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しっぽや(No.58~69)

ショッピングモールに着くと、俺達は先に映画のチケットを買った。
「夕方の上映だから、まだまだ時間あるよ
 取りあえず、お昼食べに行こう
 お腹ペコペコ」
俺が腹をさすると
「はい」
白久は少し緊張した顔で頷いた。

レストランフロアに移動し、店舗の案内板を見る。
「ここの洋食屋も食べ放題やってるんだ
 前にカズハさんが空と食べに行ったって言ってたっけ」
「空に聞いたことがあります
 何をどれだけ食べても良いとか
 出来立ての物がどんどん出てくる、と感激してました」
俺が指差した店の案内板を、白久が興味深そうに眺めた。
「でも、俺が行ってみたいのはこっちなんだ」
俺の示した店を、白久は真剣な顔で見つめている。

「ここも食べ放題なんだけど、串揚げの食べ放題なんだよ
 自分で揚げるんだって
 でも俺、揚げ物なんて作ったことなくて
 店内見てもお客は女の人ばっかりだし
 やっぱ、日頃作ってる人じゃないと揚げられないのかな、とか、ちょっと不安でさ
 白久なら料理作れるから、揚げ具合わかるかな、って」
俺の言葉に
「それならば、お任せください」
白久はホッとした顔になり、頼もしく頷いてくれた。

俺達は早速店に移動する。
お昼の時間をかなり過ぎていたため、店内は程良く空いていた。
お店の人に席に案内され、システムを説明してもらう。
食べ放題とソフトドリンク飲み放題を注文し、俺たちは早速材料を取りに向かった。
「揚げ方とか揚げる時間の目安とか、説明書きあったのかー」
俺は少し拍子抜けしてしまった。
「野菜などは下茹でしてあるので、すぐ揚がりますよ
 肉や魚介もこの大きさなら、すぐです」
白久は串揚げ用の材料が置いてある場所を、物珍しげに眺めていた。

「あっちにはご飯やサラダがある
 わ、炊き込みご飯やカレー、うどんもあるよ
 デザートは、まだいいか
 取りあえず、炊き込みご飯と漬け物取ってこよっと
 その前に、串揚げ用の具をテーブルに置いてくる」
俺は目移りしてしまう。
「あちらのものも、好きなだけ食べて良いのですか」
白久が驚いた顔をしていた。
「うん、飲み物も、好きなだけ飲んで良いからね
 ファミレスと違って、時間制限あるけど」
俺の言葉に、白久は呆然と頷いていた。

選んだ物をテーブルに山積みし、俺たちは串揚げを揚げ始めた。
「こちらの水溶き粉を付けて、パン粉を付けて、油の中へ
 パン粉の前に小麦粉と卵を付けなくて良いので、楽ですね」
白久は手際よく串を油の中に入れていった。
俺も真似をして串を入れてみる。

「芽キャベツにヤングコーンを揚げる…成る程、アイデアですね
 たこ焼きや鯛焼きを揚げる発想はありませんでした
 勉強になります」
白久は生真面目な顔で頷いている。
「これは俺も初めて見た、何でも串に刺して揚げられるんだね
 自分で作るの、ちょっと面白い」
俺はピチピチと音を立てている油を見つめ、笑ってしまう。

「荒木、魚介を揚げるときは油跳ねに注意してください
 もう少し手を下げて
 ああ、こちらの方はもう引き上げても良さそうです」
白久の指示に従って、俺は串を引き上げていった。

「少し冷ましてください、揚げたては本当に熱いですからね」
「うん」
こんな時、白久は本当に頼りになるな、と俺は嬉しくなってしまった。
ソースをつけた串揚げを口に含むと
「揚げたて、美味しい!」
思わず笑みがこぼれてしまう。
「これは、家でやるよりお店に来た方が準備が楽で良いですね
 荒木とこんな風に料理を楽しみながら食べられるなんて、感激です
 良いお店に連れてきていただき、ありがとうございます」
白久が本当に嬉しそうに笑うので、俺も嬉しくなった。
「気に入ってもらえて良かった
 まだまだ行ったことない店いっぱいあるから、2人で思い出作っていこう」
「はい」

それから俺たちは制限時間まで料理を堪能し、店を出た。
「お腹一杯!食べ放題だと、食べ過ぎちゃうんだよね」
俺がヘヘッと笑うと
「私も食べ過ぎてしまいました」
白久も苦笑する。
「腹ごなしにブラブラしよう
 靴、見に行きたいんだ
 似合うの選んで」
俺の言葉に、白久は優しく頷いてくれた。

その後、俺たちは買い物をして映画を見る。
「特別な日ですから」
白久はそう言って、俺に色々買ってくれて荷物も持ってくれた。
俺は何だか、王様にでもなった気分だった。


夕飯は以前のデートの時と同じようにドッグカフェで食べた。
事前に白久が予約しておいてくれたので、バースデーケーキが用意されていた。
お店の人にまで『お誕生日おめでとうございます』と言われ、照れてしまう。

俺は幸せな気分で、影森マンションの白久の部屋に帰っていった。



白久の部屋で荷物を置いて制服から着替えクッションに座ると、心地よい疲れにおそわれる。
「今日は凄い楽しかった
 白久、付き合ってくれてありがとう」
お茶を煎れてくれた白久に改めて礼を言う。
「荒木の特別な日にお供できたこと、光栄です」
白久は誇らかな顔で答えてくれた。

「そちらの水晶から、三峰様の気配がいたします
 それは、三峰様からのプレゼントですか?」
俺の左手を見ながら、白久がそう聞いてきた。
「日野からのプレゼントなんだけど、ミイちゃんに作ってもらったんだって
 相性良いって言われたよ、石が輝いてるとか何とか
 俺にはよくわかんないけどさ」
俺は左手を電灯にかざしてそのブレスを見てみるが、やはりピンとこなかった。

「日野様も三峰様も、荒木のことを大事に思っております
 それが伝わってくる良いものですね」
白久にそう言ってもらえると満更でもない気分になってくる。
「私も何かプレゼントを、と思っていたのですが
 誕生日という日に何を選べば良いのか、見当がつかなくて…」
白久は少しションボリしてしまう。
そんな白久の手を握り
「白久からはいつも楽しい時間を貰ってるよ
 今日は串揚げの作り方教えてもらったし、色々買ってくれたじゃん
 白久と一緒に居られるの、本当に嬉しいんだ」
照れくさかったが、俺は素直な気持ちを告げていた。

「荒木…」
白久は俺を抱きしめて優しくキスをしてくれる。
「そうだ、今日は私が荒木をシャンプーしてさしあげます」
俺を抱きしめたまま、白久は悪戯っぽい顔を見せた。
「荒木のように上手く洗えると良いのですが」
そんな事を言われ、俺は頬が熱くなるのを自覚する。
「あの、じゃあ…、お願いしよっかな…」
俺は白久のたくましい胸に顔を埋め、小さな声でそう答えるのであった。


白久と一緒にシャワールームに移動する。
白久は泡立てたスポンジで、優しく俺の体を洗ってくれた。
いつも自分が白久にしていることではあったが、自分がしてもらう立場になると恥ずかしくてたまらなくなった。
『俺、かなり大胆なことしてたんだな』
今更ながら、自分の行為に照れてしまった。
髪を洗ってもらうとドキドキが止まらなくなる。
「初めてお会いした時より、髪を伸ばされていますね」
白久の指摘に
「ちょっと、カズハさんを意識してるかも…
 いや、カズハさんほど伸ばす気はないんだけどさ
 …変?」
俺は少し不安になってしまう。
「お似合いですよ、とても可愛らしい」
白久に誉められてキスをされると、俺は更にドキドキしてきた。

「あのね、白久からしか貰えないプレゼントが欲しい
 …して
 18歳の最初の夜、ずっと白久に側にいて欲しいんだ」
俺は彼の腕の中で甘えて囁いた。
「かしこまりました
 荒木の18歳最初の夜を共に過ごせること、光栄に思います
 願わくば、これから先も荒木と共に時を過ごさせてください」
白久は俺を強く抱きしめてくれた。


誕生日が来て1つ年を取り、俺が今までより大人になれたかどうかわからない。
でも、白久との思い出が積み重なっていく分だけ、俺は何かが増していく気がしていた。

体と髪を乾かして、俺たちはベッドに移動する。
俺に触れる白久の手の熱さ、体の熱さ、唇の熱さ、そして何より想いの熱さが愛おしい。
熱い白久に何度も貫かれ、俺は深い愛に満たされていく。


「荒木が生まれてきてくれた日、私にとって特別な日になりました
 私は自分の誕生日はおろか、自分が化生した日も覚えておりませんので」
行為の後で白久は俺を抱きながら、優しく髪を撫でてくれた。
その言葉は少し切ないものであったが
「じゃあ、俺が白久を飼った日を誕生日にすれば良いよ
 飼い主と巡り会えたって、化生にとって第2の生の始まりみたいなもんだろ」
俺は白久にキスをして、そう言った。
白久と初めて結ばれた日、それはクロスケの命日でもある。
俺にとっても忘れられない日であった。
悲しいこと、切ないこと、白久と離れたくないという想い、色々な感情が入り乱れた特別な日であったのだ。

白久は驚いた顔を見せた後、目に涙を浮かべ
「はい、そういたします」
俺をしっかりと抱きしめながら震える声でそう言った。
「荒木、愛しい私の飼い主
 貴方と巡り会えて本当に良かった」
肩に感じる白久の涙の熱が愛おしい。

「ずっと、一緒に居よう」

俺たちはお互いの存在を確認するよう抱き合って、安らかな眠りにつくのであった。
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