4・タンクコフ注意
タンクコフからコプチェフとボリスが姿を現すと、カンシュコフ達の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「準備はバッチリだぜ。」
「04号囚人と541号囚人なら、確実に食いつきそうな物をそろえてあるよ。」
「後これ、タンクコフに貼る特殊迷彩シート。」
「遠目から見りゃ店番のオヤジっぽいから、騙されるって。」
「04号囚人を撃つときは、引きつけてからの方が良いからな。」
矢継ぎ早に話しかけてくるカンシュコフ達に
「ありがとよ、あの2人の事に関しては、お前等の方が詳しいから助かったぜ。」
コプチェフが礼を言う。
「準備してる最中、モスクビッチは通らなかったよな?」
ボリスの問いかけに、カンシュコフ達は首を振って否定の意を伝えた。
「よし、何とか先回り出来たみたいだ。
あいつら、何だかんだで移動に時間食ってんだな。」
「良かった。」
コプチェフとボリスがホッとした顔を見せる。
召されかけた04号囚人が息を吹き返し、モスクビッチ改造中の541号囚人に大切にしている雑誌に穴を空けられ地獄のお仕置きをしていた事は、この場に居る者にとって、預かり知らぬ事であった。
「お前等、悪いけど資材運んだトラックでミリツィアに引き返して、俺達のラーダカスタム運んできてくれないか?
もう、修理は終わってると思うからさ。」
コプチェフの言葉に、この場から一刻も早く離れたかったカンシュコフ達の顔に笑顔が浮かぶ。
「まかせとけって!」
「ラーダカスタム積んですぐ戻るから、その間にあいつら確保しておいてくれよな。」
カンシュコフ達はそそくさとトラックに乗り込むと、ミリツィアに向け走り去っていった。
「さて、迷彩シート貼って俺達は待機だ。」
「やるか!」
コプチェフとボリスはタンクコフにシートを貼り、店舗の内側にタンクコフを止めるとそのまま息を潜めて待ち伏せを開始するのであった。
待機し始めて10分と経たないうちに、見覚えのあるモスクビッチが通りかかる。
一旦は通り過ぎてしまうが、すぐに引き返してきた。
いそいそと下りてきた541号囚人が、擬似店舗に並べてある果物を輝く瞳で見つめている。
541号囚人はポケットから小銭を出し金を払おうとするが、タンクコフに迷彩された店番の老爺が受け取ることはない。
『案外、律儀な奴なんだ…』
戸惑いながらもお金を果物の脇に置く541号囚人を見て、コプチェフとボリスは同じ事を考えていた。
嬉しそうな顔で541号囚人が果物を食べ始める。
お腹が空いていたのか、あっという間に1つをペロリと食べきった。
ギュルルルルル
果物に仕掛けられた強力な下剤の効果はすぐに現れた。
青い顔をした541号囚人が駆け込んだ簡易トイレには、爆弾が仕掛けてある。
541号囚人が入ると程なく爆発し、541号囚人は吹き飛ばされた。
『残るは04号囚人だけだ!』
タンクコフの中でコプチェフとボリスの胸の動悸が高まっていく。
04号囚人もモスクビッチを下りると、擬似店舗に置かれている品物を物色し始めた。
ふと、その美しい瞳が商品に止まる。
そこには、何足かのスニーカーが置かれていた。
04号囚人は手を伸ばし、その1足を掴みあげ品定めする。
その瞬間、スニーカーに仕掛けられていた爆弾が爆発した。
至近距離で爆風を受けても、04号囚人の美貌に陰りは見られない。
しかしその顔は、スニーカーを破壊された事により、不愉快そうに歪められていた。
店舗の老爺を睨みつける04号囚人が、何かに気がついた顔をする。
『しまった、感づかれた』
『これだけの至近距離だ、外さない!』
見破られた事に気がついたコプチェフとボリスは、04号囚人に砲身を向け何発も砲弾を撃ち込んだ。
さすがに、04号囚人の体が衝撃で地面にめり込んでいく。
装填してあった砲弾を全部撃ち切った2人は、息を切らせてその光景を見つめた。
「やったか?」
「この距離だ、いくらなんでも、暫く動けなくなってるだろ。
でも、手錠でこいつをつなぎ止めておけるかな…」
祈るように地面にめり込む04号囚人を見ながら、2人が呟いた。
砲撃が止まったにもかかわらず、04号囚人の体が徐々に地面にめり込んでいく事にコプチェフとボリスは気が付かなかった。
2人が異変に気が付いたときには、04号囚人の体は完璧に地面の中に潜り込んでいた。
「おい、何やってんだあいつ!」
コプチェフの悲鳴のような声に答えるように、04号囚人がめり込んでいた地面が脈動する。
ボコリ、ボコリと隆起した地面が、徐々にタンクコフに近付いて行く。
「まさか、穴掘って、こっちに移動して…!?」
ボリスは自分の考えに、冷や汗を流していた。
得体の知れない何かが自分達に忍び寄っているという恐怖に、タンクコフの中は緊張に包まれる。
キイイ、バコン!
2人の座る運転席の後ろから、地獄の使者の到来を告げる不吉な音が聞こえてきた。
タンクコフ下部から金属片がむしり取られる音、うっすらと差し込む明かり、狭い車内に自分達の者とは違う息づかいを感じコプチェフとボリスの恐怖は一気に頂点に達する。
それを、外から見守る者がいても、タンクコフの中で繰り広げられている修羅場は想像だに出来ないだろう。
パイプを持った老爺が描かれた戦車が、前後左右に激しく揺れている。
コミカルなダンスを踊っているような車内は、まさに地獄絵図の真っ最中だった。
砲弾のように重い何かが、体のあちこちにぶつかってくる。
タンクコフのむしりとられた下部からの薄明かりの中、天使のように神々しく美しい顔が、悪魔のような攻撃を仕掛けてくるのだ。
その素早く重い攻撃に翻弄され、コプチェフとボリスの意識は闇に飲まれていった。
04号囚人はひとしきり暴れて気が済んだのか、意識を失った2人をタンクコフの外に投げ出すと、スッキリとした顔で車外に下りていく。
その後、擬似店舗の側で倒れ伏す541号囚人の肩を足でつつき、意識を取り戻させる。
モスクビッチに顎を向け乗り込むことを促すと、自分は後部席に陣取り、お気に入りの雑誌を広げ読みふけり始めた。
慌てて運転席に乗り込んだ541号囚人が、モスクビッチを発車させる。
囚人2人を乗せた車が走り去った後には、意識のないコプチェフとボリスだけが残されるのであった。
修理を終えたラーダカスタムをトラックに積み込みカンシュコフ達が擬似店舗設置場所まで戻ってきたときには、全てが終わった後だった。
仕掛けがうまく発動した爆発跡が見受けられるものの、囚人の姿は見られない。
代わりに、倒れ伏して動かない同期2人の姿を見たカンシュコフ達は、囚人がこの場に到着した際、自分達が居合わせなかった幸運に感謝した。
しかし、そのまま引き返す訳にもいかずコプチェフとボリスの介抱をする。
意識を取り戻した2人は多くを語らなかったが、その体の痣が攻撃の凄まじさを雄弁に物語っていた。
「悪い、ここで止められなかった。
後は検問所で止めてもらうしかない。
俺達もすぐ検問所に向かうから、ここの後始末は頼んだぞ。」
コプチェフの言葉に、カンシュコフ達は擬似店舗撤収作業を開始する。
「ニコライ達も、検問所に着いたかな?」
ボリスの疑問に答えるよう、コプチェフは無線を手にし
「ヤン先輩、すんません、止められませんでした。
ニコライ達到着してますか?」
そう伝える。
『ニコライ達なら、さっき到着したよ。
軍と何かあったらしいな。
お前等は大丈夫なのか?
お前等ばっかり矢面に立たせちまって悪いな。
傷が酷いようなら、医務室で寝てて良いぞ。』
ヤンの気遣いの言葉に、コプチェフとボリスは顔を見合わせる。
「いえ、俺達もすぐそっちに向かいます。」
「逃がさないよう、足止めをお願いします!」
力強い2人の言葉に
『さすが、イリヤの選んだ頼もしい別働隊だ。
お前等が来るまで、奴らを通さないから安心しろ!』
ヤンが朗らかに答えた。
明るいヤンの言葉に勇気をもらい、コプチェフとボリスはラーダカスタムに乗り込んだ。
正義のサイレンを響かせながら、2人を乗せたラーダカスタムは検問所に向かいスピードを上げる。
大切な仲間達の待つ検問所でこの逃走劇を終わらせるべく、2人の心は新たな闘志に燃えるのであった。
「準備はバッチリだぜ。」
「04号囚人と541号囚人なら、確実に食いつきそうな物をそろえてあるよ。」
「後これ、タンクコフに貼る特殊迷彩シート。」
「遠目から見りゃ店番のオヤジっぽいから、騙されるって。」
「04号囚人を撃つときは、引きつけてからの方が良いからな。」
矢継ぎ早に話しかけてくるカンシュコフ達に
「ありがとよ、あの2人の事に関しては、お前等の方が詳しいから助かったぜ。」
コプチェフが礼を言う。
「準備してる最中、モスクビッチは通らなかったよな?」
ボリスの問いかけに、カンシュコフ達は首を振って否定の意を伝えた。
「よし、何とか先回り出来たみたいだ。
あいつら、何だかんだで移動に時間食ってんだな。」
「良かった。」
コプチェフとボリスがホッとした顔を見せる。
召されかけた04号囚人が息を吹き返し、モスクビッチ改造中の541号囚人に大切にしている雑誌に穴を空けられ地獄のお仕置きをしていた事は、この場に居る者にとって、預かり知らぬ事であった。
「お前等、悪いけど資材運んだトラックでミリツィアに引き返して、俺達のラーダカスタム運んできてくれないか?
もう、修理は終わってると思うからさ。」
コプチェフの言葉に、この場から一刻も早く離れたかったカンシュコフ達の顔に笑顔が浮かぶ。
「まかせとけって!」
「ラーダカスタム積んですぐ戻るから、その間にあいつら確保しておいてくれよな。」
カンシュコフ達はそそくさとトラックに乗り込むと、ミリツィアに向け走り去っていった。
「さて、迷彩シート貼って俺達は待機だ。」
「やるか!」
コプチェフとボリスはタンクコフにシートを貼り、店舗の内側にタンクコフを止めるとそのまま息を潜めて待ち伏せを開始するのであった。
待機し始めて10分と経たないうちに、見覚えのあるモスクビッチが通りかかる。
一旦は通り過ぎてしまうが、すぐに引き返してきた。
いそいそと下りてきた541号囚人が、擬似店舗に並べてある果物を輝く瞳で見つめている。
541号囚人はポケットから小銭を出し金を払おうとするが、タンクコフに迷彩された店番の老爺が受け取ることはない。
『案外、律儀な奴なんだ…』
戸惑いながらもお金を果物の脇に置く541号囚人を見て、コプチェフとボリスは同じ事を考えていた。
嬉しそうな顔で541号囚人が果物を食べ始める。
お腹が空いていたのか、あっという間に1つをペロリと食べきった。
ギュルルルルル
果物に仕掛けられた強力な下剤の効果はすぐに現れた。
青い顔をした541号囚人が駆け込んだ簡易トイレには、爆弾が仕掛けてある。
541号囚人が入ると程なく爆発し、541号囚人は吹き飛ばされた。
『残るは04号囚人だけだ!』
タンクコフの中でコプチェフとボリスの胸の動悸が高まっていく。
04号囚人もモスクビッチを下りると、擬似店舗に置かれている品物を物色し始めた。
ふと、その美しい瞳が商品に止まる。
そこには、何足かのスニーカーが置かれていた。
04号囚人は手を伸ばし、その1足を掴みあげ品定めする。
その瞬間、スニーカーに仕掛けられていた爆弾が爆発した。
至近距離で爆風を受けても、04号囚人の美貌に陰りは見られない。
しかしその顔は、スニーカーを破壊された事により、不愉快そうに歪められていた。
店舗の老爺を睨みつける04号囚人が、何かに気がついた顔をする。
『しまった、感づかれた』
『これだけの至近距離だ、外さない!』
見破られた事に気がついたコプチェフとボリスは、04号囚人に砲身を向け何発も砲弾を撃ち込んだ。
さすがに、04号囚人の体が衝撃で地面にめり込んでいく。
装填してあった砲弾を全部撃ち切った2人は、息を切らせてその光景を見つめた。
「やったか?」
「この距離だ、いくらなんでも、暫く動けなくなってるだろ。
でも、手錠でこいつをつなぎ止めておけるかな…」
祈るように地面にめり込む04号囚人を見ながら、2人が呟いた。
砲撃が止まったにもかかわらず、04号囚人の体が徐々に地面にめり込んでいく事にコプチェフとボリスは気が付かなかった。
2人が異変に気が付いたときには、04号囚人の体は完璧に地面の中に潜り込んでいた。
「おい、何やってんだあいつ!」
コプチェフの悲鳴のような声に答えるように、04号囚人がめり込んでいた地面が脈動する。
ボコリ、ボコリと隆起した地面が、徐々にタンクコフに近付いて行く。
「まさか、穴掘って、こっちに移動して…!?」
ボリスは自分の考えに、冷や汗を流していた。
得体の知れない何かが自分達に忍び寄っているという恐怖に、タンクコフの中は緊張に包まれる。
キイイ、バコン!
2人の座る運転席の後ろから、地獄の使者の到来を告げる不吉な音が聞こえてきた。
タンクコフ下部から金属片がむしり取られる音、うっすらと差し込む明かり、狭い車内に自分達の者とは違う息づかいを感じコプチェフとボリスの恐怖は一気に頂点に達する。
それを、外から見守る者がいても、タンクコフの中で繰り広げられている修羅場は想像だに出来ないだろう。
パイプを持った老爺が描かれた戦車が、前後左右に激しく揺れている。
コミカルなダンスを踊っているような車内は、まさに地獄絵図の真っ最中だった。
砲弾のように重い何かが、体のあちこちにぶつかってくる。
タンクコフのむしりとられた下部からの薄明かりの中、天使のように神々しく美しい顔が、悪魔のような攻撃を仕掛けてくるのだ。
その素早く重い攻撃に翻弄され、コプチェフとボリスの意識は闇に飲まれていった。
04号囚人はひとしきり暴れて気が済んだのか、意識を失った2人をタンクコフの外に投げ出すと、スッキリとした顔で車外に下りていく。
その後、擬似店舗の側で倒れ伏す541号囚人の肩を足でつつき、意識を取り戻させる。
モスクビッチに顎を向け乗り込むことを促すと、自分は後部席に陣取り、お気に入りの雑誌を広げ読みふけり始めた。
慌てて運転席に乗り込んだ541号囚人が、モスクビッチを発車させる。
囚人2人を乗せた車が走り去った後には、意識のないコプチェフとボリスだけが残されるのであった。
修理を終えたラーダカスタムをトラックに積み込みカンシュコフ達が擬似店舗設置場所まで戻ってきたときには、全てが終わった後だった。
仕掛けがうまく発動した爆発跡が見受けられるものの、囚人の姿は見られない。
代わりに、倒れ伏して動かない同期2人の姿を見たカンシュコフ達は、囚人がこの場に到着した際、自分達が居合わせなかった幸運に感謝した。
しかし、そのまま引き返す訳にもいかずコプチェフとボリスの介抱をする。
意識を取り戻した2人は多くを語らなかったが、その体の痣が攻撃の凄まじさを雄弁に物語っていた。
「悪い、ここで止められなかった。
後は検問所で止めてもらうしかない。
俺達もすぐ検問所に向かうから、ここの後始末は頼んだぞ。」
コプチェフの言葉に、カンシュコフ達は擬似店舗撤収作業を開始する。
「ニコライ達も、検問所に着いたかな?」
ボリスの疑問に答えるよう、コプチェフは無線を手にし
「ヤン先輩、すんません、止められませんでした。
ニコライ達到着してますか?」
そう伝える。
『ニコライ達なら、さっき到着したよ。
軍と何かあったらしいな。
お前等は大丈夫なのか?
お前等ばっかり矢面に立たせちまって悪いな。
傷が酷いようなら、医務室で寝てて良いぞ。』
ヤンの気遣いの言葉に、コプチェフとボリスは顔を見合わせる。
「いえ、俺達もすぐそっちに向かいます。」
「逃がさないよう、足止めをお願いします!」
力強い2人の言葉に
『さすが、イリヤの選んだ頼もしい別働隊だ。
お前等が来るまで、奴らを通さないから安心しろ!』
ヤンが朗らかに答えた。
明るいヤンの言葉に勇気をもらい、コプチェフとボリスはラーダカスタムに乗り込んだ。
正義のサイレンを響かせながら、2人を乗せたラーダカスタムは検問所に向かいスピードを上げる。
大切な仲間達の待つ検問所でこの逃走劇を終わらせるべく、2人の心は新たな闘志に燃えるのであった。