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しっぽや(No.44~57)

俺達はおみくじ売場から、屋台が立ち並んでいる場所に移動する。
様々な種類の屋台が軒を連ねるそこは、活気に溢れていた。
「ここは、手分けして色々買おう!
 俺と黒谷は小麦粉系を攻めるから、荒木は肉系お願いな
 最後にここで買って、あそこで食べようぜ」
日野が指さした場所は、テーブルや椅子が置いてある大きなテントが張られている。
「よし、焼き鳥ともつ煮込みはここで買うか
 あ、オヤキ売ってたらナスのやつ買ってもらえる?」
俺は場所を確認すると日野にそう頼む。
「渋いじゃん、俺はオヤキ、野沢菜が鉄板かな
 そだ、オーソドックスだけど、鳥唐も買っといて
 屋台で食べると雰囲気違って、美味く感じるんだよな」
笑顔の日野に頷くと、俺と白久はその場を後にした。


「色々ありますね」
白久が辺りを見回しながら、楽しそうに言っている。
「何でも買ってあげる、何が良い?」
俺も、楽しい気分でそう聞いてみた。
残金を気にせず屋台で買いもの出来るのは、とてもワクワクすることであった。
「荒木はフランクフルトが食べたいのですよね
 まずは、それを買いましょうか?」
笑顔で答える白久に
「自分が食べたい物、選んで良いんだよ」
俺は白久の気遣いに嬉しい想いを感じながら、促した。

「オムフランク?あれは何でしょう?」
白久が指さした先にある屋台は、俺も初めて見るものだ。
近寄って他の客が注文しているのを見ると、店の人がフランクフルトを卵焼きで包んでいた。
「フランクフルトのオムレツだ!
 粉チーズもかけてくれてるよ」
俺の言葉に
「チーズ…」
白久の顔が輝いた。
「これと、普通のフランク買って食べ比べてみよう」
嬉しそうに頷く白久と一緒に、列に並ぶ。
俺達はその他にも次々と肉系の屋台を攻略していった。

「飼い主と屋台巡り、楽しいですね
 しかし、人が多い上に美味しそうな匂いが充満しています
 これは、飼い主とはぐれる犬が出るのも頷けます」
白久は苦笑気味にそんなことを言った後
「でも、私は絶対に荒木を見失いませんから」
力強くそう宣言してくれた。
そんな白久の言葉を頼もしく感じながら
「うん!」
俺は幸せな気持ちで答えるのであった。


最後にもつ煮込みと焼き鳥を買って、テント内に入ると
「こっち、こっち」
すぐに日野が声をかけてくれた。
「俺達も、今来たばっかなんだ」
日野と黒谷が座るテーブルの上には、所狭しと色々な物が並んでいた。
「礼儀として、飲み物も2本、ここで買っといたよ
 後、焼きそばも
 ここの、卵焼きがのってんの、美味そうだぜ」
笑顔の日野に、俺も戦利品を掲げてみせる。
「はい、ご希望の唐揚げ
 それと肉じゃないけど、イカ焼きも買ってきたぜ
 ケバブサンドも買ったけど、粉換算でお前も買っちゃった?」
「いや、お前が買ってくれると信じて買わなかった
 荒木の希望のナスのオヤキも買っといたぜ
 今年は屋台の種類が豊富で目移りしまくったよ
 粉じゃないけど、揚げ餅も買ったんだ
 これ、冷めると堅くなるから、先に食おう」
日野に促され、俺たちはさっそく揚げ餅を口にした。

「美味い!まだ温かいから、モチモチ」
「買うとき、揚げ直してくれるんだよ
 味付けがちょっとしょっぱいから、ジュースがススムんだ」
「荒木、気に入りましたか?
 今度お泊まりにきた時にでも作ってみますよ」
「昔はこんなの、砕いた鏡餅で作ったっけ」
皆でワイワイ言いながら食べると、美味しさも一際だ。
「何だこれ、フランクフルトの卵巻き」
「オムフランクだって、俺も初めて見たんだ」
「粉チーズが、良い味のアクセントになっております」
「これ、ソーセージで作れば、お弁当のおかずになるね」
俺達の買った新しい味は好評だった。

「こっちは何?お好み焼きが箸に巻き付いてる?」
「『はしまき』って言うんだ
 前にマンガで見たことあったけど、実物初めて見たから買っちゃった」
「なるほど、箸に巻かれているから『はしまき』ですか」
「お好み焼きよりモチモチ食感だね」
屋台の種類が多いと、新しい味が発見できてワクワクする。
「イイダコが丸々入ったたこ焼き、グロかわいい」
「イカ焼きも、屋台の鉄板だよなー」
「このお好み焼き、キャベツがたっぷりで甘みが出てますね」
「大鍋で作るモツ煮込みって、美味しいんだよねー」
俺達は楽しく感想を言い合いながら、買ってきた物を食べ進めていった。

「屋台堪能しまくった」
俺は腹をさすって満足の声を上げる。
「やっぱ、お前と一緒だと、色々食べられていいな」
俺の言葉に
「でもまだ、デザート系いってないぜ」
日野は不敵な顔でニヤリと笑う。
「えー、今すぐは無理だよ」
俺は両手を上げて、降参のポーズをとって見せた。
「もう少し、その辺を散策しましょうか
 飼い主とのお祭りムード、もう少し堪能させてください」
微笑む白久に、俺は元気に頷いて見せた。


俺達はテントを出ると、ブラブラと歩き始めた。
お腹が落ち着いたので、食べ物以外の屋台にも目がいった。
「売ってる物のキャラ、妖怪ニャンコ一色って感じ」
「あーゆークジって、良いもの出ないんだよなー」
色んな店を冷やかしながら歩いて行くと、風船を売っている店があった。
オーソドックスな物から変わり種まで色々並んでいる。

「何だあれ、犬?」
それは、犬の絵がプリントされた風船に足が付いている物であった。
足の先が少し重いのか、本体は浮いているのに足は地に付いている。
引っ張って歩くと、犬を散歩させているように見えるのだ。
「よく考えますね」
白久が感心したような声を上げる。
「子供には良いかも
 でも、俺には白久がいるからいらないよ」
俺は白久の腕に抱きついて甘えて見せた。

ふと、その犬風船を熱心に見ている人がいることに気が付いた。
「あれ?カズハさん?」
俺の言葉でカズハさんも俺達に気が付いて、慌てて頭を下げている。
「皆さん、こんにちは
 っじゃなくて、えっと、明けましておめでとうございます
 その、今年もよろしくお願いします」
アワアワしているカズハさんの後ろでは、眼鏡をかけた空が
「あけおめー、ことよろー」
笑顔でそんなことを言っていた。

「カズハさん、その風船欲しいの?」
俺が聞くと、空がショックを受けた顔になった。
「俺より風船が良いの?ちっこいから?」
嘆く空に
「空の方が良いに決まってるでしょ
 お店に置いたら、マスコットとして使えるかなって考えてたんです
 ただ、こーゆーのはすぐにガスが抜けちゃうから」
カズハさんは苦笑を向けていた。
「うーん、でも、新年セールの間だけでも使えるかな」
また悩み始めたカズハさんだったが、急にハッとした顔になり
「そうだ、今日、2人が来るって聞いてたからお年玉を、と思って
 はいこれ、お年あめ玉
 玉と言うには大きいけど」
カバンからリンゴ飴を取り出すと、俺と日野に手渡してくれた。
「カズハさん…発想が中川先生と一緒…」
「昭和の親父ギャグ的発想…」
俺と日野の呟きに
「ええ?でも、ゲンさんが2人にはこれが鉄板だって」
カズハさんは顔を真っ赤にして慌て出す。
「震源地はゲンさんか…」
俺と日野は激しく納得していた。

「カズハさん、ありがとうございます
 そうだ、黒谷、これ持ってみて」
日野がリンゴ飴を黒谷に手渡し、その姿をつくづく眺め見ている。
「うん、中川先生も言ってたけど、黒い毛色に赤って似合う」
満足そうにそんなことを言うので
「白久も、これ持ってみて」
俺もリンゴ飴を白久に手渡した。
「白い毛色にだって、赤はうんと映えるぜ」
俺は白久を見つめて、満足感を覚えた。
「あの、グレーの毛色にも、赤はとても映えます」
カズハさんも控えめに主張する。
俺達は思わず、顔を見合わせて大笑いしてしまう。
親バカな飼い主達により、赤は大抵の毛色に似合うという結論が生まれた瞬間であった。

カズハさん達と別れ、俺達はまた歩き出した。
気が付くと、風が冷たくなってきている。
そろそろ夕方、という時刻になっていた。
「寒くなってきたしデザートも貰ったから、もう帰る?」
俺が言うと
「ほんとだ、風が冷たいや」
日野もブルッと身震いする。
「では、最後に甘酒を飲んで帰りましょうか
 日野、楽しみにしていたでしょう」
黒谷が日野を寒さから守るように、その体に寄り添った。
「うん」
日野が黒谷の腕に頭をすり付ける。
「荒木も甘酒、召し上がりますか?」
白久も俺に寄り添ってきてくれた。
「おれ、甘酒のあの粒々がちょっと…」
俺が言いよどむと
「温かい紅茶をポットに入れてきましたので、それはどうでしょう」
白久はそう言ってカバンを掲げて見せた。
「俺、そっちの方が良い」
俺が笑顔を向けると、白久も嬉しそうに微笑んでくれた。

白久が用意してきてくれた紅茶は、以前カズハさんが淹れてくれたクリスマスティーだった。
「ポットで持ち歩くお茶は甘い方が良いとカズハ様に教えていただいたので、砂糖を入れてみました
 どうでしょうか?」
冷えた体に温かく甘い紅茶が染み渡っていく。
「美味しい!
 今は甘いもの食べてる訳じゃないから、甘い方が美味しいよ」
俺が紅茶の入った紙コップを手渡すと、白久も美味しそうに飲んでいる。
俺達の側では
「はー、温まるー」
そんな事を言いながら、日野と黒谷が甘酒を飲んでいた。

「今日は3日とろろの日ですね
 お正月に暴飲暴食で疲れた胃を休ませるため、とろろを食べるのです
 夕飯は、とろろご飯にいたしますよ」
「へー、そんな日があるんだ
 確かに、屋台で食べ過ぎちゃったもんね」
優しい微笑みで俺の体を気遣ってくれる白久が愛おしい。
「夕飯の前に、またプチ温泉旅行しよう」
俺は幸せな気分で白久の腕に抱きついた。

今年も白久と楽しい思い出をいっぱい作っていきたいな、と俺は改めて思うのであった。
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