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5・検問突破注意

検問所にはコプチェフ、ボリスの同期に加え、ユーリやイヴァンといった新規生達が控えていた。
隊長代理を務めているヤンとサーシャが直々に指揮をとっている。
04号囚人を逃がさないという決意に満ちあふれた配置であった。


検問中であった隊員達は、緊急ミーティングのため集合していた。
「今、別働隊から連絡があった。
 逃走ルートからして、奴らは確実にこっちに来る。
 あの街にはズルゾロフファミリーがいるからな。
 自分を陥(おとしい)れたズルゾロフに、04号囚人が復讐を企ててもおかしくない。
 そうなると、街が大荒れになる。
 ここで確実に食い止めるぞ!」
力強いヤンの言葉に
「了解!」
隊員達は決意を持って答えを返す。

「僕たちの同期、アイザック達はこことは反対側で検問してたけど、至急こちらに向かってもらうよう手配したよ。
 でも、距離がありすぎるから間に合わない可能性が高いかも。
 万が一、街に入り込まれたときのため、街を流してる先輩達に応援かける訳にはいかないから、気合い入れないとね。」
柔らかなサーシャの言葉ではあったが
「はい!」
隊員達は緊張とともに返事をする。

「それじゃ、検問再開するぞ。
 パニックを避けるため、あくまでも交通安全強化の検問だと説明するんだ。
 不審車両は俺達が担当するから、怪しい奴が乗っている車を発見したら声をかけてくれ。」
ヤンはそう言ってサーシャと共に自分達のラーダカスタムに乗り込むと、無線を手に取り情報収集を開始した。

「ロウドフ先輩、軍との揉め事はどうなりました?」
『ニコライの説得が効いたのか、引き下がってくれたよ。
 ラベラスキー家の威光はだてじゃないな。
 こっちの緊急事態もバレてないハズだ。』
ロウドフの言葉にヤンは一時安堵の表情を見せる。
それからゴクリとつばを飲み込み
「イリヤと連絡は?」
この騒動が始まってから、一番気にかけていた事を口にする。

『…ついた。
 今日はもう戻れないが、予定を切り上げて明日の深夜には戻るようにするって話だ。
 「自分達が戻る前に04号囚人を確保してくれていると信じてる」
 これが、イリヤからの伝言だよ。』
無線機からロウドフの言葉が、ラーダカスタムの中に重苦しく響く。
サーシャが労るようにヤンに寄り添った。
自らの恐怖を押し隠し、ヤンは優しくサーシャの髪を撫でる。
「善処するさ。」
短くそう答え通信を終了すると、緊張の溜め息を吐いた。
「死刑宣告くらった気分だ。」
苦笑するヤンに
「善処しよう。」
サーシャは微笑んでソッと唇を合わせた。


新規生が検問に立ち、周りをニコライ達第25期生が固めている。
慎重に行われている問答の結果、検問待ちの車が列をなしていた。
その列を、ニコライとレオニードが先に見て回る。
さりげなく歩きながら脇を通り過ぎるだけなので、車に乗っている者達は自分達が凶悪脱獄犯と疑われているとは思わなかった。

「あいつらは違う。
 ありゃ、ズルゾロフんとこの下っ端だ。」
04号囚人と定期的に面会していて、よく顔を知っているレオニードが囁いた。
「あの人達はマーケットの店員だね、見覚えがある。」
ニコライも注意深く車に乗っている者に視線を走らせた。

「ん?」
そんな2人が、思わず足を止めた車があった。
運転しているのは、アフロヘアで鼻の下に浮かれた感じにヒゲを生やしている者であるが、丸く黒いサングラスをかけているため顔がよくわからない。
後部席で雑誌を読んでいる同乗者もアフロヘアであり、目の模様が描かれているサングラスをかけているため、こちらも表情がわからなかった。
「芸人さん?」
思わず呟くニコライに
「見たことないって、あんなコンビ。
 ナンバー控えて、これ、ヤン先輩達に担当してもらおう。」
レオニードがメモにナンバーを書き、それを持って2人は足早にヤンの乗るラーダカスタムに引き返して行った。


「ヤン先輩、このナンバーの車両、ちょっと怪しいんで担当してもらえますか?」
レオニードに声をかけられたヤンが車外に出る。
「どんな奴が乗ってた?」
ヤンの問いかけに
「何か、浮かれた感じの人達でした。
 芸人さんじゃないかと…アフロヘアだから、音楽関係者か何かかな?」
ニコライが首をひねりながら説明する。
「ニコ、あんなわざとらしいアフロ、ヅラだって…」
レオニードが力なく訂正した。
「え?そうなの?
 よくわかったね、レオは凄いなー。」
素直に感心するニコライに
「ニコはお坊ちゃまだな、そんなとこも可愛いけど。」
レオニードは苦笑を見せる。
「はい、イチャつくのは後、後。」
ヤンに続いて車から下りたサーシャが、フフフッと笑いながら声をかけた。

「イリヤと連絡ついたんだ。
 ここで04号囚人を確保しないと、僕たちに未来はないよ?」
サーシャの最終通告のような言葉に、ニコライとレオニードの顔が固まった。
「ソコシャコフで待機します!」
慌てて走り去るニコライとレオニードを見送りながら
「さて、俺達も未来を守りに行くか。」
ヤンはそう呟いて、検問待ちの列に近付いていくのであった。


危険車両として報告のあった車が、検問場所に入ってくる。
周りに待機している新規生達に緊張した空気が流れた。
「すいませんね、交通安全対策強化のため、簡単な質問をさせてもらってるんですよ。
 お急ぎのところ、お手間をとらせて申し訳ありませんが、ご協力ください。」
ヤンが何気ない風を装いながら声をかける。
「まず、免許証を提示してください。」
ヤンの言葉にアフロの運転手は
「あ、あの、その、免許を入れといた鞄を忘れて出てきてしまって…」
オドオドとそう答えた。
「それは困りますね、免許不携帯ですか。
 何か、身分を証明できる物は?」
強い口調になったヤンに
「いえ、あのですね、急いで出てきたので、証明書の類はちょっと…」
運転手は先ほどよりも動揺した態度で答えた。
「それでは、ボディチェックさせてもらいます。
 車から下りて!」
ヤンの命令に運転手がスゴスゴと車外に姿を現した。

ボンネットに手をつかせ、ヤンは危険物を所持していないか運転手を念入りに確認し始める。
「ちょ、あの、くすぐったいから、あんまり触らないでくださ…
 ハ、ハハハ、アハハハハハッ!」
警官にボディチェックをされているというのに、体をまさぐられた運転手は呑気に笑い出した。
その様子を側で銃を構えながら控えているサーシャが、油断無く見守っている。

「おい、お前も身分証明書を提示しろ。」
後部席で仰向けに寝ころびながら雑誌を読みふけっている者に、ユーリが声をかけた。
しかし、相手は何の反応も返さない。
「聞こえないのか?身分証明書を出せって言ってんだよ。」
ユーリは乱暴な口調で警告するが、相手は反応しなかった。
「こいつ!」
カッとなったユーリが後部席のドアを開ける。
周りで見守っていたイヴァンや同期の者達が、銃を構えた。
それでも、後部席にいる者は雑誌を読むことを止めなかった。
ユーリはその人物の足を掴むと、そのままズルズルと車外に引き出しにかかる。
雑誌を読んでいる体勢のまま引きずられてくる人物の異常さに、隊員達の警戒が一気に高まった。
後方の騒ぎに気が付いたヤンとサーシャもそちらに移動する。
残された運転手は、まだ身をよじって笑っていた。

「身分証を出すか、そのフザケた眼鏡をはずしなさい。」
銃を構えた警官に取り囲まれているというのに、その人物は一向に雑誌を読むことを止めなかった。
隊員達の緊張が高まった瞬間、馴染みのあるサイレンの音が聞こえてくる。
別働隊であるコプチェフとボリスが検問所に到着したのだ。
ラーダカスタムから身を乗り出して銃を構えるボリスを見た狙撃組新規生から
「ボリス先輩だ!」
ドッと歓声が上がった。
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