2・狙撃失敗注意
モスクビッチを追って、ラーダカスタムは山道をもの凄いスピードで走っている。
そんな車中で
「541号囚人って何者なんだ?
あいつ、解体されたも同然のモスクビッチ、凄いスピードで直してたよ。
おかげで逃げられちゃった。」
ボリスが自分の見た光景を思い出しながら口を開いた。
「あいつ、メカニックだったんじゃないか、ってニコライが言ってたぜ。
部品の組立やらせたら、早くて正確だったらしい。
でも、ロウドフ先輩が囚人にやらせる仕事ってヒヨコの選別やら、マトリョーシカの組立やらファンシーなのが多いだろ?
腕がもったいないって、ニコライが嘆いてたぜ。
ラーダの改造手伝ってもらいたがってたからな。
さすがに囚人にパトカー改造させられないから、イリヤ先輩の許可下りなかったけどさ。」
コプチェフがそう説明する。
「メカニック…厄介だな。
車狙っても、すぐ修理されて逃げられるじゃないか。
とは言え、とにかく車を止めないと話にならないし…
大きめの銃器も、用意するか。」
ボリスはそう呟くと、後部席のケースから大型の銃器を取り出して、素早く組み立てていく。
後部席には他にも、銃弾装填済みのライフルが山と積まれていた。
「向こうに優秀なメカニックがいても、こっちにはボリス=ガンスカヤがいる!
いっくらでも銃を用意して、追いつめられるさ。」
銃の準備をするボリスを見ながら、コプチェフが二ヤッと笑ってそう言った。
「04号囚人を狙うのは、車止めてからだ。
車体自体は普通のモスクビッチのものだし、何発も撃ち込めば、いずれガタがくる。
直してるヒマを与えずに一気に畳みかけよう!」
ボリスも不敵な笑みを浮かべ、更に追加の銃器を用意した。
暫く走ると前方にモスクビッチが見えてきた。
「?何やってんだあいつら?」
モスクビッチは車道ではなく、山の傾斜を走っていた。
ガタガタと車体を大きく揺らし、時折岩に接触し大きくバウンドしている。
そのたびに、車内の者達(何故かカエルも一緒に乗っている)も車体に併せて激しく揺れていた。
モスクビッチからは、リズムをとるようなクラクションが聞こえてくる。
まるで車がダンスしているように見えた。
「何だかノロノロ走っててくれたおかげで、すぐ追いついたな。
銃取ってくれ、場合によっては俺も運転しながら威嚇する。
お前は車体を狙え。」
「了解!」
ボリスは素早く銃をコプチェフに渡し、窓から身を乗り出して銃を構える。
コプチェフがスイッチを入れると、辺りに警察車両を示すサイレンが鳴り響き緊張感が生まれた。
ボリスは車道に戻ってきた前方のモスクビッチに、銃弾の雨を降らせる。
モスクビッチは、車体を振りそれを避けようとしていた。
ボリスは構わずに、さらに銃弾を撃ち込んでいく。
モスクビッチのトランクに、銃弾による穴が次々と開いていた。
「くそっ、案外粘るな。
でもスピードは落ちてる、すぐに動けなくなるぜ。」
コプチェフの分析に、ボリスは更に弾丸を撃ち込もうとする。
その時、想定外の出来事が起こった。
銃撃の雨の中、今までモスクビッチの後部席でスニーカーを磨いていた04号が素早く動いたのだ。
自分達が乗っている車のトランクに移動すると、そのまま姿を現した。
開いたトランクから仁王立ちになって、コプチェフとボリスの乗ったラーダカスタムを睨んでいる。
先ほどボンネットを捕まれ、車体を放り投げられた事を思い出したコプチェフは、今度は慎重に車間距離を空けて運転する。
「あいつ、舐めやがって…俺も射撃に加わるぜ。
俺が車体を狙うから、お前は04号囚人を狙え!」
コプチェフの指示に
「了解!」
ボリスは緊張した声で返事を返す。
しかし04号囚人が、ライフルの弾を貫通させなかった姿を思い出し
『これで効くのか…』
一抹の不安を感じていた。
ボリスが射撃を再開すると、銃弾の雨が前方のモスクビッチを襲う。
すると、トランクに仁王立ちになっていた04号囚人がサッと何かを構えた。
それは、古びた1つのフライパンであった。
04号囚人は、そのフライパンでボリスの放った弾丸を的確に弾き返していく。
ボリスが銃を撃つ音、04号囚人がフライパンでそれを弾く音が辺りに小気味よく響きわたる。
「何だあいつ!あんなん、ありかよ!?」
驚愕に目を見開いたコプチェフが、自分も銃を手に取り慌てて銃撃に加わった。
運転しながらなのであまり正確に照準を合わせられないため、車体を狙った威嚇射撃だ。
ボリスはそのまま続けて04号囚人を狙って銃弾を撃ち込んでいく。
「クソッ、フライパンすら破壊出来ないって…
何なんだよ、これ!?」
コプチェフの射撃が加わったというのに、弾は全て04号囚人の振るうフライパンに弾き返されていた。
モスクビッチにダメージを与えられないため、車間距離が縮まらないことに2人は焦りを覚えていた。
さらに激しく連携射撃を試みるも、04号囚人はフライパンを振るうスピードを上げ、その弾の全てを弾き返している。
フライパンに当たる銃弾がたてる音は、もはや1つのビートの様に感じられた。
「あのフライパンを破壊するのが先だ!
ちょいと大きめの銃器つかうぞ!」
コプチェフの声に答える前に、ボリスは動き出していた。
後部席に積んである小型ランチャーを2本手に取ると、1本をコプチェフに手渡す。
素早くそれを受け取ったコプチェフが前方のモスクビッチにそれを向ける。
ほとんど同時に、ボリスも窓から身を乗り出しモスクビッチに照準を合わせた。
「これで終わりだ!」
勝利を確信した2人の小型ランチャーが火を噴いた。
後方のラーダカスタムから、今までの銃弾とは比べものにならない大きな弾が飛んでくる。
しかし04号囚人は今までと変わらぬ腕裁きでれを弾き返した。
カン、コン
鐘の音のように軽い音が辺りに響きわたった。
「え!?ちょ、待っ…!?」
弾き返された弾は、どんな偶然かラーダカスタムめがけて飛来する。
フライパンで弾かれただけなので弾の速度は大したことはないものの、あまりに想定外の出来事であったため、コプチェフはそれを避けられなかった。
直撃は免れたが、弾は車体に接触した衝撃で爆発した。
「ちくしょう!」
コプチェフはハンドルを切り、爆風で崖下に転落する事を何とか阻止する。
ボリスは窓から乗り出していた体を咄嗟に車内に戻し、振り落とされる危険を回避した。
停止したラーダカスタムからは、しばらくの間2人の荒い息づかいだけが響いていた。
「めちゃくちゃ過ぎる…」
04号囚人のあまりの規格外っぷりに、2人は呆然としてしまう。
しかしすぐに
「でも、やるしかない!俺たちは警官だぜ?
あんな巨悪を放置出来るか!」
立ち直ったコプチェフが闘志をみなぎらせ拳を握ると
「今こそ、あの技を見せる時だな!
こんな事もあろうかと、ちゃんと積んでおいたんだ!」
ボリスも気勢を上げる。
ボリスはラーダカスタムを下り、トランクからバズーカの入ったケースを取り出すと組み立て始めた。
組み立てたバズーカを担ぎ、ボリスはラーダカスタムのトランクに乗る。
「コプチェフ、追えるか?
スピードに目を慣らしたいから、俺はこのまま行く。」
そう後部のトランク上から話しかけるボリスに
「まかせとけ!振り落とされないよう、しっかり踏ん張れよ。」
コプチェフは力強く答える。
「囚人ども、あれくらいの爆風でイカレちまう車体だと思うな。
このラーダカスタムは、俺とニコライの血と汗の結晶なんだからよ!」
コプチェフは不敵な笑みを浮かべ、ラーダカスタムのエンジンをかける。
ボリスを振り落とさないよう細心の注意を払いながら、ラーダカスタムはモスクビッチを追ってスピードを上げるのであった。
そんな車中で
「541号囚人って何者なんだ?
あいつ、解体されたも同然のモスクビッチ、凄いスピードで直してたよ。
おかげで逃げられちゃった。」
ボリスが自分の見た光景を思い出しながら口を開いた。
「あいつ、メカニックだったんじゃないか、ってニコライが言ってたぜ。
部品の組立やらせたら、早くて正確だったらしい。
でも、ロウドフ先輩が囚人にやらせる仕事ってヒヨコの選別やら、マトリョーシカの組立やらファンシーなのが多いだろ?
腕がもったいないって、ニコライが嘆いてたぜ。
ラーダの改造手伝ってもらいたがってたからな。
さすがに囚人にパトカー改造させられないから、イリヤ先輩の許可下りなかったけどさ。」
コプチェフがそう説明する。
「メカニック…厄介だな。
車狙っても、すぐ修理されて逃げられるじゃないか。
とは言え、とにかく車を止めないと話にならないし…
大きめの銃器も、用意するか。」
ボリスはそう呟くと、後部席のケースから大型の銃器を取り出して、素早く組み立てていく。
後部席には他にも、銃弾装填済みのライフルが山と積まれていた。
「向こうに優秀なメカニックがいても、こっちにはボリス=ガンスカヤがいる!
いっくらでも銃を用意して、追いつめられるさ。」
銃の準備をするボリスを見ながら、コプチェフが二ヤッと笑ってそう言った。
「04号囚人を狙うのは、車止めてからだ。
車体自体は普通のモスクビッチのものだし、何発も撃ち込めば、いずれガタがくる。
直してるヒマを与えずに一気に畳みかけよう!」
ボリスも不敵な笑みを浮かべ、更に追加の銃器を用意した。
暫く走ると前方にモスクビッチが見えてきた。
「?何やってんだあいつら?」
モスクビッチは車道ではなく、山の傾斜を走っていた。
ガタガタと車体を大きく揺らし、時折岩に接触し大きくバウンドしている。
そのたびに、車内の者達(何故かカエルも一緒に乗っている)も車体に併せて激しく揺れていた。
モスクビッチからは、リズムをとるようなクラクションが聞こえてくる。
まるで車がダンスしているように見えた。
「何だかノロノロ走っててくれたおかげで、すぐ追いついたな。
銃取ってくれ、場合によっては俺も運転しながら威嚇する。
お前は車体を狙え。」
「了解!」
ボリスは素早く銃をコプチェフに渡し、窓から身を乗り出して銃を構える。
コプチェフがスイッチを入れると、辺りに警察車両を示すサイレンが鳴り響き緊張感が生まれた。
ボリスは車道に戻ってきた前方のモスクビッチに、銃弾の雨を降らせる。
モスクビッチは、車体を振りそれを避けようとしていた。
ボリスは構わずに、さらに銃弾を撃ち込んでいく。
モスクビッチのトランクに、銃弾による穴が次々と開いていた。
「くそっ、案外粘るな。
でもスピードは落ちてる、すぐに動けなくなるぜ。」
コプチェフの分析に、ボリスは更に弾丸を撃ち込もうとする。
その時、想定外の出来事が起こった。
銃撃の雨の中、今までモスクビッチの後部席でスニーカーを磨いていた04号が素早く動いたのだ。
自分達が乗っている車のトランクに移動すると、そのまま姿を現した。
開いたトランクから仁王立ちになって、コプチェフとボリスの乗ったラーダカスタムを睨んでいる。
先ほどボンネットを捕まれ、車体を放り投げられた事を思い出したコプチェフは、今度は慎重に車間距離を空けて運転する。
「あいつ、舐めやがって…俺も射撃に加わるぜ。
俺が車体を狙うから、お前は04号囚人を狙え!」
コプチェフの指示に
「了解!」
ボリスは緊張した声で返事を返す。
しかし04号囚人が、ライフルの弾を貫通させなかった姿を思い出し
『これで効くのか…』
一抹の不安を感じていた。
ボリスが射撃を再開すると、銃弾の雨が前方のモスクビッチを襲う。
すると、トランクに仁王立ちになっていた04号囚人がサッと何かを構えた。
それは、古びた1つのフライパンであった。
04号囚人は、そのフライパンでボリスの放った弾丸を的確に弾き返していく。
ボリスが銃を撃つ音、04号囚人がフライパンでそれを弾く音が辺りに小気味よく響きわたる。
「何だあいつ!あんなん、ありかよ!?」
驚愕に目を見開いたコプチェフが、自分も銃を手に取り慌てて銃撃に加わった。
運転しながらなのであまり正確に照準を合わせられないため、車体を狙った威嚇射撃だ。
ボリスはそのまま続けて04号囚人を狙って銃弾を撃ち込んでいく。
「クソッ、フライパンすら破壊出来ないって…
何なんだよ、これ!?」
コプチェフの射撃が加わったというのに、弾は全て04号囚人の振るうフライパンに弾き返されていた。
モスクビッチにダメージを与えられないため、車間距離が縮まらないことに2人は焦りを覚えていた。
さらに激しく連携射撃を試みるも、04号囚人はフライパンを振るうスピードを上げ、その弾の全てを弾き返している。
フライパンに当たる銃弾がたてる音は、もはや1つのビートの様に感じられた。
「あのフライパンを破壊するのが先だ!
ちょいと大きめの銃器つかうぞ!」
コプチェフの声に答える前に、ボリスは動き出していた。
後部席に積んである小型ランチャーを2本手に取ると、1本をコプチェフに手渡す。
素早くそれを受け取ったコプチェフが前方のモスクビッチにそれを向ける。
ほとんど同時に、ボリスも窓から身を乗り出しモスクビッチに照準を合わせた。
「これで終わりだ!」
勝利を確信した2人の小型ランチャーが火を噴いた。
後方のラーダカスタムから、今までの銃弾とは比べものにならない大きな弾が飛んでくる。
しかし04号囚人は今までと変わらぬ腕裁きでれを弾き返した。
カン、コン
鐘の音のように軽い音が辺りに響きわたった。
「え!?ちょ、待っ…!?」
弾き返された弾は、どんな偶然かラーダカスタムめがけて飛来する。
フライパンで弾かれただけなので弾の速度は大したことはないものの、あまりに想定外の出来事であったため、コプチェフはそれを避けられなかった。
直撃は免れたが、弾は車体に接触した衝撃で爆発した。
「ちくしょう!」
コプチェフはハンドルを切り、爆風で崖下に転落する事を何とか阻止する。
ボリスは窓から乗り出していた体を咄嗟に車内に戻し、振り落とされる危険を回避した。
停止したラーダカスタムからは、しばらくの間2人の荒い息づかいだけが響いていた。
「めちゃくちゃ過ぎる…」
04号囚人のあまりの規格外っぷりに、2人は呆然としてしまう。
しかしすぐに
「でも、やるしかない!俺たちは警官だぜ?
あんな巨悪を放置出来るか!」
立ち直ったコプチェフが闘志をみなぎらせ拳を握ると
「今こそ、あの技を見せる時だな!
こんな事もあろうかと、ちゃんと積んでおいたんだ!」
ボリスも気勢を上げる。
ボリスはラーダカスタムを下り、トランクからバズーカの入ったケースを取り出すと組み立て始めた。
組み立てたバズーカを担ぎ、ボリスはラーダカスタムのトランクに乗る。
「コプチェフ、追えるか?
スピードに目を慣らしたいから、俺はこのまま行く。」
そう後部のトランク上から話しかけるボリスに
「まかせとけ!振り落とされないよう、しっかり踏ん張れよ。」
コプチェフは力強く答える。
「囚人ども、あれくらいの爆風でイカレちまう車体だと思うな。
このラーダカスタムは、俺とニコライの血と汗の結晶なんだからよ!」
コプチェフは不敵な笑みを浮かべ、ラーダカスタムのエンジンをかける。
ボリスを振り落とさないよう細心の注意を払いながら、ラーダカスタムはモスクビッチを追ってスピードを上げるのであった。