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4・タンクコフ注意

コプチェフとボリスを乗せたニコライ運転のラーダカスタムがミリツィアに帰還する。
「助かったぜ、ありがとな、俺達はタンクコフの出動準備しねーと。
 お前等もソコシャコフ出すんだろ?
 とにかくいったん事務所に顔出して、ロウドフ先輩に報告だ。」
コプチェフの言葉に、ボリス、ニコライ、レオニードの4人は慌ただしく事務所へと移動する。


「ニコライ!早く来てくれ!」
事務所に入ると焦った顔のロウドフが出迎えた。
「今、軍から連絡があったんだが、うち管轄の山の上空を訓練飛行中の戦闘機が撃墜されたらしいんだ。
 うちに調査協力を求めてきたよ。
 協力というより、命令に近くて参ってるんだ。
 こっちは大変なことになってるってのに。」
ロウドフの言葉に
「何でうちに?機体の回収は部外者には立ち入らせたくないはずなのに?」
ニコライが訝しい顔を向ける。
「どうも、うちが疑われてるみたいなんだよ。
 レーダーに飛行物は確認出来ない、地上から撃墜されたって言うんだ。
 戦闘機を撃墜できる戦力があるとこなんて、限られてるだろ?」
一瞬、事務所内の視線がコプチェフとボリスに集中する。

2人は慌てて手を振り
「いや、俺達じゃねーって」
「確かにバズーカ使ったけど、戦闘機なんて打ち落とせるミサイルじゃなかったよ、とんでもない不良品なんだ!」
弁解じみた言葉を口にする。
「とにかく、ニコライが話をつけた方が早そうなんで、戻ってきてくれるのを待ってたんだ。」
ロウドフの言葉に緊張した顔のニコライが
「わかりました、とにかく通信に出てみます。」
そう答えて通信機に向かう。
件(くだん)の戦闘機は04号囚人が投擲(とうてき)した岩に撃ち落とされ、エンジンを盗られていたのだが、ここにいる者達には知る由もないことであった。


コプチェフとボリスは慌ただしい事務所を後にしてガレージに向かう。
「迷彩使用時の店舗も使うかもしれないから、ここのポイントに準備しておいてくれ。
 ここにたどり着く前に確保できりゃ良いが、なんせあの04号囚人だからな。」
コプチェフに指示され、カンシュコフ達が擬似店舗を積んだトラックを出動させる。
「さて、俺達も行くか。
 追いつけると良いが…とにかく、飛ばすぜ!」
力強く言うコプチェフに
「頼むよ!」
ボリスも力強く答えていた。


戦車とは思えないスピードで、タンクコフは山道のみならず傾斜を移動した『ワープ』で進んでいく。
「っかしいな、あいつらのモスクビッチ、見あたらねーよ。」
コプチェフが辺りに注意を向けながらそう呟いた。
「追い越しちゃったかな、あの車体、かなりガタがきてたもんな。」
ボリスが思案顔で相槌を打った。
囚人達が乗ったモスクビッチは戦闘機エンジンを搭載した改造に失敗し、その結果04号囚人が召されかけるというトラブルに見舞われているのだが、2人はその事実を知らない。

「あんまり引き離しても何だし、ここで少し待ってみるか。」
コプチェフの提案にボリスも頷いて
「まさかと思うけど、この砲弾も04号囚人には効かないかも。
 とにかく車体を狙って、あいつらの足を止めよう。」
そう提案する。
「車体は奪ったモスクビッチだってことが分かってるんだ。
 なら、こっちの砲弾は有効だぜ。
 狙いは任せたからな。」
ニヤリと笑うコプチェフに
「何度も訓練してるし、バッチリだ。」
ボリスも不適な笑顔を見せた。


程なく、2人にとって嫌と言うほど見覚えのある車体が現れる。
「来た!何だか余分なパーツを積んでるな。
 あれが重くてスピード出せないんだ。」
コプチェフがそう分析する。
「とりあえず、威嚇で何発か撃ってみるか。」
ボリスはモスクビッチに向け砲弾を撃ち込んだ。
モスクビッチは何とか砲弾を避け、タンクコフの脇をすり抜けて逃走を図ろうとする。
「逃がすか!」
コプチェフは素早くタンクコフの向きを変えると、モスクビッチを追って走り始めた。


逃走するモスクビッチを追い、タンクコフは戦車とは思えないスピードで走っていく。
モスクビッチめがけてボリスが何発も砲弾を撃っていった。
砲弾はモスクビッチのタイヤに命中するが、走行中の車体から身を乗り出した541号囚人が神業ともいえるスピードでタイヤを交換し、そのまま逃走する。
「いっ!?」
それを見たコプチェフとボリスの顔に驚愕の表情が浮かぶ。

「くそっ、541号囚人も要注意人物だぜ。」
コプチェフが苦虫を噛み潰した顔で呟いた。
「みてろ、修理する時間なんて与えない!」
ムキになったボリスは、続けざまに砲弾を撃ち込んだ。
砲弾が着弾するたびに541号囚人がタイヤを交換していく。
しかしあまりの衝撃に、ついにモスクビッチの車体が耐えられなくなり、爆発四散した。
「やった!」
コプチェフとボリスは勝利を確信する。

だが、その時あり得ない光景が2人の目の前で繰り広げられた。
スローモーションのようにゆっくりとした時間に感じられるモスクビッチ四散の瞬間、頭に包帯を巻いた04号囚人の体が力なく投げ出される。
それを見た541号囚人の中で、燃える想いが弾けたのだ。

541号囚人は四散しかかった車体をかき集め、今までとは比べものにならないスピードで修理、改造していく。
積んでいたパーツを天才的な技術とセンスをもって車体に組み込んだ。
四散するかと思われたモスクビッチは、よりパワーアップした状態で山道に着地する。
「え?」
それは、夢を見ているとしか思えない光景であった。

呆然とする2人の目の前で、モスクビッチのエンジン(実際には組み込まれた戦闘機エンジン)が火を噴いた。
エンジンの圧力を受け、モスクビッチの車体は弾丸のように加速する。
その車体は、見る見るうちに遠ざかって行った。
スピードが出せるよう改造してあるとはいえ、戦車であるタンクコフに追いつけるスピードではない。
2人の思考も、そのスピードに置いていかれる形となった。

「今の…何だ…?」
目を瞬かせたコプチェフが呟くと
「あれ…?だって今、バラバラになって…?」
ボリスも呆然と呟いた。
この逃走劇が始まってから何度目になるであろう、あまりにも非現実的な光景に2人の思考は停止した。

しかし、すぐに
「って、しまった、また逃げられた!」
「追わなくちゃ!」
警官としての使命に燃える2人の思考が動き出す。
「追いつけるかどうかわからねーけど、こうなりゃカケだ。
 カンシュコフ達に用意させた、擬似店舗設置場所に行ってみるか。」
思案顔のコプチェフが言うと
「先回りして、奴らが商品に気を取られてる隙をつければ良いけど…
 とにかく、準備してみよう!」
ボリスが決意も新たに頷いた。
正義の警官2人を乗せたタンクコフは山道を『ワープ』するため、バリバリと木々をなぎ倒しながら山の傾斜を下っていくのであった。



擬似店舗設置場所では、カンシュコフ達が忙しなく立ち働いている。
「これ置いときゃ、食い意地のはった541号囚人なら絶対食いつくぜ!」
「下剤をたっぷり入れといてやるからな。」
「で、トイレに駆け込んだ瞬間、ドカンだ!」
「04号囚人には、何と言ってもこれだろ、スニーカー!」
「手にした瞬間、ドカンだ!
 …って、04号囚人にこんなチャチな爆弾効くのか?」
今まで04号囚人に散々痛い目を見せられてきた(原因は自分達にもあるのだが)カンシュコフ達の顔が曇る。

「ま、まあ、こっちには別働隊の2人がいるから大丈夫じゃないか?」
「あいつら、同期の中じゃ1番の出世株だもんな。」
「検挙率もダントツだし、先輩達だって一目置いてるくらいだしよ。」
「でも、そんな奴らと04号囚人がやりあう現場には居たくないよな…」
「もし、04号囚人があの状態になったら…」
1人の呟きを受け、バーサーカーモードの04号囚人を目の当たりにした事があるカンシュコフ達の顔が、みるみるうちに青ざめていく。


バリバリバリ、ドスン!!

木々をなぎ倒す音、重い物が着地する音に、カンシュコフ達は飛び上がって驚いた。
慌てて音のした方に首を巡らせると、そこにはタンクコフの姿が見える。
頼もしい戦車の姿を見たカンシュコフ達の顔色が、歓喜に輝いた。
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