しっぽや(No.44~57)
side〈ARAKI〉
土曜日、4時間目の授業中、俺の心は教室には無かった。
科目が『数学』だったせいもあるけれど、これからバイト先のしっぽやに向かうのが楽しみでしょうがなかったのだ。
隣の席の日野を横目で見ると、真剣な顔で熱心にノートをとりつつも、その口角が上がり気味であることに気が付いた。
『やっぱり、こいつもお泊まりだな』
俺はそう確信する。
明後日が休日のため、今日から白久の部屋に2泊3日でお泊まりバイトなのであった。
しかも、明日の日曜日は白久の仕事を休みにしてもらったので、ゆっくりデート出来るのだ。
2日も泊まると言うことで親父を説得するのは大変だったが、今となってはそんなことは苦労の内に入らなかった。
長かった4時間目が終わると、俺は速攻荷物をまとめる。
日野とアイコンタクトで頷きあい
「お先っ!」
そう言うと、2人で教室を飛び出した。
俺と日野が同じ所でバイトしていることは、クラスメイトには教えていない。
下手に知られると『自分もバイトしたいから紹介しろ』と言われそうなので、秘密にしておこうと日野と決めたのだ。
校門を出て日野と並んで駅に向かいながら
「お前も、泊まり?」
俺は何となく声をひそめて聞いてみた。
「ああ、2泊するよ
お前も?」
日野はニンマリ笑って、同じく声をひそめて聞き返してきた。
「俺も2泊
うち、お前んとこと違って泊まりにはうるさいからさー
親父を説得するの、大変だったよ」
肩を竦めて、俺はそう答えた。
「うちは放任って訳じゃないけど、婆ちゃん寛容だからさ
ま、親にかまってもらえなかった分、友達との付き合いを規制したくなかったんだろ
今までにも何回か、黒谷のとこに泊まりに行ってるんだ」
笑いながら言う日野が、とても羨ましかった。
「良いなー、カシスが来てからマシにはなったけど…
親父、そーゆーとこ厳しいってゆーか、うるさいんだ
早く子離れして欲しいよ」
俺は、ため息と共に不満を吐き出した。
「荒木のお父さんって、優しそうで良い人そうじゃん
大事にされてんだから、文句言うなよ
俺はお前がちょっと羨ましい
薄情だけど、俺、もう父さんの顔、上手く思い出せないんだ
母さんと離婚する前から別居してたから、10年近く会ってないし」
日野の言葉に、俺は息を飲む。
「あ…そっか…
そうだ、よかったら親父がいる時に遊びに来いよ
親父、日野のこと気に入ってるし、父親みたいだと思われれば悪い気しないって」
取りなすように言う俺に
「いや、良い人そうだけど、父親としては頼りない感じ
せいぜい、近所の気安いお兄ちゃんみたいな?
あの顔で、うちの母親よりかなり年上ってサギっぽいしさー」
日野は苦笑を向けてきた。
「…誉めるかけなすか、どっちかにしてくれよ」
俺はガックリと肩を落とした。
しっぽや事務所に到着し、ノックして扉を開けると笑顔の白久と黒谷が出迎えてくれた。
「荒木、今日はクロと一緒にお弁当を作ってきたので、控え室でのお昼にしましょう」
白久の言葉の後に
「日野のために沢山作ってきましたからね
遠慮なく食べてください
ご飯、一升(しょう)炊きました!」
黒谷が聞いたことのない単位を日野に告げていた。
「一升って何?」
小声で訪ねると
「10合です
もっとも、一升炊きの炊飯器を持っていないので、私とクロで5合ずつ炊いたのですけどね」
白久はそう、教えてくれた。
俺達の到着に会わせ準備をしてくれていたらしく、所員控え室に入るとテーブルの上は宴会場のようになっていた。
白久も黒谷も、かなり頑張ってくれたようだ。
「凄い、歓迎会の時みたい!
ありがとう、お疲れさま」
俺が頭を撫でると、白久は嬉しそうに微笑んだ。
日野を見ると黒谷の頭を撫でてキスをしている。
少しためらったが、俺も白久と軽く唇を合わせた。
ソファーに座り取り分け皿を手に取ると
「いただきまーす!」
俺達は料理の山に手をつけ始めた。
「キレイ、これ何?」
俺が手に取ったのは、ケーキのように鮮やかな段になっているご飯だった。
「ミルフィーユ寿司とでも言うのかな
コップにお酢を塗ったラップをしいて、酢飯と具を交互に入れて作るんだよ
さすがにお弁当に刺身とかナマモノは入れられないから、具は焼き鮭やそぼろ、卵焼きなんかを使ってるけど」
黒谷が誇らかに答えた。
「唐揚げは私が作ったんですよ
長ネギとショウガをタップリ入れてみました
それと、エビフライにメカジキのシソ巻き竜田揚げ
野菜の素揚げもあります」
白久も誇らかに揚げ物の皿を指さした。
「荒木、誉めてあげて
シロ、朝から揚げものしてて火傷したんだ」
黒谷の言葉に、俺は息を飲む。
「クロ、大したことないと言ったでしょう
エビの尻尾を切り忘れていて、ちょっと油が跳ねただけです」
白久は軽く黒谷を睨むが、俺は心配でそれどころでは無かった。
「どこ火傷したの?まだ痛い?」
焦って聞く俺に、白久は困った笑顔を向ける。
「荒木、大丈夫ですよ、すぐに冷やしましたし、本当に大したことはないですから」
そう言われても、俺は心配でたまらなかった。
泣きそうな顔の俺に根負けしたのか、白久が袖をまくる。
右の手首より先の部分に包帯が巻かれていた。
「病院には行ったの?」
そう聞いて、自分の問いかけにハッとする。
『化生を診てくれる病院なんてあるのかな』
顔色を読んだのか
「この程度であれば、手持ちの薬で対処できますよ」
白久は俺を安心させるように微笑んだ。
「荒木、ちょっとやそっとじゃ病院に行かなくて良いくらい、僕達の所にある薬箱の中身は充実してるんだ
それに最悪、駆け込める場所もあるしね」
黒谷もそう言ってくれる。
「あ、秩父診療所ってまだあるんだ…」
驚いた顔の日野の呟きに、俺は首を傾げた。
「秩父診療所?」
「私たちを診てくださるお医者様がいる場所です」
白久の言葉は、思いもよらないものであった。
「詳しい経緯は、今夜にでも説明いたしましょう
さあ、早く食べてしまわないと依頼人が来てしまうかもしれませんよ」
その言葉にハッとして、俺達は食事を再開する。
途中、捜索から戻ってきた双子や羽生にも料理を振る舞って、料理の山は無くなった。
「さすがに苦しいや」
腹をさすりながら言う日野は、俺の見たところ半分近くの寿司やおにぎりを食べていた。
『日野、恐ろしい子』
以前ゲンさんがフザケて言っていた言葉が、俺の頭の中でこだましていた…
業務終了後、俺達は影森マンションへと帰っていく。
夕飯は個々に食べることになっていた。
皆でワイワイ食べるのも楽しくて良いけど、白久と2人っきりで落ち着いた食事の時間も楽しみたかったからだ。
多分、日野も同じであろう。
部屋の前での別れ際
「明日は2人でゆっくり楽しんでこいよ
その代わり、明後日は頼むな」
日野がそう言ってウインクする。
明日、白久と俺が休むので、明後日は黒谷と日野が休みなのだ。
「明日は任せたから、明後日は任せろ!」
俺はそう言うと、白久の部屋のドアを開け中に入っていった。
「昨日、おでんを作っておきました
味が染みてますし、暖め直すだけなのですぐに出来ます」
上着を脱ぎながら、白久が微笑んでくれる。
「うん、いつもありがとう」
部屋着に着替える白久の腕に巻かれた包帯に、つい目がいってしまう。
また、心配そうな顔をしてしまったのだろう。
白久が俺を抱きしめて
「大丈夫です」
優しくそう言ってくれた。
そんな白久の胸に頬ずりする。
白久は安心させるように、優しく唇を合わせてきた。
俺もそれに反応し、白久の舌を求めてもっと深く唇を合わせる。
俺達はすぐに荒い息づかいになり、激しく唇を求め合った。
「ご飯より先に…荒木を食べてしまってもよろしいでしょうか」
頬を染めた白久が、悪戯っぽく聞いてきた。
「良いよ、明日は休みだから今夜はゆっくりしよう」
俺は白久に抱きしめられ幸せを感じていた。
俺達はベッドに移動すると、服を脱いでいく。
一糸纏わぬ状態になると、ベッドの上でしっかりと抱き合った。
白久と触れあうのは台風でお泊まり出来た時以来だ。
あれから半月以上が過ぎている。
頬や唇、首筋を辿る白久の唇の感触を心地よく感じながら
「しょっちゅう泊まりにこれなくて、ごめんね」
俺はそう謝った。
「日野みたいに、ちょいちょい泊まりに来れれば良いんだけど…」
荒くなっていく息の元、そんなことを言うと
「飼い主があらわれない寂しさに比べれば、こうやって、たまにでも触れ合える飼い主が居てくださるのは本当に幸せなことです
荒木は学生なのですから、まだまだご両親に甘えてさしあげてください
私との生活は、いつだって始められますよ」
白久は俺を安心させるように微笑んでくれた。
「うん」
俺はそう答えると、白久のもたらしてくれる刺激に集中する。
触れあっている部分から、甘い痺れが体中に広がっていった。
「はぁ…、ん…」
熱い吐息が絶え間なく口からもれてしまう。
体中が白久を求めていた。
白久と繋がりあい、熱い想いを解放しあうと心地よい気だるさに包まれる。
白久は俺を胸に抱き優しく髪を撫でてくれた。
またしたくなってしまうが、まだまだ夜は長いのだ。
焦らなくても大丈夫だという状況が嬉しかった。
少し休んだ後2人で軽くシャワーを浴び、白久は夕飯を作りにキッチンに移動する。
俺は白久の部屋の中を改めて見回していた。
今まで気にしたことはなかった本棚に目が止まる。
『白久って、どんな本読むんだろう』
そんな興味が沸いてきて、俺は本棚に近寄った。
小説の類はほとんどなく、栄養学や料理の本、医学書といった実用書ばかりが並んでいる。
人間のことを勉強しようとしている白久らしい本棚の中身だった。
土曜日、4時間目の授業中、俺の心は教室には無かった。
科目が『数学』だったせいもあるけれど、これからバイト先のしっぽやに向かうのが楽しみでしょうがなかったのだ。
隣の席の日野を横目で見ると、真剣な顔で熱心にノートをとりつつも、その口角が上がり気味であることに気が付いた。
『やっぱり、こいつもお泊まりだな』
俺はそう確信する。
明後日が休日のため、今日から白久の部屋に2泊3日でお泊まりバイトなのであった。
しかも、明日の日曜日は白久の仕事を休みにしてもらったので、ゆっくりデート出来るのだ。
2日も泊まると言うことで親父を説得するのは大変だったが、今となってはそんなことは苦労の内に入らなかった。
長かった4時間目が終わると、俺は速攻荷物をまとめる。
日野とアイコンタクトで頷きあい
「お先っ!」
そう言うと、2人で教室を飛び出した。
俺と日野が同じ所でバイトしていることは、クラスメイトには教えていない。
下手に知られると『自分もバイトしたいから紹介しろ』と言われそうなので、秘密にしておこうと日野と決めたのだ。
校門を出て日野と並んで駅に向かいながら
「お前も、泊まり?」
俺は何となく声をひそめて聞いてみた。
「ああ、2泊するよ
お前も?」
日野はニンマリ笑って、同じく声をひそめて聞き返してきた。
「俺も2泊
うち、お前んとこと違って泊まりにはうるさいからさー
親父を説得するの、大変だったよ」
肩を竦めて、俺はそう答えた。
「うちは放任って訳じゃないけど、婆ちゃん寛容だからさ
ま、親にかまってもらえなかった分、友達との付き合いを規制したくなかったんだろ
今までにも何回か、黒谷のとこに泊まりに行ってるんだ」
笑いながら言う日野が、とても羨ましかった。
「良いなー、カシスが来てからマシにはなったけど…
親父、そーゆーとこ厳しいってゆーか、うるさいんだ
早く子離れして欲しいよ」
俺は、ため息と共に不満を吐き出した。
「荒木のお父さんって、優しそうで良い人そうじゃん
大事にされてんだから、文句言うなよ
俺はお前がちょっと羨ましい
薄情だけど、俺、もう父さんの顔、上手く思い出せないんだ
母さんと離婚する前から別居してたから、10年近く会ってないし」
日野の言葉に、俺は息を飲む。
「あ…そっか…
そうだ、よかったら親父がいる時に遊びに来いよ
親父、日野のこと気に入ってるし、父親みたいだと思われれば悪い気しないって」
取りなすように言う俺に
「いや、良い人そうだけど、父親としては頼りない感じ
せいぜい、近所の気安いお兄ちゃんみたいな?
あの顔で、うちの母親よりかなり年上ってサギっぽいしさー」
日野は苦笑を向けてきた。
「…誉めるかけなすか、どっちかにしてくれよ」
俺はガックリと肩を落とした。
しっぽや事務所に到着し、ノックして扉を開けると笑顔の白久と黒谷が出迎えてくれた。
「荒木、今日はクロと一緒にお弁当を作ってきたので、控え室でのお昼にしましょう」
白久の言葉の後に
「日野のために沢山作ってきましたからね
遠慮なく食べてください
ご飯、一升(しょう)炊きました!」
黒谷が聞いたことのない単位を日野に告げていた。
「一升って何?」
小声で訪ねると
「10合です
もっとも、一升炊きの炊飯器を持っていないので、私とクロで5合ずつ炊いたのですけどね」
白久はそう、教えてくれた。
俺達の到着に会わせ準備をしてくれていたらしく、所員控え室に入るとテーブルの上は宴会場のようになっていた。
白久も黒谷も、かなり頑張ってくれたようだ。
「凄い、歓迎会の時みたい!
ありがとう、お疲れさま」
俺が頭を撫でると、白久は嬉しそうに微笑んだ。
日野を見ると黒谷の頭を撫でてキスをしている。
少しためらったが、俺も白久と軽く唇を合わせた。
ソファーに座り取り分け皿を手に取ると
「いただきまーす!」
俺達は料理の山に手をつけ始めた。
「キレイ、これ何?」
俺が手に取ったのは、ケーキのように鮮やかな段になっているご飯だった。
「ミルフィーユ寿司とでも言うのかな
コップにお酢を塗ったラップをしいて、酢飯と具を交互に入れて作るんだよ
さすがにお弁当に刺身とかナマモノは入れられないから、具は焼き鮭やそぼろ、卵焼きなんかを使ってるけど」
黒谷が誇らかに答えた。
「唐揚げは私が作ったんですよ
長ネギとショウガをタップリ入れてみました
それと、エビフライにメカジキのシソ巻き竜田揚げ
野菜の素揚げもあります」
白久も誇らかに揚げ物の皿を指さした。
「荒木、誉めてあげて
シロ、朝から揚げものしてて火傷したんだ」
黒谷の言葉に、俺は息を飲む。
「クロ、大したことないと言ったでしょう
エビの尻尾を切り忘れていて、ちょっと油が跳ねただけです」
白久は軽く黒谷を睨むが、俺は心配でそれどころでは無かった。
「どこ火傷したの?まだ痛い?」
焦って聞く俺に、白久は困った笑顔を向ける。
「荒木、大丈夫ですよ、すぐに冷やしましたし、本当に大したことはないですから」
そう言われても、俺は心配でたまらなかった。
泣きそうな顔の俺に根負けしたのか、白久が袖をまくる。
右の手首より先の部分に包帯が巻かれていた。
「病院には行ったの?」
そう聞いて、自分の問いかけにハッとする。
『化生を診てくれる病院なんてあるのかな』
顔色を読んだのか
「この程度であれば、手持ちの薬で対処できますよ」
白久は俺を安心させるように微笑んだ。
「荒木、ちょっとやそっとじゃ病院に行かなくて良いくらい、僕達の所にある薬箱の中身は充実してるんだ
それに最悪、駆け込める場所もあるしね」
黒谷もそう言ってくれる。
「あ、秩父診療所ってまだあるんだ…」
驚いた顔の日野の呟きに、俺は首を傾げた。
「秩父診療所?」
「私たちを診てくださるお医者様がいる場所です」
白久の言葉は、思いもよらないものであった。
「詳しい経緯は、今夜にでも説明いたしましょう
さあ、早く食べてしまわないと依頼人が来てしまうかもしれませんよ」
その言葉にハッとして、俺達は食事を再開する。
途中、捜索から戻ってきた双子や羽生にも料理を振る舞って、料理の山は無くなった。
「さすがに苦しいや」
腹をさすりながら言う日野は、俺の見たところ半分近くの寿司やおにぎりを食べていた。
『日野、恐ろしい子』
以前ゲンさんがフザケて言っていた言葉が、俺の頭の中でこだましていた…
業務終了後、俺達は影森マンションへと帰っていく。
夕飯は個々に食べることになっていた。
皆でワイワイ食べるのも楽しくて良いけど、白久と2人っきりで落ち着いた食事の時間も楽しみたかったからだ。
多分、日野も同じであろう。
部屋の前での別れ際
「明日は2人でゆっくり楽しんでこいよ
その代わり、明後日は頼むな」
日野がそう言ってウインクする。
明日、白久と俺が休むので、明後日は黒谷と日野が休みなのだ。
「明日は任せたから、明後日は任せろ!」
俺はそう言うと、白久の部屋のドアを開け中に入っていった。
「昨日、おでんを作っておきました
味が染みてますし、暖め直すだけなのですぐに出来ます」
上着を脱ぎながら、白久が微笑んでくれる。
「うん、いつもありがとう」
部屋着に着替える白久の腕に巻かれた包帯に、つい目がいってしまう。
また、心配そうな顔をしてしまったのだろう。
白久が俺を抱きしめて
「大丈夫です」
優しくそう言ってくれた。
そんな白久の胸に頬ずりする。
白久は安心させるように、優しく唇を合わせてきた。
俺もそれに反応し、白久の舌を求めてもっと深く唇を合わせる。
俺達はすぐに荒い息づかいになり、激しく唇を求め合った。
「ご飯より先に…荒木を食べてしまってもよろしいでしょうか」
頬を染めた白久が、悪戯っぽく聞いてきた。
「良いよ、明日は休みだから今夜はゆっくりしよう」
俺は白久に抱きしめられ幸せを感じていた。
俺達はベッドに移動すると、服を脱いでいく。
一糸纏わぬ状態になると、ベッドの上でしっかりと抱き合った。
白久と触れあうのは台風でお泊まり出来た時以来だ。
あれから半月以上が過ぎている。
頬や唇、首筋を辿る白久の唇の感触を心地よく感じながら
「しょっちゅう泊まりにこれなくて、ごめんね」
俺はそう謝った。
「日野みたいに、ちょいちょい泊まりに来れれば良いんだけど…」
荒くなっていく息の元、そんなことを言うと
「飼い主があらわれない寂しさに比べれば、こうやって、たまにでも触れ合える飼い主が居てくださるのは本当に幸せなことです
荒木は学生なのですから、まだまだご両親に甘えてさしあげてください
私との生活は、いつだって始められますよ」
白久は俺を安心させるように微笑んでくれた。
「うん」
俺はそう答えると、白久のもたらしてくれる刺激に集中する。
触れあっている部分から、甘い痺れが体中に広がっていった。
「はぁ…、ん…」
熱い吐息が絶え間なく口からもれてしまう。
体中が白久を求めていた。
白久と繋がりあい、熱い想いを解放しあうと心地よい気だるさに包まれる。
白久は俺を胸に抱き優しく髪を撫でてくれた。
またしたくなってしまうが、まだまだ夜は長いのだ。
焦らなくても大丈夫だという状況が嬉しかった。
少し休んだ後2人で軽くシャワーを浴び、白久は夕飯を作りにキッチンに移動する。
俺は白久の部屋の中を改めて見回していた。
今まで気にしたことはなかった本棚に目が止まる。
『白久って、どんな本読むんだろう』
そんな興味が沸いてきて、俺は本棚に近寄った。
小説の類はほとんどなく、栄養学や料理の本、医学書といった実用書ばかりが並んでいる。
人間のことを勉強しようとしている白久らしい本棚の中身だった。