるよ
って、何言ってんだ僕は」
クマさんは照れくさそうに笑ってくれた。
クマさんは、人と獣の為に自分の出来ることを必死に頑張っている、尊敬できる人間だ。
それは私にとってあのお方やゲンと並び『人と共に在りたい』と思わせる存在なのであった。
イベントの準備を手伝っていたため、影森マンションの双子の部屋に帰り着いたのは夜の9時を回っていた。
「お帰りなさい波久礼、夕飯は召し上がりますか?
豚の生姜焼きを作ってあるので、暖め直せばすぐに出せますよ」
チャイムを鳴らすと皆野が笑顔で出迎えてくれる。
「さっきひろせが波久礼にって、ゼリー持ってきてくれたぜ
冷蔵庫で冷やしてるから、デザートに食えば?」
皆野の横から明戸も顔を出す。
「猫が出迎えてくれる部屋、良いものだな」
私が2人の頭を撫でると、彼らは気持ちよさそうに目を細めてくれた。
生前あのお方と散歩に出かけ、帰ってきた私の足下に子猫が集まってきたことを思い出し、泣きたいような懐かしさを覚える。
「帰りにクマさんと一緒にラーメンを食べてきたのだが、麺物は腹にたまらないからな
せっかくなので皆野自慢の手料理をご馳走になるとしようか」
私が答えると
「では、直ぐに用意しますね」
皆野がキッチンに向かう。
「2人は夕飯は済ませたのかい?」
残っている明戸に問うと、彼はコクリと頷いた。
「でも、デザートくらいなら食べられるよ
一緒にひろせのゼリー食べよう
あのお方が晩酌の後に何か食べるとき、俺たちも少しだけご相伴にあずかってたんだ
夕飯の後に何か食べるのって、楽しくて美味しいんだよな」
私の手を引いてテーブルに向かいながら、明戸が幸せそうに微笑んだ。
私にも覚えがある。
子猫達が眠りについて、あのお方が読んでいた本から顔を上げ
「少しお腹が空いてきたかな、寝る前だけどちょっとだけ何かつまむか
ハーレーにも分けてやるからな」
そう言って席を立つ瞬間が大好きであった。
今なら『動物の体に良くない』と眉をひそめられるような、クラッカー、ハムやサラミの切れ端を貰えることが本当に嬉しかったのだ。
ささやかな、けれども何物にも代え難いあのお方との喜びの時間。
私も双子もその幸せな時間を人と積み重ね、人と共に在ることを選んだのだ。
猫に囲まれた幸せの食卓で、私は皆野の手料理に舌鼓を打ちながら
「君たちの飼い主は、料理がお上手であったのだな」
そう聞いてみる。
分けてもらった少しの料理の味を再現しようと、皆野は頑張っているのだろう。
「もちろんです」
誇らかな皆野の答えに被せるように
「あのお方は、お母さんの料理が美味くて食べ過ぎるから太るっていつも言ってたんだ」
少し懐かしそうに明戸が言っていた。
「でも最近は、日野のお婆さまの味も混ざっているんです
お婆さまといると、あのお方を思い出して幸せな気持ちになります」
「うん、日野の家に行くとホッと出来るんだよな」
頷きあう2人を見て
『私もクマさんといると、あのお方を思い出しているのだろうか』
と気が付いた。
どちらも保護した猫を新しい飼い主と巡り会えるように奮闘していたし、そう言えば背丈も同じくらいかもしれない。
色は違うが、あのお方もヒゲを生やされていた。
仮初(かりそ)めではあるが飼い主を彷彿とさせてくれる人間がいることは、随分と心を慰めらることなのだと気が付いた。
「飼い主ではなくとも、良い人間と巡り会えたことは幸福だな」
私の言葉に
「そうですね、私達に居場所を与えてくれたゲンも良い人間です」
「中川先生も色々教えてくれるんだ、自伝の添削してくれるしさ」
「カズハさんはお茶を色々分けてくださいます
日野は巻きずしの柄を新たに考案してくれるんですよ」
「荒木は猫のことわかってるし、タケぽんの能力にはビックリさせられたよ」
双子は嬉しそうに人間の話をしてくれた。
「人間の中には私達獣を嫌悪する者、時に危害を加える者もいるが…2人は人間が好きかい?」
私は2人に問いかけてみる。
「全ての人間が好きか、と言われるとそうではありませんが」
「俺達は、俺達を愛してくれる人間が好きだ」
双子は、愛されることに貪欲な猫そのものの返事を返してくれた。
あまりに明確な答えすぎて、私は思わず笑ってしまった。
きっと今日保護された子猫も自分を愛してくれる人間がいることに気が付けば、その人間には自分を愛すことを許し、愛を返そうとするだろう。
「明日、クマさんにこのことを教えてあげよう」
人が猫を愛するように、猫もまた人を愛していると。
笑みをもらす私に、双子も首を傾げながら微笑んでくれる。
「波久礼、今夜は一緒に寝よう
俺、久しぶりに人のわきの下で寝たい
波久礼は大きいから、人と一緒に寝てる気分になれるんだ」
「私もです、波久礼が泊まりに来てくれると聞いて楽しみにしてたんですよ
今思えば、冬にあのお方と一緒の布団で寝れるのは最高の贅沢でした」
2人の健気な申し出に
「構わないが、冷房をキツメにかけてもらえるかな」
私はそうお願いする。
その夜は可愛い猫達に左右から挟まれて、幸せな熱帯夜を過ごすのであった。
乾いた涙や鼻水が顔にこびりつき、毛がカピカピになっている。
サビ柄なので、ごちゃごちゃした印象の顔になってしまっていた。
前足とお腹の毛には血が付いている。
しかし今は、出血は止まっているようでホッとした。
「とにかく、病院に連れて行くよ、連絡してあるからすぐ診てもらえると思うんだ
波久礼くん、お昼まだだったら店で食べて
今日のランチは『エビピラフ唐揚げ付き』
僕のおごりでピラフ大盛り唐揚げマシマシにしといて、ってシェフに伝えとくから
飲み物はアイスカフェオレだよね」
子猫をタオルごとキャリーに移しながら、クマさんが言ってくれる。
「いえ、代金はお支払いします」
慌てる私に
「子猫を捕まえてくれたお礼だよ」
彼は今日初めて、心からの笑顔をみせてくれた。
「あ、店に戻る前に服にコロコロかけて手とか消毒してもらえるかな
病原菌扱いするの可哀想なんだけど、この子、どんな病気持ってるかわからないからね」
申し訳なさそうな顔になるクマさんに
「承知しました
店の子たちにうつしてしまってはたいへんですからね」
私は頷いて答えた。
お昼をいただきながらクマさんの帰りを待つ時間は、とても長く感じられた。
私は久しぶりに、飼い主を待っている感覚を思い出していた。
『人と共に在(あ)りたい、人の役に立ちたい』
そんな想いを胸に化生したが、あのような子猫を見るとその思いがゆらいでしまう事もある。
きっとクマさんも、あの子の顔を見て気が付いたことであろう。
『捨てるのも人であれば、救うのもまた人なのだ
獣も人に対して懐き襲い、2面の顔を持つ』
そう理解していても、子猫の惨状はいたたまれなかった。
『飼い主が出来れば、人についての悩みは無くなるのであろうか』
黒谷や白久にそのことを聞いてみたい気分だった。
クマさんが店に戻ってきたのは、2時間近く経ってからだ。
私達は子猫と共に、再び隔離ルームに入っていった。
キャリーから出された子猫は、前足に包帯を巻き、お腹に大きな絆創膏が貼られている。
泣き疲れたのかグッタリしていたが、子猫用ミルクを作ってほ乳瓶で飲ませると、力強く吸ってくれるのが頼もしかった。
ミルクを飲み終わると、私の手の中で眠ってしまう。
かなり疲れていたようであった。
「この子、1ヶ月前後、って感じだよ
歯も生え始めてきてるし、少しずつ離乳食に移動できそうなんだ
乳児よりお世話が楽だから助かったかな」
病院で顔を拭いてもらった子猫は、先ほどよりさっぱりして見えた。
おかげで違和感がいっそう目立っている。
私の視線に気が付き
「やっぱり、波久礼くんも気が付いたよね
この子、ヒゲが切られてる…
前足の傷は釘が刺さった感じだし、お腹は鋭利なもので切られたっぽいって
お腹の傷は浅いけど、足は傷が貫通してるから、直っても歩行の際に引きずるかも…」
クマさんは顔を伏せて、辛そうに説明してくれた。
「何かさ、時々人間でいることが恥ずかしくなるんだ
こんな小さな命に面白半分に危害を加えたり、命がけのやり取りをせずに一方的になぶって優越感を感じるなんて
今の時代、どんな育ち方したらそんな心の卑しい人間になるのか、本当に呆れるしかないよ」
温厚で朗らかなクマさんには珍しく、声を荒げて怒っている。
私自身も人間に対し彼と同じ怒りを感じていたが、同時にそのことに憤(いきどお)ってくれる人間がいることに救われた気もしていた。
「ごめんね、せっかく遠くから来てくれたのに嫌な思いさせちゃって
お店のイベントの方は予定通りに行うから、参加してくれると嬉しいな
波久礼くんがいると猫達お行儀良くなるし、譲渡会での良い出会いが増える気がしてさ」
クマさんはハッとした顔になり、慌てて私に謝った。
「もちろん、譲渡会イベントのために夏休みをいただきましたので微力ながらお手伝いいたしますよ
1匹でも多くの猫が、良い飼い主と巡り会えるように願っています」
私の答えに
「猫達は人と居ることに幸せを感じていてくれてるのかな」
クマさんは力なく微笑んだ。
「今夜にでも知り合いの猫に聞いてみますよ」
私は冗談めかしてそう言ってみる。
「少なくとも、この店にいる猫達は人のことが好きですよ
それに皆、クマさんのことが大好きです
私も、貴方のことを尊敬しております」
そう伝えると
「ありがとう、波久礼くんにそう言ってもらえると何だか動物達に許された気がしてくるよ
って、何言ってんだ僕は」
クマさんは照れくさそうに笑ってくれた。
クマさんは、人と獣の為に自分の出来ることを必死に頑張っている、尊敬できる人間だ。
それは私にとってあのお方やゲンと並び『人と共に在りたい』と思わせる存在なのであった。
イベントの準備を手伝っていたため、影森マンションの双子の部屋に帰り着いたのは夜の9時を回っていた。
「お帰りなさい波久礼、夕飯は召し上がりますか?
豚の生姜焼きを作ってあるので、暖め直せばすぐに出せますよ」
チャイムを鳴らすと皆野が笑顔で出迎えてくれる。
「さっきひろせが波久礼にって、ゼリー持ってきてくれたぜ
冷蔵庫で冷やしてるから、デザートに食えば?」
皆野の横から明戸も顔を出す。
「猫が出迎えてくれる部屋、良いものだな」
私が2人の頭を撫でると、彼らは気持ちよさそうに目を細めてくれた。
生前あのお方と散歩に出かけ、帰ってきた私の足下に子猫が集まってきたことを思い出し、泣きたいような懐かしさを覚える。
「帰りにクマさんと一緒にラーメンを食べてきたのだが、麺物は腹にたまらないからな
せっかくなので皆野自慢の手料理をご馳走になるとしようか」
私が答えると
「では、直ぐに用意しますね」
皆野がキッチンに向かう。
「2人は夕飯は済ませたのかい?」
残っている明戸に問うと、彼はコクリと頷いた。
「でも、デザートくらいなら食べられるよ
一緒にひろせのゼリー食べよう
あのお方が晩酌の後に何か食べるとき、俺たちも少しだけご相伴にあずかってたんだ
夕飯の後に何か食べるのって、楽しくて美味しいんだよな」
私の手を引いてテーブルに向かいながら、明戸が幸せそうに微笑んだ。
私にも覚えがある。
子猫達が眠りについて、あのお方が読んでいた本から顔を上げ
「少しお腹が空いてきたかな、寝る前だけどちょっとだけ何かつまむか
ハーレーにも分けてやるからな」
そう言って席を立つ瞬間が大好きであった。
今なら『動物の体に良くない』と眉をひそめられるような、クラッカー、ハムやサラミの切れ端を貰えることが本当に嬉しかったのだ。
ささやかな、けれども何物にも代え難いあのお方との喜びの時間。
私も双子もその幸せな時間を人と積み重ね、人と共に在ることを選んだのだ。
猫に囲まれた幸せの食卓で、私は皆野の手料理に舌鼓を打ちながら
「君たちの飼い主は、料理がお上手であったのだな」
そう聞いてみる。
分けてもらった少しの料理の味を再現しようと、皆野は頑張っているのだろう。
「もちろんです」
誇らかな皆野の答えに被せるように
「あのお方は、お母さんの料理が美味くて食べ過ぎるから太るっていつも言ってたんだ」
少し懐かしそうに明戸が言っていた。
「でも最近は、日野のお婆さまの味も混ざっているんです
お婆さまといると、あのお方を思い出して幸せな気持ちになります」
「うん、日野の家に行くとホッと出来るんだよな」
頷きあう2人を見て
『私もクマさんといると、あのお方を思い出しているのだろうか』
と気が付いた。
どちらも保護した猫を新しい飼い主と巡り会えるように奮闘していたし、そう言えば背丈も同じくらいかもしれない。
色は違うが、あのお方もヒゲを生やされていた。
仮初(かりそ)めではあるが飼い主を彷彿とさせてくれる人間がいることは、随分と心を慰めらることなのだと気が付いた。
「飼い主ではなくとも、良い人間と巡り会えたことは幸福だな」
私の言葉に
「そうですね、私達に居場所を与えてくれたゲンも良い人間です」
「中川先生も色々教えてくれるんだ、自伝の添削してくれるしさ」
「カズハさんはお茶を色々分けてくださいます
日野は巻きずしの柄を新たに考案してくれるんですよ」
「荒木は猫のことわかってるし、タケぽんの能力にはビックリさせられたよ」
双子は嬉しそうに人間の話をしてくれた。
「人間の中には私達獣を嫌悪する者、時に危害を加える者もいるが…2人は人間が好きかい?」
私は2人に問いかけてみる。
「全ての人間が好きか、と言われるとそうではありませんが」
「俺達は、俺達を愛してくれる人間が好きだ」
双子は、愛されることに貪欲な猫そのものの返事を返してくれた。
あまりに明確な答えすぎて、私は思わず笑ってしまった。
きっと今日保護された子猫も自分を愛してくれる人間がいることに気が付けば、その人間には自分を愛すことを許し、愛を返そうとするだろう。
「明日、クマさんにこのことを教えてあげよう」
人が猫を愛するように、猫もまた人を愛していると。
笑みをもらす私に、双子も首を傾げながら微笑んでくれる。
「波久礼、今夜は一緒に寝よう
俺、久しぶりに人のわきの下で寝たい
波久礼は大きいから、人と一緒に寝てる気分になれるんだ」
「私もです、波久礼が泊まりに来てくれると聞いて楽しみにしてたんですよ
今思えば、冬にあのお方と一緒の布団で寝れるのは最高の贅沢でした」
2人の健気な申し出に
「構わないが、冷房をキツメにかけてもらえるかな」
私はそうお願いする。
その夜は可愛い猫達に左右から挟まれて、幸せな熱帯夜を過ごすのであった。