しっぽや(No.58~69)
side〈HIROSE〉
今日はタケぽんの合格発表の日だ。
僕は朝からソワソワしっぱなしだった。
『ちゃんと自分で言いに来てくれるよ』
荒木や日野にそう言ってもらっていたのだが最後の勉強会以降、タケぽんに会えない日々が続いていたので、僕は寂しくて仕方なかったのだ。
控え室に居る気になれず、事務所内のソファーでタケぽんが来てくれるのをずっと待っていた。
コンコン
気配が違うとわかっていても、僕はつい立ち上がって出迎えてしまう。
「あれ、ひろせ、タケぽんまだ来てないのか
俺達も気になって学校行ってみたけど、発表見に来てる子、もう誰も居なかったよ」
「今後のこととか、親御さんと相談したりしてんのかな
色々用意する物とかあるからさ
俺の時、『最近の準備はよくわからない』って婆ちゃん焦ってたし」
やってきたのは荒木と日野だった。
「夜までには来てくれるよ
ちゃんと、自分の口から皆に伝えたいって言ってたもんな
あいつ、義理堅いとこある良い奴だよ」
荒木がそう言ってくれて、僕は少し落ち着いた気分になれた。
それから、タケぽんが来てくれるまで永遠に感じられる時間を過ごしていた。
申し訳なかったけど、とても捜索に行ける状態ではなかった。
そんな僕を、しっぽやの皆は温かく見守ってくれた。
改めて僕は、ここに来れた幸運を感じるのであった。
「遅くなってすいません、なんかゴタゴタしちゃってて」
満面の笑みのタケぽんが事務所に来てくれたのは、夕方になってからだった。
彼が階段を上ってくる気配を感じただけで、僕の心臓は早鐘のように鳴っていた。
「無事、合格できました!
お2人のおかげです、ありがとうございました!」
荒木と日野に礼儀正しく頭を下げたタケぽんは
「ひろせも、ありがとう
ひろせのミルクティーやお菓子で、やる気出た」
僕に向き直って笑顔でそう言ってくれる。
タケぽんが長瀞のことを好きだとわかっていても、好意を向けられた気がしてドキリとしてしまう。
「良かったです、僕もタケぽんに負けないよう、捜索をもっと頑張って早く独り立ち出来るようにならないと」
僕の言葉に
「俺たち、まだまだこれからだもんね
お互い、頑張ろう」
タケぽんは輝く瞳で応えてくれた。
それからタケぽんが帰るまでの短い時間ではあったが、お祝いのお茶会のようなものが始まった。
僕はカズハさんに貰ったパンケーキの紅茶でミルクティーを淹れてみる。
「何これ、面白い味!
紅茶なのに、パンケーキの匂いがする」
「しかも、メープルシロップがかかったパンケーキ
ミルクティーにあうね」
「カズハさんって、本当に色んな紅茶持ってるなー」
それは皆に好評で、嬉しくなった。
「今夜、電話するね」
帰り際にタケぽんがこっそり囁いてくれて、僕はさらに嬉しくなってしまうのであった。
その夜、僕はテーブルの上にスマホを置いて、ドキドキしながら電話が来るのを待っていた。
着信を告げる音楽が鳴り、画面に『武川丈志』という名前が表示される。
緊張のあまり取り落としそうになってしまうが、なんとか電話に出ることが出来た。
「あの、ひろせです」
『ひろせ、今晩は、さっきは美味しいミルクティーありがと』
耳元で聞こえるタケぽんの声に、僕の鼓動は速まりっぱなしだった。
『あのさ、合格したらパウンドケーキ焼いてくれるって言ってたでしょ
それって、いつ取りに行けばいいかな
事務所に行けば良いの?』
タケぽんの言葉に
「よろしければ、家に遊びに来てゆっくりしながら食べていってください」
僕は思いきってそう誘ってみる。
『え?ひろせのとこに?』
少し驚いたようなタケぽんに
「引っ越してきたばかりで何にもない部屋ですが
僕しか居ないから気兼ねなく過ごせるかと
影森マンションの場所はわかりますか?
そこの最上階に部屋があります
エントランスから電話してくれれば、迎えに行きますよ
タケぽんの都合の良い日にどうぞ」
僕はドキドキを悟られないよう、何でもないことのように告げてみた。
『ひ、ひろせの部屋?
え?ど、どんな格好で行けばいいの?
あっと、ゲンちゃんとこ遊びに行ったことあるから、マンションの場所はわかるよ
えと、次の土曜日とか、ひろせ、休みかな
ひろせは仕事してるから、俺がひろせの休みに合わせるよ
俺、もう、ほとんど学校行かなくて良いし』
タケぽんは何だかシドロモドロ、と言った感じで答えてくれた。
急な誘いすぎたかと思ったけど、彼は部屋に来ることを了承してくれた。
「それでは、次の土曜日、お待ちしています」
『うん、お昼頃には行くよ』
約束を交わして通話を終えた僕の心は浮き立っていた。
『タケぽんがこの部屋に来てくれる』
それだけで、僕はここが特別な場所に感じられるのであった。
タケぽんが来てくれる当日、しっぽやの仕事は休みにしてもらった。
前日にパウンドケーキを焼き、甘いものだけでは飽きるかもしれないと、朝からサンドイッチも作っておいた。
『オニギリの方が良かったかな?
茹でればパスタもあるし、足りなかったら作り足そう』
紅茶の準備も整えて、僕はタケぽんからの電話を待っていた。
彼が来てくれると思うだけで、とても幸せな気分になれた。
きちんとおもてなしして、タケぽんにもこの部屋に来て良かったと思ってもらいたかった。
正午前に、スマホが着信を告げる。
僕はエントランスまでタケぽんを迎えに行き、専用エレベーターで最上階に一緒に移動した。
「俺、最上階って初めて」
タケぽんは物珍しそうに辺りを見回している。
「ここが、僕の部屋です」
タケぽんを部屋に通すと
「へー、機能的でシンプルって感じ
そっか、まだ、越してきてそんなに経ってないもんね
俺の部屋、荷物でゴチャゴチャなんだ
見習わないと」
そんなことを言いながら、照れくさそうに頭をかいた。
部屋を見回していたタケぽんが
「そういや、荒木先輩と日野先輩は?
白久とか黒谷も来るのかな?」
そんな事を尋ねてくる。
「いえ、今日は僕が個人的にお祝いしたいなって思ってたので
僕だけなんです
ご迷惑でしたか?」
タケぽんは合格祝いのパーティーだと思っていたようで、僕は焦ってしまった。
長瀞も来てくれると期待していたのなら、悪いことをしてしまったと気落ちしてしまう。
「え?そうなの?わざわざ俺のために?
…ありがとう、凄く嬉しい」
タケぽんは赤くなりながら、嬉しそうな笑みを浮かべる。
その笑顔に、僕はホッとする思いを感じていた。
「どうぞ、お座りください
今、ケーキとお茶の準備をしますから」
僕はタケぽんにクッションを勧め、キッチンに移動した。
『喜んでもらえると良いな』
試食した長瀞とゲンには好評だった桜ティーのパウンドケーキと、桜の風味の邪魔にならないオーソドックスなミルクティーを淹れ、タケぽんの前に置く。
タケぽんはケーキを食べると
「わあ、桜の良い匂い、春のケーキだね
すっごく美味しい、お店で売ってるのより絶対美味しいよ!」
そう言って誉めてくれた。
「サンドイッチも作ってあるんです
一緒にお昼ご飯食べませんか?
あ、ケーキはデザートで後から出せば良かったのか」
僕がそのことに気が付いて自分の失敗を悔やむと
「ひろせとランチしたいな
メインとデザート、一緒に食べるなんて贅沢で良いじゃん」
彼は何でもないことのようにそう言ってくれる。
その優しさが嬉しくて
「はい!すぐ、用意します」
僕はウキウキとした気分でキッチンに向かった。
タケぽんと一緒に食べるランチは、とても美味しく感じられた。
舞い上がっていたせいだろうか、タケぽんが僕に好意を寄せてくれている気がしてしかたなかった。
『こーゆーの、自意識過剰って言うんだっけ』
タケぽんは長瀞が好きなのだ、と自分に釘を刺すが、少なくとも嫌われてはいないだろうと思えた。
まだ何もかも長瀞にはおよばないが、僕がタケぽんを好きでいても良いか聞いてみたい誘惑にかられる。
2人っきりという状況が、僕を大胆な気持ちにさせていた。
食後にバニラの紅茶でミルクティーを淹れてみた。
部屋中に甘い香りが漂っている。
「何かさ、バニラってフワフワって優しくて甘いイメージがあって…
ちょっとひろせみたいだね
って、俺、何言ってんだろ、ガキみたい」
自分で言った言葉に、タケぽんは照れた顔を見せた。
「俺さ、子供の頃、飼ってた猫とおしゃべりできたと思ってたんだ
『しるば』ってチンチラシルバー飼っててさ
本当は『シルヴィア』って名前だったんだけど、子供だったから上手く言えなくて『しるば』って呼んでた
何を話してたかほとんど忘れちゃったけど、しるばに色んな事を教わった気がする
俺、まだ、その頃みたいに夢見がちなガキなのかな」
タケぽんは少し遠くを見ながらそんなことを言っていた。
「アニマルコミュニケーター…」
僕は思わずそう呟いていた。
あのお方がそんな能力を持った人の本を読んでいて、僕達に語りかけてくれていたことを思い出したのだ。
不思議そうな瞳を向けてくるタケぽんに
「動物と意志疎通できる能力を持った方がいるそうです
そういう方を『アニマルコミュニケーター』って言うんですって
でも、特殊能力じゃなくても、自分の側にいる愛しいものとなら気持ちは通じあえますよ
きっと、しるばもタケぽんが大好きで、タケぽんもしるばが大好きだったからお話できたんだと思います」
僕はそう言いながら、会話をしていると錯覚するほど彼と通じあえていたその猫が羨ましくてしかたなかった。
「そんな風に言ってもらえたの、初めてだ」
タケぽんは泣きそうな笑顔を見せた。
今日はタケぽんの合格発表の日だ。
僕は朝からソワソワしっぱなしだった。
『ちゃんと自分で言いに来てくれるよ』
荒木や日野にそう言ってもらっていたのだが最後の勉強会以降、タケぽんに会えない日々が続いていたので、僕は寂しくて仕方なかったのだ。
控え室に居る気になれず、事務所内のソファーでタケぽんが来てくれるのをずっと待っていた。
コンコン
気配が違うとわかっていても、僕はつい立ち上がって出迎えてしまう。
「あれ、ひろせ、タケぽんまだ来てないのか
俺達も気になって学校行ってみたけど、発表見に来てる子、もう誰も居なかったよ」
「今後のこととか、親御さんと相談したりしてんのかな
色々用意する物とかあるからさ
俺の時、『最近の準備はよくわからない』って婆ちゃん焦ってたし」
やってきたのは荒木と日野だった。
「夜までには来てくれるよ
ちゃんと、自分の口から皆に伝えたいって言ってたもんな
あいつ、義理堅いとこある良い奴だよ」
荒木がそう言ってくれて、僕は少し落ち着いた気分になれた。
それから、タケぽんが来てくれるまで永遠に感じられる時間を過ごしていた。
申し訳なかったけど、とても捜索に行ける状態ではなかった。
そんな僕を、しっぽやの皆は温かく見守ってくれた。
改めて僕は、ここに来れた幸運を感じるのであった。
「遅くなってすいません、なんかゴタゴタしちゃってて」
満面の笑みのタケぽんが事務所に来てくれたのは、夕方になってからだった。
彼が階段を上ってくる気配を感じただけで、僕の心臓は早鐘のように鳴っていた。
「無事、合格できました!
お2人のおかげです、ありがとうございました!」
荒木と日野に礼儀正しく頭を下げたタケぽんは
「ひろせも、ありがとう
ひろせのミルクティーやお菓子で、やる気出た」
僕に向き直って笑顔でそう言ってくれる。
タケぽんが長瀞のことを好きだとわかっていても、好意を向けられた気がしてドキリとしてしまう。
「良かったです、僕もタケぽんに負けないよう、捜索をもっと頑張って早く独り立ち出来るようにならないと」
僕の言葉に
「俺たち、まだまだこれからだもんね
お互い、頑張ろう」
タケぽんは輝く瞳で応えてくれた。
それからタケぽんが帰るまでの短い時間ではあったが、お祝いのお茶会のようなものが始まった。
僕はカズハさんに貰ったパンケーキの紅茶でミルクティーを淹れてみる。
「何これ、面白い味!
紅茶なのに、パンケーキの匂いがする」
「しかも、メープルシロップがかかったパンケーキ
ミルクティーにあうね」
「カズハさんって、本当に色んな紅茶持ってるなー」
それは皆に好評で、嬉しくなった。
「今夜、電話するね」
帰り際にタケぽんがこっそり囁いてくれて、僕はさらに嬉しくなってしまうのであった。
その夜、僕はテーブルの上にスマホを置いて、ドキドキしながら電話が来るのを待っていた。
着信を告げる音楽が鳴り、画面に『武川丈志』という名前が表示される。
緊張のあまり取り落としそうになってしまうが、なんとか電話に出ることが出来た。
「あの、ひろせです」
『ひろせ、今晩は、さっきは美味しいミルクティーありがと』
耳元で聞こえるタケぽんの声に、僕の鼓動は速まりっぱなしだった。
『あのさ、合格したらパウンドケーキ焼いてくれるって言ってたでしょ
それって、いつ取りに行けばいいかな
事務所に行けば良いの?』
タケぽんの言葉に
「よろしければ、家に遊びに来てゆっくりしながら食べていってください」
僕は思いきってそう誘ってみる。
『え?ひろせのとこに?』
少し驚いたようなタケぽんに
「引っ越してきたばかりで何にもない部屋ですが
僕しか居ないから気兼ねなく過ごせるかと
影森マンションの場所はわかりますか?
そこの最上階に部屋があります
エントランスから電話してくれれば、迎えに行きますよ
タケぽんの都合の良い日にどうぞ」
僕はドキドキを悟られないよう、何でもないことのように告げてみた。
『ひ、ひろせの部屋?
え?ど、どんな格好で行けばいいの?
あっと、ゲンちゃんとこ遊びに行ったことあるから、マンションの場所はわかるよ
えと、次の土曜日とか、ひろせ、休みかな
ひろせは仕事してるから、俺がひろせの休みに合わせるよ
俺、もう、ほとんど学校行かなくて良いし』
タケぽんは何だかシドロモドロ、と言った感じで答えてくれた。
急な誘いすぎたかと思ったけど、彼は部屋に来ることを了承してくれた。
「それでは、次の土曜日、お待ちしています」
『うん、お昼頃には行くよ』
約束を交わして通話を終えた僕の心は浮き立っていた。
『タケぽんがこの部屋に来てくれる』
それだけで、僕はここが特別な場所に感じられるのであった。
タケぽんが来てくれる当日、しっぽやの仕事は休みにしてもらった。
前日にパウンドケーキを焼き、甘いものだけでは飽きるかもしれないと、朝からサンドイッチも作っておいた。
『オニギリの方が良かったかな?
茹でればパスタもあるし、足りなかったら作り足そう』
紅茶の準備も整えて、僕はタケぽんからの電話を待っていた。
彼が来てくれると思うだけで、とても幸せな気分になれた。
きちんとおもてなしして、タケぽんにもこの部屋に来て良かったと思ってもらいたかった。
正午前に、スマホが着信を告げる。
僕はエントランスまでタケぽんを迎えに行き、専用エレベーターで最上階に一緒に移動した。
「俺、最上階って初めて」
タケぽんは物珍しそうに辺りを見回している。
「ここが、僕の部屋です」
タケぽんを部屋に通すと
「へー、機能的でシンプルって感じ
そっか、まだ、越してきてそんなに経ってないもんね
俺の部屋、荷物でゴチャゴチャなんだ
見習わないと」
そんなことを言いながら、照れくさそうに頭をかいた。
部屋を見回していたタケぽんが
「そういや、荒木先輩と日野先輩は?
白久とか黒谷も来るのかな?」
そんな事を尋ねてくる。
「いえ、今日は僕が個人的にお祝いしたいなって思ってたので
僕だけなんです
ご迷惑でしたか?」
タケぽんは合格祝いのパーティーだと思っていたようで、僕は焦ってしまった。
長瀞も来てくれると期待していたのなら、悪いことをしてしまったと気落ちしてしまう。
「え?そうなの?わざわざ俺のために?
…ありがとう、凄く嬉しい」
タケぽんは赤くなりながら、嬉しそうな笑みを浮かべる。
その笑顔に、僕はホッとする思いを感じていた。
「どうぞ、お座りください
今、ケーキとお茶の準備をしますから」
僕はタケぽんにクッションを勧め、キッチンに移動した。
『喜んでもらえると良いな』
試食した長瀞とゲンには好評だった桜ティーのパウンドケーキと、桜の風味の邪魔にならないオーソドックスなミルクティーを淹れ、タケぽんの前に置く。
タケぽんはケーキを食べると
「わあ、桜の良い匂い、春のケーキだね
すっごく美味しい、お店で売ってるのより絶対美味しいよ!」
そう言って誉めてくれた。
「サンドイッチも作ってあるんです
一緒にお昼ご飯食べませんか?
あ、ケーキはデザートで後から出せば良かったのか」
僕がそのことに気が付いて自分の失敗を悔やむと
「ひろせとランチしたいな
メインとデザート、一緒に食べるなんて贅沢で良いじゃん」
彼は何でもないことのようにそう言ってくれる。
その優しさが嬉しくて
「はい!すぐ、用意します」
僕はウキウキとした気分でキッチンに向かった。
タケぽんと一緒に食べるランチは、とても美味しく感じられた。
舞い上がっていたせいだろうか、タケぽんが僕に好意を寄せてくれている気がしてしかたなかった。
『こーゆーの、自意識過剰って言うんだっけ』
タケぽんは長瀞が好きなのだ、と自分に釘を刺すが、少なくとも嫌われてはいないだろうと思えた。
まだ何もかも長瀞にはおよばないが、僕がタケぽんを好きでいても良いか聞いてみたい誘惑にかられる。
2人っきりという状況が、僕を大胆な気持ちにさせていた。
食後にバニラの紅茶でミルクティーを淹れてみた。
部屋中に甘い香りが漂っている。
「何かさ、バニラってフワフワって優しくて甘いイメージがあって…
ちょっとひろせみたいだね
って、俺、何言ってんだろ、ガキみたい」
自分で言った言葉に、タケぽんは照れた顔を見せた。
「俺さ、子供の頃、飼ってた猫とおしゃべりできたと思ってたんだ
『しるば』ってチンチラシルバー飼っててさ
本当は『シルヴィア』って名前だったんだけど、子供だったから上手く言えなくて『しるば』って呼んでた
何を話してたかほとんど忘れちゃったけど、しるばに色んな事を教わった気がする
俺、まだ、その頃みたいに夢見がちなガキなのかな」
タケぽんは少し遠くを見ながらそんなことを言っていた。
「アニマルコミュニケーター…」
僕は思わずそう呟いていた。
あのお方がそんな能力を持った人の本を読んでいて、僕達に語りかけてくれていたことを思い出したのだ。
不思議そうな瞳を向けてくるタケぽんに
「動物と意志疎通できる能力を持った方がいるそうです
そういう方を『アニマルコミュニケーター』って言うんですって
でも、特殊能力じゃなくても、自分の側にいる愛しいものとなら気持ちは通じあえますよ
きっと、しるばもタケぽんが大好きで、タケぽんもしるばが大好きだったからお話できたんだと思います」
僕はそう言いながら、会話をしていると錯覚するほど彼と通じあえていたその猫が羨ましくてしかたなかった。
「そんな風に言ってもらえたの、初めてだ」
タケぽんは泣きそうな笑顔を見せた。