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しっぽや(No.58~69)

僕は少し悪戯心を起こし
「実は、僕は猫なんです
 僕が何を考えているか、当ててみてください」
そう言って微笑んで見せた。
彼は驚いた顔をしている。
僕はそのまま言葉として伝えられないタケぽんへの気持ちを、心の中で唱えてみた。
『タケぽん、好きです、愛しています
 貴方が長瀞のことを好きでも、僕も好きでいても良いですか
 本当に貴方のことが好きなんです
 そして、もしも僕のことを嫌いでないのなら、僕を飼ってください
 僕をあなたの飼い猫にしてください
 優しく抱きしめてください
 愛してます、愛してます…』
その時、ふと心に何かが触れるのを感じた。
気が付くと、タケぽんは顔を真っ赤にして呆然として僕を見ている。

「え?あの、え?ええっ?!」
慌てだすタケぽんにつられ、僕も慌ててしまう。
『まさか、今の想いが彼に届いたのか?』
「いえ、あの、すいません
 僕なんかに好かれても、迷惑ですよね」
僕は居たたまれない思いを感じながら、そう弁解してみた。
しかしタケぽんは何かを決心した顔になると
「俺も、ひろせに伝えたいと思ってることがあるんだ」
そう言って目を閉じて何かを伝えようと集中し始める。
暫くすると僕の心に
『俺も、ひろせが好き
 俺のために一生懸命になってくれるひろせが大好き
 ナガトのこと好きだって言ってたのに、浮気性っぽいと思われるかもしれないけど
 まだまだガキで、頼りないけど…
 それでも、ひろせが好きなんだ
 タケぽんじゃなく、「タケシ」って呼ばれて一人前の男として好きになってもらいたい』
タケぽんの想いが押し寄せてきた。
それは嘘偽りのない彼の心そのものだった。
彼は本当に、アニマルコミュニケーターの能力を有していたのだ。

「タケシ…」
僕は思いを込めて、彼の名前を囁いた。
「ひろせ…」
彼も熱い瞳で僕を見つめ、優しく抱きしめてくれた。
僕達はそのまま唇を重ねる。
言葉が無くても、お互いを愛する心の声が胸に響きわたっていた。
「ひろせ、本当に猫なんだね
 ノルウェージャンフォレストキャットみたいだ、って思ってたんだ」
彼は優しく僕の髪にキスしてくれる。
僕の正体が猫だとわかっても彼の僕に対する想いは揺るぎが無く、そのことは泣きたくなるような安堵感となって胸に押し寄せてきた。
「しるばに教えてもらって覚えてることもあるんだ
 『猫は人間になれる』
 それは、ひろせみたいな存在のことなんだね
 そうか、ナガトもそうなんだ
 それで俺、ナガトとしるばを間違えたんだな」
タケシは僕の髪を撫でながら、納得した様子だった。

「僕達は『化生』と呼ばれる存在です
 守りたい人を守れなかった獣がその生をやり直すため、人に化けて生きてます
 人としての生はまがい物かもしれませんが、それでも僕達は新たな飼い主と巡り会いたいのです」
彼の胸に顔を埋めそう訴えると
「大丈夫、ひろせのことは俺がちゃんと飼う
 責任もって飼うから
 でもさ、俺の心にはまだナガトとしるばが居る…
 そんな未練がましい俺でも、ひろせは俺の飼い猫でいてくれる?」
タケシは少し心配そうにそう聞いてきた。
「僕の心にも、まだあのお方がいます
 僕達、前にタケシが言っていたように『まだまだこれから』なんだと思います
 いつか僕達だけに訪れる未来のため、一緒に過ごしていきましょう」
僕が微笑むと、タケシは優しくキスしてくれた。

「ひろせって、年上なのに凄く可愛いところがあるな、って思ってたんだ
 きっと、猫のひろせもキレイで可愛いんだろうね」
タケシは僕を見て、少し照れたように笑った。
「猫だったときの僕を見せられますよ
 心で想いは伝えられても、映像は記憶の転写をしないと共有できないと思うので」
僕がそう言うと
「見てみたい」
タケシは子供のような笑顔を向けてきた。
僕は彼の額と自分の額を合わせ、過去に思いを馳せる。
あのお方と過ごした日々を、タケシとも分かち合いたかった。


記憶の転写を終えた後、タケシは僕を強く抱きしめてくれた。
「猫のひろせも、やっぱり可愛いよ
 ひろせがお菓子作るの好きなの、前の飼い主さんの影響なのかな
 でも俺のために、って色々作ってくれたの、凄く嬉しかった
 俺、ちゃんとひろせを幸せにする」
タケシはそう言うと、僕の額にコツンと自分の額を付けた。
そのとたん、僕の脳裏には小さなタケシがチンチラシルバーと遊んでいる映像が浮かんできたのだ。
2人は楽しそうにおしゃべりしている。

『いつかタケシは化生に取られそう、良い人間だから』
『ケショーって何?』
『人間になった猫、猫は人間になれるんだ』

ほんの短い時間であったが、僕はタケシの過去を垣間見た。
タケシ自身も驚いた顔をしている。
「今の…俺の過去?」
「しるばの、予言通りになりましたね」
僕はクスリと笑うと、彼をギュッと抱きしめた。

生涯彼と共にあろうと、僕は胸に誓うのであった。
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