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しっぽや(No.44~57)

side〈ARAKI〉

朝のメールチェック。
思った通り、今日はゲンさんからの私信メールも来ていた。

『おっはー(^o^)
 今日は待ちに待ってたクリスマスパーティー☆
 っても、ハロウィン同様先取りバージョンだけどな( ´艸`)
 本番は、自分の化生とゆっくり過ごしてくれればいいのよ♪
 俺もナガトと2人っきりのクリスマスを堪能するぜい(*´Д`*)

 今回のミッションは、皆一緒で「オーソドックス」(・∀・)
 侮る無かれ、オーソドックスの中にはジェネレーションギャップが隠れているのだ、OH テリブル!
 荒木、白久組は「オードブル」よろしこ!
 若人のオーソドックスオードブル、期待してるぜ(`・ω・´)

 クリスマスだけど、プレゼント交換は無しな
 楽しそうだが年齢とかバラバラすぎて、品物選ぶの悩むだろ?
 プレゼントは自分の化生にあげてくれ(*^_^*)

 んじゃ、夜に会おう(≧▽≦)』

白久と初めてのクリスマスパーティー。
ハロウィンの時より、俺はワクワクする気持ちになっていた。
自分にとって、ハロウィンよりクリスマスの方が馴染み深いイベントだったのだと改めて気が付いた。
今日も、皆で過ごすパーティーの後は久しぶりに白久の部屋にお泊まりできる。
試験が終わった開放感も手伝って、俺の浮かれた気分は授業が終わっても続いていた。



「日野、帰ろうぜ!」
手早く荷物をまとめると、俺と日野は教室を後にする。
日野も、嬉しそうな顔をしていた。
「やっぱさ、ハロウィンより気分が盛り上がるよな」
「あ、やっぱお前も?俺もそう思ってた?」
俺たちは駅への道すがら、ニヤニヤ笑いが止まらなかった。

しかし、日野がふと真面目な顔になり
「荒木に、ちょっと相談したいことがあるんだ」
そんな言葉を切り出した。
「プレゼントは無し、ってメールに書いてあったけど…
 俺、ゲンさんには何かお礼したくてさ
 初めて会ったとき俺、荒木の敵だったのに、咳込んだら病院に連れて行ってくれようとした
 俺が早く皆に馴染めるよう、色々気を使ってくれた
 あの人がいてくれて、本当に感謝してるんだ」
真剣な日野の言葉に、俺も今までのことを思い出す。
考えるまでもなく、俺もゲンさんにはお世話になっていた。

「うん、そうだな
 俺たち2人で何かプレゼント用意しようか
 皆の前で渡せば、ゲンさんだって受け取ってくれるよ」
俺が言うと、日野はホッとした顔になる。
「実は、プレゼントの目星は付けてあるんだ
 買いに行くの付き合ってよ」
「もちろん!」
こうして俺たちは、少し寄り道をしてからしっぽやに向かった。


事務所に着くと白久と一緒にランチを食べに出て、帰りにミッション用の買い物を済ませた。
「オーソドックスと言われても、オードブルってよくわかんないや」
「前菜のことですね
 空が『テリーヌ』が一般的だと言っていたので、今回はトレンディーな犬の言うことを聞いておきましょう」
白久が悪戯っぽく笑う。
「この時期って、市販のテリーヌが普通にハムコーナーで売ってるんだね
 きれいなのが色々あって迷うけど、楽できた」
俺もヘヘッと笑って見せた。
「後はスライスしてお皿に盛るだけです
 それと、この前テレビで見た『カプレーゼ』も作ってみます
 モッツァレラチーズとトマトをスライスするだけですが」
「何かオシャレな感じ
 家ではそんなの食べないから、ちょっと楽しみ」
俺は高揚した気分のまま、白久に寄り添って事務所までの道を歩くのであった。


しっぽや業務が終わり、後片づけをすると俺たちは影森マンションに向かう。
いったん各々の部屋に戻り、着替えてからゲンさんの部屋に向かうのだ。
俺と白久は色違いだけどお揃いのセーターに着替えた。
最近、飼い主のいる化生の間では密かに『お揃い』がブームになっているらしい。
空は新郷のように伊達眼鏡をかけるようになっていた。
「クロは日野様とお揃いのマフラーを、お婆様に編んでいただいたそうですよ
 羽生は、ネクタイをするようになりました
 生前、首輪を付けることなく死んでいるので首が締まるのは窮屈だと言って敬遠していたのですが
 中川先生に結び方を教えてもらったと、嬉しそうに自慢していました」
白久がそう教えてくれた。
そんな化生の一途さが、とても可愛らしく思える。
「今度また、一緒に服を買いに行こう」
俺が言うと、白久は嬉しそうに頷くのであった。



ピンポーン

ゲンさんの部屋のチャイムを鳴らす。
すぐに
「メリークリスマス!一番乗りだな」
笑顔のゲンさんが出迎えてくれた。
「オードブル、持ってきましたよ
 キッチン借ります」
俺がスーパーの袋を掲げると
「若人のオーソドックス、楽しみにしてるぜ」
ゲンさんが笑顔を見せた。

キッチンでは、長瀞さんがオーブンで何かを温めている。
「オジサンの時代のオーソドックスチキンは、『肉屋の鳥モモ』なのさ
 温め直すだけだから、ナガトも楽ちん」
ゲンさんがグラスを用意しながらウインクして見せた。
すぐに他のメンバーもやってきて、キッチンが込み合ってくる。
一足先に、俺と白久はオードブルの皿を持ってリビングに移動した。

リビングのテーブルでは、中川先生と羽生が飲み物を広げている。
俺に気が付いた中川先生が
「野上と寄居用に、これ買ってきてやったぞ!
 オーソドックスだろ?」
そう言ってシャンメリーを何本も手渡してくれた。
アニメの絵が描いてある袋に入ったそれを手に
「…先生、これ、思いっきり子供用じゃん
 そりゃ、子供の時は飲んでたけど、小学生で卒業しましたよ
 ソフトドリンクなら、普通にコーラとかで良いのに」
俺は呆れた顔をして見せた。
しかし
「荒木が飲んでいたもの?
 私も飲んでみたいです」
白久が顔を輝かせて手元をのぞき込むので
「あ、じゃあ、乾杯はこれにしよう」
俺は顔がニヤケてしまった。

トースターで温めたパンが山盛りになっている皿を手に、日野がリビングにやってくる。
「あれ、今年のシャンメリー、妖怪ニャンコの絵なんだ
 去年はポケットネズミだったのに
 人気は移り変わるなー」
俺の持っている物に気が付いた日野が、そんな言葉を呟いた。
「もしかして…まだ、これ、飲んでる?」
俺が聞くと
「クリスマスの定番だろ?
 超オーソドックスじゃん」
日野は逆に不思議そうな顔をしてみせた。
この時、俺は初めてオーソドックスは人によって違うことを実感したのだった。

サラダの入った器を手に、カズハさんも姿を見せる。
「僕にとって、クリスマスのオーソドックスって、これなんですよね」
サラダの上には、ホワイトアスパラガスがてんこ盛りになっていた。
「何でかうち、クリスマスの時しかホワイトアスパラガスって食べなくて
 子供の時は『これはクリスマスの食べ物なんだ』って思いこんでました」
照れた顔を見せるカズハさんに
「いや、うちの食卓には出たことすらないな
 こーゆーのは、レストランで食べるもんだと思ってた」
中川先生は驚いた顔をする。
「うちは母さんの大好物だから、しょっちゅう食べてます」
俺も驚いてそう言った。
ミッションテーマは一緒なのに、こんなにも色々と違うのかと俺は今回のミッションの奥深さを思い知った。

料理がのったテーブルを囲み、グラスを手にした俺たちは

「「メリークリスマス」」

皆で乾杯する。
いつもソフトドリンクのカズハさんは『せっかくのクリスマスだから』とシャンパンを飲んでいた。
もちろん、空もお揃いだ。
俺と日野に合わせ、白久と黒谷はシャンメリーを飲んでいる。
羽生も中川先生に勧められてシャンメリーを飲んでいたが『やっぱり、ミルクにする』と途中で切り替えていた。
俺より大きくなって大人っぽくなっても、中身はまだ子猫のようだ。

「俺たちのミッション『パン』だけど…
 うち、クリスマスもチキンをおかずにして普通にご飯食べるんだよね
 ケーキはデザートでさ
 オーソドックスって言われてもよくわかんないから、フランスパンとロールパンにしてみたよ」
日野がそう言って舌を出す。
「何だ日野少年のとこ、うちと一緒か
 クリスマスのチキン、なんつっても照り焼きだからご飯がすすむんだよな」
ゲンさんがヒヒッと笑う。

「しかし、荒木少年のテリーヌとカプレーゼはパン向けだ
 今回のナウなヤングは荒木少年に決まりだな」
ゲンさんの言葉に
「でも、俺も家ではオードブルなんて食べないんだけど
 うちのクリスマスはケンタンのチキンセットだから、ポテトも一緒に買ってそれで済ませてるし」
俺は頭を掻いた。
「何だ、クリスマスってのは未だに昭和的なイベントだな」
ゲンさんは楽しそうに笑っていた。

「なら、クリスマスケーキはバタークリームにすりゃよかったか
 オーソドックスに、サンタとイチゴののった生クリームケーキを用意したんだが」
ゲンさんが言うと
「いや、バタークリームは正直美味しくないから
 子供の頃1回食べて懲りました」
中川先生が慌てて手を振った。
「だよなー、でも、あの味が懐かしいって、今でもこの時期になると売ってるんだよ、あれ」
腕を組んだゲンさんは神妙な顔で頷いて見せた。
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