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しっぽや(No.58~69)

  少し未来の物語


side〈TAKESHI〉

俺がひろせを飼い始めてから、10年の月日が流れた。
俺たちは今、影森マンションで一緒に暮らしている。
「今日もお疲れさま」
ひろせは、出会った頃と変わらぬ笑顔で俺を労ってくれた。
「ひろせこそ、お疲れさま
 やっぱ、俺だと細かい想念が読みとれないよ
 ひろせのことは、何でもわかるんだけどさ」
俺は苦笑して頭をかいた。

大学卒業後、俺はアニマルコミュニケーターとしての能力を生かすべく、所員としてしっぽやに就職したのだ。
荒木先輩と日野先輩もしっぽやに就職しているが、彼らは車を駆使しての外回りや事務の補佐、HPの対応や接客などを行っている。
捜索に携わる所員としては、俺は人間初であった。
もちろん一人で捜索できるほどの能力ではないので、ひろせと組んでどうにかこうにか頑張っているという感じである。

「まだまだ、双子みたいな連携プレーは出来ないよな
 せっかくひろせが情報を送ってくれても、俺の姿見て、猫が逃げちゃったりするし
 そうすると想念を通わせる以前の問題だからさ」
俺はため息をついてみせた。
俺の身長は高校に入ってからも伸び続け、今では空とあまり変わらない上背になっていた。
迷子になってただでさえパニクっている猫に、ビビられることもしばしばあるのだ。

「僕としてはライバルを増やしたくないから、タケシが波久礼みたいになってもらっても困るんだけど」
ひろせは少しムクレてみせる。
「いくらなんでも、俺、波久礼の域には到達できないよ
 あいつ、猫神として猫世界に君臨できそうな勢いじゃん
 それに、俺の可愛い飼い猫はひろせだけ
 だから、他の猫に想念通じにくいのかな」
俺はひろせを抱き寄せて、その柔らかな髪に口付けした。
ひろせはすぐに幸せそうな顔になって、俺にもたれ掛かってきた。

「夕飯は何にしますか
 胸肉があるからチキンソテーと、ジャコと油揚げをカリカリに焼いてサラダにかけようかな
 後はほうれん草のお浸しとか、あ、ゴマ和えの方が良い?
 味噌汁はキャベツと残りの油揚げで
 これで栄養バランス的にはどうなのかな、魚が足りない?
 やっぱりまだ、長瀞みたいにはパパッと計算出来ないや」
悩み始めたひろせに
「いつもありがとう
 ひろせの料理も、ナガトのに負けないくらい美味しいしバランス良いよ
 でも俺」
『先にひろせを食べたいな』
最後だけ、想念としてそう伝えた。
『僕も、タケシに食べられたい』
ひろせは艶めいた顔で、俺を見上げてくる。
心が通じ合っている俺たちに、言葉はいらなかった。

俺たちはそのままベッドルームに移動する。
熱く、時にジャレるように唇を重ねながら、お互いの服を脱がせていく。
初めてひろせと契ったのは、俺の16歳の誕生日の時だった。
何もかも初めてだった俺は、今思い返しても、かなり赤面物なガキだった。
そんな俺を、ひろせは優しく受け止めてくれた。
今だって、優しく、熱く、俺を受け入れてくれる。
「タケシ…タケシ…」
俺の体の下から、愛おしそうに甘く甘く、名前を囁いてくれる。
「ひろせ、愛してるよ…」
俺は彼を貫きながら、その耳元にそっと囁いた。
たとえ心が通じ合っていても、言葉にして確かめたい想いがそこにはあった。
「あっ…タケシ、タケシ!」
ひろせが俺を熱く締め付けながら、想いを解放する。
「ひろせ!」
俺も彼の中に熱い想いを放っていた。

想いを解放し合っても、俺たちの中には枯れることの無い泉のように、お互いに対する愛が生まれ続けている。
腕の中のひろせを抱きしめて
「後は、デザートにとっとく
 寝る前に、もう1回良い?」
俺は少し悪戯っぽく言ってみた。
「はい
 デザートとメイン、一緒に食べるのは贅沢だけど
 こればっかりはね」
ひろせも、悪戯っぽい顔で返事をしてくれる。
俺はそんなひろせが可愛くてしかたがなかった。
「夕飯作るの、俺も手伝うよ
 ジャコと油揚げは炒れば良いかな?
 ほうれん草はゴマ和えが良いから、ゴマもすろう」
俺は衣服を身に纏いながらそう聞いてみた。
「お願いします」
ひろせも服を着て、優しく微笑んだ。
ひろせは飼い主を守るために化生した。
確かにその微笑みは、俺の心を幸せで守ってくれる。
俺もその微笑みを守るため、もっともっと頑張ろうといつも心に誓っていた。

「ゴマを~すり~ま~しょ」
俺は昔、ゲンちゃんに教わった歌を口ずさみながらキッチンに移動する。
「すれば、この世に春がきますね」
同じ歌を習ったひろせが、クスクス笑いながら俺の横に並んだ。
「ああ、俺たちみたいに暖かい春が来る、なんてな」
「そーゆーとこ、ゲンに似てきましたよ」
「ま、俺の理想の大人はゲンちゃんだからね」
俺は笑いながら、ひろせにキスをする。


俺たちの幸せな未来は、これからもずっと続いていくのだ。
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