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しっぽや(No.44~57)

side〈ARAKI〉

業務終了後のしっぽや事務所。
いつもなら帰っている時間に、飼い主のいる化生と飼い主が集合していた。

「いやー、皆、集まってもらって悪いな
 ちょっと、クジ引いて欲しくてよ」
ゲンさんが丸く穴の空いた箱を抱えて、皆の間を歩き回っている。
「これって、何のクジ?」
くじ引きがある、としか聞いていなかった俺が首を傾げると
「ふっ、高校生名探偵でもこの謎は解けないか」
ゲンさんは不敵にニヤリと笑う。
「だから、俺のことその名称で吹聴するの止めてくださいよ
 俺、頭良くないんだから」
『成績なら日野の方が全然良いし…』
俺は少しフテクサレてチラリと日野を見た。
「成績が良いってのと、察しが良いってのは別問題」
ゲンさんは俺の不満を見透かすようにそう言って、ウインクしてみせた。

「皆、引いたかな?
 では、これが何のクジか発表します
 ジャジャーン!ハロウィンパーティーコスプレクジでしたー!」
ゲンさんの言葉に、その場の全員が
「ハロウィンパーティー?」
同じ疑問を投げかけた。
「そ、ちっと早いけど、今週末、うちでハロウィンパーティーしようと思ってさ
 せっかくだから、皆でコスプレして楽しもうぜ
 あ、都合悪い人いる?」
皆を見渡すゲンさんに
「いや、予定はないけど、先週、リンゴ狩りに行ったばっかりじゃないですか」
「コスプレって…変装できる衣装とか持ってませんよ」
「お菓子貰えるの?」
次々とそんな声が飛び交った。

「楽しい集まりは、何度やっても良いのだよ」
ゲンさんはムフフッと笑う。
「今年は31日が平日だから、早めにやっちまおうと思ってさ
 先取りは盛り上がるけど、ハロウィン終わってからパーティーやってもシラケるだろ?
 衣装は本格的なものじゃなくっても、雰囲気楽しめれば良いのさ
 時間もないし、それらしい物を着てくればOK」
親指をビシッと立ててポーズを決めた。
「普通のコスプレじゃつまんないかなー、って思ってな
 俺達らしく『動物コスプレ』してみようぜ
 っつー訳で、今引いたクジに書かれてる動物っぽい衣装を、用意してくること!
 食べ物は、ピザでも取って楽するか
 でも、何か作ってきてくれるのも大歓迎だぜ
 メインはお菓子ってのもいいが、オジサンそれだと胸焼けしそうだ」
ゲンさんは、最後に苦笑気味にそんなことを言っていたけど、気を取り直したように
「んじゃ、何を引いたか発表しあおうぜ
 まずは、俺からー」
そう宣言し、クジを広げ始めた。

中身を見たゲンさんが固まるのがわかる。
「………まさか、自分でこれを引いちまうとは…」
クジをヒラヒラさせながら
「俺、アフガンハウンドやりまーす」
やけくそのようにそう言い放った。
「アフガンハウンドって、長毛の犬!」
スキンヘッドのゲンさんが長毛種、皆、思わず吹き出した。

「私は、エジプシャンマウですね」
長瀞さんがクジを確認する。
「俺、ヨークシャーテリアだって」
羽生が言うと
「俺は三毛猫だ」
中川先生が続ける。
「僕はドーベルマン…僕じゃ迫力出ないですよ」
カズハさんが困った顔で言っている。
「俺はチワワだってよ、あんなチッコくなれねーけど、どうすんの?」
空の言葉に
「チワワの『くぅ』ちゃんだ!」
ゲンさん、中川先生、カズハさんの大人組が爆笑していた。
「俺は、スコティッシュホールド…スコって、たれ耳の猫だよね」
日野が確認するように言っている。
「可愛いらしくて、日野にピッタリです
 僕は、ボルゾイ…あの巻き毛、どうやって表現すれば…」
黒谷は首を捻っていた。

俺も自分が引いたクジを開けてみる。
「ロシアンブルーだ、毛色の表現難しそう
 あ、でも、持ってるグレイのパーカーで何とかなるか」
ちょっと苦しいけどブルーのジーンズと合わせてロシアンブルーと言い張ろう、そう考えると気が楽になった

「白久は何引いたの?」
俺がクジをのぞき込むと、そこには
『ジャーマンシェパード』
と書かれていた。

「カール殿と同一犬種…
 私があのような大スターに扮してよろしいのでしょうか」
考え込む白久に
「スター?」
俺は問いかける。
「ジェネレーションギャップだねー
 昔、シェパードが出てくるテレビ番組があったのよ
 てか、白久達ってけっこうテレビ見てたんだな
 ナガトも古い番組詳しいし」
ゲンさんが俺達の間に入ってきた。
「最近は『ホワイトシェパード』なんてのもいるが
 白毛の白久がやっても面白味がないから、ここはオーソドックスなシェパードやってくれよ」
ゲンさんがヒヒヒッと笑うと、白久は神妙な顔で頷いた。

『シェパードって、警察犬のあの犬だよね』
警察犬っぽい白久を想像すると、何だかとても格好良く思えた。
「荒木、衣装選び、手伝っていただけますか?」
白久の問いかけに
「うん!2人で色々考えよう」
俺は笑顔で答えるのであった。




パーティー当日の土曜日、俺は衣装を詰めたバッグを持って登校する。
持って行くお菓子類は、すでに白久の部屋に準備してあった。
「事務所行く前に、ちょっと俺ん家に寄って良いか?」
休み時間、日野がそんな事を言い出した。
「かまわないけど、衣装、そんなに大きいのか?」
俺は日野のやる気にビックリする。
「違うよ、今日ハロウィンパーティーやるって言ったら、婆ちゃんが皆に持ってけって、カボチャ、山ほど煮てくれたんだ
 挽き肉のそぼろあんがかかってるやつ
 皆、そんなの食べるかなぁ」
心配そうな日野に
「俺、甘く煮たカボチャより、しょっぱい味付けのカボチャの方が好き」
俺は笑顔を向ける。
「それに、長瀞さんがありがたがると思うよ」
俺の言葉で、日野が明るい顔になった。

授業が終わり日野の家に寄ってカボチャ入りタッパーを持つと、俺達はしっぽや事務所に向かう。
「ゲンさんって、本当に皆で集まるの好きだよな」
「うん、でも、楽しいよね
 他の人の目を気にしないで黒谷と居られるの、俺、嬉しいから」
「…だな」
日野の言葉に俺はしみじみと頷いてしまった。


業務終了後、着替えるためにいったん影森マンションのそれぞれの部屋に戻る。
俺は予定していたグレイのパーカーのフードに灰色のフェルトを三角に切って縫いつけて、耳っぽくしてみた。
後はジーンズを履いて仮装完了だ。
白久はシェパードの色合いっぽく、黒のスーツに茶色のベストを合わせている。
いつもとは違う白久の正装に、俺はちょっと見とれてしまった。
「シェパードっぽいでしょうか」
不安な顔で話しかけてくる白久に
「凄い、格好いい」
俺はキスをして笑顔で答える。
それから、お菓子と飲み物を入れた袋を持って部屋を後にした。


ピンポーン

ゲンさんの部屋のチャイムを鳴らすと
「トリックオアトリート!」
満面の笑みのゲンさんが迎え出てくれた。
俺はそれを見て吹き出してしまった。
「毛、毛があるゲンさん!」
ゲンさんは長い白髪のカツラを被っている。
「ちぇ、さっき空にも爆笑されたよ」
ゲンさんは不満そうな事を言いつつも、その顔は笑っていた。

「ほら、ロシアンブルーとシェパードご一行様の到着だ」
ゲンさんに促されリビングに行くと、カズハさんと空の姿がある。
カズハさんは黒の上下で決めていた。
首には鋲の付いたごつい首輪を付けている。
俺の視線に気が付いたのか
「これ、空に買ってあげた物なんです
 僕が付けるより、空の方が似合うんですが」
カズハさんは苦笑しながら、そんな説明をしてくれた。

空はクリーム色のセーターを着ている。
頭にはクリーム色のフェルトで作った耳が付いたカチューシャを付けていた。
「ドーベルマンよりチワワの方がデカいってんだから、何だかな~」
ニヤニヤするゲンさんに
「でも俺、チワワみたいに可愛いだろ?」
空は得意げな顔で頷いてみせていた。

長瀞さんがテーブルにカボチャのサラダを置き
「後でピザを注文しますから、メニューを見ておいてくださいね」
そう言って微笑んだ。
「水玉だ…」
いつも白い服を着ている長瀞さんだけど、今日はドット柄のシャツを着ていた。
「エジプシャンマウと言えば、やはりこの柄かなと
 何だか、自分ではないようです」
長瀞さんは照れたように微笑んだ。


ピンポーン

チャイムが鳴って、ゲンさんが迎えに出ると日野の吹き出す声が聞こえた。
「毛、毛がある!」
俺と同じ事を言っている。
「スコティッシュホールドとボルゾイご一行様、ご到着~」
リビングに来た日野は、空とは逆に寝かせるような白いフェルトの耳を付けたカチューシャを付けていた。
首には鈴が付いた赤いリボンを巻いている。
「スコって、これ!って柄がないから、服は適当」
そう言って舌を出す日野は、茶のセーターを着ていた。
黒谷はフワフワした白い襟巻きを付けている。
「さすがに、あの巻き毛のようなフェイクファーは見つからなかったよ」
苦笑する黒谷に
「まあ、気分、気分!」
ゲンさんはウインクして見せた。

「長瀞さん、これ、婆ちゃんが皆さんでって」
日野がタッパーを渡すと中身を確認した長瀞さんが
「ありがとうございます!とても美味しそうですね
 今、お皿に移してきます」
そう言ってキッチンに消えていった。


ピンポーン

また、チャイムが鳴る。
「これで全員だな」
ゲンさんが迎えに出ると
「俺、お菓子が良いー!」
羽生の元気な声が聞こえた。
「ゲンさん、今日も少し飲むでしょ?」
「もちろん!中川ちゃんが何か持ってきてくれるんじゃないかと期待してたんだ」
「これ、貰い物だけど、今日開けちゃいましょう」
「おお!スゲー!」
ゲンさんと中川先生が和気藹々とリビングに登場した。
「三毛猫とヨークシャーテリア、到着!」

羽生は茶色のセーターを着て、茶色の耳が付いたカチューシャを付けていた。
中川先生は茶色の背広、黒のベスト、白いシャツを着ている。
「俺が一番楽に仮装できたな、これ、いつもの出勤スタイル」
先生はそう言って、爽やかに笑った。
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