3・ミサイル不具合注意
ミリツィアに帰り着いたコプチェフは整備士に自分達の車を預け、ソコシャコフの出動準備をする。
「検問の準備、どうなってますか?」
事務室で緊急時の連絡係をしているロウドフに尋ねると
「新規生とお前等の同期主体で、梺(ふもと)に近い場所でやるらしい。
もちろん、指揮はヤンとサーシャが取ってな。
街の方には古い時代が網めぐらせてるし、反対の梺にはヤンの同期が目を光らせてる。
逃げきれないとは思うが…
なんせ、あの04号囚人だからな。」
難しい顔をしながら、そんな答えを返す。
「04号囚人、侮っちゃだめです。
あいつは、噂に違(たが)わぬとんでもない化け物ですよ!」
コプチェフは真剣な表情で訴えた。
「そだ、ニコライと連絡取れるかな?」
思い立ったコプチェフは事務室の無線を借りる。
「ニコライ、お前、いったんこっち戻れるか?
検問車両に装甲車があった方が良いぞ。
04号囚人、あいつ、マジでバケモンだ。
お前とレオニードは装甲車で検問所に行け。
お前なら、あの車体でラーダカスタムと同じスピード出せんだろ?」
矢継ぎ早に言うコプチェフに
『わかった!今から戻るよ。
ソコシャコフでフルスピード出したこと無いけど…やってみないと、始まらないもんね!』
緊張しながらも、ハッキリとした声でニコライは答えた。
「俺とボリスは今からソコシャコフで出る。
装甲車、2台手に入れといてよかったな。
04号囚人とは何度か接触したんだが…逃げられちまってんだ。
今度こそ決着つけるぜ!
検問所にはたどり着かせたくないしさ。」
そんなコプチェフの言葉に
『うん、気をつけて出てね、幸運を祈ってるよ。』
ニコライはそう告げて通信を終了した。
「さて、行くか!」
コプチェフが側で通信を聞いていたボリスに笑顔を向けると
「腕が鳴るぜ!」
ボリスも笑顔を返す。
2人はガレージに向かいソコシャコフに乗り込むと、勇んでミリツィアを後にした。
装甲車とは思えないスピードで、ソコシャコフは山道を進む。
「機動力上げるためにあちこちいじったから、追いつけると思うぜ。
ただ、重量とスペースの関係で銃器積めないけどな。」
ソコシャコフの小窓から見える外を眺めながらコプチェフが言う。
「銃は、この車体で十分だろ。
砲弾はそれなりに積んでるし、この破壊力なら04号囚人も太刀打ちできないさ。」
ボリスも前方に注意を払いながらそんな言葉を口にした。
「おい、あれ!」
いち早く気づいたコプチェフがボリスの注意を促した。
「541号囚人だな。」
ボリスが緊張した声で答える。
ソコシャコフの前方では、541号囚人がモスクビッチのタイヤ交換をしていた。
「案外早く追いついたな、あいつらの車は動けないみたいだし、こいつはチャンスだぜ!」
上機嫌で言うコプチェフに
「肝心の04号囚人はどこだ?」
ボリスは辺りに注意を払いながら呟いた。
04号囚人はモスクビッチの側の傾斜で、いつものように寝転がりながら雑誌を読んでいた。
ボリスに狙撃された際に雑誌には穴が空いてしまったが、変わらず熱心に紙面を眺めている。
「しめた、車外にいる!狙い撃ちだ!」
ボリスはソコシャコフの砲身を動かして、04号囚人に狙いを定めた。
ズゴオオオオン
轟音とともに放たれた砲弾が04号囚人を襲う。
さすがに吹き飛ばされた04号囚人が、山道に止まっていたモスクビッチの辺りまで砂煙を上げながら滑り落ちて行った。
タイヤ交換をしていた541号囚人の側で、その体が止まる。
541号囚人は、タイヤを抱えながらオロオロするばかりであった。
「勝ったな。」
圧倒的な攻撃力の差に、コプチェフとボリスの顔には自然に笑みが浮かんでいた。
勝利に酔いしれ思わず笑い出したコプチェフとボリスは、滑り落ちた体勢から04号囚人が上体を起こし、値踏みするような目つきでソコシャコフを見ていることに気づけなかった。
立ち上がった04号囚人は、中から笑い声が響いてくるソコシャコフに近づいていく。
そして、タイヤ上部に手をかけるとソコシャコフの装甲を持ち上げた。
その動きに力強さはみられない。
キャンディが入ったビンのコルク蓋を取るような、全く力を込めない動作であったにも関わらず、04号囚人は装甲車の上部装甲をはぎ取ったのだ。
あまりに静かに行われたため、ソコシャコフの中にいたコプチェフとボリスはその状況にすぐに気がつかない。
未だ、勝利の笑いをもらしている。
ズンッ!
04号囚人が取り外したソコシャコフの装甲を置いた衝撃と音、急に明るくなった景色にコプチェフとボリスは我に返った。
装甲に覆われた車内に居たはずなのに、目の前には2人にはお馴染みの山並みが見える。
山並みの中に、この世の者とは思えぬ美貌を見せる04号囚人が立っていた。
エメラルドを思わせる涼やかなグリーンの瞳が、ソコシャコフを見つめている。
銃器を積んでこなかったため、丸腰である事を思い出したコプチェフとボリスの脳裏に最悪の想像が走った。
2人の顔はみるみる青くなり、大量の冷や汗が背を流れる。
04号囚人が顎をクイッと動かすと、オズオズとした表情の541号囚人が近づいてきた。
その手には、レンチが握られている。
それを見て緊張の糸が切れたコプチェフが、ボリスの手を取り脱兎のごとく逃げ出した。
夢中で駆けて山中に逃げ込むと、大木の陰に隠れ後ろを伺った。
しかし、危惧していた04号囚人の姿はなかった。
2人は緊張した顔で見つめ合い、木立に隠れながらソコシャコフが見える場所まで引き返すと、そこには無惨な鉄塊が転がっていた。
使えそうなパーツをあらかた奪われたソコシャコフは、もはや装甲車の面影を残していなかった。
「やられた…」
コプチェフはガクリと地面に膝をつく。
「こんな短時間で…541号囚人の仕業だ。」
以前かいま見た541号囚人が手際よくモスクビッチを修理する様子を思い出し、ボリスも力なく呟いた。
「ミリツィアに引き返す、っても、足が無い…ちくしょう!」
思わず叫んだコプチェフの耳に、なじみのエンジン音が聞こえてきた。
ジャリジャリと小石をはね飛ばし、山道ではなく山の斜面を駆け上がるように1台のラーダカスタムが姿を現したのだ。
そのラーダカスタムはソコシャコフの残骸に気が付き、近寄ってくる。
「コプチェフ、どうしたの?これ、まさか、ソコシャコフ?」
停止したラーダカスタムから、慌てた顔のニコライとレオニードが下りてきた。
「ニコライ、良いタイミングで!
助かった!話は後だ、とにかく今すぐミリツィアまで運んでくれ!」
コプチェフの勢いに押され
「あ、うん、2人とも乗って!僕たちもミリツィアに帰る途中だよ。」
ニコライはすぐさまラーダカスタムをミリツィアに向け走らせるのであった。
「面目ねーが、04号囚人にやられちまった。」
ラーダカスタムの車中でコプチェフが盛大なため息を付いた。
「ソコシャコフ、ダメにしちゃったよ、ごめん。」
ボリスもガックリとうなだれる。
「君たちが無事で良かった。
ソコシャコフは、またイリヤ先輩が買い付けてくれるから大丈夫だよ。」
ニコライは2人に気を使って、朗らかに答えた。
「お前が『ワープ』使えて良かった、これでミリツィアまですぐに帰れる。
見てろ、今度はタンクコフで出動するからな。」
コプチェフの言葉に
「僕のラーダは装甲いじってないから、山の斜面を走れるポイントは決まってるんだ。
君やイリヤ先輩が斜面を走って短時間移動する『ワープ』にはほど遠いよ。」
ニコライは苦笑をもらす。
ミハエルが撃たれた事件のあった後、山道ではなく山の傾斜を走って短時間移動出来るよう、運転組の者はイリヤにしごかれているのである。
「とにかく、ミリツィアに戻って再出動だ!
次こそは奴らを止めてやるぜ!」
「ついに、タンクコフの砲弾撃てる時が来たんだな!
これで決着つけるさ!」
コプチェフとボリスは先ほどの敗北から立ち直り、新たな決意に燃えるのであった。
「検問の準備、どうなってますか?」
事務室で緊急時の連絡係をしているロウドフに尋ねると
「新規生とお前等の同期主体で、梺(ふもと)に近い場所でやるらしい。
もちろん、指揮はヤンとサーシャが取ってな。
街の方には古い時代が網めぐらせてるし、反対の梺にはヤンの同期が目を光らせてる。
逃げきれないとは思うが…
なんせ、あの04号囚人だからな。」
難しい顔をしながら、そんな答えを返す。
「04号囚人、侮っちゃだめです。
あいつは、噂に違(たが)わぬとんでもない化け物ですよ!」
コプチェフは真剣な表情で訴えた。
「そだ、ニコライと連絡取れるかな?」
思い立ったコプチェフは事務室の無線を借りる。
「ニコライ、お前、いったんこっち戻れるか?
検問車両に装甲車があった方が良いぞ。
04号囚人、あいつ、マジでバケモンだ。
お前とレオニードは装甲車で検問所に行け。
お前なら、あの車体でラーダカスタムと同じスピード出せんだろ?」
矢継ぎ早に言うコプチェフに
『わかった!今から戻るよ。
ソコシャコフでフルスピード出したこと無いけど…やってみないと、始まらないもんね!』
緊張しながらも、ハッキリとした声でニコライは答えた。
「俺とボリスは今からソコシャコフで出る。
装甲車、2台手に入れといてよかったな。
04号囚人とは何度か接触したんだが…逃げられちまってんだ。
今度こそ決着つけるぜ!
検問所にはたどり着かせたくないしさ。」
そんなコプチェフの言葉に
『うん、気をつけて出てね、幸運を祈ってるよ。』
ニコライはそう告げて通信を終了した。
「さて、行くか!」
コプチェフが側で通信を聞いていたボリスに笑顔を向けると
「腕が鳴るぜ!」
ボリスも笑顔を返す。
2人はガレージに向かいソコシャコフに乗り込むと、勇んでミリツィアを後にした。
装甲車とは思えないスピードで、ソコシャコフは山道を進む。
「機動力上げるためにあちこちいじったから、追いつけると思うぜ。
ただ、重量とスペースの関係で銃器積めないけどな。」
ソコシャコフの小窓から見える外を眺めながらコプチェフが言う。
「銃は、この車体で十分だろ。
砲弾はそれなりに積んでるし、この破壊力なら04号囚人も太刀打ちできないさ。」
ボリスも前方に注意を払いながらそんな言葉を口にした。
「おい、あれ!」
いち早く気づいたコプチェフがボリスの注意を促した。
「541号囚人だな。」
ボリスが緊張した声で答える。
ソコシャコフの前方では、541号囚人がモスクビッチのタイヤ交換をしていた。
「案外早く追いついたな、あいつらの車は動けないみたいだし、こいつはチャンスだぜ!」
上機嫌で言うコプチェフに
「肝心の04号囚人はどこだ?」
ボリスは辺りに注意を払いながら呟いた。
04号囚人はモスクビッチの側の傾斜で、いつものように寝転がりながら雑誌を読んでいた。
ボリスに狙撃された際に雑誌には穴が空いてしまったが、変わらず熱心に紙面を眺めている。
「しめた、車外にいる!狙い撃ちだ!」
ボリスはソコシャコフの砲身を動かして、04号囚人に狙いを定めた。
ズゴオオオオン
轟音とともに放たれた砲弾が04号囚人を襲う。
さすがに吹き飛ばされた04号囚人が、山道に止まっていたモスクビッチの辺りまで砂煙を上げながら滑り落ちて行った。
タイヤ交換をしていた541号囚人の側で、その体が止まる。
541号囚人は、タイヤを抱えながらオロオロするばかりであった。
「勝ったな。」
圧倒的な攻撃力の差に、コプチェフとボリスの顔には自然に笑みが浮かんでいた。
勝利に酔いしれ思わず笑い出したコプチェフとボリスは、滑り落ちた体勢から04号囚人が上体を起こし、値踏みするような目つきでソコシャコフを見ていることに気づけなかった。
立ち上がった04号囚人は、中から笑い声が響いてくるソコシャコフに近づいていく。
そして、タイヤ上部に手をかけるとソコシャコフの装甲を持ち上げた。
その動きに力強さはみられない。
キャンディが入ったビンのコルク蓋を取るような、全く力を込めない動作であったにも関わらず、04号囚人は装甲車の上部装甲をはぎ取ったのだ。
あまりに静かに行われたため、ソコシャコフの中にいたコプチェフとボリスはその状況にすぐに気がつかない。
未だ、勝利の笑いをもらしている。
ズンッ!
04号囚人が取り外したソコシャコフの装甲を置いた衝撃と音、急に明るくなった景色にコプチェフとボリスは我に返った。
装甲に覆われた車内に居たはずなのに、目の前には2人にはお馴染みの山並みが見える。
山並みの中に、この世の者とは思えぬ美貌を見せる04号囚人が立っていた。
エメラルドを思わせる涼やかなグリーンの瞳が、ソコシャコフを見つめている。
銃器を積んでこなかったため、丸腰である事を思い出したコプチェフとボリスの脳裏に最悪の想像が走った。
2人の顔はみるみる青くなり、大量の冷や汗が背を流れる。
04号囚人が顎をクイッと動かすと、オズオズとした表情の541号囚人が近づいてきた。
その手には、レンチが握られている。
それを見て緊張の糸が切れたコプチェフが、ボリスの手を取り脱兎のごとく逃げ出した。
夢中で駆けて山中に逃げ込むと、大木の陰に隠れ後ろを伺った。
しかし、危惧していた04号囚人の姿はなかった。
2人は緊張した顔で見つめ合い、木立に隠れながらソコシャコフが見える場所まで引き返すと、そこには無惨な鉄塊が転がっていた。
使えそうなパーツをあらかた奪われたソコシャコフは、もはや装甲車の面影を残していなかった。
「やられた…」
コプチェフはガクリと地面に膝をつく。
「こんな短時間で…541号囚人の仕業だ。」
以前かいま見た541号囚人が手際よくモスクビッチを修理する様子を思い出し、ボリスも力なく呟いた。
「ミリツィアに引き返す、っても、足が無い…ちくしょう!」
思わず叫んだコプチェフの耳に、なじみのエンジン音が聞こえてきた。
ジャリジャリと小石をはね飛ばし、山道ではなく山の斜面を駆け上がるように1台のラーダカスタムが姿を現したのだ。
そのラーダカスタムはソコシャコフの残骸に気が付き、近寄ってくる。
「コプチェフ、どうしたの?これ、まさか、ソコシャコフ?」
停止したラーダカスタムから、慌てた顔のニコライとレオニードが下りてきた。
「ニコライ、良いタイミングで!
助かった!話は後だ、とにかく今すぐミリツィアまで運んでくれ!」
コプチェフの勢いに押され
「あ、うん、2人とも乗って!僕たちもミリツィアに帰る途中だよ。」
ニコライはすぐさまラーダカスタムをミリツィアに向け走らせるのであった。
「面目ねーが、04号囚人にやられちまった。」
ラーダカスタムの車中でコプチェフが盛大なため息を付いた。
「ソコシャコフ、ダメにしちゃったよ、ごめん。」
ボリスもガックリとうなだれる。
「君たちが無事で良かった。
ソコシャコフは、またイリヤ先輩が買い付けてくれるから大丈夫だよ。」
ニコライは2人に気を使って、朗らかに答えた。
「お前が『ワープ』使えて良かった、これでミリツィアまですぐに帰れる。
見てろ、今度はタンクコフで出動するからな。」
コプチェフの言葉に
「僕のラーダは装甲いじってないから、山の斜面を走れるポイントは決まってるんだ。
君やイリヤ先輩が斜面を走って短時間移動する『ワープ』にはほど遠いよ。」
ニコライは苦笑をもらす。
ミハエルが撃たれた事件のあった後、山道ではなく山の傾斜を走って短時間移動出来るよう、運転組の者はイリヤにしごかれているのである。
「とにかく、ミリツィアに戻って再出動だ!
次こそは奴らを止めてやるぜ!」
「ついに、タンクコフの砲弾撃てる時が来たんだな!
これで決着つけるさ!」
コプチェフとボリスは先ほどの敗北から立ち直り、新たな決意に燃えるのであった。