しっぽや(No.58~69)
side〈HINO〉
俺と荒木以外にしっぽやのバイト員に『タケぽん』が加わった。
彼は新入りの化生『ひろせ』の飼い主になったので、しっぽやでのバイトが可能になったのだ。
俺も荒木もしっぽやバイト員の後輩が出来るなんて思ってなかったから、何だか嬉しくなってしまう。
『後輩っつーには、デカいんだけどさ』
タケぽんは俺より2歳年下なのに黒谷より背が高く、会話をするときに見上げなければいけないのが少々難だった。
学校が春休みの俺達学生組は、連日しっぽやに顔を出して新たな作業をしていた。
今まで手書きで保管されていた報告書の内容を、パソコンで管理しようということになったのだ。
そのために新たな事務机やパソコンを買い揃え、俺達バイト員が入力作業を代行していた。
今日は依頼が多くて化生達は皆出払っているので、この場には人間である俺達しか居なかった。
「日野先輩、ここ、これで良いですか?」
パソコンに報告書の内容を入力し終わったタケぽんが聞いてくる。
ざっと目を通し
「ここ誤変換、『発券』じゃなくて『発見』
切符出してどうする」
俺は笑いながら指摘してやった。
「いけね」
タケぽんは間違えた箇所を慌てて直している。
「日野、これが4年前の報告書
どうする、5年以上前のものも入力しといた方がいいかな」
今度は書類の束を抱えた荒木が声をかけてきた。
「うーん、取りあえず5年前までの物を優先的に入力していこう」
何となく、俺がこの場の指揮を執る流れになっていた。
「こうして見ると、年々依頼数は増えてる感じだね
口コミでジワジワ評判が広がってるのかな
依頼が全然こない日とかもあって、ここの経営大丈夫なのかと心配したけどさ」
荒木が書類の束を見て頷いている。
「空がしつけ教室始めてくれたのも大きいよな
その後から、犬の依頼が増えてる気がする」
俺も書類をパラパラとめくりながら、そう答えた。
この報告書の中には、しっぽやの歴史がつまっていた。
俺と荒木はバイト中に書類整理をしていたのであらかた目を通していたし、黒谷や白久に今までのことを色々聞いている。
しかし飼い猫は新入りで、バイトに来てから日の浅いタケぽんは、ここのことをあまり知らない。
それで、タケぽんにしっぽやを知ってもらう意味もかねて、彼に報告書の内容を入力させているのであった。
「入力し終わったら、古い物は破棄するんですか?」
タケぽんが伺うように問いかけてきた。
「うーん、普通はそうなんだろうけど…」
俺は考え込んでしまう。
ここにあるのは単なる書類ではない。
犬や猫である化生達が頑張ってきた証(あかし)でもあるのだ。
この書類を作成するために、彼らは字を書くことを覚える、というところから始めていた。
最初の頃の羽生の報告書は、平仮名ばかりで誤字も目立つ。
中川先生と暮らし初めてから、使える漢字も増えて文章の組立もしっかりしてきていた。
犬の身でありながら、荒木のために猫の捜索に奮闘していた白久の姿も伺えた。
古い報告書の中には、今はここには居ない新郷や他の化生達の物もある。
「婆ちゃんが、俺が幼稚園行ってたときに使ってたお絵かき帳とか捨てられない、って言ってた気持ち、わかるぜ」
俺が苦笑すると
「これ、シュレッダーにかけるの忍びないですよね」
「だね」
タケぽんと荒木も苦笑しながら頷いた。
「破棄する前に、スキャナー買ってもらって取り込んどくか
黒谷に相談しとくよ
前にプリンターとか周辺機器買うときに、一緒に買ってもらえば良かったな」
俺の言葉に2人は明るい笑顔を見せた。
コンコン
そんなとき、扉をノックする音が聞こえた。
「あ、依頼人かな
取りあえず、用件聞いとかないと」
俺は慌てて扉に向かう。
「長瀞さんなら後30分くらいで帰れそうだ、ってメール来たから
猫なら、少し待っててもらえれば受け付けられるかも」
俺も荒木も馴れたもので、テキパキと段取りを決めていった。
「よっ、労働者諸君!」
ドアを開けて入ってきたのはゲンさんだった。
「何だ、ゲンさんか
今、皆、出払っちゃってて居ないんだ
長瀞さんならもうすぐ帰ってくると思うけど」
「少し待ってる?お茶、淹れようか?」
俺と荒木が声をかけると
「さっきお得意さんからこれ貰ってな
お裾分け持ってきたんだ、皆で食べてくれ」
ゲンさんはお菓子屋のロゴが入った紙袋を掲げて見せた。
「やったー、テラスおばさんのクッキーだ」
甘いもの好きのタケぽんが、すぐに反応する。
「ありがとうございます、上と下からお裾分け貰えるんで助かります
お茶菓子のメニュー、豊富になるから」
荒木も笑顔を見せた。
「なに、うちもひろせの焼いたお菓子をお裾分けして貰ってるからな
『情けは人の為ならず』だろ?」
ゲンさんは悪戯っぽい顔で笑って見せた。
「ゲンちゃん時間ある?
俺こないだ泊まりに行ったとき、ひろせに簡単に作れるロイヤルミルクティーの淹れ方教わったんだ
作ってみるから味見してって」
タケぽんが立ち上がると、ゲンさんは嬉しそうな顔になり
「よし、んじゃ、毒味していくとするか」
そう言ってソファーに座り込んだ。
「俺達も休憩しようか、タケぽん、俺も手伝うよ」
荒木はタケぽんを追って、控え室に消えていった。
ゲンさんは、優しい目でそんな2人を見ている。
「タケぽん、ナガトから卒業できたみたいだな」
ゲンさんが安心したように呟いた。
「あ、もしかして…」
まだタケぽんがひろせの飼い主になる前にここを訪れていたとき、彼が長瀞さんに向ける切ない瞳を俺は覚えていた。
「うん、まあ、そんな感じ
荒木少年は気付いてないみたいだったけど、日野少年にはバレてるんじゃないかと思ってた」
ゲンさんは俺を見て苦笑する。
「荒木、ちょっとニブいとこあるから」
俺も少し苦笑してしまう。
「カズ先生の話聞いてたから、あのままだったら可哀想だと思ってたんだ
だからって、ナガトを譲る気は無かったけどさ」
「それはそうでしょう、俺だって、何があっても黒谷だけは譲れない」
俺達は何となく共犯者じみた心持ちになっていた。
「ゲンちゃん、お待たせー」
10分程で、タケぽんと荒木がカップがのったトレイを持ってあらわれた。
「あとこれ、ひろせの新作クッキー
俺も、粉計るのとか手伝ったんだ」
得意そうな顔のタケぽんに、ゲンさんの顔が緩む。
「こりゃ美味そうだ、どれ、いただくかな」
ゲンさんがクッキーの小皿に手を伸ばすと
「先輩達も食べてみて」
タケぽんが明るい笑顔を向けてくる。
「じゃ、いただきます」
俺と荒木がクッキーに手を伸ばすのを、タケぽんは真剣な顔で見つめていた。
「美味しい、何か香ばしいね、何が入ってんだろ」
「ナッツ、とは違うよね」
俺達が首を捻ると
「オーツ麦ってのが入ってるんだって
体に良いって、ひろせが言ってた」
タケぽんは得意そうな顔になる。
「オートミールか、たまにナガトが煮てくれるよ
あれは和風の味付けにすると、お粥みたいで美味いんだ
夜食や朝食にピッタリ
ひろせは、タケぽんの体のこと考えてくれてるんだな」
ゲンさんの言葉で、タケぽんは幸せそうな笑顔になった。
「報告書の入力作業は進んでるか?
俺も前々から考えてたんだが、やってやる時間がなくてなー
かといって、代行業者にゃ絶対頼めないし
おまえ達がしっぽやに新しい風を吹き込んでくれて、本当に感謝してるよ」
ゲンさんが改まって頭を下げだしたので、俺達は慌ててしまった。
「いや、俺達、捜索とか手伝えないからさ」
「依頼人だってそんなに大量に来る訳じゃないから、時間余らせてたし」
「車の運転出来るようになれば、足になってあげられるんだけどね」
そんなことを言う俺達を、ゲンさんは優しい顔で見つめてくれた。
「よし、頑張る少年達にボーナスだ!
ひと狩り行こうぜ!」
子供のような笑顔を見せるゲンさんに
「ゲンちゃん、俺、そのゲームやってない」
タケぽんが、前に俺と荒木が言ったセリフを投げかける。
「今度は、どこに連れてってくれるの」
「あ、春だからイチゴ狩りでしょ、イチゴは加工しやすいもんね」
俺と荒木は笑いながらそう答えた。
「正解!さすが、高校生名探偵荒木!」
ゲンさんの言葉で、タケぽんが尊敬の眼差しを荒木に向けた。
「高設土耕栽培ってのやってる農園があってな、ここだとイチゴを採るのに屈まなくてすむから楽なんだよ
品種も色々あるし
前のリンゴ狩りの農園より近場にあるから、ゆっくりした時間に出発出来るぜ
イチゴ狩りの時間制限は短いんで、昼過ぎに現地到着で十分だ
前日から自分の化生のとこにお泊まりして、朝ご飯は各自部屋で食ってこい
お泊まりが目的みたいなトリプルデートになるな」
クツクツと笑うゲンさんの言葉に、俺は違和感を覚えた。
「トリプル?」
荒木も同じ事に気が付いたようだ。
「さすがに、黒谷、白久、ひろせ、ナガトが休むのはマズいからな
今は上が忙しくて応援頼めないし、ナガトはしっぽやに出てもらうよ」
それを聞いて俺達は顔を見合わせる。
「長瀞さんが来れないんじゃ、申し訳ないよ」
そう抗議する俺達を、ゲンさんは笑顔で見てくれた。
コンコン
ノックと共に扉が開き、長瀞さんが帰ってくる。
「ああ、ゲン、来ていましたか
もうイチゴ狩りのお誘いはしたのですか?」
長瀞さんの言葉に
「でも、長瀞さんは留守番って…」
俺は思わず呟いた。
「ゲンは、貴方達に何かしてあげたくて仕方ないのです
付き合ってあげてください
私の代わりに、ゲンがきちんと野菜を食べるよう見張っていてくださいね」
優しい長瀞さんの微笑みに
「はい!」
俺達は顔を見合わせて強く頷くのであった。
俺と荒木以外にしっぽやのバイト員に『タケぽん』が加わった。
彼は新入りの化生『ひろせ』の飼い主になったので、しっぽやでのバイトが可能になったのだ。
俺も荒木もしっぽやバイト員の後輩が出来るなんて思ってなかったから、何だか嬉しくなってしまう。
『後輩っつーには、デカいんだけどさ』
タケぽんは俺より2歳年下なのに黒谷より背が高く、会話をするときに見上げなければいけないのが少々難だった。
学校が春休みの俺達学生組は、連日しっぽやに顔を出して新たな作業をしていた。
今まで手書きで保管されていた報告書の内容を、パソコンで管理しようということになったのだ。
そのために新たな事務机やパソコンを買い揃え、俺達バイト員が入力作業を代行していた。
今日は依頼が多くて化生達は皆出払っているので、この場には人間である俺達しか居なかった。
「日野先輩、ここ、これで良いですか?」
パソコンに報告書の内容を入力し終わったタケぽんが聞いてくる。
ざっと目を通し
「ここ誤変換、『発券』じゃなくて『発見』
切符出してどうする」
俺は笑いながら指摘してやった。
「いけね」
タケぽんは間違えた箇所を慌てて直している。
「日野、これが4年前の報告書
どうする、5年以上前のものも入力しといた方がいいかな」
今度は書類の束を抱えた荒木が声をかけてきた。
「うーん、取りあえず5年前までの物を優先的に入力していこう」
何となく、俺がこの場の指揮を執る流れになっていた。
「こうして見ると、年々依頼数は増えてる感じだね
口コミでジワジワ評判が広がってるのかな
依頼が全然こない日とかもあって、ここの経営大丈夫なのかと心配したけどさ」
荒木が書類の束を見て頷いている。
「空がしつけ教室始めてくれたのも大きいよな
その後から、犬の依頼が増えてる気がする」
俺も書類をパラパラとめくりながら、そう答えた。
この報告書の中には、しっぽやの歴史がつまっていた。
俺と荒木はバイト中に書類整理をしていたのであらかた目を通していたし、黒谷や白久に今までのことを色々聞いている。
しかし飼い猫は新入りで、バイトに来てから日の浅いタケぽんは、ここのことをあまり知らない。
それで、タケぽんにしっぽやを知ってもらう意味もかねて、彼に報告書の内容を入力させているのであった。
「入力し終わったら、古い物は破棄するんですか?」
タケぽんが伺うように問いかけてきた。
「うーん、普通はそうなんだろうけど…」
俺は考え込んでしまう。
ここにあるのは単なる書類ではない。
犬や猫である化生達が頑張ってきた証(あかし)でもあるのだ。
この書類を作成するために、彼らは字を書くことを覚える、というところから始めていた。
最初の頃の羽生の報告書は、平仮名ばかりで誤字も目立つ。
中川先生と暮らし初めてから、使える漢字も増えて文章の組立もしっかりしてきていた。
犬の身でありながら、荒木のために猫の捜索に奮闘していた白久の姿も伺えた。
古い報告書の中には、今はここには居ない新郷や他の化生達の物もある。
「婆ちゃんが、俺が幼稚園行ってたときに使ってたお絵かき帳とか捨てられない、って言ってた気持ち、わかるぜ」
俺が苦笑すると
「これ、シュレッダーにかけるの忍びないですよね」
「だね」
タケぽんと荒木も苦笑しながら頷いた。
「破棄する前に、スキャナー買ってもらって取り込んどくか
黒谷に相談しとくよ
前にプリンターとか周辺機器買うときに、一緒に買ってもらえば良かったな」
俺の言葉に2人は明るい笑顔を見せた。
コンコン
そんなとき、扉をノックする音が聞こえた。
「あ、依頼人かな
取りあえず、用件聞いとかないと」
俺は慌てて扉に向かう。
「長瀞さんなら後30分くらいで帰れそうだ、ってメール来たから
猫なら、少し待っててもらえれば受け付けられるかも」
俺も荒木も馴れたもので、テキパキと段取りを決めていった。
「よっ、労働者諸君!」
ドアを開けて入ってきたのはゲンさんだった。
「何だ、ゲンさんか
今、皆、出払っちゃってて居ないんだ
長瀞さんならもうすぐ帰ってくると思うけど」
「少し待ってる?お茶、淹れようか?」
俺と荒木が声をかけると
「さっきお得意さんからこれ貰ってな
お裾分け持ってきたんだ、皆で食べてくれ」
ゲンさんはお菓子屋のロゴが入った紙袋を掲げて見せた。
「やったー、テラスおばさんのクッキーだ」
甘いもの好きのタケぽんが、すぐに反応する。
「ありがとうございます、上と下からお裾分け貰えるんで助かります
お茶菓子のメニュー、豊富になるから」
荒木も笑顔を見せた。
「なに、うちもひろせの焼いたお菓子をお裾分けして貰ってるからな
『情けは人の為ならず』だろ?」
ゲンさんは悪戯っぽい顔で笑って見せた。
「ゲンちゃん時間ある?
俺こないだ泊まりに行ったとき、ひろせに簡単に作れるロイヤルミルクティーの淹れ方教わったんだ
作ってみるから味見してって」
タケぽんが立ち上がると、ゲンさんは嬉しそうな顔になり
「よし、んじゃ、毒味していくとするか」
そう言ってソファーに座り込んだ。
「俺達も休憩しようか、タケぽん、俺も手伝うよ」
荒木はタケぽんを追って、控え室に消えていった。
ゲンさんは、優しい目でそんな2人を見ている。
「タケぽん、ナガトから卒業できたみたいだな」
ゲンさんが安心したように呟いた。
「あ、もしかして…」
まだタケぽんがひろせの飼い主になる前にここを訪れていたとき、彼が長瀞さんに向ける切ない瞳を俺は覚えていた。
「うん、まあ、そんな感じ
荒木少年は気付いてないみたいだったけど、日野少年にはバレてるんじゃないかと思ってた」
ゲンさんは俺を見て苦笑する。
「荒木、ちょっとニブいとこあるから」
俺も少し苦笑してしまう。
「カズ先生の話聞いてたから、あのままだったら可哀想だと思ってたんだ
だからって、ナガトを譲る気は無かったけどさ」
「それはそうでしょう、俺だって、何があっても黒谷だけは譲れない」
俺達は何となく共犯者じみた心持ちになっていた。
「ゲンちゃん、お待たせー」
10分程で、タケぽんと荒木がカップがのったトレイを持ってあらわれた。
「あとこれ、ひろせの新作クッキー
俺も、粉計るのとか手伝ったんだ」
得意そうな顔のタケぽんに、ゲンさんの顔が緩む。
「こりゃ美味そうだ、どれ、いただくかな」
ゲンさんがクッキーの小皿に手を伸ばすと
「先輩達も食べてみて」
タケぽんが明るい笑顔を向けてくる。
「じゃ、いただきます」
俺と荒木がクッキーに手を伸ばすのを、タケぽんは真剣な顔で見つめていた。
「美味しい、何か香ばしいね、何が入ってんだろ」
「ナッツ、とは違うよね」
俺達が首を捻ると
「オーツ麦ってのが入ってるんだって
体に良いって、ひろせが言ってた」
タケぽんは得意そうな顔になる。
「オートミールか、たまにナガトが煮てくれるよ
あれは和風の味付けにすると、お粥みたいで美味いんだ
夜食や朝食にピッタリ
ひろせは、タケぽんの体のこと考えてくれてるんだな」
ゲンさんの言葉で、タケぽんは幸せそうな笑顔になった。
「報告書の入力作業は進んでるか?
俺も前々から考えてたんだが、やってやる時間がなくてなー
かといって、代行業者にゃ絶対頼めないし
おまえ達がしっぽやに新しい風を吹き込んでくれて、本当に感謝してるよ」
ゲンさんが改まって頭を下げだしたので、俺達は慌ててしまった。
「いや、俺達、捜索とか手伝えないからさ」
「依頼人だってそんなに大量に来る訳じゃないから、時間余らせてたし」
「車の運転出来るようになれば、足になってあげられるんだけどね」
そんなことを言う俺達を、ゲンさんは優しい顔で見つめてくれた。
「よし、頑張る少年達にボーナスだ!
ひと狩り行こうぜ!」
子供のような笑顔を見せるゲンさんに
「ゲンちゃん、俺、そのゲームやってない」
タケぽんが、前に俺と荒木が言ったセリフを投げかける。
「今度は、どこに連れてってくれるの」
「あ、春だからイチゴ狩りでしょ、イチゴは加工しやすいもんね」
俺と荒木は笑いながらそう答えた。
「正解!さすが、高校生名探偵荒木!」
ゲンさんの言葉で、タケぽんが尊敬の眼差しを荒木に向けた。
「高設土耕栽培ってのやってる農園があってな、ここだとイチゴを採るのに屈まなくてすむから楽なんだよ
品種も色々あるし
前のリンゴ狩りの農園より近場にあるから、ゆっくりした時間に出発出来るぜ
イチゴ狩りの時間制限は短いんで、昼過ぎに現地到着で十分だ
前日から自分の化生のとこにお泊まりして、朝ご飯は各自部屋で食ってこい
お泊まりが目的みたいなトリプルデートになるな」
クツクツと笑うゲンさんの言葉に、俺は違和感を覚えた。
「トリプル?」
荒木も同じ事に気が付いたようだ。
「さすがに、黒谷、白久、ひろせ、ナガトが休むのはマズいからな
今は上が忙しくて応援頼めないし、ナガトはしっぽやに出てもらうよ」
それを聞いて俺達は顔を見合わせる。
「長瀞さんが来れないんじゃ、申し訳ないよ」
そう抗議する俺達を、ゲンさんは笑顔で見てくれた。
コンコン
ノックと共に扉が開き、長瀞さんが帰ってくる。
「ああ、ゲン、来ていましたか
もうイチゴ狩りのお誘いはしたのですか?」
長瀞さんの言葉に
「でも、長瀞さんは留守番って…」
俺は思わず呟いた。
「ゲンは、貴方達に何かしてあげたくて仕方ないのです
付き合ってあげてください
私の代わりに、ゲンがきちんと野菜を食べるよう見張っていてくださいね」
優しい長瀞さんの微笑みに
「はい!」
俺達は顔を見合わせて強く頷くのであった。